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話が早い

 二人の立ち話を聞きたい、そう思ったそのとき。


「あの、あまり行儀はよろしくありませんが、失礼させてもらいますか」

「あ、え? ラティさん?」


「モモさん、少し待っててくださいね。リティがなかなか起きないで様子を見ます。ヨーイチさん、リティをこちらに」

「あ、はい」


 そう促されてリティをラティさんへと手渡す。

 リティを受け取ったラティさんはその場に留まり、リティの様子を確認する振り(・・)をしてくれた。


「……ありがとう」


 本当に気の利く奥さんだ。

 あんな僅かな機微を捉え、即座に対応してくれた。


 ( これで二人の話を…… )


 不自然にならないよう、俺もリティの様子を見ながら耳を澄ます。

 周りを気にしていないのか、彼らの話し声はよく届いた。


「親父さんが怪我だっけか? 確か」

「ああ、別に腕が悪いワケじゃねえけど、良くもねえからな。そんなところに怪我だ、そんで金が無くなって…………姉の方が借金のツケで持って行かれたみてえだぞ?」


「おい、それって違法だろ?」

「いや、借金を返すために自分から身売りに行った、って建前なら問題ないだろ? 一応お情けっていうか、あとで文句を言われねえためにまだ売り飛ばされてねえみてえだけど、文字通り時間の問題だな」


「……それでなりふり構わずある物を売ってんのか。姉を取り戻すために」

「それで足りるとはとても思えねえけどな」


「なあ、いくらなんだよ、その借金って」

「そこまで知らん。ただ、身売りが必要な額ってことは確かだな」


 何となく嫌な予感がしていたが、その予感通りだった。

 この異世界でも時たまあることなのだろう。


 元の世界でも、借金を返すために北の海にカニを捕りに行くや、遠くの海にマグロを獲りに行かされるなんて話を聞いたことがある。


 都市伝説的な話では、腎臓とか臓器を売るなんて話もチラホラ。

 これはそれの異世界版とも言えることなのだろう。


「お父さん……」

「あ、モモちゃん」


 立ち止まって聞いていたのだから、一緒にいるモモちゃんの耳に入ってもおかしくなかった。

 いや、俺よりも耳が大きいモモちゃんの方が良く聞こえたのかもしれない。


 自分の持っている台本が、どんな経緯で売られていたのか、子供ながらも理解してしまったみたいだ。


 さっきまでお日様のような笑顔だったのに、今は陰ってしまっている。


「あの、そろそろ行きますか。日も傾いて来ましたし」 


 ラティさんに促され、俺たちはその場を後にした。

 もう少し見て回る時間はあったが、もう切り上げようとのこと。


「モモちゃん、行こう」

「……うん」


 ラティさんがリティを抱っこしているので、俺がモモちゃんの手を取った。

 ぎゅっと掴む手が、何かを訴えているようだ。 


 そっと握り返してあげる。

 俺なら何とかできるはずだ。きっと何かできる。

 『いいからやれ』って俺の中の俺が言っている。


 ならば――


「――あの、まずは宿へ戻りましょう。この子たちを休ませないとです」

「あ、そうだね。うん、まずは戻ろう」


 俺が何をしようとしているのか判っている。

 だが、その行動を起こす前にまずは子供たちを、言外にそう伝えてきた。


 俺はそれに従い、泊まっている宿へと戻ったのだった。





        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇





「止めるつもりはありません」

「え? あ、うん」


 宿へ戻った後、俺は自分の考えをラティさんに話した。

 話した内容は、例の雑貨屋の子を助けてあげたいだ。


 正直、何か苦言を言われると思っていた。

 他人の話に首を突っ込むなと、そんなことを言われると思っていた。

 しかしラティさんからの返答は予想と少し違っていた。

 

「止めても、こっそり行かれるのでしょう?」

「ぐっ」


「でした最初からわたしも一緒に行きます」

「あ、えっと……いいの?」


「はい。そうでないとモモさんの心も晴れませんし」

「ありがとうラティさん」


「それに、お金で解決できそうな事ですし、特に問題はないかと」

「……うん」


 どれだけ蓄えがあるか分からないが、一応勇者とかやっていたのだからそこそこお金があるのだろう。たぶんそのはず。


「よし、じゃあ早いうちに行こう」

「はい、モモさんたちのことは宿の人にお願いしてあります」


 話の先が分かっていたラティさんは、子供たちのことを考えていた。

 この宿は公爵様が用意してくれた宿なので、ある程度の融通が利くみたい。

 既に話はついているようだ。


「では、一応に備えて着替えてきますねぇ」

「あ、うん?」


 そう言ってラティさんが部屋を後にした。

 動きやすい格好に着替えるのだろうか、そんなことを考えながら待っていたら、もの凄く目を引く格好で戻ってきた。


「へ? それって……」


 赤と黒を基調とした軽鎧を纏ったラティさん。

 守りよりも動きやすさを重視しており、お腹周りには装甲と呼べるものがないが、しっかりとした作りにも見える。


 そして、何か艶めかしい。

 いや、エロさとかはないんだけど、鎧を纏っているのに身体の線が割と出ているので、ちょっとグッと来る感じ。


 例えるならば、ストイックさがある競泳水着のような感じ。

 とてもラティさんに似合っている。

 

「昔から使っている深紅の鎧です。これなら大半のことがあっても平気です」

「あ……うん」


 お金で解決できそうと言っていたのに、完全に荒事を想定した装い。

 この手の修羅場を何度か経験したことある雰囲気だ。

 腰には二振りの剣を差している。結構本気の装備だ。


「さあ、行きましょうヨーイチさん」

「はい」


 いつの間にかラティさん主導のもと、俺たちは行動を開始したのだった。

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