突貫
ちょっと短めです
6匹の狼型の魔石魔物が陣形を組んで暴れていた。
冒険者側は取り囲もうとしても、黒い霧のブレスと咆哮に阻まれ。魔物は地下迷宮の入り口を背にして扇状に並び、徹底抗戦の姿勢であった。
ただ、魔物側もこちらを攻めあぐねいていたのだ。
後衛はブレスが届かない位置までしっかりと下がり、負傷者はすぐに引っ込めて治療や回復魔法で助ける事で、こちらの戦力が減らないように気をつけていた。
思いっきり喰い付かれない限りは死ぬ事が無いので何とかなっている。だが
「長引くとキツいなぁ、さすがにMPとかやばいか?」
「ぎゃぼう、あたしは魔法撃てて一発ぐらいなのです」
「あの、何とか一体でも減らしてみます!」
ラティはそう言って、深く切り込んで行くが。
「――っぐうぅ!!」
「ラティ!」
「あうぅラティちゃん!」
「ラティさん!すぐ回復魔法掛けます」
無理矢理飛び込んだが、呆気なく前足で叩かれてしまったのだ。
一体だけなら何でもないのだろうが、3体が同時にラティを狙ったのだ。まるでラティを要注意人物の様にマークしているかのような動きであった。
弾かれたラティを見ると鎧の深紅色の部分が黒色に戻っていた。これはラティのMPが枯渇した事であり、MPが空の場合は、ラティの鎧は十全の力を発揮出来なくなる。
「ラティMP回復の薬品を飲んでおけ」
「あの、それは高価な方の薬品では‥」
「飲んでおけ!ケチって大怪我をするのなんて‥‥駄目だぞ」
「はい!失礼しました」
一度は躊躇したが、俺の気持ちの応えて薬品をしっかりと飲んでくれた。
そして再び深紅色が戻ってきた。
ららんさんが傑作と言うだけの事はあり、ラティの鎧は被弾時にMPを多めに消費して、衝撃の緩和の効果もあるようだった。
この鎧のお陰でラティはまだ大きな怪我はしていなかった。
「くそ、マジで攻め切れない‥」
「‥‥うむ‥」
俺達は突破口を見出せないでいた。
一度は一斉に攻撃をするという作戦を実行したが。一斉突撃のタイミングで6匹が同時に咆哮を放ち、完全に突撃を潰されたのだ。
あまりの怪音にどうしても怯んでしまう者がおり、冒険者達は足並みが合わずに攻められなかったのだ。
そして皮肉な事に、逆に怪音を耐え切った者達だけが前に突出する事になり、手痛い返り討ちに遭う羽目になり。
「ざけんなテメーら!お前等が前に出ねえから俺がやられただろうが!」
「ビビッてんじゃねぇよ!前出ろ前に!下がんなよ」
「くそぉ!こんな野良でやってられっかよ!」
「仕方ねえだろうが、あんなデカイ声なんだぞ!」
「もう合わせて前に出るとかやってられねえよ!使える奴からやられてんぞぉ!」
「じゃあ平気そうなお前は使えない奴か」
「っんだとぉ‥」
百人単位の集団戦としての錬度が低い冒険者達は、一度の失敗で簡単に瓦解しており。もう一度同じように一斉攻撃は出来そうになかった。
「マズイな、このままじゃ手詰まりになるぞ‥」
「じんないくん、私もちょっとMPきつくなってきたかも」
「あの、どうしましょうご主人様」
――くそ!打開案が無い訳でない、
どう考えても操っているのはあのケーキ野郎だ、
アイツを倒せば、6匹の狼型の統率が無くなるはずだ、
だが、そのケーキ野郎にまで辿り着けるかが問題であった。
無理に押しても咆哮で足止めされるし、そもそも冒険者達がもう一度、一斉に突っ込むとは考えられない。これが騎士や兵隊とかなら別なのだろうが、今回は違う。
「っちぃぃ、手数が足りない、」
「ご主人様‥‥?」
ひとつ浮んだ作戦があった。だが‥
――贅沢言わないけど、
スペシオールさんレベルの人が後3人欲しい、
あと3人居れば突破出来るのにぃ‥
打開策が浮び、その案を出したいが。俺は一番最初の初動で間違った策を提案してしまっていたのだ。
その間違った策を行った俺の提案に再び乗る冒険者は少ないだろうし、必要な実力も足りていない。
これは詰んだか?と思った時に、後ろから‥
「よう英雄のダンナ!ちょっと様子見に来たつもりだったがスゲぇ事になってんな」
「陣内君っていつも騒動の中にいるね、町でも大変だったみたいだし」
「へ~、陣内クン。ピンチの様だね?オラの出番かな!」
「お前等‥」
いかにも勇者らしいタイミングで勇者が来たのだ。
いま欲しかった実力者の3人が。
( お前等ホントは出番待ちしてただろ? )
そう疑いたくなるレベルの神がかった登場だった。
だが、これで俺が思いついた作戦が実行出来ることとなった。そしてすぐに‥
「頼む、力を貸してくれ!」
「ダンナの頼みならいいぜ」
「陣内君‥この状況で手を貸さないとかナイから」
「ルリガミンの町の借りを返す時が来たか、まかせろ陽一君!」
( 小山は下の名前で呼ぶな!)
「俺の作戦なんだが――――」
役者が揃い、俺達は反撃を開始する。
「サリオ!叩き込めぇぇ!」
「らじゃです!火系魔法”炎の斧”!」
「――ブゥオォォォォ!!――」
黄色に近いオレンジ色の炎を纏った巨大な斧が、6匹の狼型の魔石魔物の中心に振り下ろされた。
当然そんな見え見えの攻撃など当たるはずもなく、魔物には避けられるが。
「いけぇぇラティ!後は任せろ」
「先行します!」
ラティは炎で出来た一直線の道を駈走る。
サリオは魔法の威力を抑え、尚且つ斧のサイズを大きくする事で、火の温度を限りなく下げたのだ。紙切れひとつ焦がせるかどうかの炎だ。
だが、魔物はその炎の見た目に騙され避けてしまったのだ。魔物は3匹つづに分れて避けた場所を、一直線にラティが炎を出来た道を使ってケーキ野郎へ駆けて行く。
しかし当然、接近して来るラティを見逃す筈もなく狼型の魔石魔物が動くが。
「余所見してんじゃねえ!」
「は~い!こっち無視しないでね~」
「‥‥斬る!」
俺と伊吹とスペシオールさんが狼型の動きを阻むように斬りかかり。そして‥
「そっちには行かせないぜ、ワンコロ」
「オラの出番だな!いっちょやっかー!」
「土系拘束魔法”シバリ”!って、オレじゃそんなに持たないぞ!」
ガレオスさんと小山と赤帽子の優男が狼型を足止めをしたのだった。
1人一体を受け持つ形で狼型の魔石魔物と対峙した。
しかし――
「っぐぅ!やはりオレだと無理か!?」
優男の魔法で束縛されていた魔物は、足に絡まる束縛を千切り、即座にラティを追ったのだ。
ラティならすぐに察知して、後ろから追って来る魔物を対処出来るだろうが、それだとケーキ型を討つチャンスが無くなるかも知れないのだ。だがその時――
「彼女は追わせない!」
ぱっと見は冴えない男が、大剣を振りかざし狼の横っ面を剣の腹で叩いたのだ。
その冴えない男は。
「ジムツー!?」
「ぎゃぼー!あの時の号泣貴族!」
ジムツーが颯爽と現れ、ラティを追う魔物を一瞬だが足止めした。そしてその皆が稼いだ僅かな時間、千載一遇のチャンスをラティは生かす。
「WSウエポンスキル”キルエッジィ”!”ウィルプス”!」
駆けていったラティは、速度をそのままに跳び上がり、そして空中で不自然に横回転からの縦回転を行いWSの”繋ぎ”からの”重ね”をケーキ野郎に叩き込んだ。
ケーキ野郎も反撃しようと触手を伸ばしたが、速度に乗ったラティの動きは捉え切れず、ラティの刃にて切り刻まれ、簡単に黒い霧となって霧散した。
その後はもう楽であった。
ケーキ野郎がやられてからはブレスも咆哮もなくなり、追加戦力の伊吹組が参加し、3分もかからずに魔石魔物はすべて殲滅し終えた。
ケーキ野郎を倒した時点で勝敗は決していたのだった。
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