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駆け抜ける村

 あの夜、俺は魔法の加速の影響で倒れてしまった。

 小屋にラティとサリオに運んで貰い、サリオが小屋に残り、ラティはそのまま村の見張り役に戻った。


 あの騒動は案外速やかに収束したらしい。

 どうやら、監視役のエルドラがすぐに仕切って、あの騒動を収めたようだ。

 橘とジムツーをすぐに下がらせ、レイヤを村の女手に預けたらしい。


 ただ、騒ぎは収束したが禍根は残った。

 





 俺はその次の日に目を覚ましてから、ある事を考えていた。

 それは‥


 あの場にいた村人がジムツーの話に流され過ぎでは?と。


 同情出来る部分はあったとしても、あの場にいた全員が同情するとは考えられないのだ。しかも、橘パーティの2人も、あの空気に流されていたのだ。ほんの数秒前まで罵っていた相手に。


 不自然な位に、誰もジムツーを責めなくなっていたのだ。


 奴の発言をまるで鵜呑みにするような、盲信してしまうような‥。

 何処かで何回も見た事がある光景だったのだ。それは――


 ――ジムツーがまるで勇者みたいだったぞ‥

 あの周りを感化させる感じ、勇者の束縛の効果に似ている。

 でも、アイツは勇者じゃないしなぁ、



 ふと、ユズールの言葉を思い出す‥

『勇者の行動と発言は伝染して肯定されるんだよ、無茶なモノでもね』


 前に地下迷宮ダンジョンの最奥で出会った、魔石に意識を移した初代勇者の仲間が俺に教えてくれた事。勇者の束縛――

 

 召喚された勇者にあると言う効果。

 勇者に無条件で感化され、受け入れられる効果。

 勇者の発言に簡単に乗せられたり、信用したりする現象。


 まさに勇者の楔。


 俺は此処で仮説を立てた。

 今の時代の貴族はほぼ全員が勇者の子孫だという事。

 王女様の話だと、特に大貴族ほど血が濃く複数混ざっていると言う。

 なら、大貴族にも効果は薄いが勇者の束縛の効果があるのでは?と。


 召喚された勇者に備わっているモノが、その子供に遺伝しても不思議では無い。

 ただ単に、貴族だから従っているのでは無くて、勇者の束縛が効果を発揮しているのではないかと思ったのだ。


 

 ――我ながら、無茶苦茶な仮説だなぁ、

 だけど、この仮説は頭の片隅に入れておいたほうがいいな、

 否定しきれない感じする、ラティにも話しておくか、




 俺は頭の中でそう決めて、再び眠りに就く事にした。







             ◇   ◇   ◇   ◇   ◇








 次の日の夜。

 再び見張り役を行う。

 正直体はキツイ、だがサボると何を言われるか分かったモノではないからだ。


 ラティからの話だと。俺は村の住民にあまりよく思われていないそうだ。

 その理由は。


『ラティ。本当にレイヤは謝罪を受け入れていないのか?』

『あの、それが本当にすべて断っているのです。余程腹に据えかねているのか、橘様とジムツー様の両方を断っているのです』

『ぎゃぼう、女の執念は怖いなのです』



 ラティから聞いた話だと、どうやら橘達は、あの深夜の騒動の時に、レイヤを巻き込むようなまねをしてしまった事に対して、謝罪をしたかったようだ。特に橘側は。


 襲ったジムツーが断られるのは理解出来た、だが、橘が断られるのは予想外であった。

 その結果、村としてはジムツーと上手く行けばと言う希望や、村を守ってくれた勇者様に対して失礼だと、そういう不満が募ったのだ。


 そして、その彼女をここまで頑なにさせたのは、勇者に暴言を吐いてまで庇った俺のせいだとなり、村人からよく思われなくなっていた。

 狼人やハーフエルフの奴隷を連れている俺は、あの魔石魔物を倒した実績があっても敬遠されている存在のようだ。



 村側としてはジムツーに取り入って、大貴族の庇護下に入りたいと言う気持ちが強く。レイヤには謝罪を受け入れて、そしてジムツー本人を受け入れて欲しいのだろう。


 しかし、それをしない彼女は村から孤立していく事となった。


 そしてその日の夜は魔物の襲撃もなく朝を迎えた。






       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇






 その次の日、斥候からの魔物の移動は見られないと報告を受け、今回の防衛戦が終わりを告げる。

 

 俺達はその報告の後、すぐに村を出た。

 ジムツーと橘は暫く村に留まる様子。俺の予想ではあるが、彼等は俺と一緒の馬車で帰るのが嫌なのだろう。特に橘は‥


 彼女は俺と会うのをとことん避けていた。

 

 サリオが目撃した話によると、レイヤに謝罪をしようとしていた橘は彼女に断られ、返ってきた言葉が『アタシの前に、まずあの人に謝ってください』と言われたそうだ。


 レイヤが最初に感情的になった原因の一つは、橘が俺に見当違いな文句を言ったから。俺に助けられたばかりの彼女は、あれで激怒していた様子。


 

 しかし橘は俺に謝罪に来ることは無く。

 当然それならレイヤも橘の謝罪を受けないと。


 個人的には、橘が苦しんでいるのでとても良い事だった。

( ラティにちょっと怒られた )



 しかし結局のところ、俺は村は守ったが、それ以外の所は壊してきたように感じ。

 庇ったつもりだったレイヤには、村での立場を悪くしてしまったのだから。

 もしかしたら、俺がそこで激怒せずに、何も言わないほうが波風が立たずに良かったのでは? とも思う。


 だが同時に、俺は絶対にあの時に黙っている事は出来ないと確信する。

 これ以上は言っても詮無いことだ、そう思って俺はあのまま会わなかった赤髪のレイヤの事を、揺れる馬車の中で考えていた。すると――


「あの時はありがとうございました」

「へ?」


 突然、馬車の御者の隣に座っていた者から声を掛けられた。


「やっと気持ちが落ち着いたので。すいません、お礼が遅くなりました」

「レイヤさん?」



 そこには赤髪のレイヤが座っており、俺に笑顔を向けていた。

 俺はレイヤがいる事に驚く。



 それと、俺が左手で撫でていた尻尾が、急に強張った気がした。






        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇






 街に帰ると、レイヤは公爵家屋敷の離れの屋敷でメイドとして働くと言う。

 どうやら、監視役のエルドラの配慮らしい。


 彼の口添えで、彼女はメイドとして働く事になると言うのだ。レイヤがこの離れで働く事に驚きであった。


 

 そして俺にも、帰って来たら真っ先にやることがあった。

 それは、アムさんに今回の防衛戦配置の人事についてだ。これはどうしても聞いておきたい事であり、文句を言っておきたい事でもあった。

 

 領主代行として忙しいアムさんに時間を作って貰い、ナンの村から戻ったその日のうちにアムさんと話をする事が出来た。

 俺はラティ達は離れの屋敷で休んで貰い、俺1人だけで執務室で仕事をしているアムさんに説明を求めに行った。


「アムさん、今回の人員配置の事なんだけど」

「ああ、言うと思っていたから黙っていたんだよ」



 そこからアムさんの説明(言い訳)が始まった。

 勇者橘は、普通の冒険者と同じ場所に派遣すると、勇者に陶酔した冒険者達が、働かなくなると危惧したのだと。


 実は最初の防衛戦の時、勇者を立てようと周りが動いていなかったそうだ。

 逆に少し離れた場所では良い所を見せようと奮闘するが、今回のような村を守る狭い場所だと、前回同様に、冒険者達が働かない可能性があると考えたそうだ。



 大人数の冒険者と勇者を組ませると効率が悪くなると感じ。勇者の存在に、ある意味左右されない俺を組ませたそうだ。


 ジムツーの場合は、大貴族の五男ということもあり、扱いに困ったから俺達の所に放り込んだというのが真相だ。



 またもや、理解は出来たが納得はしたくない出来事であった。


 

 

 それから納得したくない俺がアムさんに愚痴を言っていると、報酬の話になった。

 今回の防衛戦の派遣は依頼なのだから、報酬が出て当然である。

 そしてその金額は。


「ジンナイ君。今回の報酬だけど、金貨6枚だ」

「う、少ないですけど‥理由がありそうですね」


「ああ、まずはららんのツケ分で金貨6枚を引いておいた」

「なるほどです、当たり前と言えば当たり前ですね」



 今回の派遣は10日近い日数だったが、働いた時間だけを言うとほぼ何もしていないに近いのだ。

 見張り役の警戒ばかりで、戦ったのは最後だけだ。後は特に働いたわけではない。なので、3人でこの金額は妥当だろう。


 俺がこの金額を自分なりに納得していると、アムさんが次の仕事の話をする。


「ジンナイ君、帰ってきて早々悪いんだけど、次にお願いした事がある」

「また防衛戦的な何かですか?」


「いや、違う。今度のはウチ()地下迷宮ダンジョンだ」

地下迷宮ダンジョンの魔物討伐ですか?ルリガミンの町みたいな」



 アムさんは『そうだ』と肯定して、話を続ける。


「ジンナイ君の力で地下迷宮ダンジョンの魔石魔物を倒しまくって欲しい」

「魔石魔物を?」


「ああ、地下迷宮ダンジョン魔石を大量に取って来て欲しいんだ」


 

 アムさんの説明だと、魔石は元の世界で言うと、電気や化石燃料のようなモノ。

 それが沢山あれば領民の生活が楽になると。


 一般の人達だと、レベルも低くMPが多い訳では無いので、生活魔法”アカリ”などは3時間程度が限界らしい。

 だから魔石製品などを使って代用するが、魔石は消耗品でありお金もかかる。

 それを魔石魔物狩りで魔石が多く取れれば生活が楽なると言うのだ。風呂を沸かすにも魔石は使われており、ルリガミンの町での生活では知らなかったが、魔石とは薪のような物、エネルギー資源でもあったのだ。


 領主代行として、生活安定の為に魔石の供給拡大は必須らしい。

 

 だが――

 本来地下迷宮ダンジョンは、魔物を一点に集めて地上に出ないようにする為の物だと、地下迷宮ダンジョンの最奥にいる、初代勇者の仲間ユズールが教えてくれた。

 

 それがいつの間にか、その存在理由が変わっているように感じた。

 まるで、油田のような扱いになっていると‥



 それと、地下迷宮ダンジョンで魔物を過剰に倒しすぎると、地下迷宮ダンジョンから漏れて、外に魔物が湧くだろうとユズールは言っていた。


 それは危険な事なのではと思っていると――



「勇者達には一応秘密にしてある事だが、地下迷宮ダンジョンからワザと魔物を漏れさせて、それを倒す事で田畑の実りを良くするのも目的の一つなんだ」

「へ?」



 ――貴族達は知っているのか!?地下迷宮ダンジョンの本来の役目を、

 だけど、あえて魔物を倒す事で外に魔物を湧かす、そしてそれを倒す、

 そうすれば、大地の力が土地に還る‥それで作物がよく育つか‥



 そう。アムさんの言った内容とは、安全の為に地下迷宮ダンジョンを利用するのではなくて、繁栄の為に地下迷宮ダンジョンを利用すると言う内容。


 しかもこれは、勇者達には一応伏せている話の様子。

 俺はこの時。これを俺に打ち明けるアムさんの思惑が、非常に気になったのだった。


読んで頂きありがとうございますー!


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