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赤髪の男とジャン

お待たせしましたー

っちょっと長く間が空きました(_ _)

「……ジャン、確認だけど、アイツのところにか?」

「うん」


 突然の願いに少しだけ戸惑ってしまう。

 だが俺も、赤髪の男(アイツ)のところに行くのは良い提案だと思えた。


 見た目は少々アレだが、悪いヤツではない、そんな気がしたのだ。


「よし、行くか。ほれ、掴まれ」


 赤髪の男がいる場所まではそこそこ距離がある。

 何軒か飛び越えないといけないし、途中奇襲を受ける可能性だってある。

 だから警戒だけは怠らない。いつでも避けられるように注意しながら赤髪の男のところへと向かう。


 そして気がつく、追っ手の気配が完全に消えていることに。


 ( ……全部消えた? )


 違和感を覚え、駆けながら辺りを見回す。

 ただ見回すと言っても、屋根の上からなので死角となる場所が多い。

 ちょっと隠れればどこにでも隠れることができる。

 

 なので目視だけでなく、気配の方も探ってみた。

 しかし、誰かが潜んでいる気配が全くしない。

 そう、住民、歩行者の気配すらしなかった。


 ( 遠くの方からは視線を感じるけど、何だこれは? )


 一瞬、何かの罠かと思った。

 だが、伏兵もなしでこちらに何かすることはできないはず。

 もしかしたら遠距離からの狙撃などがあるかもしれないが、あるのならば先ほど座っていたときに狙われたはずだ。


 あとは魔法。


 ( ――いや、あれこれ考える必要ねえか )


 もう赤髪の男は目の前だ。

 相手はジッと待っており、不審な動きは見られない。


「よっと」


 とうとう赤髪の男の前までやってきた。

 俺が大跳躍をして降り立つと、ヤツは少し呆れた顔をした。

 そして眼鏡が似合っていない。


 そんな思いを浮かべると同時に、何故か赤城のことを思い出した。

 何でだろうと思うが、今はそんな場合ではない。


「ったく、こんな大立ち回りをやりやがって。相変わらずだなジンナイ」

「へ?」


 呆れ顔だったら赤髪の男は、さらに呆れ顔へとなった。

 『はぁ~』とか溜息をつきながら首まで振っている。

 何となくそんな気はしたが、やはり俺のことを知っている人物のようだ。


「…………あの、俺のことを知って、いる?」

「うん? オマエ何を言って――って、まさかオマエ、また」


「え?」


 俺の顔を覗き込んだ赤髪の男が目を見開いた。

 そして確認をしてきた。


「オマエ、また記憶喪失だろ」

「なっ、なんでそれを……」


 俺だけなく、ジャンも驚いて俺のことを見上げている。

 確かに驚くだろう。さっきまで話をしていた相手が記憶喪失なのだから。

 リティの方は荒ぶったまま。 


「っはぁぁああ、それで納得したぜ。何で逃げ回っていたのか……。そうか、また記憶喪失か、流石のオレでもそこまでは読めなかったぜ……いやっ、普通分かるかよっ、このバカは本当に、予想の斜め下明後日の方向に行きやがる」

「ぐっ」  


 なんかもの凄く馬鹿にされているような気がする。

 予想の斜め下明後日って何だよ。それはもう方向ですらねえだろ。

 そんな風に心の中でツッコミを入れつつも、安堵が広がる。


「えっと、俺の知り合いってことで良いんですよね? だったらちょっと助けて欲しいのですが」

「ふん、オマエたちを追っていたヤツらのことだろ? それならもう対処済みだ。ってか、気がついているんだろ? ヤツらがもういないってことに」


 フフンとした顔をそう赤髪の男が言ってきた。

 男のその素振りから、俺のことをよく知っているということがよく分かる。

 やっぱり敵ではないようだ。


「取りあえず、その子はこちらで保護させてもらうぞ、ジンナイ」

「……何故です?」


 敵ではない様子だが、『はい、分かりました』と引き渡せない。

 さっさと渡した方が良いのに、何故か俺はジャンを庇うように動いていた。

 少しだけだが距離も取る。


「あの、理由を教えてもらっていいですか?」

「はぁ、全くオマエは、記憶を失っていてもジンナイはジンナイか。変に用心深いというか、”瞬迅”以外は簡単に信用しないところは変わらないんだな」


 瞬迅とはラティさんのことだ。彼女の二つ名。

 この男はラティさんのことも知っている。


「……へぇ、彼女によく似ているな、その子」

「うん?」


 抱えていたジャンを庇う姿勢を取ったため、逆側に抱えていたリティを前に出す形になってしまっていた。リティの顔を見て優しい笑みを浮かべている。


「そうか、噂には聞いていたが本当だったみたいだな。うん、ソックリだな、この素っ気ない感じの目なんて――うおっ!? あぶな!?」

「ちょ!? リティぃ?」


 覗き込むように顔を寄せた赤髪の目を、えいって感じ潰しにいったリティ。

 動きに迷いがない。この子は本当に目を狙いにいく。


「はは……本当に彼女にソックリだね。うん、間違いなく瞬迅の子供だ」


 まるでラティさんが急所狙いのような言い方。

 ちょっとだけムッとしたが、逸れ始めた話を戻すことにする。


「今はそれよりも、なんでこの子を保護しようとするのですか? 追っ手のヤツらもいたし、その辺りを教えて欲しいのですが」

「そうか、そうだな……。まず、この子はオレの甥だ。妹が産んだ子だ」


 なるほどと思いながら、俺は二人の髪の色を見た。

 兄妹だから髪の色が同じだったのだろう。ジャンは橙色だが、光の加減で赤っぽく見えなくもない。同じ遺伝子が入っているような気がする。


「記憶を失っているから知らんのだろうが、オレは公爵……って分かるか?」

「あ、ああ……ノトスって街でも公爵がいたらから」


「アムドゥシアスか。そうだ、ヤツと同じ爵位だ。だから――」


 俺にも分かるように手短に説明してくれた。

 保護した男の子であるジャンは、この公爵様の甥であり、まだ跡継ぎの居ない赤髪の公爵様にとって唯一の後継者だった。


 どうやら他の兄弟は皆死んでいるみたいだ。 


 そんな状態なので、ジャンを浚いどうにかしようとした連中が存在した。

 要は、自分たちにとって都合が良くて便利な傀儡とするアレだ。


 元の世界でも、皇帝の子供をそうやって操ったことがあるみたいなのだから、この異世界であっても別におかしくはないのだろう。

 


「――で、そんなところに俺が、と?」

「ああ、そうだ。いつもいつも騒動に巻き込まれて、いつのまにかその騒動の中心になりやがって。オレが指示を出さなかったらもっと面倒なことになっていたぞ? 記憶喪失でもその辺は変わらないみたいだなジンナイは」


「えっと、俺って勇者だったんですよね? なんか扱いが雑のような……」

「はぁ? ジンナイのことを勇者だと思っているヤツはジンナイ(オマエ)のことをよく知らないヤツだけだ。オマエのことを知っているヤツは、全員がオマエのことをジンナイだって思っているぞ」


 俺の苗字が隠語みたいになっている。

 ジンナイと書いてバカと読む、そんなニュアンスが伝わってきた。

 見下すような目ではないが、明らかに敬意が感じられない。


「ジンナイ、そういうワケだ」

「……」


 だから大人しくジャンを引き渡せと、目がそう語っている。

 ――僅かな逡巡。


「……下ろしてください、勇者様」

「え?」


 引き渡して良いのか、そんなことを考えていたが――


「……おれ、じゃない、ボクは、行かないとです」


 さっきまでは年相応だったのに、口調が畏まったものへと変わった。

 俺はジャンを下ろしてやる。


「ボクに色々と教えてくれた護衛の人が言っていました。ボクは母の息子なのだから、どんなことがあろうとちゃんとしないといけないって。そうでないと母が悲しい思いをするって」


 そう言って強く立つジャン。

 声に僅かな躊躇いのようなものを感じるが、それでも真っ直ぐ言う。


「ボレアスこうしゃくさま。ボクを使ってください。絶対に役に立ってみせます。そして、そして……見つけてみせます」


 最後の言葉だけは、振り向いて俺の方を見て言った。


「そうか、護衛騎士のアゼルから聞いていたのか。…………分かった、オレがオマエのことを守っ――いや、立派に使ってやる」


 よく分からないが、二人の間で何かを取り決めたみたいだ。

 何となく碌なことじゃないような気がするが、最後にこちらを振り向いた顔を見た後では何も言えなくなっていた。いっぱしの顔つき。


 子供の成長は本当に早いと思う。

 さっきまでしょぼくれたガキだったのに、今はそんな顔をするのだから。


 ( リティももうちょっと…… )


「あ、そうだった。お耳をお借りしても良いですか?」

「うん?」


 ジャンが耳打ちをしてというので、俺は屈んでやる。

 すると、そっとあることを教えてくれた。


「え? 本当に……リティが?」

「絶対にそうです。だからどうか」

 

 本当にそうなのかと、半信半疑ながら試してみる。


「ほら、リティ」


 ジャンに教えてもらったことを信じてやってみる。

 

「あっ、ちょっと目はダメ。危ないから、あとお口もダメだから」

「やっ」


 リティを両手で抱き抱えて、正面から見てやった。


 するとすぐに襲ってくるリティさん。

 だけどそれはとても嬉々としており、俺の頬へと顔をすり寄せてくる。

 何かもの凄く甘えてきた。


「……マジかよ」


 ジャンが教えてくれたことは、リティが嫉妬しているだった。

 俺がジャンに気を取られているのが気に食わなくて、あんな風に暴れていたのだという。


 だから片腕でなくて、両手持ってやれば喜ぶを言ったのだ。


「……そっか、寂しかったのか」


 蔑ろにしたつもりなど一切無かったが、それは俺視点での話。

 リティからしたら、片腕をジャンに取られている時点でダメだったみたいだ。

 

 こうやって両手で持ってもらったことで満足したのか、まだ目は狙いつつも、俺から離れようとしないリティ。俺に甘えまくりだ。



 その後、赤髪の公爵にツッコミ(注意)されるまで俺は愛で続けた。

 

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