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大乱戦

大乱闘です!

 魔石魔物とは。 

 地下迷宮ダンジョン内に放置された魔石を触媒にして湧いた大型の魔物の事である。

 そう言う意味では、外で遭遇した魔石魔物は、魔石魔物扱いなのだろう。 


 通常の魔物よりも遥かに強く、そして体も大きい。

 しかし浅い層に湧く魔石魔物であればラティ1人でも倒す事は可能だ。

 だが、倒す事が可能なのであって、楽に倒す事出来るという訳ではない。


 相手の体勢を崩した所に、WSウエポンスキルの”繋ぎ”や”重ね”を使って倒せるのだ。

 無理に攻撃をすれば反撃を喰らう恐れもある。なので通常は1体に複数で挑むのが基本であり、当たり前のことなのだ。



 しかし、複数を相手にしなければいけない場合もあり、その時ラティは回避に徹して3体まで引き付ける事が出来た。


 だがこれは、引き付ける事のみに集中してなんとか3体を捌いたのだ。

 なので、魔石魔物が複数いる状況はとても危険な状況な訳であり‥



「マズイ!魔石魔物が多すぎる!10体以上いないか!?」

「はい、察知が遅れました、地下迷宮ダンジョンだとやはり鈍くなるようで」

「ぎゃぼー!前の防衛戦より多いですよです」


「どうしよぅじんないくん‥」

「‥多い‥‥」



 横幅が10メートル以上はある通路一杯に魔石魔物がいるのだ。しかもコチラに向かって来ている。

 いや、向かって来るというよりも、目の前の冒険者を追っていると言うのが正しいのだろう。


 こちらへ必死に走ってくる冒険者達。

 よく見れば人数が少ない。もしかしたら既に何人かやられているのかも知れない。



 しかし、このまま魔石魔物が雪崩れ込めば、入り口付近に集まっている冒険者達も当然餌食となってしまうだろう。


 ここは――


「サリオ!斧で進行を遮るように撃て!当てる必要は無い」

「ら、らじゃです!火系魔法”焔の斧”!」


「――ッゴオオォォォ!!――」



 逃げる冒険者を守るように炎の斧が振り下ろされる。

 サリオの炎の斧は、魔石魔物といえど当たれば相手を溶解し熱で切り裂けるのだ。当然その斧に向かうようなまねはせずに進行を止めた。



 普通の魔法使いなら、斧は消えてしまうが。


「サリオ!そのまま炎の斧をキープしろ、振る必要はないから」

「はいぃ、でもMPがもう不安ですです」



 そうなのだ‥俺達は魔石魔物狩り帰りなのでMPが多い訳ではなかった。具体的に言うと1/3程度しか残っていない。


「急いで迎え撃つ用意だ!」

「「「「「「――――っ!!?」」」」」



 周囲の冒険者達が絶望に息を飲むのが聞こえる。そして次に‥


「馬鹿言うな!魔石魔物だぞ相手は」

「一体でもやばいってのにあの数を見ろ!」

「あの魔法が消える前に逃げんだよ!馬鹿かお前は」



 入り口周辺にいた冒険者達が文句や憤慨の声をあげる。

 だが、この状況で全員が外に逃げると、地下迷宮ダンジョンから溢れた魔石魔物の群れがノトスの街を襲うことになる。それだけは避けたいのだ。


 この魔石魔物を湧かした冒険者(馬鹿)は死んでも構わないと思うが、街の住人は別だ。こんな事で殺されるなど理不尽過ぎる。だから――


「――っ聞けえぇぇぇぇ!!」

  


 俺はあらん限りで声を張り上げる。


 ――サリオのMPそろそろやばい、

 魔石魔物を抑えるのも限界が、だからその前に、



「今魔法と唱えているのは”焔斧”!そして横にいるのは”瞬迅”!」



 逃げ出そうとしていた冒険者の視線が俺に集まる。


「この二人がいるのだから勝てる!逃げる必要はない!」


 ――我ながら、無茶言ってるぞ、

 だけど、流れを作る、雰囲気を作る、勝てる気持ちを持たせる!

 あと知らん!



「無理に倒さなくても、時間を稼いでくれ!後は何とかなるはずだ。此処で逃げたら街が襲われるぞ!此処で逃げる奴はヘタれだ!冒険者の気概を見せろ!」

 


 下手クソでベタな煽りと鼓舞をする。

 これで半分でも残ってくれれば十分勝機だけはある、犠牲は出るだろうが‥


 俺の鼓舞激励に合わせるように、ラティがすっと前に出る。

 凛として厳かな空気を纏い、そして無言のまま手に持つ剣を魔物に向けた。


 その姿は『倒しに行く』と雄弁に語っている。

 元から見目麗しい容姿に、鮮やかな色合いの鎧。これに釣られない奴はいない。


「ヘタな煽りしやがって‥」

「おっしゃ!オレはそれにノセられてやるぜ!」

「後衛は後ろに寄れー!」

「外に居る奴も呼んでこーい!」

「男をみせろ!街を守るぞー!」

「逃げたいヘタレはさっさと逃げろ、だけど後で言いふらす!」

「ざっけんな!外に呼びに行くんだよ!速攻で戻って来るってのっ」



 意外とノリが良いのか、誰も逃げることはなく戦う事を選択した。

 当然、この魔石魔物を連れて来た連中も戦う準備を開始する。


 そして――


「ジンナイさま……MP切れますです」



 そんな情けない戦闘開始の合図が俺に聞こえてきた。


――サリオよくやった、

 この時間はマジで貴重だったぞ、今日はすき焼き食わしてやる、




 狭い場所で乱戦になればサリオの魔法はデカ過ぎて使えない。

 それならば、この立て直す時間にMPを全てを注ぎ込ませたのだ。


「サリオ!MP回復の薬品(ポーション)を飲んでおけ」

「らじゃです、でもほとんど回復しないのです」


「それでも良い、ローブの結界用だ」

「はいぃです」



 炎が消え、酷い戦いが始まった。

 幅10メートルほどの通路に魔石魔物10体近く、そしてその場に居合わせた冒険者50人以上が戦うのだから、広い通路と言えどさすがに狭くお互いに身動きが取り辛い状態。


「盾前に出ろよ!芋るな」

「馬鹿!前に出れないんだよ狭くて!」

「魔法撃つ場所がねぇぞ!射線塞ぐな!」

「邪魔だー!前出れねぇよ」



 野良の集まりのような冒険者の方もそうだが、魔物の方まで戦い難い形になっていた。イワオトコのような怪力であれば薙ぎ払うのだろうが、狼型にトカゲ型はパワータイプではない為に、動きを生かした戦いが出来ないでいたのだ。


 自由に動いているのがいるとすれば、上の空間も使えるラティだけ。


 そんな時に、変化が起きていた。


「後ろ順番に下がれ、そして外の奴に伝えろよ」

「ああ、わかった塀の上にも配置だな?」



 明るい金髪でロンゲの優男が指示を出し始めていたのだ。

 狭くて前に出れない奴を外に出るように指示を出し、そして外の奴にも指示を出している様子だった。


「おい!外で何をやるんだよ?外に出ても意味無いだろ、此処で抑えないと」

「いや、この狭い場所じゃこっちの数が生かせない、だから外で上手く囲むんだ」



 俺の質問にその優男は簡潔に答えた。

 優男は鎧などではなく赤色のつばの広い帽子に従士の様な服。その男は魔法で上手く魔物を足止めを開始し始めた。

 

 動き回る魔物を先読みして束縛系魔法で足を縛っていく。そして。

 

「一度外に出よう!囲む準備は出来ているはずだ」


 よく通る声で回りに指示をだす。

 しかもちゃっかりとサリオの横に位置を取り、サリオが仲間の様に振る舞うのだ。まるで”焔斧”も同意している指示のように周りに示しているのだ。



 それに従い俺達は外に出た。

 余程の馬鹿でない限り、すぐにその意図に気付けた。

 

 外の砦の広場ならこの人数でも戦えるし、砦の塀の上からなら魔法を放つ射角が確保出来るのだ。中で戦おうとした俺が馬鹿であった‥


 ラティが上手く殿(しんがり)をこなしながら、全員が地下迷宮ダンジョンの外に出る。

 その外では、既に指示を出していた様子で、後衛役が砦の塀の上に陣取っていた。




 そして第二ラウンドが開始された。

 地下迷宮ダンジョンの入り口から魔物1~2匹が飛び出てくると間髪入れずに。


「魔法で足止め!後続を押さえ込めろ!盾持ち急げ」

「「「おおー!」」」 



 地下迷宮ダンジョン入り口を封鎖するように動く者と、広場に出てきた魔石魔物を倒す組の二つに分かれて戦闘が始まった。


 ラティは広場に出てからは、魔石魔物に果敢に切り込み。俺は地下迷宮ダンジョンから出てこないように槍で牽制をしていた。地下迷宮ダンジョンの入り口は少し狭くなっており幅は5㍍程で、魔物を通さないようにするだけなら問題無く出来たのだ。

 


 その時にひとつ気になる事があった、サリオのMPが少し回復させて足止め役に参加してきたのだ。彼女はMPが枯渇気味であったのに参加してきた。


「サリオMPどうしたんだ?薬品ポーションでそこまで回復はしないよな」

「あの赤い帽子の人にMP回復の魔法かけて貰いましたのです」



 優男は後衛役の支援系らしく、MP回復魔法や強化魔法に魔物に弱体魔法など、非常に巧く立ち回っていたのだ。


 ――巧いな、後衛素人の俺でも解る、

 完全に赤城の上位互換だな、魔法を使いこなしている、



 ただ戦うだけの俺とは違って、優男は全体が上手く回るように動いていたのだ。指揮官というより、裏方の動き。俺やラティやサリオとは全く違った動きをしていた。


 戦闘に余裕が出て来て周りを見渡すと、ミズチさんは回復に走り回り、スペシオールさんは”重ね”を使いこなし魔石魔物を屠っていた。


「おーい!次の魔物通してくれー!」

「お替りもってこーい!」

「どんとこーいぃ」

「囲む用意しろー」

「そこの!怪我してるの下げさせろ!邪魔だ」

「魔物入れるスペースも空けろ~」



 広場中央に誘導された魔石魔物は、アタッカー50名近い冒険者達に袋叩きにされて呆気なく倒されていった。

 塀の上にいた後衛達が魔法を止めて、魔法が消えたことで再び魔石魔物が地下迷宮ダンジョンから数匹飛び出してくる。そしてまた魔法と俺達に押しとどめられる。



 この流れが出来てからは楽なものであった。

 地下迷宮ダンジョン入り口で魔法と盾持ちや槍持ちが出てこようとする魔物を抑え。上手く誘導した2匹をすぐに袋叩きで倒す。


 数と位置を上手く利用して魔石魔物の群れを減らしていった。

 だが、魔石魔物を連携で倒していると。


「よし!次の魔物をって――!?うあああ!?」

「――っがあ!」

「なんだ強引に押してきやがった!?」

「くそっ!下がれ下がれ」


 二匹のトカゲ型の魔石魔物が、魔法と突き立てられる刃を無視して強引に地下迷宮ダンジョンの入り口から這い出て来たのだ。

 今までに無い行動であった。だが、そんな行動をすれば簡単に黒い霧になってしまう訳で、そのトカゲ型の魔物は冒険者を押し出すと同時に消えた訳だが。


 その黒い霧になり、冒険者も押し出したスペースに狼型の魔石魔物が6匹雪崩れ込んで来たのだ。その動きはまるで統率されたような動きで。


「おかしい!?今のはまるで魔物が連携して動いたような動きだったぞ」

「馬鹿かよ!別の種類の魔物同士が連携なんて組むかよ」



 俺の横にいた冒険者が俺の発言に否定してきたが、今の一連の動きには意思が感じられたのだ。


 犠牲を払ってでも地下迷宮ダンジョンから這い出ると言う意志を。

 

 そして俺の考えが正しかった事を示すかのように狼型の魔物が動いた。

 飛び出てきた6匹は、お互いをカバーするように動いたのだ。攻めてくる時は同時に、前に出た時は仲間の側面を守るように立ち回るなどを。



 まるで、冒険者のようにパーティ(連携)として動いていたのだ。


 しかも最悪なことに、狼は黒い霧のブレスを吐いたのだ。

 体長4メートル程の狼から吐き出される黒いブレスは、浴びた者を燃やしたり溶かすような事は無かったが、黒い滲みのようなモノが肌に浮き、そして激しい痛みを与えていた。


 ブレスの射程距離は約20㍍、近くの塀に上がっていた後衛にも届いていた。


「がああああああ!痛ぇぇぇ!?」

「なんだこれ!?ちっくしょーいてぇぇぇ!」

「おい!回復魔法で滲みは取れるぞ!回復急げー!」

「こんな一遍に回復させられないよ!MPも心ともないし」

「魔法であのブレスなんとか何ねえのかよ?」



 勝てると思った流れが一気にひっくり返されたのだ。

 地下迷宮ダンジョンから出て来たのは6匹。他には魔物が出て来ないので、この6匹で終わりだと思うのだが、この6匹が手強かった。


 強大な魔物に、個々(ソロ)の強さで挑むのではなく。群れ(パーティ)で挑み、そして連携(チームワーク)で撃ち滅ぼす。


 これが人の強さだと思っていたが、それを強大な敵が行ってきたのだ。

 それはコチラの優位性が無くなることを意味していた。


 ――っだが、おかしい!?

 いきなり統率が取れた動きを始めるなんて、何故‥?

  ――っあ!



 俺は突然に統率の取れた動きを始めた魔石魔物を疑っていた。

 最初はただ襲って来ているだけであったのに、いきなりなのだから。

 そんな疑問を持つとすぐに見えてくるモノがあった。それは――


 ――あの狼どもの後ろの奴か、

 あのミミズが生えたケーキ野郎が指揮か操るか何かしてんな、



 6匹の狼型の魔石魔物の後ろに、縦長に背の高い溶けたショートケーキみたいな奴が触手のようなモノを指揮棒のように動かしていた。まるで操っているように見えたのだ。

 

 俺は魔法で狙えないかと思いサリオに声を掛ける。


「サリオ!あの奥にいる白いのを魔法で攻撃しろ!」

「あの白い奴ですね?です、雷系魔法”ライボゥ”!」


 音を立てて紫電の矢は飛んで行き、白い奴に突き刺さる。

 だがまるで何事も無かったかのように紫電の矢は霧散した。


「うう、やっぱあの白いの魔法弾かれますです」

「くっそ!」


 

 そう、あの白いケーキの出来損ないは、アムさんが説明し辛いと言っていた魔石魔物だったのだ。

 今日も一度だけ戦ったが、魔法は弾くが物理に弱いを典型で行ったような奴であり、ラティ1人で簡単に倒せる、芋虫型の次に弱いボーナス的な魔石魔物だったのだ。


 俺が白いのを睨んでいると、狙われた事に気付いたかの様に狼型が守るように動き出して、新たな攻撃法を繰り出してきた。


 先程のブレスとは違い、咆哮だ。『ギユァァー!』と叫び周囲に怪音をまき散らかす。

 耳を塞ぎたくなるその咆哮に、冒険者達の隊列が再び乱れる。


 黒い霧のブレスと怪音の咆哮。

 この二つの登場でこちらのペースが乱されてくる。


「うるせー!」

「ちくしょう!黒い滲みが痛みやがる‥」

「早く回復魔法かけてくれ!発狂しそうだ」

「何言ってるか聞こえねえよ!あの咆哮を黙らせろよ!」

「あ!咆哮で気絶してる奴までいるぞ」



 俺達は6匹の狼型と1匹のケーキ型に押され始めていったのだ。



読んで頂きありがとうございますー!


そして感想コメントが100超えました!嬉しい!

(半分近くが誤字報告などですが‥それも嬉しい!)



追加、作品評価の文章とストーリーのポイントが前は凄い差があったのですが、ご指摘や誤字報告などで改善され、差が縮まりました。感謝です

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