事情聴取
グダグダ回
ルリガミンの町警備隊、【通称】警備隊
町の治安維持や地下迷宮からの魔物移動時などの有事の際の戦闘員。
中央の城から派遣された、と 言う名の左遷された兵士で構成された組織。
基本的に左遷された兵士ばかりなので、仕事に対して勤勉ではなく。
通報や呼び出しがない限りは、出動する事のない隊である。
その警備隊のある一室。
俺達は乱闘後に、警備隊の詰め所に連れて行かれた。
一応サリオとラティも一緒について来ている。
それと、ほとんど引きずられる様にして、喧嘩相手の男も連れて来られた。
「で、喧嘩の原因はなに?」
「腹が立ったから殴った」
「そっちの‥エルドだっけか?」
「うぅ‥そいつが俺に奴隷を売らなかったからだ、相応しくないのに、」
「ふむ、なるほどね相応しくないか、」
喧嘩の当事者同士を並べての事情聴取。
はっきり言って大雑把で斬新だ、小学校の先生の喧嘩裁きを思い出す。
警備隊の40代位でタレ目のオッサンが俺達の話を聞く。
――凄いなこれ、、
確かに手っ取り早いけど、当事者並べるか?普通、
「ねえ?その奴隷ってのは狼人の方の彼女?」
「ああ、俺の奴隷のラティだ」
一緒に部屋にいるラティの方を警備隊の男は一瞥し再び質問を続ける。
「あの奴隷って有名な子だよね?確か”瞬迅”だっけか?」
「だから!あんな奴には相応しくないから俺が貰おうと思って」
「で、乱闘騒ぎを起したと?」
「ああ、そうだよ!おかしいだろ、アイツの奴隷だなんて」
――この野郎は、警備隊が居るからって調子のって、
警備隊がいるから俺が手を出せないと思ってんのか?
途中で止めが入らなければ、完全に心が折れるまで追い込んだのに、、
その後もエルドは雄弁に語り続けた、いかに自分の方がラティに相応しいかを。
腫れ上がる横顔とその話し両方が痛々しかった。
「だからそこ彼女は俺に相応しいと思うんだ!だから――」
「ああ、お前さんの話は分かったよ、で 当事者に聞いてみるか」
警備隊のおっさんは、エルドの話しを手で遮って、ラティに水を向ける。
取調室にいる全員の視線がラティに集まる。
「あの、それはどちらが主に相応しいかと言うことでしょうか?」
「ん~まぁ?そう言う事かなぁ~」
のらりくらりとした対応を続けるおっさん。
それとは対照的に、凛とした姿勢で誠実にラティが答える。
「それでしたらヨーイチ様です。そちらの方ではありません」
「―っな!何故だ!俺はエリート冒険者だったんだぞ!比較にならないだろ」
「理由は簡単です、弱くて驕っていて、そして何よりわたしの主であると言う、気概を持つ事が出来るとは思えないからです」
ラティの言葉に固まってしまったエルドの肩におっさんが手を乗せる。
おっさんが気だるそうにして、固まってしまったエルドに諭す。
「とまぁ、こんな感じだしね。もう諦めて家に帰ろっか? っね」
「ああぁ‥」
「オレとしてもぉ、これ以上ゴタゴタも嫌だし面倒だし、捕まえるのも大変だろうし、今日はもう解散でいいよね?」
生産性のない事情聴取が終了した。
エルドは他の警備隊に付き添われて帰っていった。
結果だけを見ると、この事情聴取は何も解決していなかった。
だが、今回の騒ぎは収めた事になった。
本来はもっと長引いた乱闘騒ぎを終わらせ。
お互いの言い分だけを聞き、話すだけ話させて終わっているのだ。
罰を与えるでもなく、咎めてもいない。
のらりくらりと気付いたら終わっていたのだ。
解決していないのに、終わったのだ。
もしかすると、あの警備隊のおっさんはやり手なのかも知れない。
絶対に認めたくは無いが。
解放された俺達はそのまま宿に戻り、その日は終わりを告げた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
騒動から四日が経過した。
俺は次の日には、ラティのマッサージとサリオの薬のお陰で足は治っていた。
助っ人傭兵を再開し、金策に励んでいた。
乱闘騒ぎの話は差異はあれど、噂話として町に流れた。
瞬迅ラティに手を出そうとした馬鹿が、酷い目にあったと。
またひとつラティとサリオにとって、治安の良い町になったのかも知れない。
俺もある意味有名人になったが。
そして有名になったからそこ出会う珍事に遭遇していた。
いつも宿の食堂。
俺の前で席に座っているのは情報好きのドライゼン、そしてテーブルの横に。
「おいおい、オレ達を知らないのか?これだから新人冒険者は」
「ひょっとしてあたいも知らないのかい?」
人と狼人の冒険者二人が、俺達が連れに色目を使ったと絡まれていた。
俺とドライゼンは装備のみすぼらしさから、新人冒険者だと舐められたらしい。
最近知ったのだが、ドライゼンは付加魔法品でレベルを偽っているようだ。
ドライゼン曰く、レベルが低い方が集めやすい情報があるらしい。
ららんさんに依頼して製作して貰ったそうだ。
少し目つきの悪く槍を持った冒険者が、再び俺に話し掛けてくる。
「必殺って聞いたことないかルーキー君?」
「聞いた事ありますねソレ」
当然聞いた事がある。
それは俺に二つ名なのだから、だが、何故それを俺に聞いて来るのか。
「それが俺なんだ!」
「へ?」
「っぶふふぅぅぅぅ!」
俺は思わず間抜な声をあげ、ドライゼンは飲んでいたモノ盛大を吹き出した。
気管にでも入ったのか、まだ涙目になってむせている。
「うお!きったねぇ!」
「ごっほごほごほ!」
「おいおい、いくら何でも驚きすぎだろう?」
「そりゃ驚くわよジンナイ様、必殺に絡まれたんですから」
「ジンナイ様‥‥?」
「ぐっふ!ふぅぅぅう」
なんと俺の前に、槍を持った冒険者のジンナイが立っていたのだ。
そしてその隣には、濃い茶色の髪をした狼人が寄り添うように立っていた。
その二人を見ながらドライゼンが小声で俺にこっそりと囁く。
「ジンナイ、コレを今日話しに来たんだよ、」
「どう言う事だ?」
「お前の偽者が現れたんだよ、昨日あたりからな」
「マジか!」
この時点では知らなかったが、後日聞いた話だと。
他の冒険者達は気付いてはいたけど、面白がって小銭を渡していたそうだ。
その結果、上手くいってると勘違いしたこの二人がやってきたと。
人の名前を使ったカツアゲの様なモノだった。
それと、俺の偽者が出たと言うのは本気で驚きだ。
「お前等、さっき俺の奴隷をいやらしい目で見てたよなぁ?」
「ジンナイ様、あたいが変な目で見られた~」
酷い小芝居が始まっていた。
どうやら今回は、俺達がこの狼人に色目を使ったと因縁を付けて来たようだ。
「どこの馬鹿だよ‥こいつら、」
「ちょっと面白いだろ?」
ドライゼンは完全に面白がっていた。
確かにこれは、当事者で無ければ面白い出来事だ。
俺も面白がりたっかたが、当事者だ。
「これ本気で恥ずかしいぞ、槍とか俺に似せたのかな、」
「おいジンナイ!バラすなよ、もうちょっと遊ぼうぜ」
「ん?ビビッてんのか?小声で話し合いやがって」
「ジンナイ様、ビビッてますよこいつら」
偽者の俺も酷かったが、偽ラティも負けずに酷かった。
首輪もよくみると赤い布で、とても似せる努力が感じられなかった。
だんだんとイラついて来たが、ドライゼンが――
「ちょっとジンナイさんの武勇伝聞かせてくださいよ」
「んん?オレの話か?」
ドライゼンは銀貨をチラつかせながら、話を要求し始めた。
偽ジンナイは俺達がビビり、銀貨を払う素振りを見せていると勘違いし。
「仕方ねぇな、聞かせてやるぜ!オレの話しをよぉ」
「ホントですか!」
「俺が得意なのは槍のWSでな、一撃でイワオトコを貫いたりしてんだぜ」
「凄いですね!」
「しかもしょっちゅう、魔石魔物とタイマンもしてんのさ!」
「タイマンですか!すげえ」
「この前だって俺は噂の冒険者殺しのハリゼオイをタイマンで倒したんだぜ!」
「あのハリゼオイですか!すげぇ」
「このラティがちょっとピンチになってな、俺が颯爽と助けてやったんだよ」
「かっけー!」
「槍で両手を切り飛ばしてやってから、腹のツボを突いて吹き飛ばしてやったのさ、内側からドバーンって弾けるんだ」
「ツボを突くですか!」
「ああ、突いた後に、爆ぜろって言って爆ぜさせたのさ」
「見てみてかったなー!」
――お前それ見てたよな、
その現場に居たよなドライゼン!ノリ良すぎるだろ、
俺はドライゼンの悪趣味を辟易しながら眺める。
正直言ってムズ痒いのだ、なんかアホな俺を見せつけられているようで。
偽ジンナイは気分がノってきたのか、今度は別方向の武勇伝を語りだす。
「今日は連れて来てないけど、別嬪なエルフの奴隷も居てよ」
「ふんふん」
「毎日ベッドの上でオレのWSが吼えてるんだ!」
「ぶっはぁぁぁぁ!」
「うぉ!汚ぇぇ、何吹き出してんだよジンナイさんに失礼だろ!」
今度は俺が飲み物を豪快に吹いた。
予想よりも異次元斜め上に行く武勇伝だったのだ。
ひょっとしたら世間では、俺はそう言う風に見られているのかと考えてしまう。
その後もドライゼンにノせられた偽ジンナイは、次々と武勇伝を語る。
内容には、聖女様と恋仲だとか、王女にも手を出しているとか。
話を纏めると、とんでもなく女癖が悪い奴になっていた。
それと何故かサリオはエルフとして認識されているようだった。
一通り武勇伝を話し終えた後に、ドライゼンは銀貨を3枚渡し、次には。
「そちらの狼人奴隷さんのお話も聞きたいですな~」
「おう、ウチのラティの話か」
次のターゲットを偽ラティに代えた。
指名された偽ラティは予想していなかったのか、激しくうろたえたが。
「オレがこいつのも話すぜ」
「お願いしますよ!」
偽ジンナイはノリノリだった。
ドライゼンは心底楽しそうに相槌うって話を引き出す。
さすが情報収集好きなだけはあり、話を引き出すのが上手かった。
だが、そろそろ勘弁して欲しかった。
「この子も凄いんだぜ、主を取っ替え引っ替え30人も乗り換えたんだぜ」
「ほうほう」
「あと、素早さを生かした戦い方で、瞬迅とも呼ばれてるんだ」
「有名ですね、迅盾とか」
「そうなんだよ!まさに踊るように戦うのさ、踊り子ラティとも呼ばれている」
「踊るようにですか!」
「ああ、踊りが得意なんだよ!」
「知らなかったですよ!」
――俺も知らなかったよ!
どこ情報だよ、その踊り子ラティって!
「あとは、誘惑ラティってのもあったな」
「ああ、知ってますそれ、だからさっき見つめちゃったんですよね」
( 俺は知らねぇぞ!)
「だろう、困ってんだよ!誰構わず惹き寄せちゃってよぉ参ってんだ」
「魅力的ですもんね~」
――ラティが魅力的なのは解る、
間違ってないが、それ何処情報だよ!それと、そろそろ限界っぽいな‥
実は俺達から離れた席に、ラティとサリオが座っているのだ。
サリオは盗み聞きをして腹を抱えるほど笑っているが、隣のラティは。
「この子、ラティは勇者を何人も手玉に取った事もあるんだぜ!」
「凄い勇者様をですか!」
「ああ、しかも三人同時にさ」
「へぇ‥‥そうですか、」
ここでドライゼンもラティの様子に気がついた、若干手遅れ気味だが。
絶好調の偽ジンナイが今度は話しだけじゃなく、行動も入れてきた。
「本当にコイツには困ったもんだぜ」
そう言いながら偽ラティの耳を撫でながら語りだす。
「こうやって機嫌も取ってやらないと拗ねるしよう、あとは」
次ぎは尻尾に手を掛けようとしたが。
「やめて!あたいはお前に尻尾までは許してないよ!」
「え?なんだよ尻尾は?って、どうしたんだよ」
「よく聞きな!狼人にとって尻尾を触らせて良いのはッ――っひぃ!!」
いつの間にかラティが凄まじい殺気を放ちながら目の前に立っていた。
羞恥に顔を真っ赤にしているのか、赤い顔をしながら睨みつけている。
俺でも見た事がない位に殺気だって怒っていた。
普段は目蓋が僅かに下がっている切れ長い目が、今はツリ目気味に。
狩をする者の眼光を放っている。
「ああああ、ひぃぃッ!」
「おお、お前は誰だよ!ってあれ?」
突然のラティの登場にパニックになる偽の二人。
殺気をモロに浴びた狼人の方は、尻尾が縮まり足も震え今にも座り込みそうだ。
偽ジンナイの方は、最初は驚きはしたが、今はラティに見惚れている。
そしてネタばらしのように、ドライゼンがラティと俺の名を呼ぶ。
「ジンナイ、ラティさんを止めないと っね」
「ああ、わかってるよ悪ふざけが長すぎだ」
「じんない?らてぃ?――ってまさか本物かよ!」
「ふぇ?じゃぁ、こっちが瞬迅‥‥」
偽ジンナイは目を見開き、俺とラティの顔を交互に凝視し。
偽ラティは、すぐに偽ジンナイの後ろに隠れながらラティを怯えてながら見ていた。
すると。
食堂にいた連中が一斉に笑い出す。1人残らず笑っていた。
どうやら、周りにいた冒険者などは、この茶番を声を殺して見ていたようだ。
娯楽の少ないこの異世界では、貴重な娯楽なのかも知れない。
俺も当事者でなければ、ニヤニヤしながら見ていただろう。
笑い声が重なりあって凄まじい笑いの渦が出来る。
前の通りを歩いていた人も、覗きにくるほどに。
「あはははは、おもしれーー」
「あの語りは良かったぜ!堪えるのに必死だったぜ!」
「ばっか、瞬迅の話しが最高だったよ!」
「ああ、瞬迅が顔真っ赤にして耐えてたもんな」
「すげぇイイモノ見れたぜ」
周りの席からも、どんどん声を掛けられていく偽の二人。
収集がつかない騒ぎになっているが、そのうち耐え切れなくなり逃げていった。
「なぁ、ちょっと思ったんだが、コレって‥」
「ああ、よくある話しさ、有名な奴に成りすまして金を巻き上げる奴ってのはよく居るんだ。」
「は?今みたいな馬鹿が他にもいるのか?」
「多いらしいぞ、冒険者の間じゃ暗黙のルールで本人に行き着くまで騙されてやるんだよ」
こうして珍事は幕を閉じ。
だがその後、俺は拗ねてしまったラティを宥めるのに必死になった。
ただ、最後の偽ラティが言った――
「狼人にとって尻尾を触らせて良いのは――」の続きが気になっていた。
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