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ワザキリの使い手

「これで、切り取る……」


 渡された無骨な槍の柄を短く持って、包丁を扱うように握ってみる。

 思った以上にしっくりと来ない。


 まあ当たり前だ。槍はこうやって持つ物じゃないし、この槍は異様に肉厚で槍というよりもスコップに近い気がする。ガチで穴とか掘れそうな一振り。


 そんなガッチガチな武器で、この薄く半透明な板をくり抜く。


「……ジンナイ。余計なところは切るなよ」

「お、おう」


 ボレアス公爵の言葉にジャンが少し青ざめる。

 確かにそうだ。変な所を切って取り返しのつかないことになったら大変だ。

 慎重にいかないといけない。


「大丈夫だ、変なところは切らない……つもりだ」

「ぅん」


 なんか注射をされる子供みたいな感じ。

 顔を横へと背けながら、嫌そうに腕を差し出している。

 

 だが、これから刺す(切り取る)場所は腕ではなくてステータスプレート。

 俺はそっと穂先をステータスプレートへと添わせる。


「ん?」


 普通に穂先がすり抜けてしまった。

 思っていたのと違う。


「やっぱ切れてない」


 手応えが全くなかったので、そうではないかと思ったがその通りだった。


「ボレアス公爵、本当にこれって出来るんです? そもそもどうやれば」

「…………知らん。だが、ワザキリを使いこなしていた者はいた」


「うん?」


 ボレアス公爵は、俺にしかできないことだと言っていた。

 しかし、それを使いこなしていた人物が居たと言った。


「えっと、そのワザキリを使いこなしていた人に頼むってのは? というか、他にいたってのが」

「だから言っただろう、『いた』だと。あの方はもういない。元の住んでいた世界へと帰られた。だから『いた』なのだ」


「へ? それって、勇者の一人ってこと? え? 誰だろ」

「勇者カトウ・ルイ様だ。まあ、勇者と呼ぶには少々難があるお方だったな」


 そう言って遠い目をするボレアス公爵。

 何か色々とあったのだろうと察せられる。


「加藤か……」


 俺の知っている加藤は、普通の女子生徒。

 髪は短めに整えられており、派手な印象はなく、至って普通な感じ。

 もし特徴を上げるとしたら、彼女には彼氏がいたということぐらい。


 そう、彼氏がいると最大の特徴といった感じ。

 それ以外は本当に普通で、モブ、凡庸、普通、そんな印象の女子生徒。

 

 俺が加藤のことを知っているのも、その彼氏がいたからだ。

 学校でその彼氏とよくイチャついていた。それを何度も見た覚えがある。


 まあ、節度があるイチャつきだったので、リア充爆発しろ程度にしか思わなかったが。 


「へえ、加藤がワザキリを」

「ああ、あの方はワザキリの使い手だった。一緒にいた勇者シモモト様のステータスプレートをいつも切り抜いていたそうだ」


「なるほど、下元のステータスプレートを――って! はあああ?? 下元って確か、え? なんでそんなことを??」

「色々と問題のあるお方だったが、その中で一番酷いのが、名前と職業を切り取って奴隷商にシモモト様を売り払ったことだ」


「ちょっと待った!? えっと、理解が追いつかねえ……」

「そしてそのまま買われてしまって、裏で問題になったぞ。勇者保護法違反ではないとかと」


「買われたのかよ」


 どういう経緯があったらそうなるのか、マジで想像がつかない。

 下元が件の彼氏だ。自分の彼氏を物理的に売るなんて、どんだけ酷い女だ。

 今日日のラノベだってないそうそうない展開。


 アレだろうか、売られた方が闇落ちして復讐する展開だろうか。

 そう考えるとよく展開()の気がしてきた。なんか不思議だ。


 と言うか、勇者を買う方にも問題がありそうだ。


「まあ、その売られていたシモモト様を買い戻したのはオマエだったがな」

「はい? 俺が?」


「詳しくは知らないが、ジンナイ、オマエが買い戻したとオレは聞いたぞ」

「マジで?」


 今日二回目のラティさん確認(チェック)

 するとラティさんが小さく頷いた。


「俺、同級生を買ったんだ」

「まぁ、結果的にはオマエで良かったよ。下手なヤツに買われて隷属化されたら大変なことになっていただろうからな。ちっ、また話が脱線したな」


「いや、脱線したっていうか、そっちの方を詳しく聞きたいんだが」


 めちゃくちゃ続きが気になる。

 下元を買った俺はいったい何をしたのだろうか。

 ラティさんがいるからBL的な展開はないはずだが……


「必要ないっ。そもそも、オマエが記憶を取り戻せば分かることなのだから、そんなことを話している場合ではない」

「ぐうっ」


 ボレアス公爵が正論で殴ってきやがった。

 確かにそうだと思った時点で俺の負け。全く以てその通り。


「これだから正論は嫌いだ……」

「ヨーイチさん?」


 心配そうにラティさんが覗き込んできた。


「……そう言えば」

「む?」


 何となく、本当に何となく嫌な予感がした。

 少し楽しそうな笑みを見せるボレアス公爵。


「ジンナイ。オマエは他の時でもワザキリを使っていなかったか?」

「へ? ほかの時?」


「ああ、魔王との決戦以外でも、オマエがワザキリを使ったとオレは睨んでいるんだがな」


 少し楽しそうだった笑みが、ニヤニヤとしたモノに変わった。

 まるで獲物をいたぶる捕食者のよう。

 そんなボレアス公爵が、含みのある感じで言ってくる。


「実はな、ジンナイのステータスプレートから突然消えたモノがあったんだ」

「?」


 意図が読めない。なんか勿体振った感じがする。


「あ、あの、その……必要なお話でしょうか? 話が逸れているような」

「ラティさん?」


 ラティさんが横から入ってくるのは珍しい。

 意見を求められたら口を開くが、こういった場では静かにしている印象。

 だからアレ? っと思ってしまう。


「いやいや、大事なことだぞ? なんせ、いきなり状態報告の表示が消えたのだからな。そんな事例は聞いた事がない。いや、そもそもあんな状態表示を示したヤツもいなかったがな」


 ラティさんがちょっとアワアワとし出した。

 何とか止めたい様子だが、どうしたら良いのか分からない感じ。


 ちょっと新鮮で良いな~と、思っていたら。


「確か、非童貞だったか? 本当にオマエは飽きさせないヤツだぞ、ジンナイ」

「へ? 非、童貞?」  


 真面目な話をしていた場なのに、とても場違いな言葉が飛び出したのだった。

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