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貴族で五男 村で娘

定番の奴です、勘弁してください、


 私の名前はジムツー、ナツイシ伯爵家の五男だ。


 ナツイシ伯爵家は、南ノトスでは大貴族のひとつなのだ。

 私はそれに誇りを持っていた、幼き頃より貴族の誇りを。


 だが、貴族と言えど五男は厳しいモノだった。

 長男と次男は教育でも待遇でもすべてが五男とは違ったのだ。

 自分もあんな風に教育や待遇が待っているものだと思っていた。が――


 現実は全く違った。

 

 着る物も食事も教育も全てが予想と違った、親から受ける愛情すらも‥


 私には貴族の誇りなどいらないと言われたのだ。



 それから暫くの間、荒れた生活をした。

 冒険者のように魔物を追いまわし討伐していった。

 家が貴族であり裕福だったので、装備品にはそこまで困ることもなかった。


 ただ暴れ回っている俺に一つの救いが出来た。

 養子として妹が出来たのだ。


 その養子としてウチにやってきた妹はとても可憐で、容姿に優れた子だった。

 なぜその子が養子としてウチに来たかは知らないが、私には救いとなった。その子は俺に優しく接してくれたからだ。


 

 私は冒険者の真似事を止めて、貴族らしい振る舞いを身に付けようと思った。

 上の兄の振る舞いを観察しながら、自分で出来る限りの事を行ってきた。

 努力の結果、それなりになってきたと思っていた。



 別に妹が好きになった訳では無いと思う、だが、妹に相応しい人間になろうと思った。私に優しく接してくれた妹に。



 そんなある日、その妹の婚姻が決まった。その相手は‥


 勇者だった――



 私は何故妹が養子としてウチに来たのか、その理由を知った。

 それは、政略結婚の為だったのだ。


 100年周期でやってくる、魔王討伐の為に召喚される勇者を獲得する為の。

 だからその為に、容姿の優れた妹が選ばれたのだと。

 そして、その勇者を獲る為に金も必要となり、その為に私に与えられる予定だった土地や財産がつぎ込まれたのだ。



 私は再び叩き落されたのだ。

 妹は俺を裏切った訳でもない、だが、勇者に向ける妹の笑顔が私の心を締め付け傷つけていくのだ。だから私は逃げだした。


 

 しかし、それと同時に力があれば認められるのでは?と頭によぎった。

 勇者がまさにソレ・・なのだから。



 私は再び冒険者紛いの事を再開した。

 認められたい一心で。

 

 腐っても大貴族の五男と言うべきか、貴族と言うことで楽な部分があった。

 ナツイシ家の名を出せば、理不尽を押し通せたりしたのだ。


  

 そんなある日、近いウチに防衛戦があると聞き。ノトス領の街に向かった。

 地下迷宮ダンジョンに行く事もあったので、よくノトスには来ていたが。

 

 そこで、妹よりも可憐で凛とした女性が目に入ったのだ。

 妹以上の容姿など見た事が無いので思わず話かけてしまった程だ。


『全くこの様な可憐で綺麗な御令嬢を――っ!?』


  

 近づいてみてみると、さらに惹かれるモノがあった。

 もし魅了(テンプテーション)があるのなら、コレの事だろうと思う程に。

 

『あの宜しければお名前を教えて頂けませんか?私は貴族のジムツーと申します』


 思わず言葉が出ていた。そして―― 


『貴方のお顔をよく見たいです、ちょっと失礼、』


 体が動いていた。



 だが私の手が届く事はなかった。

 彼女は一筋の亜麻色な軌跡を残し、手の届かない位置に下がっていたのだ。

 流れる髪があったからこそ理解出来たが、全く認識出来ないうちに後ろにさがられていたのだ。


『あの、何か御用でしょうか?突然フードまで取ろうとして』 


 彼女から声が聞こえた、そして魂が惹かれるような藍色の瞳で射られたのだ。 


『あ、いや、君が気になってしまって‥』


 私は咄嗟にそんな言葉しか吐けなかった。すると‥。

 彼女の横にいたみすぼらしい男が、私の視界を遮るように彼女の前に立ったのだ。


 ほとんど反射的に、俺は腰の剣に手を伸ばしていた。もちろんその剣を抜く事の意味も理解していたが、邪魔をするなと言う思いが、心に従うままに動いていたのだ。だが


『お嬢様、早く公爵家お屋敷まで戻りましょう。アム様がお待ちです』

『――っな!?公爵家!?』

 

 冷や水でもかけられたかのように思考が戻った。

 そしてその男に連れられて、彼女は店を出て行ったのだ。





 防衛戦に参加したら、再び彼女に出会った。

 鮮やかな白と深紅色の装備とあの動きが出来るのだから、この場、防衛戦に居てもなんら不思議ではなかったのだが――


『陣内!アンタまだ奴隷の彼女連れてるの?まだ奴隷で縛っているの?』

『こいつ‥‥、まだそんな事言ってんのかよ』



 何を言っているの一瞬理解が出来なかった。

 だが、よく見ると確かに奴隷の首輪をしているのだ、鎧の色に紛れて気付かなかったが、あれは紛れも無く奴隷の首輪であり、しかも。


『おい!奴隷ってどういう事だよ?彼女は公爵家と縁のある令嬢じゃ無かったのか?お前達は私を騙したのだな?』



 彼女の隣にいたのは、あの時の下男だった。

 その姿は、輝く彼女とは対照的で、闇のような風貌だった。

 ただ、自分から近寄りたいとは思わない雰囲気を纏っていた。この男に寄ると碌な事が無いと思わせるような、そんな姿をしていたのだ。


『この強姦魔、他にも彼女を使って悪さしてたの?どんだけクズなのよ‥』



 やはりこの男は危険だ‥

 色んな意味で。

 


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 アタシの名前はレイヤ、

 歳は17才


 ある日、アタシの住んで居るナンの村に魔物が迫っていると聞かされた。

 この村は、まわりは魔物が全く湧かない為に、村を囲う柵が木を組んで出来た簡単な物だけなので、とても不安になっていた。



 だけど、ノトスの領主代行の人がこの村に冒険者を派遣してくれる事になったの。

 アタシはそれに嬉しさと不安が湧き上がった。


 村を守るために、村に立ち寄った冒険者に見初められて、その冒険者をこの村の住人にするのが年頃の村娘の仕事のひとつとなっているからだ。


 アタシは恋愛にとても憧れているの、いつか男の人とありふれた恋をして、そして結婚をしたいと願っているのだから。だから不安だったの。



 村に3組の冒険者がやってきた。

 しかも一組は勇者様のパーティ。女性の勇者様に村の男共が色めきだっていた。

 アタシは不安で堪らないというのに‥‥


 そう、不安を感じさせるパーティが一組あったの。

 女性の奴隷を二人連れた男の3人パーティ。

 ただ、奴隷とは思えないお姿でした、一人はとても綺麗な鎧を見につけた女性。

 もう一人は、意匠を凝らした白いローブを着た小さい女の子



 フードをかぶっていて最初は気付かなかったが、狼人とハーフエルフだったのだ、忌避される存在。

 その二人を連れているのだから、この男は碌でも無い奴なのでしょう。


 見た目も不安しか感じさせない格好だし。見ていると、闇にでも飲み込まれそうな印象がある奴だった。


 歓迎の宴では、アタシは出来る限り目立たないように徹したの。

 だって間違っても見初められるなんて嫌だったし。


 目立たないように、引き気味にいると黒い奴と目があった。

 悪寒が走り、アタシは思わず睨み返してやったわ。一体頭の中では何を想像されたのやら。



 ああ、ホント早く防衛戦とやらは終わらないかしら。


 アタシは村の為に、自分を売るようなマネはまっぴらゴメンなのに。

 でも、でも、アタシはこのナンの村が大好きなのに。


 

 ああ、早く終わらないかしら‥‥

 


  ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 俺は疲れていた。


 昨日は朝方まで、村の外を見張っていたのだから。

 今日の夜の見張りはラティがやると言っていた。


『ご主人様、今日はわたしが見張り役をやりますねぇ』

『ぎゃぼう?見張りってジンナイ様が全部やるものだと思っていたです』

『てめぇ、俺に寝るなって言ってんのかよ』


『お昼に寝れば良いのですよです』

『昼に魔物が来たらどーすんだよ?今日も来ただろ!』


『う、そうでしたです』


『だから、ラティの次ぎはお前の番だからな』

『ぎゃぼー寝不足は成長促進に害があるのですよです』


『喧しい!もう既にお前は手遅れだ!』

『ぎゃぼー号泣する位に酷いこと言われたですー』



 そんなやりとりがあったのだ。

 しかも、橘パーティは俺を理由で勝手に見張り役を拒否。

 とても不安しかない状況になっていた。


 だが、やっと睡眠が取れる時間がやってきたのだ。

 いま俺は、村が用意してくれた村小屋で床に就こうとしていた。

 村小屋の中には、俺と貴族の男ジムツーのパーティメンバー二人が眠ろうとしていた、どうやらジムツーパーティは、ジムツーが見張り役のようだ。


 貴族なのだから、この二人に見張りを押し付けると思っていたが、違うらしく。


「――ッ寝てる場合じゃねぇ!」


 俺はすぐに飛び起きた。

 ラティに不安がある訳では無い、きっと万が一すらも無いだろう。

 だが、何か気に入らないので俺は小屋を飛び出る。


 

 俺は村の南側、魔物が来るであろう方向で見張りをしているラティの元に走った。

 そしてラティはすぐに見つかった。

 村を囲う柵の近くで、ジムツーに何かを話し掛けられている様子だった。

 

 生活魔法”アカリ”が二人を頭上から照らしている、そのお陰で此方からは良く見えるが、二人からは俺は見えづらいはずなので、つい隠れてしまい。

 そして二人の会話につい耳を澄ませる。


「何度でも言う!君は私の元に来る気はないのかい?」


 ――またか‥どうしてこうまた、

 でも、ちょっとラティの返答が気になる‥‥


 

 俺はラティがどうの様な返答をするのか気になり、悪趣味とは思うが、そのまま隠れて盗み聴きをしようとしたが。


「あの、その返答でしたら‥」


 ――その返答は‥‥?

 ちょっとドキドキしてきた、



「――返答でしたら‥わたしのご主人様がお答えしてくれます」


 ――あ、バレてた、

 パーティメンバーで位置は把握出来るし、

 そもそも、この距離でラティが気付かないわけないか、



「ささ、ヨーイチ様、主の気概を見せてくださいな」 


 ――あ、コレちょっと怒ってるな、

 悪趣味な盗み見がマズかったか‥仕方ない、



 俺はその後。

 ジムツーに、ラティは『やらない』ときっぱりと告げた。

 奴自身もラティを買い取れるとは本気で思っておらず、あっさりと退いた。



 だが、このまま二人に見張りをさせるのも避けたい、しかし、俺は眠気の限界が近づいており、睡魔にフラフラとしていると。


「あの、ご主人様こちらにどうぞ」

「えっと、いいのか?」


「はい、遠慮なさらずどうぞ」

「わりぃ助かる、」


 ラティは草の上に腰を下ろし、自分の膝をポンポンと叩き俺を誘ういざなう


 俺はその誘惑に負け、彼女の膝枕でそのまま眠りに就く。

 そもそも、勝てる誘惑ではなかったのだから、仕方ない。

 

 そしてラティは俺に膝枕をしたまま見張り役を継続した。




 だが、この行動がある男に馬鹿なマネをさせるきっかけの一つとなってしまった。 

 そう、本当に馬鹿な事を‥。


読んで貰いありがとうございますー


また一日PV数が1万超え!感謝です

ご質問にご指摘など感想コメントで受け付けております

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