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アムさんの誠意

ノトス新生活始まります!

 地下迷宮ダンジョンの最奥で会った、初代勇者の仲間ユズールが言っていた。


 大地と魔力の流れを司る存在だった世界樹の代わりに、地下迷宮ダンジョンがあると。

 地下迷宮ダンジョンの本当の目的は、大地と魔力の流れを集め魔物が外に出ないようにする事。


 意図的に魔物を地下迷宮ダンジョン内に湧くようにしているのだと、それの恩恵として地下迷宮ダンジョン周辺では魔物が湧かず、安全に暮らすことが出来るのだと。

 

 しかしそれは、1300年前の話。


 


 アムさんの話だと。

 倒さなくても良い魔物を倒しそこから魔石を獲て、外に湧いた魔物を倒す事で大地に魔力と大地の力を還し、それで田畑の収穫量を上げてもいると言うのだ。


 それは、安全よりも繁栄を取るということ。

 この事は、大貴族以外には伏せられた話だというのだ。

 

 勇者達にも隠蔽された情報。


「アムさん、なんでそれを俺に話したのですか?ハズレですが一応俺も‥」 

「うん、当然知っているよ。でも話す必要があると思ったから話したのさ」



 アムさんは一度目線を下に外し、一拍おいてから再び目線を俺に合わし、真摯な態度で、だけど何処か照れくさそうな顔をして俺に語りかけてくる。


「ジンナイ君の信用が欲しくてさ、だからこの事は隠さずに話したんだ」

「‥‥‥」



 俺は困惑していた。

 防衛戦の配置の文句を言いに来ただけなのに、予想外の話を聞かされているのだから。

 

「このノトスは他の領地よりも貧しくてさ‥」



 今度は領主代行としての苦悩話をし始めた。

 現領主は日和見主義で発展せず、森で暗殺した兄の蕩尽により傾いた財源。

 そして、このノトスを立て直す為の俺に力を貸して欲しいと言うのだ。 


 俺的には、雇っているのだから仕事だけを割り振れば良いのにと思っていると。


「手紙でやりとりしているガレオスと、後ららんからの助言でな、隠さずに話した方が良いと言われたんだ。後で真実を知られるとヘソを曲げられるからと」



 ――へそ曲げるって、なんだよガキか俺は、ガキだな‥

 でも、へそを曲げるってのは、ぼかした言い方なんだろうな、

 あの2人の評価が気になるな、なんて言われたんだろ、

 


「それでジンナイ君に話す事にしたんだよ」


 

 正直ドン引きだった。

 話の内容は重いし、頼られる内容も重くなるのだろうし、利用もされるだろう。

 だけど、


 小さい気持ちだけど、やってもいいかな。


 そう思えたのだ。

 この異世界では基本的に厄介者扱いされていた俺が、面と向かって俺を必要だと言われているのだから。 

 もしかしたら、真意は違うかも知れない。

 だけど今、このアムさんから、俺の力が必要だと誠意を込めて言ってくれていると感じられた。


 気が付くと鼻の奥がツンっとして、目頭までも熱くなっていた。

 俺はすぐに誤魔化すように横を向いて――


「わかりました。力を貸しますので、報酬は弾んでくださいよ」



 ベタな照れ隠しと、ベタな台詞を言っていた。






            ◇   ◇   ◇   ◇   ◇






 その後もアムさんとの会話は続いた。


 特に気になった事、”何故安全よりも繁栄を取るのか?”

 最初はコレに納得出来なかった。安全こそが一番大事なんじゃないかと。

 

 だが、アムさんが言うには。

 『今だけが安全でも、その後に続かない安全などは、遅効性の毒のようなモノだ』と言うのだ。

 

 やるべき事や何かを獲得する為の行動をしてないと、いつか余所の何処かに食い物にされてしまうというのだ。

 それは貴族同士のやりとりだったり領地問題など色々あると教えてくれた。

 仮に自分達だけならなんとかなるかも知れないが、この異世界はそんな甘い世界では無いと俺に諭す。


 例えば、食料ひとつでも余所から頼ってばかりだと、それを人質に飲みたくない要求を押し付けられる事もあると。


 テレビのニュースで見た事のある、何処かの話のような内容だった。

 その為に、魔石の確保と、食料問題の不安を無くす為の地下迷宮ダンジョンでの魔物討伐だと語っていた。


 

 俺はアムさんに政治とは経済とは暮らしとはなんたるかを叩き込まれた。

 ちょっと賢くなった気がしたが、俺には無理そうなのでアムさんに任せるのが一番だと投げてみた。


 ただ、自分の行う事が、具体的にどう影響するのか理解しているのは、やる気が出るのでこの話を聞いて良かったとも思えた。


 それと同時に危うさも‥




 そしてこの話をラティとサリオに話し、今後の方針をもう一度確認しなおした。

 話した後の二人の反応は。


「あの、ご主人様の事を正当に評価をして頂けたのですねぇ、本当に良かったです」

「凄いですよです、不審者から一気にランクアップですよです」



 ラティから心のこもった感想を伝えられ、サリオが俺をどう見ていたのかを知れた。

 俺はサリオに折檻をしながら話を続ける。


「それで当分の間は魔石魔物狩りかな、」

「あの、なんと言うかそれが一番慣れておりますしねぇ、」

「ぎゃぼう!こめかみが、あ、でもルリガミンの町とやること変わらないのです」



「いや、ちょっと違うぞ!今回は倒すだけじゃなく、他の冒険者も一緒に育ててくれと、依頼もされているんだ」



 今回の魔石魔物狩りでは、他の冒険者も育てて、地上に魔石魔物が湧いても対処出来る人材を増やすと言う目的もあるのだ。


 最終的には魔石魔物一体に15人程度で対処していたのを、4人でも対処出来るように冒険者のレベルを上げて欲しいと言われたのだ。


「ありゃ?でもそれって前と同じですよねです」

「あの、確かに前と同じですねぇ、」



 ――あれ?そうだっけ?

 あ!ホントだ、赤城に小山とかの面倒見てた気がする、

 まぁ、いっか、




 こうして俺は再び地下迷宮ダンジョンに挑むこととなった。

 魔王討伐には強さが必要なので、レベル上げが出来るのだから歓迎なのである。

 

 俺は南ノトスを、本格的に魔王討伐に向かう足がかりとしたのだった。


( 今度は追い出されないといいな、)

 




            ◇   ◇   ◇   ◇   ◇








 二日後、地下迷宮ダンジョンでの魔石魔物狩りが開始された。


 鍛え上げる冒険者として、アムさんの紹介でミズチさんとスペシオールさんの2人がパーティに参加する事になった。


 ミズチさんは茶色の髪を後ろで編み上げた可愛らしい女性で回復役。

 スペシオールさんは長身で銀髪を背まで伸ばした男性の前衛アタッカー。


 俺達5人は魔石魔物狩りに地下迷宮ダンジョンへ向かった。

  

 南ノトスにある地下迷宮ダンジョンはノトスの街から約100㍍程の場所にあり、周りは魔物が溢れて出た時に対処出来るように、石壁で囲われていた。


 なので、地下迷宮ダンジョンに入るには、その石壁で出来た小さい砦のような門を越えて行かないと入れないので、ルリガミンの町の地下迷宮ダンジョンよりも管理されている印象だった。


 

 そしてこの地下迷宮ダンジョンは、入る前にステータスプレートを提示してから入る事になっていたので、どうやら本当に管理されている様子だった。


 地下迷宮ダンジョンを囲むような壁の内側は、幅40㍍ほどの広場になっており、冒険者相手の出店などが3軒ほど営業をしていた。


 それと一軒の回復屋があったが、そこは治療費が書かれておらず、商売と言うよりも冒険者の生存率を上げる為の施設として運営していた。

   


 俺達パーティはもう一度ステータスプレートを提示して地下迷宮ダンジョンへ潜る。

 因みに、ステータスを見せた時に、ラティとサリオはそのレベルの高さに管理人に目を剥かれ、俺は訝しむ視線を向けられた。



 ノトスの地下迷宮ダンジョンはルリガミンの町のよりも通路が広く、広い通路のみで地下迷宮ダンジョンが構成されている形になっていった。

 これはルリガミンの町の地下迷宮ダンジョンように、入り口が狭い魔石魔物狩りに適した部屋が無いので、この地下迷宮ダンジョンは魔石魔物狩りには向いていなかった。


 もし魔石魔物を取り逃すと被害の広がり方は、前の地下迷宮ダンジョンとは比較にならない事になるので注意が必要であった。


 

 そして周りに人が少ない場所まで進み、地面に魔石を置く。

 魔石魔物が湧くのを待っていると、ミズチさんが俺に話し掛けてきた。


「ねぇ、じんないくん。本当に魔石魔物狩りするんだよねえ?」


 ミズチさんは年上の余裕を感じさせるフレンドリーさで話し掛けてくる


「この浅い層でしたら問題無いと思いますので」

「そっか、ちょっと緊張しちゃってね」



 俺は事前に、この地下迷宮ダンジョンで湧く魔石魔物の情報を集めておいた。主にアムさんに聞いた情報ばかりだが‥

 

 湧くのが確認されているのは4タイプ。

 狼型と芋虫型とトカゲ型と、あと形が説明し辛いのが一体だ。

 なんでも、シーツ被ったデブの様な姿と言っていた。



 湧く魔石魔物強さは、聞く話ではレベル20前後の冒険者が15人で囲めば問題なく倒せると言っていたので、強さはルリガミンの町の地下迷宮ダンジョンと変わらないようだった。



 魔石魔物狩りは、南ノトスではあまり浸透していない様子であり、前に実力が足りずに結構な被害が出たらしく、現在はアムさんが法律で禁止にしたというのだ。


 なので、今回はアムさんが許可を出した形で魔石魔物狩りを行う事となった。

 アムさんの予定では、今後、魔石魔物狩りは許可制にして、許可を持たない者が魔石魔物狩りをすると罰する法律にすると言っていた。


 簡単に法を作れるのは公爵家の特権とは言え、中々恐ろしいモノである。



「ねぇねぇ、そろそろ湧くかな?」

「多分そろそろでしょうね」



 ミズチさんはよく話し掛けてくる人だった。

 逆にスペシオールさんは無口なのか、ほぼ話し掛けて来る事はなかった。



 そして俺達が見守る中、地面に置いた魔石が細かく揺れ始める。


「湧きます、ミズチさんは下がって支援魔法を!スペシオールさんはミズチさんの前で待機を、ラティ任せるぞ!」

「はい、お任せください!」

「ぎゃぼーあたしには指示無しですか~です」



 ――あ、サリオ忘れてた。

 でも、サリオの魔法でぶっとばすと特訓にならないんだよな、

 コイツは待機だな、



「サリオ!お前は基本待機だ!だが、いつでも魔法ぶっ放せるようにしとけ」

「らじゃです!」



 そして湧いた魔石魔物は、南では定番の狼型だった。

 

「カゲロウ!レベル41!先行します」



 ラティが手早く敵の情報と発して魔物に切り込む。

 足場の多い地下迷宮ダンジョンでの彼女はまさに亜麻色の流星。天井が高い位置にある為、今回は天井は足場に出来なかったが、片側の壁と【天翔】を使い駆け巡る。


 普通の魔石魔物程度ではラティに攻撃はかすりもせずに、狼型の魔物は彼女に切り刻まれていく。

 このまま攻撃を続ければラティ1人でも倒せるが、今回はこの2人の訓練も兼ねているので、後衛のミズチさんはともかく、前衛には仕事をさせる。


「スペシオールさん!隙を見つけて切り込んでください」

「わかった」


 

 短く返事を返してくるスペシオールさん。

 俺は冒険者に戦闘の教え方など知らないので、自分の時を参考に、ラティが作る隙を突けと大雑把な指示をだした。


 ラティの動きに合わせて攻撃する事を覚えた自分のやり方を、スペシオールさんにもやって貰う事にした。


 ハーティみたいに、離れて放出系WSウエポンスキルも考えたが、アレで育つとWSウエポンスキルを撃つだけの冒険者が出来上がるので、今回は無しの方向にした。



 アムさんからの紹介されただけのことはあり、ボンクラでは無く、的確に隙を突いて大剣で魔物の首を切り裂き、呆気なく黒い霧に変えた。


 その動きはWSウエポンスキルに頼るタイプでは無く、好感を持てる動きであった。


 ――上手い!WSウエポンスキルだと動きがある程度固定されるから、

 それを避けて普通に切りかかったのか、予想以上だな、



 後衛のミズチさんの評価はまだ出来ないが、この前衛のスペシオールさんはとても期待の出来る動きを見せてくれた。


 思った以上に上手く行きそうな手応えを感じつつ、ノトスでの魔石魔物狩りが始まったのだった。


 

読んで頂きありがとうございますー


ご指摘やご質問がありましたら、感想コメントにてお受けしますー


ブクマ500が見えてきました!感謝です

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