吊るし上げ
グダグダ回です
俺達が魔石魔物を倒し終わった直後に、監視役のエルドラさんやってきた。
エルドラさんの後ろには、援軍らしき冒険者達が何人も連れて来ていた。
「どうやら倒しきれたようですね」
「なんとかね‥」
その後はエルドラさんがその場を仕切り、魔石魔物の暴走事件は収拾した。
まず、魔石魔物から出た巨大な魔石はすべて領主の回収となり、その代わりに戦闘参加者には銀貨20枚が報酬として支払われた。
それと、今回の魔石魔物を無断で狩っていたパーティを特定し、その冒険者達には罰金として1人金貨10枚を言い渡して連行していった。
そのままこの場に置いておくと、リンチが始まるかも知れないとの配慮である。
だったら、いま特定しなくてもいいのに、っと 思っていたが、この見せしめをする事で、他の者への警告にもなるそうだ。
ちょっと意外であったのが、赤帽子の優男は魔石魔物を湧かしたパーティの1人であったのだ。連行されて行く時に、「オレ金貨10枚も持ってないな~」と呟いていた。
だが、今回魔石魔物暴走では、最初に2人、その後4人で計6人が死んでいる。
そう考えると、罰金の金貨10枚も仕方ないと思える。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そしてその後。
今回の大乱闘参加者達は、魔石魔物討伐後の祭りと言う名の反省会を行っていた。
ルリガミンの町では無くなってしまった風習だが、此処では残っている様子だ。
本来は100人程度入れる酒場に、200人近くが入り、とても窮屈な飲み会が始まっていた。
「いあ~絶対に勝てないと思ってたんだけどな、さすが勇者様だ」
「だな!完全に詰んでたもんな、どのタイミングで引くか様子見てたぜ」
「おい!ダセェな、お前そこは見栄張れよ」
「うるせぇ!オレは見栄と意地は張らないことにしてんだよ!」
「がははははは!もっと情けないなソレ」
なんとも情けない会話が飛び交っていた。
「あ!でもよ、”瞬迅”と”焔斧”は凄かったな」
「そうそう!最初の炎で魔物止めてなかったら本気でやばかったもんな」
「あの時間があったから覚悟も準備も出来たもんな、アレがなかったら‥」
「ああ‥、一気に押し込まれていただろうな」
話題が勇者からラティ達に移っていたが、今度は。
「でも、その次が台無しだったな、マジで使えねぇ、」
「ああ、アレが無ければもっと楽だったのによ。マジで‥」
「馬鹿じゃねえの?あの人数で通路で戦い続けるって、数が生かせねぇって」
「あの戦闘は無駄過ぎだったな、誰だよ此処で止めろ言った奴は?」
――おい、誰だよ?とか言いながら俺見てんじゃねえよ!
確かに、あの場所で戦え言ったのは俺だよ、俺だけど‥
今回の吊るし上げ対象は俺か?、
「あの赤帽子がいなかったらヤバかったな」
「だな、クソ狭い通路で死ぬまで戦うハメになるところだったぜぇ」
「これだから槍持ちは困るよな、」
「槍持ちは戦いに美学がねえよなっ、男は剣持ってナンボだろ!」
「槍は下だけでいいっての、」
――まさかの槍まで熱い風評被害!?
この異世界って槍厳しくないか?歴代勇者もっと槍使っとけよ、
俺から槍取ったら残るの木刀だぞ、
「しかし、ホントに勇者様様だな。瞬迅を切り込ませる策を思い付くとかさ」
「ああ、あれは見事にハマったな!そして魔石魔物とのタイマンもすげえよ」
「あと何がスゲェって言うと、来たばっかりなのに敵を見抜いたって事だよ」
「何見てんだよ!すげぇのはイブキ様だろ、簡単に魔物を真っ二つだし」
「確かに、凄かった。鎧を着てなかったからな、あの二つはすげぇ揺れてたな」
「そこじゃねぇよ!まぁ確かに否定はしないが‥」
――っおふ、ラティを切り込ませる作戦が勇者の手柄に、
確かに、勇者が来てからすぐに実行したからそうも見えるけどよ‥
あ、あと確かに揺れてたな、
「俺は助けてくれたコヤマ様を推すなぁ~、マジで鉄壁だったわぁ」
「そういやお前は危ない所を守ってもらったんだっけか?」
「他にも助けられた奴多いんじゃねえの?」
「途中から狼型暴れまわったからな、倒しやすくなったけど危なかったぜ」
「しかし、盾一つであそこまで防ぎ切れるもんなんだな感心したよ」
――小山は‥、どうでもいいか
でもアイツの評判も良いな、どうなってんだよ、
防いでただけだろ、
その後も冒険者達の会話は、勇者を称え、俺を貶しの繰り返しであった。
あとは、作戦や支援で活躍していた赤い帽子の優男の話などであった。
周りを見ると、酒場の店内では報酬で出た銀貨20枚を使い尽くす勢いで、飲んでは喰って飲んでは飲んでいた。普段の相場は銀貨5枚程度の為、かなりの豪遊だろう。
うちのパーティメンツは何処に行ったのだろうと、ふと思い出して探す。
サリオはミズチさんの膝の上に座り、嬉しそうに目の前の料理を頬張っている。
――サリオ‥、お前確か二十歳超えてたよな、
あ!ミズチさんの周りに居るのは回復魔法を掛けて貰っていた人達か、
ミズチさんも結構人気あるなぁ、
そして別の場所では、スペシオールさんが伊吹と剣の話題で盛り上がっている。
「私はこんな感じかな?剣を振るときは、あとは――」
「‥‥なるほど‥」
――盛り上がって‥るよな?
両方とも大剣使いだから、共通の話題になるんだろうな、
俺は槍だから会話に参加出来ないな、
そして、ラティはいつも通り囲まれていた。
今回の戦いでも彼女は目立っており、尚且つ活躍もしていた。
狼人であろうと、ここでも冒険者達は受け入れてくれていた。
――う~ん、貴族とか街の住人だと、人の目を気にして狼人を避けるけど、
やっぱ冒険者は、そう言った偏見とか差別意識はあまり無いな、
良い事だ、良い事なんだけど‥
「よう!瞬迅嬢ちゃんすげぇ働きだったぜ」
「噂には聞いていたけど噂以上だったよ、速さだけなら勇者様以上だな」
「しかし、もう一個の噂だけどマジで赤首奴隷なんだな‥」
「なあ?なんでその強さで奴隷なんてやってんだ?理由はあるのか?」
「アホか!のっぴきならない理由があるから奴隷なんだろ?なあ瞬迅」
「だから、その理由を取り払ってやりたいんだよ!自由にさせてやりたいんだよ」
――げ、なんか雲行きが怪しくなってきた、
すげぇテンプレな臭いがしてきたぞ、
「えっと瞬‥ラティさん、理由を教えてくれねえか?奴隷の理由を」
「んなモン聞いてど~すんだよ?お前が身請けでもしてえってか?」
「ちげえよ!ただ、自由にしてやりたいだけだよ、なあ?どうなんだ‥」
二十歳そこそこの冒険者は、ラティを奴隷の身から解放してやりたいと言っている様子であった。
そして今、話し掛けられたラティは‥
「‥あの、ラティさん?このタイミングで俺の隣に座るの?」
「こちらがわたしのご主人様です」
( 主の気概を見せろってことか? )
話し掛けられたラティは、そう言って俺の隣へやって来て腰を下ろしたのだ。
しかも席はベンチ型の為、俺に触れるかギリギリまで近寄った位置に座ったのだ。このような状況は解りやすく言うと、優越感を感じるが、厄介な事になる状況な訳で‥
「お前が瞬迅の主か?って!、今日の戦犯野郎!?」
――っは?今度は俺”戦犯野郎”とか呼ばれてんの?
いや、確かに俺は最初に通路で戦えとか言い出したけど、
ちょっと酷すぎません?大体誰だよコイツ‥
ラティに袖にされた形になった男は、鼻息を荒くして俺に詰め寄って来る。
「なあ、お前は瞬迅を解放する気は無いか?出来れば解放してやって欲しい」
「無い!」
俺は即答した。
そして俺は、この冒険者版上杉の事を無視する事にした。
この手の話をしてくる奴には、もうウンザリしていたからだ。そうすれば‥
「く、彼女が可哀想だとは思わないのか?解放してあげたいとは――」
その後も冒険者版上杉は俺に語り続ける。
彼女を解放してあげるべきだとか奴隷は駄目だとか、色々と語っていた。
そして最後にはお決まりの。
「俺と勝負しろ!俺が勝ったら彼女を解放してもらう!」
テンプレ発言を言い放ってきた。
ある偉い人が言っていた。『言葉だけでは伝わらないモノもある』『言葉だけでは勘違いされる事もある』、だから俺は語り合う。
何故ならソレが手っ取り早いから、それが無視した理由。
だが此処で乱入者がやってきた。
「まあまあ、ちょっと待ちなってオレの話しを聞いてくれよ」
「っな!なんだよお前は?」
俺達の割り込んで来たのはガレオスさんだった。
そのガレオスさんは、強引に相手の男と肩を組み小声で話し掛ける。
「止めとけって、アイツはタイマンでも魔石魔物倒すような奴だぞ‥、大体考えてもみろよ、瞬迅の主が弱い訳ねぇだろう?」
「――ッ!?」
ガレオスさんの説得により、呆気なく相手は引いてくれた。
やはり人間として話し合うと言うのは大事な事なのだろう。冒険者の流儀に合わせて語り合おうとしたが、ガレオスさんに仲裁される結果となった。
そしてガレオスさんは俺の目の前の席に腰を下ろす。
俺の前に座ったガレオスさんは、陽気な顔から真剣な顔つきに切り替え俺に話し掛けて来る。
「英雄のダンナ、北の件の話しなんだが‥」
そう、俺がこの反省会と言う名の宴会に参加しているのはガレオスさんに誘われたからなのだ。
北領地での、出来事を話したいと……
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