南のノトス
南編の始まりですー
アムさんとのやり取りは25話の『脱出』を参考にしてくださいな
馬車の馬を乗り潰す勢いで俺達は南のノトスに向かった。
向かったノトス領地は、前に防衛戦で行った場所よりももっと南側であった。
馬車を走らせ4日、そのノトス領地の城壁が遠くに見えてくる。
走らせている馬車の前に、思ったよりも立派な城壁がはっきりと見えてきた。意外だったのだが、中央の城よりも立派な城壁であったのだ。
馬車を走らせ続け、少し疲れの見える顔でららんさんが話し掛けてくる。
「じんないさん、もうすぐで着きますよ、まずはアムさんに会いに行きましょう」
「お!アムさんか、懐かしいな。最後に別れた時は‥」
「防衛戦の時の天幕で別れたのが最後でしたのう」
「でしたね、決して森を出た場所じゃなかった、うん」
ららんさんは『よく出来ました』と言う笑顔を返してながら話しを続ける。
「あ、そうそうステプレを見せるの忘れないでね、ここは必要やから」
「っう、あまり俺は見せたくないんだけど、なんで?」
馬車を走らせながら、ららんさんが手短に理由を説明をしてくれた。
貴族が管理して大きい街などは、街に入るのに通行料が取られたり、持ち込む品などをチェックされるのが普通なのだそうだ。
例外の一つが中央の城下町とルリガミンの町。
俺は今まで、この二つだけだったのだ。一度北で街に入ったが、あの時は連行に近かったのでステプレのチェックはなかったようだ。
あと犯罪者が街に入らないようにチェックする意味もあるそうだ。南は平気だと教えてくれた。
( 北はアウトってことか、)
こうして俺達は南のノトスに辿り着いたのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やっと着いたですよ~です!」
「ほら、さっさと行くぞ、ステプレを見せればいいのかな?」
「あの、ちょっと緊張しますねぇ」
「なんか、田舎から来たおのぼりさんみたいやの」
今俺達は、城壁の門の前まで来ていた。
高さは6mは超える壁、石積みでしっかりとした作りに見える。
馬車に乗ったまま、街に入るステプレチェックの順番待ちをしていた。
「なんか、城下町よりも厳重なんだな、」
「あっちはそのあたり緩かったのう」
王族の城の方が、その辺り緩いのは少し気になった。
もしかすると、貴族の上級住宅地のように、貴族側から圧力でもあるのでは?と予想した。
どっかの歴史ゲームで得た知識だが、飾りの王族は、簡単に攻め込まれるような場所に押し込まれると言うモノを。すぐに制圧が出来るように‥‥。
意識を思考に集中しているうちに、俺達に順番がまわってきた。
「じんないさん、行きますよ馬車を降りてステプレを出して置いてください」
「あ?ああ、用意する」
この時、俺らしくなかった。他の事を考えていて油断をしていた。
先に馬車から降りて、街に入る審査を受けようとしていた二人が――
「んん?おい!なんでハーフエルフが居るんだよ!誰だこんなの紛れ込ませたのは、さっさと保護者出て来い」
「って、狼人もいるぞ!高そうな鎧なんて着やがって生意気な、」
最近はルリガミンの町ばかりで、この事を失念していた。
この異世界では、この巫山戯た事が当たり前のようにあると言う事を。
本来は、先に俺がステプレを見せて、さっさと通り過ぎるべきだったのだが、俺は出遅れてしまったのだ。
無駄に騒ぎ立てる門の警備兵達、挙句の果てにはサリオを突き飛ばした。
「このハーフエルフが!」
「ぎゃぼ!」
「サリオさん!」
突き飛ばされたサリオを、ラティが咄嗟に動いて支える。
しかし小さいサリオを支えるとなると、どうしてもしゃがんで支える事になり。
「なんだ~?わざわざ蹴りやすい位置に来てくれたのか~?」
目の前でしゃがみながらサリオを支えているラティの姿に、嗜虐心を湧かせ、警備兵は踏み付けるような蹴りをしようと足を上げる。
「あうっ」
「――っ!」
「さりおちゃん!」
その光景に怯えて小さく声をあげるサリオ。その彼女を庇っている為に身動きが取れないラティ、当然そんな事は俺が許す訳が無く。
警備兵の顔を鷲掴みにしてやろうと動いたその時――
「お前達何をやっている!」
「ああ?アム様!?」
門の奥、街側から苛立ちを滲ませた表情で警備兵を睨む青年が立っていた。
以前よりも、真面目で真剣な顔つきになっている青年、アムドゥシアスがいた。
そして、彼が警備兵に歩いて近寄り。
「何をやっていたのだ!言え」
「はい!す、すいません、えっとその、狼人とハーフエルフがいまして‥‥」
以前のぬるい雰囲気を感じさせない振る舞いで、警備兵を咎めていく。
「その様にしろと命じられていたのか?お前は」
「い、いえ、申し訳けありませんでした!」
「スイマセンでした!」
二人の警備兵をアムさんは叱り付け、そしてこちらに向き直り。
「ららん。戻って来たのだな、それと久々だな”英雄”さん」
「お久しぶりですアムさん、ちょっと訳ありで南に来ました」
俺は南に着いて早々に、アムさんと再会を果たす。
この南ノトスに暫く滞在予定なので、彼は真っ先に会いたい人物だったのだ。
どう転がるかは分らないが、事前に北の件を話して置こうと思ったのだ。
彼に話して反応次第では、すぐに逃げる事になるかも知れないが。
俺は意を決してアムさんに話そうと思ったが。
「じんないさん、此処じゃ無くて一度どっか入ろう」
「ららん?何かあったのか?ッ!?だから戻って来たのか、早いと思ったら」
ららんさんに此処で話をするのを止められた、内容が内容なので当たり前の事だった。そして俺達はアムさんの屋敷にみんなで行くことになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺達はアムさんの屋敷の一室に招かれた。
アムさんは公爵家の跡取り、住んで居る場所は今まで見たどの屋敷よりも大きく、家に入る時に、ちょっと気後れをしてしまう程の大きさだった。
そして現在。
北領地での事とルリガミンの町の出来事をアムさんに話し終えた。
ラティには全方位を警戒して貰い、俺はアムさんの反応次第では即座に逃げ出すつもりで、悟られぬ様に小さく身構えていた。
ただ、席を薦められたにも係わらず、立ったままなのでバレているだろうが。
話を静かに聞いていたアムさんが、『ふむ』と一つ肯き、その口を開いた。
「ジンナイ君、貴重な情報ありがとう、北の事はまだ此方に来ていなかったよ、これで北の出方が解るかも知れない」
「うん?北の出方?」
「ああ、北から何時、他の貴族達に公爵の件の話しが来るかで判断出来るからな、もし、その公爵の話しが全く来なければ、後で色々と材料になるからな」
材料とは多分、政治的なモノの事なのだろう。
貴族同士でのやり取りは、俺には全く知識も無いし理解も出来ていない。
一介の冒険者には無縁な話しだし、あまり関係のないモノなのだろう。
だが――
「アムさん、その辺りを詳しく教えて欲しい」
「‥‥‥‥」
――無縁だろうと決め付けて、放置して、そして、
俺は、巻き込まれたんだ!ルリガミンの町で、だから、
俺はどんな事でも知って覚えないといけないのだ。
関係無いと決め付けて、酷い目にあうのは避けなくてはいけないのだ。
そして、こうやって飛び込めば、アムさんの反応がより解る。
俺達をどうするのか。
だが――
「ふ~~警戒しなくても平気だよジンナイ君、君達をどうこうするつもりは無いし、それと実はお願いがあるんだ」
( あっさりと読まれていた )
アムさんは以前のような優しく陽気な雰囲気を纏い俺に話し掛けてきた。
内と外できっちりと切り替えているのだろう。そして話を続けてくる。
「今、この街は微妙な状況でね、わかり易く言うとヤバい。ちょっと詳しく言うと、人材不足なんだよね」
「人材不足?人手が足りないと?」
「ちょっと違うかな、戦える人がいないって意味ね、最近冒険者を何人か解雇しちゃってね、それで戦力が足りないんだ」
「解雇しなければ良かったのに、」
まるで、人手が足りないコンビニの店長のような愚痴だった。
足りないなら切らなければイイのに。
「その冒険者がね、仕事先じゃ犯罪紛いの事はするし注意しても聞かない、そしてプライドだけは高いとキタもんだ、実力があったとしても今の南にはいらなかったんだ」
「あ~~~、」
――コンビニのバイトが客に喧嘩売ったり、
レジの金をチョロまかしたり、そんな感じか、確かにいらんな、
「前のクソ兄貴の時は通用したんで無茶してたみたいなんだ」
「そう言う事か、前の奴の負の遺産か」
思いっきり納得してしまった。
ひょっとすると、その冒険者とルリガミンの町で出会っていたのかも知れない。
もうルリガミンの町に行く事は無いと思うが。
「どうだいジンナイ君?お願いを聞いてくれれば、さっきの詳しい話しとやらも教えれるかもよ?」
「っう、取り敢えず、そのお願いってのをまず聞きますよ」
「おっしゃ!えっとね、俺に雇われないかい?もちろん無理な束縛はしないよ」
「はい?」
アムさんから驚きのお願いだった。
そこから続く話の内容は。
南は基本的に財政難なので、あまり人が雇えない。例えば防衛戦でも満足な報酬が払えないので、提示する金額だと碌な冒険者が来ないのだと。
来たとしても食い詰め浪人のような微妙なのばかり。
しかも最近じゃ余所に募集もかけていないとか‥
だから、実力が確かな俺達を雇いたいと言うのだ。
俺は少し悩んだ。
確かにとても良い話に聞こえるが、裏もありそうだし完全に信用するのも危険だ。だが、雇われるとお金を稼ぐ事が出来るのだ。
俺が『うむむぅ』と悩んでいると、ららんさんがサクっとトドメを刺しにきた。
「じんないさん良かったやね~、これで鎧のツケが払えるのう」
「あ!」
こうして俺はアムさんに雇われる事となった。
あまりにも見事なタイミングでららんさんが刺してくるので、ららんさんはすべてを見越してツケの布石でも張ったのでは?と、勘繰ってしまうほどだった。
俺は雇われる事を承諾した。稼がないといけないので仕方ない事だ。が―
ここで、アムさんが笑顔で追加ボムを落としてきた。
「いや~よかった。 最近さ、南のナツイシ伯爵が勇者の1人を囲ったらしいからさ、それに対抗出来る人材が欲しかったんだよね~」
俺は思った。 この二人には勝てないんじゃないかと‥‥
こうして新天地、南ノトスでの生活が始まったのだった。
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