俺だけの特技?
混乱する俺に、ボレアス公爵が改めて説明してくれた。
魔王討伐後、俺はギームルから様々なことを聞き取りされたみたいだ。
要は、後世に伝えるとか、どんなことがあったのか事実確認。
そしてそのときに、魔王の中に知っているヤツらを見たと証言。
その証言を裏付けるように、ラティさんからもその人物たちを感じたとの証言があったみたいだ。これが例の中に入ってきたって誤解したヤツだ。
そしてここで問題が発生した。
とても貴重な証言ではあるが、その魔王の中に居た者たちの家が迫害される危険性が出てきたのだ。犯罪者の親族が叩かれるアレだ。
だからこの聞き取りの内容は、一部の者以外に公表されることはなかった。
なのでこの事実を知るものは少なく、政治に利用する可能性がある者には明かさなかったそうだ。当然のことだと思う。
ボレアス公爵は、その事実を知らされた数少ない内の一人。
そんなボレアス公爵は危惧していた。魔王の中にジャンの父親かもしれない男がいたことを。
そしてその危惧は現実となってしまった。
赤子だったジャンが、【魔王】という【固有能力】を発現させてしまった。
それと同時に、消滅させた魔王がまだ残っている証明にもなった。
中央の王家は、魔王を完全に消滅させたと宣言している。
もう魔王が復活することない。百年後にまた勇者召喚をする必要はないと。
そのことが証明されるのは百年後のはずだったが、それを待つことなく覆されてしまった。
説明されてこんがらがったが、早い話がヤバいらしい。
しかも超が付くぐらいに。
ボレアス公爵家は、その事実を今まで隠していた。
しかしそのことが、石像野郎ことオラトリオに知られてしまった。
どこから情報が漏れたのか不明だが、オラトリオが率いている南風と言う諜報組織は優秀らしいので、隠し通すこと自体が不可能だったのだとか。
「――で、ここでオマエの出番だ」
「俺の?」
状況はもう詰んでいると思う。
話を聞いた限りではとても厳しそうだ。
人によっては、ボレアスは【魔王】を保護していると思われてしまう。
「ジンナイ。オマエには他のヤツにはできないことがある」
「うん? 俺だけの特殊能力的な感じ?」
「その認識でいい。そしてそれを使い魔王化していた瞬迅を救った」
「え? 魔王化!?」
顔を上げてラティさんを見る。
するとラティさんがコクリと頷いた。
「記憶がないからできないとか言ってる場合じゃない。元々これは勇者様を通してオマエに依頼していたことだ。ジンナイ、絶対にやってもらうぞ」
「お、おう。…………で、何をやればいいのかな?」
「簡単なことだ。ステータスプレートから【魔王】の【固有能力】を切り取って消し去ればいい」
「へえ、なるほど……って、アレって切り取ったりできんの!? なんか半透明で宙に浮いてるよね? え? あれってタッチパネルみたいな感じなの?」
速攻で確認する。俺はステータスプレートを出現させた。
見慣れたけどやっぱり違和感を覚える青い半透明な板。
ステータスの表示法がチグハグだが、コレは俺だけの仕様。『ゆうしゃ』だったときの名残だとか。
それを指先で触れてみたが、やはり何の感触もなくそのまま突き抜けた。
やっぱり触れることなんてできない。
「やっぱ無理なんだけど、これ」
ステータスを切り取れと言われても、触れることができない。
ひょっとしてコレはアレか、有名なあのとんちか。何とかってお坊さんか。
「…………えっと、【魔王】を切り取って欲しかったら」
「そういうのはいいから。トンチってヤツだろ? その話は知っている。昔、勇者さまがそれを広めて詐欺師に使われたからな。やり方を説明するぞ」
「詐欺の?」
「そっちじゃねえ」
このやり取りの後、俺はステータスプレートを切り取る方法を説明された。
どうやらワザキリというWSみたいなモノがあり、それを使ってステータスプレートの一部を切り取るみたいだ。
そして次に、その切り取った部分を消滅させれば良いとのこと。
「ねえ、ラティさん。俺ってそんなこと本当にやったの?」
「あの、すみません、あのときは意識が混濁していて詳しく覚えていないのです。でも、ヨーイチさんが救ってくれたことは覚えております」
「そ、そうなんだ」
嬉しそうなラティさんの笑みにドキリとしてしまう。
普段はクールなラティさんだが、こうやって不意に見せる笑みが凄え。
なんかぎゅってしたくなるし、絶対に守りたくなる。
「あ~~、唐突に惚気んな。オマエらの悪い癖だぞ。特に瞬迅、普段は全然そんな感じじゃねえのに、ジンナイのことになると――って、また脱線し掛かった。もうウダウダ言わずやるぞ。瞬迅、例のものは?」
「はい、こちらに」
「え? 槍と木刀?」
何故か俺の武器一式が用意されていた。
「ワザキリはWSと同種のモノだ。だから慣れた武器が必要なはずだ」
「あ、なるほど。普通は触れられないステータスプレートも、武器ってかWSを通して触れる感じか」
「ああ、恐らくそうだ。じゃあ、ジャンを呼ぶぞ」
ボレアス公爵は、外で待機していた者に合図を送り、ジャンを連れてくるよう指示を出した。
それから3分程して、不安いっぱいな顔をしたジャンが連れられてきた。
「あっ」
部屋にやってきたジャンは、俺たちに気がつき何か言おうとした。
だが、何を言ったら良いのは分からず、口を小さく開いては閉じている。
「ジャン、まずは礼からだ。一度だけじゃなくて、さっきも救われたのだからな。いいか、助けられたら礼を尽くせ。それが出来なくては」
「わ、わかってる。…………助けてくれてありがとうございます」
そう言って頭を下げるジャン。
だけど何故か、それは俺の知っている謝意を示すお辞儀とは違った。
「あ、あの」
「……」
ラティさんに片膝を突いて頭を垂れているジャン。
なんて言いか、騎士が姫様に跪くような感じ。そのまま求婚とかしそう。
「……ジャン、何だそれは?」
「え? アゼルにこうやるんだって習った。女の子にはこうしないとダメだって言われた」
「あの馬鹿は何を教えていたんだ。いや、アイツらしいと言えばアイツらしいが、ジャンを騎士にでもするつもりだったのか? いや、アイツの知識じゃそうだったのか?待てよ、ひょっとして……」
なんか急に考え込んだボレアス公爵。
罵倒と疑問の言葉を交互にブツブツと言っている。
「あの~、取りあえず次はどうすれば?」
「あっ、ああ。ジャン、ステータスプレートを出してみろ」
「はい」
名前 ジャン
【職業】子供
【レベル】1
【SP】6/6
【MP】4/4
【STR】2
【DEX】3
【VIT】1
【AGI】2
【INT】3
【MND】8
【CHR】4
【固有能力】【鑑定】【遭遇】【駆技】【業欲】【橙色】【業倫】【道化】【 魔王】
【魔法】水系 火系 風系
【EX】『耐毒(特大)』
【パーティ】
他人のステータスプレートを見るときはちょっとドキドキしてしまう。
何というか、隠されている部分を見る後ろめたさというか、まじまじと見てはいけない感じがする。
「……これが【魔王】ですか」
「ん? ラティさんのときもこれがあったんじゃ?」
「あ、いえ、キチンと確認したわけではないのですが、わたしのときはもっと禍々しいと言いますか、このようにスッキリしたものではなかったと記憶しております」
「ふむ、興味深い感想だな。そう言えば直接確認した者はジンナイ以外いなかったと聞いたな。【鑑定】を試みた者が何人も居たと聞いたが、その全員が見ることができなかったと」
「うん? 見ることができなかった?」
「ああ、黒い靄が邪魔をして【鑑定】を阻害したそうだ。だから【鑑定】をするには、魔王となった瞬迅に近づく必要があったらしい」
「へえ、黒い靄が……」
何となくだが想像ができた。
もの凄い濃霧で前が見えないみたいな感じで見えなかったのだろう。
「よし、ジンナイ、やってくれ。魔王のところだけを切り離してくれ」
そう言ってボレアス公爵は、それに物々しくて無骨な槍を差し出してきたのだった。