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絵画

お待たせですー

 悪いことをしたら謝る。

 そんで次は、誠心誠意真心を込めて平身低頭お詫びをする。

 

 人によっては、そういうものではない、ちょっと違うというかもしれない。

 謝罪の後は反省。その後は対策と対応で、次はなになにを~と色々あるのかもしれないが、俺はお詫びに徹した。


 そう、一緒に楽しく観光することにしたのだ。

 家族サービスっていうアレだ。迷子になったお詫びに……




「わぁ~、これすごくキレイ」

「これはハヅキ様ですね、こちらはコトノハ様ですね」


 絵師職人(イラストレーター)によって描かれた人物画を見て、いつも以上に瞳をキラキラさせるモモちゃん。とても天使。

 

 そしてその横では、少しだけ眉を下げながらもお話をするラティさん。

 一応、微笑ましい光景だ。

 

 ちなみに俺は、リティは悪さをしないように抱っこという体で確保中。

 ないとは思うのだが、描かれた人物の目を突きそうな気がしたのだ。

 なので確保確保。


 現在俺たちは、街で一番大きな繁華街に来ていた。

 お世話になっている宿の人曰く、ボレアスの街に来たのなら二番目に寄った方が良い観光地とのこと。他ではお目にかかれない商品が並んでいるみたいだ。


 ちなみに一番は、マス目のように整った街並み。

 要は、白亜の城壁も含めた街全体のことだ。

 それだけボレアスの街《この街》に誇りと愛着を持っているということだろう。


「しかし、これを筆で描いたのかぁ。技術もそうだけど熱意も凄えな」


 フラリと入ったお店は当たりだった。

 絵師によって描かれた人物画はどれも素晴らしく、娘たちは大喜び。 

 学校とかに飾ってある絵画に感銘などしたことなかったが、これは違った。

 何というか、二人の特徴をよく捉えており、一目で二人だと分かる。

 そして凄え上手い。


「わぁっ、これお姫さまみたい」

「ん?」


 お姫さまというワードに興味が引かれた。

 この異世界にはガチのお姫様がいるらしく、どんな姿だろうと興味が湧く。

 どれどれとモモちゃんの視線の先を追うと――


「うん? んん~?」


 その姿絵の人物は、確かにお姫さまっぽい格好はしていた。

 だがしかし、その手には大剣が握られており、どちらかと言うと姫騎士といった出で立ち。白と青と基調としたドレスアーマー姿。


 しかも容姿あれだ、顔が異国風ではなくて慣れ親しんだ黒髪の女性。

 あれっと思ってよく見てみると、知っている同級生に良く似ている。


 ( これってまさか…… )


「おっ? お嬢ちゃん、お目が高い。この方はボレアスでとても人気が高い大剣の勇者イブキ様だよ。そしてこの衣装は、ボレアス奪還時にお召しになっていた物さ。どうだい、とても凜々しいだろう?」


 そうモモちゃんに説明しつつも、こちらをチラリを見る店主。

 子供が喜ぶぞ、さあ買うんだって感じだ。


「……」


 別に強制されたワケじゃないが、一応お値段の方を確認しておく。

 今回の買い物はお詫びなのだ。値段によっては買うのもやぶさかでは――


「――はっ? え、ええ……」


 チラリと確認した先には、金貨25枚と書かれていた。

 俺の中の認識では、金貨一枚が10万円ぐらいといった感じ。

 

 と言うことは、この姿絵の絵画は250万ぐらいということだ。

 クソ高ぇえ。


「え、っと……マジで?」

「どうです、良い出来でしょう? 職人が数ヶ月かけて描いた品ですから少々値は張りますが、きっとお部屋が明るく華やかになることでしょう」


「……」


 どう考えてもそんな風になるワケがない。

 何処の世界に、自分の同級生の姿絵を飾るヤツがいるだろうか。


 もし居たとしたら、そいつはただのストーカーだろうし、そもそもラティさんが良い顔をするワケがない。


 いや、そんな俺の背景をこの店主が知るわけがない。

 単なる営業トークというヤツだ。ああ、分かっている、絵を売るために言っているだけだと理解している。


「あっ、そうです、コチラなどもどうですか?」


 難しい顔をしていた俺を見て、今度は予算が軽め目の物を持ってきた。

 先ほどの絵より二回りほど小さい絵画。そこには、またも知っている人物が描かれていた。


 猫のようなつり目がちなアーモンドアイがこちらを睨んでいる。

 あと平たい。


「……三雲か」

「そうですっ、勇者ミクモ様です。どうですかこのお顔、ミクモ様の表情をよく捉えていると思う逸品なのですが、これは描き手と額の大きさを相まってこの金額となっております」


 そう言って提示した金額は金貨5枚だった。

 確かに先ほどの五分の一なので、一応は安くなったと言える。


 だが、問題はそこじゃない。


「いや、金額とかの話じゃなくて」

「ほほう、アレですな? 好み、推しが違うということですな? ならばコチラなど如何でしょうか?」


 我が意を得たりと、今度は別の勇者の姿絵を持ってきた。

 どうやらこの店主は、俺が他の勇者推しと勘違いしたみたいだ。

 今度は掛け軸のように縦長の姿絵を見せてくる。


「……よりによって早乙女かよ」


 店主が見せてきたのは同級生、というよりも隣の席だったヤツだった。

 いつも鋭い目つきをしていたヤツで、なんか妙に睨まれていた覚えがある。

 

 と言うか、こっちを睨んでいる絵が多くねえか。


「どうです、この立ち姿。とても凜々しいでしょう?」

「え、ええ、そうですね……」


 早乙女は身長がある方なので、こうやって縦長にすると迫力がある。

 絵師の方もそれを理解しているのだろう。とても良い作品だと思う。

 

 ――が、ちょっと迫力があり過ぎる。

 モモちゃんが若干気圧されてしまっているし、こんなの部屋に飾りたくない。

 絶対に落ち着かないだろうし、こんな鋭い目()があったらリティが黙っていない。


 現に今も、困惑な顔をしつつも鋭い目(獲物)を見つめている。


 それと何故か、この早乙女を見ると非常に申し訳なく感じる。

 理由は分からないが、何故か責められているような気がしてならない。

 何で追って来なかったの? そんな風に感じてしまう。


「……あ、えっと、うん。良い絵ですね」


 そう誤魔化しながら、リティの視線を手で遮る。

 いつ狩りに行くか分かったものではない。抱っこする腕に力も込めておく。

 小さい狩人さんをガッチリ確保。


 あと、俺も目線を逸らす。


「あ、こっちに他のゆうしゃさまのもある」

「こちらはシイナ様ですねぇ」


 イケメンがイケメンに描かれている人物画あった。

 リラックスした状態で腰の柄に手を掛け、何処か遠くを眺めている立ち絵。

 あまりにも様になっているので、まるでゲームの人気キャラが描かれているみたいだ。SSRそんな感じ。


 これは人気がありそうだと金額を見ると、なんと金貨100枚。

 しかも予約済みと札が貼ってある。


「あが、マジかよ……」

「勇者シイナ様はこの街の救世主ですからね。それはもう人気が凄くて、普段はお優しいのに鬼神の如く――」


 店主の絶賛がしばらくの間続いた。

 どうやら椎名は、ボレアスの街を救うために戦い、凄まじい戦果を上げたようだ。


 そしてそのときに伊吹も大層活躍したそうで、伊吹も英雄視されているみたい。

 なので二人の人気は凄まじく、先ほどの金貨25枚の方もすぐに買い手がついてしまうだろうとのこと。


「なるほどねえ~」


 この街を救った奪還戦のことはよく分からないが、とにかく凄かった様子。

 俺としては、伊吹の格好の方が気になった。


 何というか、なんとかカリバーって言って閃光でも放ちそうな格好だ。


「……確かに、あのときのイブキ様のカリバーは凄かったのを覚えております。立ち塞がる兵士を鉄砲水のように押し流し、あっと言う間に道を切り開いてしまいましたからねぇ」

「お!? 奥さんはあの戦いを見ていたのかい? そいつは羨ましい。私どもは外出を禁止されていて外に出られなかったから、勇者様の勇姿を見ることができなかったのですよ。どこでご覧になられたのです?」

 

 ラティさんの言葉に店主が食いついた。

 すると今度は、ラティさんに絵画を薦めだした。


「そうだ。これなんてどうです? シイナ様ほどではないですが、そのときに一緒に戦った勇者様の姿絵です」


 店主が新たに持ってきた絵画には、何故か犯罪者が描かれていた。

 目つきは異様に鋭く、だけど何処か腐った魚の目のような危うい虚ろさ。

 他の勇者と違って華がない。まるで暗殺者のような黒づくめの格好。


 どうやら店主は、違う絵画を間違って持って来てしまったようだ。 

 

「あの、それ違うヤツでは? 描かれているのはどうみても……」


 一応穏便に、間違っていますよと促してみる。

 勇者が描かれた絵画を持ってきたと言っているのに、そこに描かれているのは何かの犯罪者。


 これは勘だが、おそらく殺人者だと思う。

 人を2~3人は殺めている、そんな仄暗い目をしている。

 手に持っている得物は槍だろうか、異様に物々しい一振りだ。


「はて? 違うとは? これであっておりますよ。描かれているこの方は、黒の英雄、勇者ジンナイ様です」

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