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後始末

遅れてすいませんでしたー


 俺はエルドの呼び出しに応じて席を立った。

 外に行く前に、先に夕食の代金を支払おうとしたが。


「あ、こっち5名の支払いイイか~」

「こっちもこのテーブルの支払い先に~」


 俺が支払う前に割り込む形で、二組が先に支払いを済ませようと動いた。

 俺の方も急ぐ必要もないので、その二組に先を譲った。


「あ、どうぞどうぞ~」


「んじゃ、ありがと~」

「お先に失礼しま~」



 二組が支払いを終えた後に、俺も会計を支払い外にエルドと出た。


 出るときにチラっとラティに目を向けると。

 彼女は心配そうに俺を見つめ、次に力強く肯いてみせてきた。


 ――こっちはラティに任せよう、

 俺は俺の役目を全うする、



 そして俺はエルドの後について町の通りを歩いていく。

 (時計)を見れば既に夜8時前。

 店の明かりや、生活魔法のアカリで照らされた町の通り。


 緊張をしながらも、腰の木刀をしっかりと確認する。

 槍は流石に目立ちすぎるので持って来ていない。

 用心の為に、薬品ポーション解毒効果薬品ポーションも用意してある。



 無言でエルドが先導して道を進んで行く。

 人通りの多い方の通りへと。

 

 俺達が予想した暗殺方法のひとつ、人ゴミに紛れて俺を暗殺する方法。

 もし仕掛けて来るならきっとコレだろう。 


 後は、どのタイミングでやって来るか。


 そんな時に事件が起きた。

 俺達が進んで大通りで、俺達のすぐ後ろで。

 先ほどの会計を先に終わらせた二組が突然喧嘩を始めたのだ。

 俺達のすぐ近くで――


「てめー!なんだよぶつかってきやがって」

「はぁ?そっちがぶつかって来たんだろ!」


「なんだとー!」

「やんのかゴラァー」



 お互いがぶつかったぶつかって来たで突然揉めだしたのだ。

 そして、すぐに野次馬が集まり人だかりが出来始める。


 しかも気が付くと、喧嘩を始めた二人だけを残し他の姿が見えなくなる。

 いつの間にか、俺の周りは屈強な冒険者で囲まれいる。

 近くにいるエルドも人だかりに飲まれ身動きが取れずに。


 

 そう、完全に用意された舞台だった。

 突然の人だかり、野次馬で作られた人だかり。

 人ゴミに紛れて俺に近寄れて、そして後ろからでも刺せるような。


 俺は警戒を全開に引き上げていた。

 ラティのように気配が完全に察知出来る訳でもない。

 俺は達人でもなければ仙人でもない、普通の劣化冒険者なのだ。


 だが、集中していれば解る事があった。

 この人ゴミの中をすり抜けるようにして俺に近寄って来る存在を。

 相手が察知を出来なくても、その周りの人の動きなら見える。


 人ゴミという海を切り開いて進んで来る透明な何か。

 それが俺の間近に迫って――



「――ギィィィン――」


 直前で反応し紙一重で防ぐ事ができた。

 他の事すべてを破棄し、近寄るナニかだけに集中をした結果、防ぐ事が出来た。



 木刀で止められた太い刃。

 刺す事だけを考えられて作られた形の短剣だった。


 

 そして、三本の腕が暗殺者の腕を掴んでいた。

 もしかすると、木刀で止めなくてもこの腕で止めれていたかも知れない。


 ガレオスさんと、伊吹組に赤城組の冒険者達に。


 腕を掴まれた暗殺者は気付くと、すでに腕だけではなく体も掴まれていた。

 その暗殺者は驚愕に目を見開き、口をパクパクさせながら辛うじて喋る、


「――っな!?なんで?何故わかった、何故捕捉出来た!?」

「理由は簡単だよ」



 俺はしたり顔で答える。


 ――たぶん、凄い悪そうな顔してるだろうな俺、

 だが、やってやったぜ!暗殺を防いでやった、



「捕まえられた理由は、俺の周りは全部味方なんだよ」

「な?みかた‥‥?」



 暗殺者はそう呟き周りを見渡す。

 そして俺の言っている意味を正しく理解した。


「さっきの乱闘も俺達が仕掛けた罠だよ、見事に掛ったなデッド」

「なにぃ‥‥」


 

 完全に用意された舞台だったのだ、デッドを罠にハメる為の。



 俺達の作戦。

 それはある意味、人数のゴリ押しに近かった。


 最初に店を出た二組は味方。

 その二組が上手いこと俺達の近くで喧嘩の芝居を始める。

 そしてそれに合わせて、俺の周りを野次馬のフリをした味方で固める。

 

 あとは、その人ゴミに釣られて来る暗殺者を待ったのだ。

 まさに暗殺者は敵陣に何も知らずに飛び込んで来た訳だ。



 当然このデッドにもマーク(見張り)を付けていたので、近くにいる事は報告を受けていた。

 実は俺達は歩いている最中にハンドサインでやり取りをしていたのだ。


 ハンドサインは前に階段下を目指した時にドライゼンが作りあげたモノ。

 独自に作られたハンドサインなので、気付かれる可能性は低いのだ。


 これが今回の作戦。


 経費としてここ最近の夕飯代やら協力の謝礼などかなり掛っている。

 この二日で飯代が金貨3枚に、この作戦報酬で金貨10枚。


 もし長期戦になっていたら危なかったのだ。

 ほぼ稼ぎが溶ける計算なのだ。


 後、暗殺者が1人もしくは少数だろうと判断した経緯は。

 ラティの一言。


『あの、暗殺に大人数って連れて来るんですか?』


『ご主人様を狙うにしても、大人数を使うものなのですか?』



 あの時はその場にいた全員が、唖然とし同時に納得もした。

 考えれば当たり前の事だったのだ。


 たかが1人の冒険者を殺すのに、大人数を動かすことは無いと。

 だからこそ、俺に恨みを持っていそうな奴に声をかけたのでは?と。

 暗殺者は多くはいないだろうと。



 そう考えると色々と辻褄が合ったのだ。

 デッドが二人以外に誰にも接触しない事も、ラティを恐れている事も。

 俺を暗殺したくても、近寄れず何日も経過していた事も。

 

 だが、だからと言ってまだ何もしていないデッドは捕らえられない。

 実は貴族の使者でしたなどの、難癖を付けられる可能性があったのだから。

 なので、今回の作戦を実行したのだ。



「警備隊さん、暗殺しようとしてきたので取り押さえました」

「ああ、しっかり確認させてもらったよ、まず詰め所に連れていこか」



 殺人未遂現行犯として捕らえるのだ。

 難癖を付けられても困らないように、隠れていた警備隊に引き渡す。

 その為に、警備隊のおっさんにも声を掛けておいたのだ。


 これで正当性を主張する。



 俺が警備隊のおっさんとこの後の予定を話していると、そこに男を引きずって屈強な冒険者がやってくる。

 

「あ!あとコイツもだ」

「お、俺は関係ない!俺はそいつとは関係無いんだぁぁ」


「やべ、こいつ忘れてた」

「指示通り捕まえて置いたぜ」


 今回の暗殺の協力者の1人。

 ラティを買い取ろうとした男、エルドが襟を掴まれ連れて来られていた。


「俺は暗殺なんて知らなかったんだー!」

「いや、今回のが暗殺って誰も言って無いですよね?見ても無いですよね?」


 ――言って無いよね?

 アレ?言った記憶あるな、押し通すか!



「ああ、それは‥‥」

「んじゃ~、そっちの人にもまた、詰め所に来て貰おっかな~」



 俺達は二人を捕縛し。

 そのまま詰め所に向かって歩き出した。 



 警備隊の詰め所に辿り着くと、丁度ラティ達も来ていた。

 ラティにサリオと伊吹組メンツ。 


 そして気絶させられている、偽陣内だった男。



 俺がラティに出していた指示。

 ラティを足止めに来るであろう、デッドの協力者を捕まえる事。

 

 俺達の予想では。

 暗殺者側は、【索敵】だけとは思えないラティの察知を警戒している。

 俺と引き離したラティが、こっそり後を付いて来ないように見張るはずだと。

 もしくは、後を付いて行こうとするラティを妨害する役がいる予想したのだ。


 

 そして今、ラティ達がその男を連れて来ていると言う事は。

 そういう事なのだろう。


 捕まえたのは3人の男。

 まずはこの3人から情報を聞きだし今後の行動を決めるのだ。

 雇い主が誰なのか、他に仲間はいないかなどを。



 20人位が寝泊りをしていそうな二階建ての石作りの建物。

 その中の一室、前回と同じ部屋に3人を並べて尋問を開始した。


 現在この部屋の中には。

 俺・ラティ・サリオ・ガレオス・ドライゼン・警備隊3人とおっさん。

 そして捕まえた3名。

 赤城と伊吹は、自分達の仲間の下に戻っている。

 今回の騒動の終了を伝えにいったらしい。



「んじゃ~、雇い主誰かな~言ってくれると楽なんだけど」


 前もそうだったが、今回も気の抜けるような口調でおっさんが尋問を開始する

 取り敢えずはこのおっさんに話の流れは任せる予定だ。


「さっさと話して楽になっちゃいましょうよ~、ねぇ?」

「‥‥‥‥」


「あれぇ~だんまりかぁ~、仕方ないな~」


 予想していた事だが。

 暗殺者の男デッドは目を逸らし黙秘を決め込んでいた。すると


「じゃぁ、もう解放でいいかな?面倒そうだし」

「へ?」


 警備隊のおっさんは突拍子でもない事を言い出した。

 前の乱闘の時も、のらりくらりして終わらせたが今回も終わらせようとした。


「待った!何考えてんだよ!俺は殺されかけたんだぞ」

「うん、見てたから知ってるよ、だから解放しちゃおうよね」


「何を‥‥?」



 最初はアホな事を言っていると思っていた。

 だが、顔を見てすぐに気が付く、『解放』の意味が別の事を指していると。


「それじゃぁハンズ君、あの部屋用意して置いて、土は3名分ね」

「土‥‥?」


 解放の言葉を聞いていた3人は、少し希望的な表情をしていたが。

 土と3名分の言葉に、怪訝そうに嫌な表情に変えていた。


 話の流れを無言で俺達が注目する中、警備隊のおっさんは。


「もう時間も遅いし、さっさと終わらせちゃおうね処刑を」


「――っは!?」

「なんで!待ってくれ何で俺が殺されなくっちゃならない!」

「俺なんてその狼人に話し掛けただけだぞ!」


 

 あまりにも予想外で無慈悲な話の流れだった。

 色んなモノをすっ飛ばして、終着地点に行こうとしていた。

 だが警備隊のおっさんは、心底面倒そうな顔をして呟く。


「え?駄目ぇ?」


「だ、駄目って、当たり前だろ」

「もっとあるだろう!聞く事とか」

「そうだよ!俺はただ話し掛けただけなんだぞ」


「じゃ、話してみよっか?ねぇ」



 にへらと笑いながら警備隊のおっさんが再び尋問を再開するようだ。

 話し方が上手いと言う訳ではないが、このおっさんの雰囲気には何かあるのだ。

 ヌカにクギや暖簾に腕押しのような空気があるが、決して油断出来ないような。


「で、依頼主は誰かなぁ~」


「‥‥‥」

「おい!お前話せよ、俺達を巻き込むんじゃねぇよ!」

「そうだそうだ!俺は話しかけただけだぞ」



「それじゃ聞き方変えようか‥‥‥、ハンズ君達3人もう連れてちゃって」


「待ってよ!話せよ早く言っちまえよお前!」

「俺達は関係無いんだぞ!教えちまえよ」

「――っ!!」



 聞き方を変えようと思ったが面倒くさくなって。

 『もう殺しちゃっていいよね?』という感じで処刑を開始しようとする。

 このおっさんは敵に回すと怖くは無いだろうが、敵に回すと凄く厄介な印象を持った。考えが読めないのだ。


 当然捕まっている3人は大慌てだった。 

 当たり前と言えば当たり前だ、命がかかっているのだから。

 しかも、慣れているのかハンズ達も迷わずに連れていこうとする。


「待ってくれ、は、話す、フユイシ伯爵だ!フユイシ伯爵に頼まれた」

 

 

 部屋は騒然とした――

 

 俺にはイマイチピンと来なかったが、他は違ったようだ。

 特に協力者、最初唖然としていたが、次にはしたり顔で声を上げはじめる。


「北の大貴族じゃねぇかよ!助かる、これなら助かるぞー」

「早く縄を解きやがれ!俺達は大貴族の依頼を受けてやってたんだ!」



 二人は完全に息を吹き返していた、先程とは別の意味で騒ぎ出した。

 暗殺者のデッドも何処か余裕のある表情になっていた が。


「あっちゃ~、なんか面倒そうだね、コレ聞かなかった事にしようね」


  

 何を言っているか解らなかったが、意味は分った。


「ハンズ君、大急ぎで済ましちゃおう」

「はい‥」


「――っな!」

「はひ?何を言って?」

「おいおい、大貴族様の依頼だぞ」



 3人の顔が呆けたまま固まっていた。

 助かるだろうと思い、それを確信していたのだろうから。

 それ程に大貴族なのだろうフユイシ伯爵とは。


 だが、それを聞かなかった事にして処刑を進めようとしているのだ。

 

「な!話を聞いていたのか」

「お、お前達は大貴族を敵に回すのかよ!」

「そうだそうだ!」


 3人が必死に喚き立てる。

 こちらを脅すように泣きつくように、あらゆる手段で訴える。が


 これだけ抗議の声を上げていても、ある言葉が出て来ていないのだ。


 『仲間が』と言うキーワードが――


 この言葉が出て来ないという事は。

 

 ――間違いなく他に仲間や協力者がいないな、

 仲間が他に居るのなら、ここで『仲間が連絡に行くぞ』とか言い出すはず、

 間違いなく単独で来ていたな‥‥



 近くに味方がいない事を意味しているのだ。

 そしてこれで俺が知りたい事を二つ知れたのだ。

 依頼者と他に仲間がいるかどうか。

 それが知りたいが為の尋問だったのだ。



 俺は自分の目的がある程度達成出来て、次の展開を考えていると。

 ここで始めて暗殺者が自発的に話し掛けてきたのだ。


「頼む助けてくれ、俺は無理矢理依頼されたんだ‥、本当は嫌だったんだ」


 暗殺者デッドの懇願と懺悔、そして自分の身の上話が始まった。

 自分が奴隷として買われた事や、その経緯など。

 今までも自分の境遇や、主への忠誠心は無いなど。

 聞いていない事まで必死に喋り尽くしていた。


 そして最後にある提案を出してくる。


「俺が主の下に戻って暗殺しましたって嘘の報告をしてくる、そうすればアンタが狙われる事も無くなるはずだ。だから命だけは助けてくれ!」


 先程の自分の身の上話しはきっとこの提案の為の前振りだろう。 

 忠誠心は無いや他にも同情でも引こうと。



 だが、それはとても魅力的な提案だった。

 主に対して忠誠心は無いことなどは真実に感じられた。


 

 ――確かに貴族に追われるのは出来る限り避けたい

 だが、信用出来るか?この男を‥‥


 今日一番の悩みが発生した。

 

 

読んで頂きありがとうございます

今回のお話は込み入ってますので、ご指摘やご質問がありましたコメントを頂けましたら、返答いたしますー


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