広範囲大移動
最近PV伸びて嬉しい!
本日2本目です
俺達は魔物の大移動に対しての防衛戦に参加する事になった。
魔物の大移動。
本来魔物は、大地より湧いたらその場に留まるモノらしい。
もし移動する事があるとしたら、それは近くにいる人間を襲いに行くなど、明確な目的がある時だけその場から移動をする。
稀に移動する魔物もいるが基本的には、その場から移動しないのだ。
だが、数年に一度の割合で湧いた魔物が一斉に何かに導かれるように移動する現象がある。それが魔物大移動だ。
本来であれば数年に一度程度の頻度なのだが。
”魔王発生”が近づくと異常なほど頻繁に魔物大移動が起こるのだ。
召喚された勇者達は、魔王討伐が最大の目的とされているが、この魔物大移動の防衛や討伐も求められており、そして魔物大移動が経験値を稼ぐ場にもなっていた。
特に北の防衛戦で姿を現す巨人の魔物は大量の経験値を持っていた。
俺は今まで、自分の生活や装備集め等で手一杯だったが。
勇者支援政策ほどではないが、俺も暮らしの安定を手に入れる事が出来た。
これからは他の勇者達のように、己を高め、そして魔王討伐に向けて駆けて行くはずだったのだが。
「おい、マジかよ、」
「強姦魔野郎‥‥」
「貴様はあの時の下男、」
俺達が防衛に派遣された村には、勇者橘風夏と、最近衣服屋でラティに絡んできていた貴族の男がいたのだ。しかも防衛戦参加者として。
今回の魔物大移動は、広範囲の移動になっていた。
斥候からの情報では、固まって移動するのではなく、バラバラに海の側から北上するように移動しているそうだ。
ケータイなど無い世界なので、北に向かっているが動きは完全に把握出来ないので、進行ルート上にある村を守る形で迎え撃つのだ。
ただ、範囲が広い分、魔物の群れの密度はとても低くなっている。
そして俺達が防衛に派遣された村で、同じく派遣されたこの二人と出会ったのだが、貴族の男はともかく、橘の方は俺にとって会いたく無い人物であった。
「陣内!アンタまだ奴隷の彼女連れてるの?まだ奴隷で縛っているの?」
「こいつ‥‥、まだそんな事言ってんのかよ」
橘は怒りを露に感情むき出しで、俺に喰ってかかる。
水を向けられる形になったラティは、言っても無駄だろうとばかりに、興味なさげに横を向いて橘を無視した形を取るが。
そこに、関係の無い貴族の男が割り込んで来たのだ。
「おい!奴隷ってどういう事だよ?彼女は公爵家と縁のある令嬢じゃ無かったのか?お前達は私を騙したのだな?」
――めんどくせー!
くっそ、あの避け方が裏目った、なんで貴族が防衛戦に来てんだよ、
実はこいつ、貴族じゃないのか?
貴族の男は橘の発言でラティが貴族ではなく、彼女が奴隷である事を知って騙されたと激怒し始めたのだ。しかも‥‥
「この強姦魔、他にも彼女を使って悪さしてたの?どんだけクズなのよ‥」
今度は男の発言に橘が勘繰り、何を誤解をしたのか俺が悪いと決め付けて再び咎め始める、二人共パーティメンバーを二人つづ連れており、そのメンバーが止めに入り、なんとかその場は収拾がついた。
( もう帰りたい‥ )
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
これから数日間俺は、この二人に悩まされる事が確定していた。
橘は誤解を解こうにも話を聞かず、貴族の方も騙された事に腹を立て、この町に派遣されたメンツ9人の空気は最悪なモノとなっていた。
「ようこそナンの村へ、我が村をお守りして頂けると、ありがとう御座います」
その後、村の村長だと思われる人物が俺達に話し掛けてきた。
歳は60代ぐらいの老人が名前をロウと名乗り、俺達に感謝の言葉を言ってきて。そして今回俺達が泊まる場所や食事などの説明をしてくれた。
泊まる場所は、一応男女分けて用意してくれており、俺は無用なトラブルを避けられるとほっと胸をなでおろしていた。
橘は【宝箱】に入れてある持ち運び豪邸があるので、そちらで泊まると言い、ラティとサリオを誘っていたが、今回は葉月がいない為か、二人は断っていた。
そして太陽を見ると午後5時頃に、村の住人から感謝の意味を込めた宴が始まる。参加者は俺達防衛組み9人と、それを監視する役人の一人が参加した。
この防衛戦は魔物討伐数で報酬が変動する仕組みで、村に監視役が一人派遣されているそうだ。この監視役がいないと冒険者が時々だが村で悪さをするので、その防止役の意味もあるそうだ。
どうやら前に冒険者がかなりの事をやらかしていたようで、アムさんが後継者になってから新しく作った政策らしい。
この監視役がいるお陰で、村人も怯える事もなく俺達に接しているようだ。
そしてその宴が始まった。
裏で色々とある宴が始まった‥俺だけを抜いて。
「勇者様が来て頂けるとは、末代まで自慢出来ます!」
「ささ、どうぞ冒険者様」
「コラコラ、あまり飲ませるものじゃないぞ」
「この料理はこの村の自慢なのですよ」
「おい、お前たち次の料理をお持ちしろ」
村は規模は300人程度、そこから何人かが手伝いで借り出されていた。が―
何故か村娘達が意外と多く手伝いに来ていたのだ。
俺の感覚では、こういった場ではあまり嫁入り前の女性は隠して、オバサン的な人が配膳などをすると思っていたのだが、器量良しの娘が多いことに違和感を感じていた。
すると、俺の隣の酔った村人が座り俺に話し掛けてきた。
「お若い冒険者様、貴方は避けられてしまったみたいですな、ああっはは」
「ん~?それはどういう意味ですか?飯とか貰ってますが‥」
俺の質問にニヤニヤとしながら、その酔った村人の男は語りだした。
「だって君は村娘達に避けられているからね、可哀想に、っくく、あははは」
「むっ?」
この男の言う事に心当たりあった。
この宴が開始と同時に、村娘達が数人姿を現したのだが‥
「冒険者様!村をお守りして頂けるそうでありがとう御座います」
「どうぞ、こちらにお座りください」
「宜しければお酌します」
などと、甲斐甲斐しく冒険者たちをもてなしていたのだが。
俺にだけ誰も寄って来ないのだ。
卑屈な見方をするなら、町娘のその目は『ないわ~コレは無いわ~‥』と言う感じだったのだ、明らかに俺は避けられていた。
心の建前では、この新しい忍胴衣による『只者じゃないオーラ感が距離を取らせてしまったか?』っと 思っていたが、やはり違っていたようだ。
小声で聞こえてくる『目がやばいくない?』『ちょっと怖い』『あれは無い』など気のせいだと思い込んでいたが、聞こえていた小声は事実だったようだ。
酔った男から聞けた話だと。
村の娘などは、村の男に嫁ぐ以外にも、冒険者を捕まえる役目もあるそうだ。
村に現役冒険者を捕まえて、畑仕事をしつつ魔物が出た時には戦ってもらう、元冒険者が多い村などは、魔物の脅威に晒される危険性が減るのだ。
その為、村にやってきた冒険者を誘惑し、村娘と結婚して村に骨を埋めるように画策するそうだ。
あまりよろしくないように思えたが、村を守る為を考えると仕方ないそうだ
だからと言って誰でも良い訳でもなく、真面目で暴力など振るわない冒険者を見極めるそうだが、俺はそれで弾かれたのだと、オブラードに包んで教えてくれた。
因みに奴隷であるラティとサリオは最初から眼中に無い。
――ちくしょー!
イチイチ教えに来るなよ!世の中には知らない方が幸せなこともあるんだ!
何故言いに来たんだ?酔っぱらったからかこの男は、
知りたく無かった事実を突きつけてきた村人は俺の隣で笑っていた。
俺はその男にげんなりしていると、一人の村娘が目に付いた。
背中まである燃えるような赤髪に、気の強そうなツリ目、そしてメリハリのある体。その村娘は他の村娘よりも頭一つ抜き出た可愛さだった。
だが、その村娘は明らかに冒険者達を避けるような振る舞いをしていた。距離を取って愛想笑いもしない、挙句の果てに俺と目が合うと睨んで来るほどだった。
俺はその子を見て、全員がみんな好きでコレをやっているのでは無いんだなと思った。例外がいるのは当たり前だが、何故かその子は印象に残った。
( あれ?ラティまで俺を睨んでる、)
そして宴は終わり、一応見張りを各パーティから一人出して、眠りに就く事になった。
斥候からは狼煙で合図はあるそうだが、今回は範囲が広いので、完全には当てにならないようなので、24時間誰かが見張りをして村を守る体制となった。
最初の見張りは、俺達のパーティからはまず俺が出る事にした。
特に理由は無いが俺が出ると、他からも二人見張り役がでる。
橘と貴族の男は、俺を避けたのか最初の見張りには出て来なかった。
宴が終わった後なので、現在は夜10時。
見張りに出てきた二人は、各自何か吹き込まれたのか、俺を見張っているのかのように訝しい視線を飛ばして来ていた。
当然俺はそれを無視していると。
「おい!お前、勇者橘様に謝罪をする気は無いのか?」
「はぁ?」
思わず低い声で険のある返事をしてしまう。
だが仕方ない事だろう。誤解を謝罪される事はあっても、俺から謝罪をする理由が思い浮かばないのだから、どうしても険のある声音が出てしまう。
「何を謝罪しろってんだ?意味がわからん」
「何を言っているんだ!勇者様を怒らせて、そして今そんな態度を取っているのだぞ?謝罪をするのは当たり前だろう」
「アホか、」
橘パーティの男は、然も当然とばかりに語ってきたのだ、勇者様が正しいだからそれを擁護する自分も正しいとばかりに。俺からは呆れた言葉しかでなかった。
「なぁ、その理由は知っているのか?橘が怒っている理由を?」
「当然だ!お前が奴隷に対して、口にするのも憚るような事をしておいて、それを咎めた橘様に暴言を吐いたそうだな。全く、こんな奴と一緒に戦わねばならんとは‥」
清清しい程の盲目っぷりだった。
やはり勇者の楔の影響なのか、完全に考える事を破棄し、勇者の言う事を盲信しているように見えたのだ。
俺は勇者の楔の効果に危険性を感じつつ、まだ言い足りないのか、ぶつぶつと何かを言っているその男の事は無視して、そのまま見張り役に徹し、その夜は過ぎていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日。
魔物が村に向かってきたが、その数は3~4匹程度であり、橘の弓WSで瞬殺で終わりを告げた。
俺はその橘風夏を見ながら、ある事を考えていた。
昨日の俺に突っかかって来た橘パーティの男、アイツみたいに勇者の橘を盲信した奴が暴走して、俺達に害を与えるのでは?と考えた。
――だけど、俺が言っても橘は聞かねえだろうな、
誤解を解こうにも話を聞かないから詰みだ、緩衝材がいれば違ったんだろけど、
だが、話を付けないといけない案件。
俺は駄目もとで橘に誤解を解く為に話をしに行くことにした。
昔の俺であったら、間違いなく行わない行動でだろう。
だが――
「近寄らないで!この強姦魔!」
「まて!だからそれは――」
「貴様!勇者様に近づくな!」
物凄い勢いで拒否られたのだ。
しかもそれで、夜の見張りをしないと言ってくる事態に発展した。
護衛二人のうち一人が女性なので。
見張りで橘が夜に出るのは論外。だからと言って女性の方を見張りに出すのも危険、俺に襲われる可能性があるからと。
そして、その二人を守るという理由で男も夜は見張りに出ないと。
その男、ビルギットが俺にそう宣言してきた。
俺は魔王や魔物と戦う筈なのに、最近は味方である人間と争ってばかりだった。
――もうマジで帰りたくなってきた、
読んで頂きありがとう御座います
感想やご質問にご指摘など感想コメントでお待ちしておりますー




