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迷子と迷子1

迷子と迷子編です。

 迷子になるときは、一瞬だと思う。

 何故なら、迷子と気がつくまで迷子という自覚がないから。


 そう、ふと気がつくのだ。

 『あれ? 迷子?』と――




「クソ、似たような街並みが悪ぃんだ」

「あっちぃ」


「いや、リティ? あっちは絶対違うと思うよ? だって川なんて渡ってないし」

「あっちぃ?」


 可愛くて愛らしい天使な愛娘が、小さいお手手を延ばし指差している。

 一生懸命な様子がとても愛らしい、マジで可愛い。


 しかし川を渡った覚えはないので、天使の言う『あっち』は間違いだろう。


 そもそも、今回こうなった経緯はこれだ。

 『あっち』に従い歩き回った結果がこれなのだ。


 馬車に飽きたリティが、お外に行きたいと駄々をこねた。

 イヤイヤ期というヤツなのだろうか、まさに手が付けられない状態。

 モモちゃんがなだめてもダメだった。


 どうしたら良いのかと悩んだ。

 これが育児の大変さ、取りあえず俺は、ラティさんに一声掛けて馬車から降りた。

 ちょっとだけリティを遊ばせる、そんな感じで伝えた覚えがある。


 そして『あっちぃ』に従い歩いていたら、あら不思議、迷子でどうしよう。

 街並みが全部似た感じなのが悪いのだ……


「うう、今頃ラティさん心配しているだろうな。はぁ……」


 目的は観光だった。

 凄い都市だと聞いたので、是非見てみたいと思ったのだ。

 治安が良いという話も後押しになった。

 

 本当に凄いところだった。

 元の世界でも見たことがない巨大で広大な城壁。まるでダムみたいだ。

 そして正門をくぐり中に入ると、これまた別の感動を覚えた。


 街作りのゲームなどで見るようなマス目の街並み。

 直線の道路、それに添う同じ形の建物。ずっと奥までそれが続いていた。

 丸みを帯びた独特な形状の建物も目新しかった。まさに異世界。

 

 所々に建っている監視塔から見渡したらさぞ壮観だろう。

 観光用の塔、なんたらタワー的なものはないかと聞いてみたが、ラティさんからの答えはありませんだった。


 ラティさん曰く、そんな塔があったら大問題。

 その塔を占拠すれば、そこから全てを見渡すことができるので、市街戦があったら大変不利になるそうだ。


 もしそんなのがあったら、あのときどんなに楽だったかとも呟いた。


 不穏な言葉は聞かなかったことにして、なるほどと思った。

 所々に建っている監視塔も、その周辺だけしか見渡せない高さだ。

 仮にそこを抑えられたとしても、その周辺しか把握できないということ。


 よく考えられているな~と思いながら、外を眺めたのを覚えている。

 そのときに気がつくべきだったのだ、この街の恐ろしさに……



「うう、やっぱ判らない……」


 ほぼ同じ作りの街並みに困惑する。

 大きな建物や、看板を立てている店があるから全く同じではないが、初めてここに来た俺にはほぼ同じ。リティを抱っこしてウロウロ歩く。


 迷子になる前に、目印となる建物を覚えていたら良かったのだが、リティしか見ていなかったのが痛かった。これが目に入れも痛くないというヤツだろうか、いや、全然違うな。


「この通りかなぁ」


 通ったような気がするが、やっぱり違うような気もする。 

 遠目に馬車が見えるが、どの通りにも馬車は走っているので当てにならない。

 狼煙とか上げてくれないかと無茶な願いが浮かぶ。


「した、おいう」

「した? 降りたいかな? でもダメだからね。そうやって迷子になっちゃったんだから、このまま抱っこね」


 急に抱っこを嫌がるリティ。

 この子は、抱っこをせがむくせに5分もすると降りたがる。

 しかし今は、ここで下ろすわけにはいかない。


 何故なら、そうやって下ろして好きにさせて迷子になったから。

 あれは本当に迂闊だった。

 

「やぁ~」

「だ~め。ちょっとの我慢だから」


「やっ、やあああ」

「ちょ!? リティ、目っ、目はダメだから」


 いやいやと癇癪を起こし暴れるリティ。

 これが魔のイヤイヤ期というヤツか、要求が通らないと暴れ出す。

 そして何故か、すぐに眼球を狙ってくる。急所が好き過ぎるだろう。


「もう……」


 このままでは人攫いと勘違いされかねない。

 実際、訝しい目を向けられている。ヒソヒソと何かも言っている。

 顔を隠すように羽織っているローブも相まって、本当に怪しく見えるみたいだ。もう降ろすしかない。


「じめんっ」


 下に降ろしてあげると、まるで地面に感謝でもするかのようにお手手を地面に着いた。そしてペチペチと地面を叩く。マジ可愛い。


「ふう、まいったな……」


 こう人が多くては、ラティさんの【索敵】も意味がないだろう。

 どうしたものかと溜息がこぼれてしまう。


「迷子センターなんてないよな」


 身体を起こし辺りを見回す。

 迷子になったとき、俺は親から迷子センターに行けと教え込まれた。

 だがしかし、ここはテーマパークではないのでそんな施設があるとは思えない。もし行くとしたら、警察的な施設だろうか。


「――って、それはダメか」


 大事なことを思い出す。

 よく考えたら、この旅はお忍びのような旅だった。

 記憶喪失なのでまったく実感はないが、俺はこの世界では英雄のような存在らしい。ガチの勇者様だ。


 だからそういった施設に行くのはダメだと注意されている。

 この街に入るときも偽名を使っている。


 やはり自力でなんとかするしかない、が――


「どうしたら……」


 何とかしようと思っても良い打開策が浮かばない。

 もし出来ることがあるとしたら、リティを抱えて走り回ることだろう。

 そんなことを考えていたら、リティが突然走り出した。

 

「り、リティ!?」


 二歳児とは思えない瞬発力で駆けるリティ。

 元から活発な子ではあったが、ここまでとは思わなかった。

 一気に距離ができてしまった。


 急いで追うが、人が邪魔で思うように追えない。

 人混みに紛れてしまった。


「待ちなさい、リティ。勝手に行くと危ないから」


 様々な嫌な想定が思い浮かぶ。

 もう強引なドリブルばりに人を跳ね飛ばしてしまいたいが、そんなワケにはいかない。アレは駄目だ。見失わないよう注意しながらリティを追う。


 リティは暗い路地裏へと駆けて行く。


「リティ、いきなり走り出したら危ないで……ん?」


 リティが駆けて行った先には、一人の男の子がうずくまっていた。

 5歳ぐらいだろうか、一瞬怯えた目をしたが、ホッとした表情を浮かべた。


 しかし、すぐに暗い表情へと変わってしまう。


「リティ、何で急にこんなところに」


 この子が駆けた理由は何となく判る。

 多分、うずくまっている男の子のことが気になったのだろう。

  

 しかし分からない。

 さっき居た場所からではここは見えない。

 人混みがあったし、裏路地なのでここまでは見えなかったはず。


「いいぉ、いいぉ」


 多分、『いい子いい子』と言っているのだろう。

 そうやって男の子頭を撫でている。うん、リティはとても良い子だ。

 でも何で男の子のことが気になったのだろうか。


「リティ、どうしてこの子を? 見た感じ、怪我とかは無さそうだし」

「?」

 

 俺に尋ねられ、不思議そうな顔をするリティ。

 何か自分でもよく分かっていない様子。『何で?』って顔をしている。


「いや、自分でここに来たんだよね? いや、言っても分からないか」


 リティはまだ2歳になったばかりだ。

 自我が芽生え始めたとはいえ、それはまだあやふやな感じで、ちゃんと言葉にすることはできないだろう。いくら天使のリティでもそれは無理だったみたい。

 

「さて、どうしたら――っ!?」


 複数の足音が聞こえてきた。

 しかも妙に慌ただしく、剣呑な気配も感じる。


 そしてその足音に反応するように、うずくまっていた男の子が強張ったのだった。 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 待ってました!続き待ってます! 焦らしすぎると嫉妬組の勢力爆増しますよ?
[一言] いつまでこの設定を引っ張るのか? 魔王を倒したジンナイは不要なのか? このままでは蛇足感が酷すぎる。
[一言] 久々にキタ━(゜∀゜)━!
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