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雇われ

一日のPVが初の1万超えしました!感謝です

 俺はアムさんに雇われる事になった。


 俺の知識では雇われる=仕事をして報酬を貰うだけだと思っていた。

 元の世界では、バイトをした事がないから、想像がつかなかったのだが。


「ジンナイ君、専属で雇われるのだから、他の誰かの傭兵とか受けないでね」

「はい」


 ――当然だな、

 それはプロ野球の選手が、勝手に余所の球団で試合に出るようなもんだし、



「報酬はそれなりに払うつもりだよ」

「助かります」


 ――あ、金額は言わないのか! 

 もし不当に安かったら文句を言うか、



「それじゃ住む場所と食事をする場所の説明するよ、もちろんお金は取らない」

「へ?」

( 聞き間違えたか? )


「さすがに装備などは支給する余裕は無いけど、他は何とかするよ」

「それって住む場所がタダってことですか?食事も」


「住み込みをして貰う形かな、すぐに指示が伝わるようにしたいからね」

「――!?」



 雇われると、住む場所とか食事が付いてくる事に俺は驚いたのだ。

 てっきり仕事だけ与えられ、それをこなすだけのモノだと思っていたのだから。



 俺があまりの好待遇に固まっていると、アムさんが申し訳無さそうに、ラティとサリオに一度目を向けて、俺に話し掛けてきた。


 今度は先程とは別で、悪い意味での驚きを――


「ジンナイ君。申し訳ないのだが、一つお願い‥、いや指示がある、ラティさんには耳を隠して欲しい。あとサリオさんも出来れば、フードをかぶって欲しいこの屋敷の中では」

「それは、どういう事で‥‥」



 俺は心底温度の低い声を出していた。

 睨み付けるようなまねはしていないが、心の中で重心を低く構え、まさに心構えというモノして、アムさんの返答を待つ。っと


「待って待ってぇ!じんないさん。そういう意味じゃないんよ、ちょっと違うんよ!訳があるんそれには」

「ららんさん?」



 俺の問いに返答してきたのは、ららんさんだった。

 必死に俺とアムさんの間に割り込んで来たららんさんは、巻くし立てるように説明を始めてきた。ただ、余程慌てたのか、説明はグダグダであった。


 ららんさんの説明の内容はこうだ。

 今のノトスは、領民を増やす政策として、人間以外の種族でも積極的に受け入れているそうだ。


 犬人や猫人はともかく、狼人やハーフエルフはどうしても、元から住んでいる領民に受けがすこぶる悪いそうだ。

 だからと言って領民にゴリ押しで受け入れろっと言っても反発がある。

 それならハーフエルフや狼人などの忌避される種族は受け入れ無い、と言うのは、間違えていると考えているそうだ。


 だが、すべてを一遍に変える事はどうしても軋轢を生んでしまう。それなら。

 まずは少しずつ慣らして考え方を変えて行くしかない。


 

 時間は掛かるが、そうやっていこうとアムさんは実行しているのだと言う。

 それこそ10年がかりで‥‥ 

 

 だから、いきなりハーフエルフや狼人が公爵家をウロウロしてるのは、あまり宜しくないと、せめて差別される象徴とされる『耳は隠していますよ』程度の配慮と努力は必要だと言うのだ。



 俺はこの説明を受けて一瞬納得出来なかった。

 だが、あるモノに置き換えて考えると、ストンっと腑に落ちたのだ。


 それは”信頼”


 いきなり認めさせようとする信頼ではなく、築いていく方の”信頼”。


 個人(一人)にいきなり認めさせるのは可能かも知れないが、大人数すべての人に認めて貰うにはそれ相応の努力が必要なのだ。

 その努力にも色々と種類があり、その内の一つがローブをかぶると言うこと。

 ここでソレすらも嫌と駄々をこねるは間違っていると感じたのだ。


 ――そうだよ‥

 ルリガミンの町ではラティとサリオは、努力で町の奴に信頼を得ていたんだ、

 利用と言う要素もあったが、少なくとも求められていた、特に最後も‥‥

 



「解りましたアムさんららんさん。俺が早とちりしてました、すいません」


 俺は素直な気持ちで二人に謝罪をした。

 あまりにも○か×か敵か味方か?極端な思考であったと。


 俺の謝罪を受けたアムさんも。


「すまなかったジンナイ君。俺も言葉が足りなかったよ」


 アムさんは頭を下げて、俺にそう言ってくれた。


 よく目を見ればすぐに気付けたことだったのだ、アムさんの目には、差別や蔑みなどの色は見えなかったのだから。純粋に申し訳なさそうな目をしていたのに。

 


 こうして俺は、ラティ用のフード付きローブを買いに行かねばと考えていたが。

( サリオはローブにフード付いているな、)


「ジンナイ君、ちょっと良い物があるのだが、きっと気に入るよ」

「はい?」



 アムさんが『にやっ』と笑みを浮かべ俺に話してきたのだ。

 まるで、とても良いことをしようとしているような表情で。


 


            ◇   ◇   ◇   ◇   ◇





「アムさん!貴方は分っている!でも本当に貰っても良いのですか?」

「ああ、構わないよ。それにその鎧を見た時から考えていたのさ。ららん良い仕事をしたな、まるでコレ・・に合わせた様だ」



 俺は猛烈に感動していた。

 アムさんが言っていた”良い物”とはフード付きの外套だったのだ。

 だが、そのデザインが秀逸だったのだ。

 フードは額が出る程度のあまり深くなく、耳を隠す程度。

 外套の形も動きを阻害しないように、肩あたりで留め前面が開いた形。

 そして何より色がよかった、薄い紅色でフード口や袖が白色に金の意匠を凝らしており、一言で言うとカッコイイ!だったのだ。


 まるでラティの鎧とセットだったかのように合っていたのだ。

 俺がそのラティの姿に見惚れていると、アムさんが俺に言ってくる。


「彼女を見た時に閃いたんだよね、絶対に着せようとさ」

「その判断!まさに拍手喝采で御座りまするです」



 俺は頭の悪そうな事を言っていた。だが、それ程までに素晴らしかったのだ。そう思いアムさんの方を見ると、そこに最高に良い笑顔で右手を差し出す彼がいた。


 俺はその手を取って固い握手を交わす。

 

 俺は思った。

 この外套をさっさと見せていれば、さっきの説明など無くても納得したのにと。


 





              閑話休題(アホやってました)

 






 次に住む場所を案内された。

 そこは公爵家敷地内の離れの建物で、前に高級住宅地で見た建物よりも大きい二階建ての建物だった。

 

「ぎゃぼう、前に止まった宿屋より大きいかもです」

「あの、本当にこのような立派なお屋敷に住んでも宜しいのでしょうか?」



 ラティ達が案内された建物の前で驚きの声をあげる。

 正直に言って予想外だった。

 どうせルリガミンの町にあった警備隊の詰め所のような場所を想像していたが、これは貴族が住むような建物だったのだ。


 すると、俺の心を読んだかのように、アムさんがこの屋敷の経緯を教えてくれる。


「この屋敷さ、前の馬鹿(クソ兄貴)が専属冒険者用に建てたんだ‥」


 『金の無駄使いしやがって』など、ぶつぶつと文句を言いながら説明をしてくれた。

 どうやら、その専属冒険者を切ったので、浮いてしまっていた建物のようなのだ。だが、俺達にはとてもありがたい事なので、良しとした。



 その後は部屋を案内され、俺は一人部屋でラティとサリオは二人部屋と決まり、追加でららんさんも、この屋敷の一室に住む事になった。


 部屋はみんな二階で、部屋も横並びとなった。

 他にも数人は住んでおり、一階には食堂もあり、感想としては豪勢な宿に泊まった合宿のような気分である。が その気分に浸っている場合じゃなく。


「よし!買い物いくぞ、日常品に着替えも買い直さないと」

「そうでしたです!お風呂と着替えがしたいです、乙女的な何かがどんどん失われていくです」 



 サリオの言う乙女的な何かはどうでも良いが、同感だった。

 まずは、宿に置いたままで失ったモノを買い直さないといけない、ただ、制服とかケータイに家の鍵などはもう買えないが‥‥。


 それは、俺にとっての元の世界の繋がりを失った気分であった。


「あの、ご主人様、いつか取り返しましょうねぇ」

「ラティ?」


「無くなって消えてしまった訳ではありません、宿に置いてあった荷物はわたし達の物なのですから、いつか正当に主張して取り返しましょう」

「ああ、そうだな、」


「わたしも、葉月様に頂いたあのスカートを取り返したいですから」

「新しい赤色のか、」



 いまラティが穿いているのは、別の赤色のバトルスカートだった。

 鎧を新調した時に追加で購入した物だ、ららんさんにツケを払わずに‥

 だが、いまラティが言っているのは、俺の元の世界の持ち物の事だろう、聡い彼女のことだから察して言ってくれたのだと解る。


 だから俺はラティの優しさに感謝しつつ、ちょっと高めの質の良い衣類を買おうと誓い、ノトスの商店街に向かうことにした。





           ◇   ◇   ◇   ◇   ◇






 俺達はノトスの街の衣類が売っていそうな場所に向かった。

 アムさんは仕事、ららんさんはアムさんに用事があると言うので、今は3人だ。


 ノトスの街の広さは、かなりのモノだった。ぱっと見では、中央の城下町の4倍はありそうな広さであり、城壁にしっかりと囲まれ、安全そうに見える街だった。


「ほへ~~すっごいですね!」

「あの、ホントに広いですねぇ、先程はすぐにお屋敷に向かいましたから気付きませんでしたが‥」



 余裕で迷子になれそうな広さだった。

 ただ、公爵家だけなことはあり、高い位置に屋敷を構えてあり、遠くからでも見えるので帰り道が分らないという事は無さそうだった。


 俺達は人通りの多そうな石畳で整備された道を進み、当ても無く衣服屋を探す。

 運が良いのか、それとも数多く店があるのか、呆気なく店は見つかった。店内の品揃えもルリガミンの町よりも良く、ラティとサリオには遠慮させずに買い物をさせる事にする。


「ジンナイ様!この大人な服を買って良いのですか!?」

「お前は自分のサイズを考えろ!却下だ」



 サリオには遠慮させた。

 

 値段とかそう言うのではなく、見た目で選ぶのだがチョイスが酷すぎたのだ。

 どっから探してきたのが、紐のような服まで持って来て、『お前はハムにでもなるつもりか!』と叱り付ける場面もあった。



 そして会計を済ませた時に、ちょっとした出来事が起きた。


「では、品物はすべてこちらの使用人の方にお渡し致しますね」

「へ?」



 俺は誰か後から付いて来たのか?と思い、後ろを振り向いて見るが。


「何処を見ているのですか?貴方ですよ貴方」

「‥‥‥」

『‥‥‥」

「ほへ?」



 少し気の強そうな女性店員は、カウンターに乗っている買った品を、ズイっと俺に押し出してきたのだ。

 確かに、見た目がそうだったのだ。

 サリオは高そうに見えるローブを纏ってフードまでかぶり、ラティは普通に高貴な少女騎士にしか見えないのだ。しかも俺は安い皮の鎧。


 二人とも頭をフードかぶっているので、身分を隠した貴族令嬢に見えないこともなかったのだ。特にラティは目を惹く姿をしていた。そして追い討ちをしてくる店員。


「早く何をやってるのですか、この使用人は」



 動かない俺に苛立ったのか、少し険のある声音で俺に言ってきた。


「おほほほですよ!ジンナイ様、早く持つですよです」

「あ、あの、わたしは違いますので、買った品はわたしが持ちます」

「さ~り~お~」


 

 フードをかぶっているので、耳が見せず勘違いされたサリオが調子に乗っているので、いつものイカ腹(いかっぱら)をアイアンクローで持ち上げていると。


「おい!そこの下男なにをやっているんだ。主に荷物を持たせようとは」

「へ?」

「ほへ?」



 思わぬ乱入者に、赤子を高い高いしているような体勢のまま固まってで、俺とサリオはその声の主の方を目を向けた。

 

 奇妙な俺達に怯むことなく、その男は口を開く。


「全くこの様な可憐で綺麗な御令嬢を――っ!?」



 その男はラティを見つめながら固まってしまったのだ。

 そして‥


「あの宜しければお名前を教えて頂けませんか?私は貴族のジムツーと申します」




 なにやらテンプレ(お約束)がやって来た予感がした。

読んで頂きありがとうございますー


感想やご指摘などお待ちしておりますー

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[一言] ジムツー……ジムII? 量産型貴族かな?
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