顛末、お叱り
お待たせですー
屋根から降りた後、俺たちは大きな屋敷へと案内された。
そこで事の真相を教えてもらう。
いや、真相というよりもお家騒動的なヤツだった。
まず事の発端だが、それはある護衛騎士の暴走。
その護衛騎士の名前はアゼルと言い、ジャンがまだ赤ちゃんの頃から護衛に就いていた者だった。
忠誠心は高く、ジャンの母親のためなら酷い命令であろうと従った傑物。
俺の聞き間違いだと思うのだが、ツインテの刑というよく分からない罰を受け入れ、揺るぎない忠誠心を見せたのだとか。なかなか辛い罰らしい。
しかしその忠誠心が仇となったというべきか、ジャンの母親が病死すると反転、精神が不安定な状態になったみたいだ。
そして発端となった暴走が起きてしまった。
護衛騎士アゼルが、ジャンの出自を本人に明かしてしまったとのこと。
赤髪の男、ボレアス公爵は濁した言い方をしたが、暴行によって身籠もってしまった子供がジャンだったのだという。
しかも最悪なことに、暴行した男は他の領地の嫡男。
だからジャンは、他の領地の継承権もあるみたいだ。
ちなみ、その嫡男の男は罪を問われ処刑されたみたいだ。
はっきり言ってとんでもない火種だ。
為政者からしたらさっさと消してしまいたい危険な火種。
普通だったらさっさと消してしまうものだろう。もう火種なんてものじゃない、核弾頭みたいなモノだ。
だがボレアス公爵はそれを避け、幽閉という形で蓋をした。
資産家の子供とは思ったが、俺が予想していた規模の十倍ぐらい。
いや、十倍では済まないかもしれない。それぐらいの規模の話だった。
そこで疑問に思った。
ならば何故、ジャンは一人で外に居たのか。
彼は凄い火種だ。こんな俺でもわかるぐらいに。
元の世界でもそういった継承権での争いはあったと習った。
そんでそういった争いは、大体が他国をも巻き込んでぐっちゃぐちゃな大火事になって、最後には疲弊しきって争いが沈静化する。
そして沈静化しただけであって、また再燃焼までがセット。
下手したら未来永劫燻り続ける。
きっと俺は難しい顔をしていたのだろう。
ジャンの境遇を思うと、俺程度の頭ではどうしたら良いのか分からないから。
だからボレアス公爵は続きを説明してくれた。
――とんでもない計画のことを。
そのとんでもない計画とは、火種を敢えて外に出すこと。
もちろん管理、監視、ときには協力。そういったサポート体制を敷いてジャンを外に出し、そのジャンに群がる羽虫、要は悪いことを考えているヤツを誘い出す。そんな計画を立てていたのだ。
規模がくそデカい囮捜査みたいなもんだろう。
だから不自然にならないよう、緊急用の抜け道を用意して、色々と工作、準備が整い次第実行する予定だった。
だがしかし、出自の真相を穏便に打ち明ける前に護衛騎士のアゼルがそれを明かしてしまい、しかも抜け道までも使われてしまった。
準備が整っていないのに計画を発動してしまった形だ。
それはもう大慌てだったみたいだ。
もしジャンが敵対勢力に確保されたら大問題。
事はボレアスだけでなく、他の領地にも飛び火するのだから。
だからとはいえ、総動員で探すわけにはいかない。
大勢の人を動かせば余計なことを知られることになるし、その大勢に紛れてジャンが害されるかもしれない。
そんな感じで右往左往しているところに俺が参戦。
ここでボレアス公爵はある決断をした。
俺を追うと俺が全力で逃げる。
だから、俺を囲うだけで手出しはせずに、俺の動向を見守った。
そして同時に、俺を追う者たちの排除。途中で追っ手が完全に消えた理由はそれだった。
ボレアス公爵曰く、俺を追うと酷い目に遭うとのこと。
勇者ジンナイは絶対に追ってはならない、『オレたち』の間では常識らしい。
何というか、記憶を失う前の俺はマジで何をやったのだろうか。
正直言って、俺を追ってはならない理由に興味が湧く。
ボレアス公爵の表情を見るに、何かとんでもないことをやらかした気がする。
ここでふと思った。
何故あのとき、何の違和感もなく屋根に上がれたのか。
何となくだが関係があるような気がした。
こうしてボレアス公爵から事の真相を聞いた後、俺は大きな宿屋へと案内された。
そこでラティさんたちが待っているとのこと。
流石は公爵様というべきか、キチンと手配してくれていたみたいだ。
「お話を聞いたときは肝を冷やしました」
「は、はい……すみませんでしたラティさん」
「あの子を、リティを抱いたまま暴れ回ったそうですねぇ?」
「あ、暴れたというか、えっと……こう、こんな感じで、その……」
案内された宿の一室で、俺はラティさんからお叱りを受ける。
実際に動いているわけではないが、尻尾が『全くもう』とペシペシ動いているような気がするし、正直とても怖い。
しかし怒って当然のことだと思う。
ちょっとリティをあやして来ると馬車を降りて、そのまま迷子になってしまっていたのだから。
しかもその迷子になった先で、迷子を保護して大立ち回り。
ラティさんが怒るのも当然だ。でも――
――あれだよな、普通さ、
異世界で誰かを助けるって言ったら女の子だろ?
それが定番であって王道だってのに、何で連続で野郎なんだよっ、
ふと思い返してみたら、誰かを助けたのはこれが二回目だった。
しかし二回とも男の子。
普通なら幼い女の子とかだろう。
それが異世界あるあるだと思うし、そうでないと物語が盛り上がらない。
だと言うのに俺は……
「……あの、ヨーイチさん。何かどうでも良いことを考えていませんか?」
「えっ!? いや、全然ちゃんと考えている、よ?」
「……」
ゾクッとするジト目で俺のことを見つめるラティさん。
その目からは『反省の色が足りませんねぇ』といった感じ。とても鋭い。
まるで心を読まれているみたいな――
「…………あの、心を読み取ったとかではないですからね。もう随分一緒にいるのですから、そのぐらいのことは判ります。全くこの人は……」
「は、はい……」
その後しばらくの間、俺はコンコンと説教されたのだった。