悪意
人によっては不愉快な表現がございます
北原を殴った日から、三日が経過した。
俺はラティと一緒に、ある店に向かっていた。
安定して【大地の欠片】が獲れる方法を発見した俺達は、金策が楽になったことにより、宿屋の宿泊プランを一ヶ月お得プランに変更した。
この長期宿泊プランに変更したことにより、荷物などを部屋に置けるようになったのだ。俺達は衣類等を増やす事を決め、ラティと服屋へと向かっていた。
「ラティさんや、下はスカートにしましょう。これは命令です」
「あの、ご主人様。衣類を買っていただけるのは嬉しいのですが、その、宜しいのでしょうか? こんな贅沢を……」
「欠片で稼げるようになったんだから気にしないで。それにそのズボンだと、何だか動き難そうだし」
いまラティが着てる服は、店に売っていた一番安物の服だった。
あの時はまだお金に余裕が無く、追加の衣類などは買えなかったが今は違う。
そして、僅かな願望を忍ばせる……。
「あの、確かに少しばかり動き難い服だったので、その……嬉しいです」
(守りたいこの笑顔……なんてな)
アホなことを考えながら歩き、俺達は行きつけの雑貨屋の隣にある、あまり高くなそうな服屋に到着した。
その店に入り、俺はラティと一緒に商品を眺めていく。当然俺も自分の服や下着なども探す。
「なんで男性用下着は白のブリーフしか無いんだよ……歴代共の嫌がらせか?」
「あの、その理由は知っています。確か十二代目勇者様達が推奨したとか。他の下着類は当時全部焼かれたとか」
「マジで過去の勇者達の負の遺産かよ!」
――くそ、
出来る事なら、一度ヒザを合わせて懇々と説教してやりたいな、
歴代どもは好き勝手やりやがって……
俺は十二代目勇者を恨みつつ、購入する衣類やタオル等の生活品をカゴに入れた。
そして次は、ラティの衣類を探しに向かう。
「あの、ご主人様。わたしの衣類などはこちらの安物で構いませんので」
「んんっ、分かった」
( しまった! なんか気まずくて何も言えん!)
「あとは、戦闘用衣類もこちらの安い物でお願いします」
「あ、待った! スカートにしよう。このバトルスカートってのから選んで」
「あの、良いのですか? 少し高くなってしまいますが……」
「値段は気にしないでくれっ!」
密かに今日の目的としていたスカートを、俺はラティにゴリ押しする。
「あの、高くて申し訳ないですが、こちらをお願いします」
「――っおおう、分かった、ってあともう一着買っておこう。予備は必要でしょ?」
ラティが選んだスカートは、膝上十センチ程のプリーツスカートだった。
商品の説明欄には、魔法効果により『AGI上昇効果』と『見えそうで見えない効果(弱)』と書いてある。
ラティにこれを訊ねたところ、何でも七代目勇者の一人が心血を注いで作った作品物だとか。
「ラティ、一応保険の為に、ん~~っと、スパッツ的な物ってあるのかな? 町で履いてる人を見たことがあるんだけど……」
(ほら、効果(弱)だから危険だしね)
「あの、スパッツですね。隣の店がスパッツ屋です。其方で買いますか?」
「はい? スパッツ屋?」
「はい、スパッツ屋です。七代目勇者様の一人が強く推奨して普及させたとか。先程お話した七代目とは犬猿の仲だったらしいです」
七代目勇者には馬鹿しかいないらしい。
「買い物も済んだし、一度宿に戻って荷物を置いたら狩りに行こう」
「はい、ご主人様。それと新しいお洋服ありがとう御座います。奴隷のわたしにこんな良い服を」
「いいよいいよ、必要な物だし気にしないで。……あと、ちょっと気になったんだけど、今日ってやたらとこっちを見てる人が多い気がしたんだけど」
「あの、すいません。狼人のわたしが普通の服屋にいた為かと。――申し訳ございませんご主人様」
「ラティごめん。そういうつもりじゃ無かったんだ。けど、俺を見られていた気がしてね、気のせいだったのかな?」
俺は首を傾げながらそう言い、その後は、周りを気にせずに一度宿へ戻り、買い物を部屋に置いた後、外へと狩りに出かけたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
買い物をした日から、一週間が経過した。
ノルマ分の【大地の欠片】を獲りを終え、その売却の為に行き付けの雑貨屋へと向かう。
ここ最近の日常となっている、【大地の欠片】獲りは順調だった、だがレベルが上がらなくなっていた。
ラティが言うには、自分のレベルよりも遥かに低い魔物からは経験値が得られなくなり、その為レベルが上がらなくなったのだと。
俺はそれをラティに教えてもらった後、自分のステータスプレートを確認する。
名前 陣内 陽一
職業 ゆうしゃ
【力のつよさ】19
【すばやさ】18
【身の固さ】15
【固有能力】 加速(未開放)
【パーティ】ラティ18
名前 ラティ
【職業】奴隷(赤)(陣内陽一)
【レベル】18
【SP】121/121
【MP】132/132
【STR】49
【DEX】62
【VIT】48
【AGI】90+2
【INT】48
【MND】56
【CHR】71
【固有能力】【鑑定】【体術】【駆技】【索敵】【天翔】【蒼狼】
【魔法】雷系 風系 火系
【EX】見えそうで見えない(弱)
【パーティ】陣内陽一
――――――――――――――――――――――――
「上がらなくなってもう二日か……」
「あの、もうこの周辺では経験値は望めませんねぇ」
俺はラティと歩きながら雑談を交わしていた。
だが――。
「……やっぱり見られているな。隠れて俺に【鑑定】を使ってるヤツが多い」
「はい、ここ最近増えましたねぇ」
ここ一週間ほど前から、街中で俺に【鑑定】をしてくる人が増えていた。
特に害があるわけでは無いが、あまり気持ちの良いモノではない。俺は自分のステータスにコンプレックスのようなモノがある。
出来れば”見ないで欲しい”が本音。
俺は周りの視線を気にしながら、行きつけの雑貨屋へと入る。
いつもカウンターで姿勢良く立っている男、褐色肌のイケメン店主のイーレに、今日の収穫を売るために声をかける。
「こんにちはイーレさん。今日も欠片の買取りお願いします」
「はい、ジンナイ様。では、重さを量らせて頂きますね。しかし、今日も結構な量ですね」
手際よく【大地の欠片】を秤で重さを量るイーレさん。
俺はそれを眺めながら、気になったある事を彼に訊ねた。
「ここってポーション系って凄く安くなりましたね。他所は一個で銀貨三枚以上はするのに、この店では銀貨一枚なんて」
「そこはワタクシの独自のルートで、大量の【大地の欠片】を仕入れられるもので、だからその価格で販売出来ているのですよ」
ニヤリとした笑みで、ワザとらしくそう答えてくるイーレさん。
「はいはい、独自のルートですよ。……でもこれだけ安いと、他から買占めとか来るんじゃ?」
「はい、来ていますが、そう言った方にはお売りしておりません。売った所で、値段を上げて転売するのでしょうから、不当に値を吊り上げる輩にはお売りしませんよ」
「あの、でも身分を偽って買いに来られる人もいるのでは?」
「ラティ様、そこはワタクシが見極めてお売りします。ポーションを売るのは本当に必要としている方のみに。誰にでもお売りするわけでは御座いません」
ラティがイーレさんに様付けで名前を呼ばれ、いままでにそんなことが無かったのか、驚きと戸惑いでスカートの裾を掴み少し戸惑う。
――あ、モジモジするラティはなんか新鮮で可愛いな、
それにスカートも似合う、
いつかもっとフリフリした感じのスカートを……
「………………」
ラティさんが無言半目のジト目でこちらを見ている。
気がついたら負けな気がしたので、俺はそのまま気が付いていないフリを続けた。
(そう、気付かなければどうと言うこともない! って昔の偉い人も言ってたし)
閑話休題
【大地の欠片】の計量が終わり、金貨一枚と銀貨三枚を受け取る。
これで所持金は、金貨5枚と銀貨87枚となった。
今日はもう用事もなく、宿に帰るだけなので、イーレに一声かけて店を出ようとすると、先にイーレから声をかけられた。
「お客様、お帰りになる前にひとつ、お客様の良くない噂が流れております、ご注意をなさいませ」
イーレに『ああ、分かった』と返事を返し雑貨屋を後にする。
噂が何なのか気にならない訳ではないが、何となく分かったのである。
それは雑貨屋を出てから再び感じる、不躾な街の住人の視線。
そして一際不快な視線を向けて来る奴。
ニヤついた顔で俺を見ている北原堅二が声をかけて来たのだ。
「よう陣内。あの日以来だな、お前にちょっと話があるんだけどよ」
どうせ碌でもないことだろうから、無視して宿に帰ろうとしたが、北原はまだしつこく話しかけて来た。
「聞けよ陣内、スポンサーの貴族にしっかり戦えって責付かれてよ、だから使える前衛が欲しいんだよな」
「自分で戦え!ラティ!こいつのレベルいくつだ!?」
【鑑定】の使えない俺は、ラティに【鑑定】を指示し。【鑑定】された北原がバツの悪そうな顔をする。
「あの、6です、、」
「おい北原!あの日から一度も戦って無いんじゃないか?勇者なんだろ、しっかりやれよ」
(なんで俺よりも、圧倒的にスペックが高いはずなのにサボってんだこいつ)
「うるさい!ボクは後衛タイプなんだよ!優秀な前衛が居ればいくらでも戦えるんだ、この世界を救う為に彼女をボクに寄越せよ!」
( ざけんな、お前剣使ってたじゃねぇかよ! )
俺は話す気にもなれず、そのまま北原を放置してラティと一緒に宿へ帰る。
帰る途中にラティを見たが、ただ困惑してる表情だった。何か話しかけたかったが、俺には言葉が出なかった。
――ラティ、困惑してるよな、
本当はどう思っているんだろ、一応勇者に誘われている訳だし、
でも、俺にもラティは絶対に必要だ、それに‥‥
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから三日過ぎた。
特に大きな出来事もなく過ぎていった、強いて言うなら、ラティの風呂が覗かれ、ルードの目が潰され、俺が木刀を持ち出したくらいだった。
そして今は、宿の食堂で夕飯を食べている。
「なぁルード、上肉ジャガ定食二人前で、許されると思ってないだろうな?」
「アレは違いますよ!お湯の温め直しに生活魔法を使いに行っただけですよ」
「ほほう、それで覗いただと?」
「誤解ですよ!しかもまた失敗だったし」
「ざけんな!俺だって見てないんだぞ!」
「あの、ご主人様?」
俺は覗きの代償として夕飯を奢らせていた。
そこでふと気になり、目潰しによりまだ目の赤いルードに訊ねてみる。
「ルードちょっと聞いてみたいんだが、お前から見てラティってどう?」
「ラティさんですか?本人を前にして言うのもなんですが、強くて可愛い方ですかね。助けて貰った時は凄かったですから、まるで空を駆けるようでしたよ」
( 実際空中で跳ねてたな、)
何となくルードにラティの印象を聞いてみた。
率直な感想を語られたラティの方に目を向けると、彼女は無表情を装っていたが、口元からは『ふしゅーぷしゅー』と空気が漏れる音がする。
――あ!多分、照れてるんだろうなこれは、
そんな感じの音だな、でもラティも照れることあるんだ‥可愛い!!
「あ、居た!」
ラティの反応を観察していると、俺を見つけ、声を上げた男がやってきた。
「あのスイマセン、ジンナイさんですね?雑貨屋の主から、至急ジンナイさんだけに来て頂きたいと、内密の話が御座いまして」
見た事のない男が俺にそう話し掛けてきた。
雑貨屋のイーレには普段から【大地の欠片】の買取りで世話になっているし、もしかしたら例の噂の事かも知れないので、雑貨屋に行くことにする。
「ラティ、ちょっと行って来る、ラティはまだ食べてる途中だし、食べ終わったら、そのまま部屋に戻っていてくれ、鍵はラティに渡して置くな」
「はいご主人様、鍵をお預かりしますねぇ」
『行ってくると』とラティに声をかけ、ルードにはキッチリと釘を刺しておき、呼びに来た男と行き付けの雑貨屋に向かった。
それから、5分程時間を掛けて雑貨屋に辿り着いた。
何故か道を遠回りで雑貨屋に向かっていたのだ。
気にはなったがそのまま中に店に入り、俺を呼び出したイーレに声をかける。
「イーレさん、急ぎの話ってなんですか?」
「これはお客様、『急ぎの話』とは?」
ゾクリ、、
まるで背骨が引き抜かれるような不安感、。
すぐ振り向いて、ここまで案内をした奴を探すが、いつの間にか居なくなっていた。
何も考え付かないが、凄まじい不安感を感じた。
――俺は誘い出された!?
何の為に?何故?どうして?俺が?俺が‥‥
何も考えずに不安を感じながらただ走った。
もしかしたら2~3回くらい人に、ぶつかったかも知れない。
見覚えのある建物に入る。
そして見たことのある男がコチラを見て驚いている。
「――――――――――――!」
その男が俺に何かを言っている――
不安のノイズが俺の中を渦巻いていたが、少しづつ視界にも色が付き、男の声が理解出来るようになってきた。
「――ジンナイさん落ち着いてください!」
目の前の男が何かを言っている‥
「ラティさんなら、少し前にジンナイさんが呼んでいると案内の男が来て」
俺はこの男のことを知っている‥‥
「呼んでる場所が雑貨屋じゃないから、そこまで案内をすると言う男に付いて行きましたよ」
ここは宿屋の【獣の尻尾】この男はルード。
俺は焦りと不安で、真っ白なノイズが掛かっていた頭がハッキリしてきた。
――ラティに何かあった!?
真っ先に外へと飛び出して周りを見渡す。
「ラティ!!どこだ!!」
必死に考える。どうするか?取り敢えず走るか?誰かに聞くか?
黒い感情に支配される。視界が歪み、頭の中で警報が鳴り響く。
そして気が付くと、視界の上の方に透明な矢印が浮かんでいる。
誰かに説明を受けた訳ではないが、理解が出来た。
これはパーティメンバーの位置を示す矢印だと、ハズレ勇者の俺にも、勇者としての恩恵のひとつが覚醒したのだと。
「こっちか!」
矢印の指す方向に全力駆ける。
一分くらい走った人気の無い場所。屋根が半分崩壊している廃墟を矢印が指している。
ラティが中に居ると確信して、俺は廃墟に飛び込み室内を見渡す。
視界に広がる光景は、室内の奥に”ラティ”が居た。
それと俺のすぐ横に男が一人。そしてラティの近くに男が二人。
一瞬で理解する。
見張りの男がいて。男がラティの手を押さえていて。男がラティに覆い被さろうとしていて。ラティが必死に抵抗していて―― 俺は。
一瞬で全ての思考が消し飛ぶ。
本能のみで動く。
ラティの近くに一瞬で高速移動し、ラティの手を押さえていた男の顔を、蹴りで踏み抜く。
次に、覆い被さっていた男の顔を、アッパースイング気味に、下から上に振り上げるように掴み持ち上げ、そして下に激しく叩き付ける。
下に叩き付けた男がバウンドをして、目の高さまで跳ね上がっている。
跳ね上がっている男の脇腹に、必殺の何かを突き刺してやろうかと思ったが、視界の隅にラティが見え、その瞬間に今度は。
感情の波が本能を埋め尽くす。
今、頭の中にあるのは、ラティの事だけ。
体ごと彼女の方に振り返り、出来るだけ優しく全力でラティに声をかける。
「ラティ大丈夫か!ラティ!」
ラティの表情がよく見えない。
何故か視界が歪んで見えるのだ、何時の間にか涙が出ていたようだ。
「ラティ大丈夫か、」
もうそれしか俺には言えなくなっていた。
頭が完全に回っていない‥。
だが、ラティは応えてくれた。
「はい、ご主人様、助けて頂けてありがとう御座います」
返事を貰えたことに安心し、俺はその場にへたり込む。
気が付くと視界の隅、”【加速】解放”と浮かんでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
これ以上廃墟には居たくない為、すぐに宿に戻る事にする。
ラティを襲っていた男達は、勇者の北原堅二と、前にギルドで出会った冒険者のゲイルだった。見張りの男はすでに逃げ出して、見当らなかった。
気絶させた二人はそのまま放置した。
それはラティに止められた為、彼女はこれ以上のゴタゴタは嫌なのだろう。
そしてそのラティはショックの為か、今は静かに俯いている。
「ルード、一人部屋を追加で用意出来ないか、ラティを休ませてやりたい」
「わかりました、お母さんラティさんを案内してあげれないか、頼む‥」
宿に戻ると、ルードに一人部屋を頼む。ラティをすぐに休ませたかったのだ。
その雰囲気から察してくれたのか、ルードはすぐ部屋を用意してくれる。
オバサンも無言ながらも、ラティを案内してくれた。
今のラティには、出来るだけ男性を近寄らせたくなかったので、宿の女将さんの存在はありがたかった。
「あ!部屋の鍵、ラティに渡したままだ、」
「ジンナイさんスペアキーをお貸ししますね」
ルードの気遣いに再び感謝だった。
その後は俺も部屋に戻り、ベッドの上で横になる。
薄暗い部屋の天井を見つめながら、俺は呟く。
「あの馬鹿が、なにをトチ狂ったんだか」
独り言を言いながら思考を巡らせる。
多分、北原は焦って居たのだろう、勇者として戦わないといけないこの世界で、戦えない勇者は貴族から見放されるのだろう、俺みたいに。
「北原はラティに助けられたから、余計にあの強さ、ラティが欲しかったのかもな、それが行き過ぎて拗らせた、」
――それにしても馬鹿だろう、
あのやり方で、どうにかなると思っていたのだろうか?
貴族と一緒にいるから、何か勘違いでもしてるんだろうか?
それとも何か、、
ガチャガチャギッギィィ~~~
鍵が開いてドアが開く音がする。
ドアに目を向けると、そこにはラティが立っていた。
「ラティ‥‥一人部屋で今日は休んでいいんだぞ」
今のラティには、取り敢えずゆっくりと安静にしてもらいたい。
「あの、ご主人様、横を宜しいでしょうか」
「ああ、ラティが隣のベッドが良いなら使っても――ッ!」
ラティは無言で、俺のベットの隅で丸まるように横になった。
「あのぉ、ちょっとラティさん?」
「あの、ご主人様、何かお話をして下さい、暗い部屋で一人になるのは、今はとても嫌なんです、」
ラティの初めての我侭であり”おねがい”だった。
「わかった、んじゃ、え~~と、視界にさ、”【加速】解放”って映ってたんだけど、これって」
「あの、【固有能力】の解放でしょう、【加速】は一時的な加速ですねぇ、かなり速くなるそうですよ」
「んじゃ次はさぁ、視界の上の方に矢印が見えたんだけどさ、コレってなんだろ?」
「あの、それはパーティの位置を示す矢印ですねぇ、わたしにもそれは見えますから、その矢印のおかげで、わたしは頑張れました。ご主人様が来てくれることが分かりましたから。凄い速さでした」
「ごめん、変なこと思い出させちゃったか」
「いえ、すぐに来てくれたのですから」
「油断をしてるつもりは無かったんです、ご主人様が呼んでると言う割りに、矢印から少しづつ逸れていたので、だだ、途中で弱体魔法をもらったのかも知れないです、力が抜ける感じがしたので」
「そうか、あとは、ん?ラティ首輪がオレンジ色になって無いか?」
「あの、そうなんですか?自分からだと見えないもので」
「部屋の照明魔法のせいかな、ルードに作ってもらった奴だから」
「そうかも知れないですね、普段はわたしは雷系で照明魔法を使いますので、ルードさんのは他の属性なのかもですねぇ」
すぐ近くで、同じベッドに寝ているラティの声が心地良い。
もっと声を聴きたくて、質問を続けてしまう。
「照明魔法って何種類もあるの?」
「あの、火雷風水氷聖属性のどれかをベースに使うのです、魔法効果自体は同じ物ですねぇ」
「ん?土系属性じゃ照明魔法使えないの?」
「はい、土系だと照明魔法は使えないですねぇ」
「後は‥‥」
「‥‥‥‥」
「あの、コチラからも聞いても宜しいですか?」
「ああ、なんでも聞いてくれ!」
「ご主人様のお名前を教えてください」
「陣内 陽一、、ジンナイ ヨウイチだ」
「お教えいただきありがとうございます」
――ステータスを見れば分るはず、
だけど、敢えて訊ねたのだろう、俺に、
ラティが少し落ち着いてきたのが声音で分かる。
「あの、ご主人様、今日はこのまま、こちらに居ても良いでしょうか、」
ラティさん二回目の”おねがい”に抗う事など当然出来るわけ無く。
「お休みラティ、」
「はい、お休みなさいませ、ヨーイチ様」
そして俺は約7時間に及ぶ、人間の三大欲求うち二つを我慢し続ける、耐久レースを開始するのだった。
閑話休題
ラティを横に寝かせたまま、朝を迎えた。
俺は結局一睡もすることが出来ず、悶々としたまま。
( ラティなら俺の横で寝てるよ、なんてね、 )
ラティの寝顔を堪能していると、扉がノックされた。
ラティはまだ寝てるので俺が扉を開けにいく、この時、俺は寝不足で判断が鈍っていたのかも知れない、そのまま扉を開くと。
―バン!ダダダダダッダッダダダ!!―
「赤色の首輪の奴隷違反行為で連行する!」
突然扉から兵士が雪崩れ込んで来た。