傭兵?
稼ぎます!金貨を
俺はラティとの会話を終えた後、床に就いて目を閉じた。
そしてふと、ラティに伝え忘れていた事を思い出した。
特に急ぎでもないので、朝にでも伝えることにするが。
その内容は
――冒険者に助っ人傭兵ねぇ、、
丁度金策を探していたからありがたいが、、
しかも上杉と蒼月が引き抜かれたとは、、
今日酒場で話していた時に、ドライゼンから聞かされた話。
赤城の勇者同盟から、上杉が貴族側に引き抜かれていたのだと。
王女様からの話を聞いた後なので、ある意味納得出来ることだった。
赤城ほどの志がある訳でも無い上杉なのだから、条件次第では引き抜かれてもおかしくはないのだ。寧ろ引き抜かれて当然。
そしてその上杉がいなくなり、上杉に付き合って勇者同盟に入っていた蒼月も、勇者同盟を抜け、現在はフリーで活動中。
その為に、勇者同盟の戦力は著しく低下し、安全に魔石魔物狩りが出来なくなり、パーティのレベル上げが滞ってしまうだろうと。
しかも最近では浅い層でも、稀にだが中層クラスの魔石魔物が湧く事もあると、ドライゼンは語っていた。
――赤城を説得するから俺達を一時的に雇いたいって、、
はやい話が「ちょっとヤバいから助けて」って事か‥
見返りとして金銭で報酬が貰えるなら、俺としても金銭問題的に大変助かるのだが、問題は‥‥。
――赤城が傭兵代をいくら支払うのか?それと、
またラティを勇者同盟に取り込もうと画策しないかだよな、
仲間の勇者二人に逃げられたから、焦って無茶しそうだよなぁ、
事前にしっかりと話して、不安の芽は潰しとくか‥
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日の朝。ドライゼンの行動は早かった。
朝飯を宿の食堂で取っていると、ドライゼンが笑顔でやってきた。
笑顔から察するに、赤城に傭兵の了承でも取れたのだろう。
「ジンナイ!赤城様の許可もらったぞ!」
「来るのはやいな、で 俺達三人を一日いくらで雇うんだ?」
「あ~~、それなんだけどさぁ、」
ドライゼンは最初の勢いは何処にいったのか。
目を逸らしながら、歯切れが悪く答えてきた。
「ジンナイすまん!雇うのは基本二人で、手に負えない上位魔石魔物が湧いた時に、お前に手を貸して貰うってのじゃ駄目か?」
「少しでも安くしようって魂胆かよ、セコい赤城らしいな、」
詳しく話を聞くと。
迅盾のラティと、魔石魔物でも一撃で屠るサリオの戦力は欲しいらしい。
だが、放出系WSメインで戦う場合、近接しか出来ない俺は邪魔だと。
だからと言って、何もしていない奴に報酬を支払うのは、パーティから不満が出ると。ただ単に雇用出費を抑えたいだけではなく、パーティメンバーへの配慮の意味もあるのだと。
なので手に負えない上位魔石魔物、多分アルマジロモドキを、一体倒すごとに報酬を支払うと言う形を取りたいと。
なんとも政治好きな赤城らしい、雇用の提案だった。
だが。
「それで二人雇う金額と、上位魔物倒した時の俺の報酬は?」
「二人で一日金貨1.5枚、ジンナイの方は一体で銀貨30枚でどうだ?」
――よく考えたら相場がわからん!
しかもこの仕事は、十日もしたらレベル上がるだろうから、それ以上は雇う必要が無くなるかもだな。稼げる期間は十日と見るべきだな、
十日で金貨約18~20枚か、悪くないが、
「ドライゼン、魔物からの魔石はどうなるんだ?」
「それはもちろん、雇い主のこちらが全部貰うぞ」
――やっぱりか、それなら、
それから契約交渉が始まり。
最終的に、二人が金貨1.6枚、俺は銀貨35枚で交渉成立したのだ。
それと、ラティとサリオの引き抜きも注意しておいた。
具体的には、引き抜くような言動があった時点で契約終了。罰金として金貨20枚の支払いを約束させた。
これはとぼけられる可能性があるので、再度赤城には俺から注意を言って置くつもりだ。ひとまず話を終え、地下迷宮に潜る用意を開始した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「赤城、」
「陣内君戻って来てたんだね」
奴とは少しぎこちない挨拶を交わした。その後
地下迷宮の入り口で赤城の勇者同盟と合流し、合計22名で地下迷宮へと潜った。
ドライゼンの話によると、一時は30近い人数だったが、メイン盾デイルを失ってからは、魔石魔物狩りが安定しなくなり、勇者二人が抜けると同時に、古参冒険者も抜けてしまったと。
――上杉辺りと一緒に貴族側に行ったんだろうな、
赤城は人望無さそうだからな~、ある意味残ってるのは‥‥
そう思って、勇者同盟のメンツを見渡してみると、予想通りに、覇気の感じられない冒険者ばかりだった。
酷い言い方をするなら、うだつの上がらない冒険者。
この18人を仕切ろうとしている赤城に少し同情をしたのだった。
魔石魔物狩りの狩場、定番の蜘蛛が居た広場。
程よい広さと、魔物が逃げ出し難い狭い入り口。
そしてある程度の打ち合わせを行ってから、狩りを開始する。
俺は待機で、ラティがメイン盾役、サリオは火力が足りなかった時の追撃役。
それぞれが配置に就き、魔石魔物狩りが開始された。
と、言っても、魔石を地面に置いてから、湧くまでに1~2時間は最低でもかかるので、それまではのんびりと待機である。
その間に、「ラティの勧誘をするなよ」っと、赤城に釘を刺したり、ドライゼンと最近の地下迷宮の情報などを聞いていた。
特に気になったのが、浅い層でも、アルマジロモドキの魔石魔物が湧く現象。
ここ最近の1~2週間で確認されるようになった事だが、あのアルマジロモドキの出現で、かなりの被害が出ているのだと言う。
上杉と蒼月が居る時はまだ何とかなったが、今では下手すると全滅する恐れが十分にあると。
俺は実際に戦ったから解る事なのだが。
奴はそこまで力や素早さがある訳ではない、だが、強いのだ。
背の剣山のお陰で、囲んで袋叩きにする事も出来ず、魔法も弾き返す。
挙句の果てに背の剣山は、放出系WSまで弾くのだ。
放出系WSに頼りきった、今の冒険者には天敵の存在となっている。
だが、一応討伐方法は確立されつつあるとドライゼンが付け加えた。
もっとも有効なのは、正面からの物理でごり押し。
大盾持ちの4人で両手の爪を封じ、威力の高い突撃系WSで比較的柔らかい腹を狙う方法だ。
毎回にそれなりの被害は出ているが、倒しきる事は出来たらしい。
そんな魔石魔物狩りの近状と聞きながら、俺は魔石魔物が湧くのをひたすら待つのであった。
ドライゼンと雑談をしてから、暫くして魔石魔物が湧いた。
魔石は壁側に置き、魔石魔物が湧く位置を調整して、狙われる人員を絞るようにして戦闘が開始された。
中央に魔石を置いて湧かせると、アルマジロモドキが湧いた時に、囲むような陣形だと、逆に危険になるそうだ。
そして湧いたのは、定番のイワオトコの魔石魔物。
その魔物に一番に切り込むのは。
「先行します!」
「射線が重ならないように注意を!」
「WSは合図に合わせてだぞ!」
「先走って撃つなよー!合図待つんだー!」
ラティがイワオトコに切り込み、敵の注意を引き付ける。
久々の迅盾役だが、以前よりもキレのある動きでイワオトコを翻弄する。魔物が一歩も動かなくても届く距離を常に動き回り、イワオトコがシャドーボクシングでもしているかの様に、振り回す腕が空を切っていく。
そして。
「ラティさん合図を!」
「離脱します!」
「撃てー!」
ラティが離脱の合図を出しながら、大きく後ろに跳んで距離を取る。
そしてその合図に合わせ、冒険者達が一斉にWSが放たれる。
10人のWSが各々の武器より放たれ、激しい音を立てながら魔石魔物のイワオトコに着弾していく。
それなりに冒険者達のレベルは高いのか、その一斉攻撃でイワオトコが黒い霧となって霧散していく。
「よし次の魔石の用意だ」
「ドライゼンさん魔石を置いてください」
魔石魔物を湧かす為に、次の魔石を一個置いていく。
どうやら前みたいに、複数置くのは控えるようだった。
複数魔石を置いた時に、上位魔石魔物が湧くと危険だからと、効率よりも安全を最優先にしたレベル上げにしたようだ。
正直、かなりまったりとした流れだが、慣れていないメンツも多いのだから、それは仕方ない事なのだろう。
( 俺たちの稼ぎには影響無いしな、)
そんなスローペースな流れだだったが。
7体目を倒した時に、何時もの事故が起きた。
スローペースに耐えれなくなった赤城が、魔石を二つ置くように指示を出していたのだ。そして運悪く、魔石魔物がぼほ同時に2体湧いたのだ。
動きが速いトカゲの形をした魔石魔物と、イワオトコが湧いたのだ。
事前に立て置いた作戦では、堅いイワオトコは後回しにして、ラティはもう片方の注意を引くと言う作戦で決めていた。
「先行します!」
ラティは作戦通りに、トカゲの魔石魔物に切り込む。
だが、ここで。
「サリオさん!あの炎の斧でイワオトコを倒してください!」
サブ盾にイワオトコを任せるのでは無く、サリオの一撃で沈めるように指示を出したのだ。しかし、悪い事は続くもので。
「了解してラジャ!火系魔法”炎の斧”!」
「 ――ぶぉぉぉぉおぅ!!―― 」
俺と同じで暇を持て余していたサリオは、出番とばかりに張り切って、得意の魔法をイワオトコに叩き込んだが。
青白く燃える炎の斧は、イワオトコに弾かれたのだ。
咄嗟のことで確認をしていなかったようだが‥。
「ああっ!このイワオトコはレベル71です!上位魔石魔物です」
「――っな!このタイミングでかよ」
回復役の女性が【鑑定】を使い、レベルを確認して叫び、それを聞いた赤城が愚痴るように声をあげた。
当然魔法を唱えたサリオに向かって、イワオトコがずっしりと重量感を感じさせながら近寄る。
走って距離を取れば良いのだが。
「ぎゃぼううううう、あわわわ」
【弱気】持ちのサリオは咄嗟に動けず固まってしまったのだ。
周りも浮き足立ち、上手く動けずにいたが。
「サリオ!ローブの結界を使えぇぇぇぇ!」
「は、はぃぃぃ!です」
「――ギィィィィィンン!!――」
怪力で重いイワオトコの一撃を結界の障壁が防ぐ。
そして防がれたイワオトコがムキになるように、続けて結界を叩き続けるが、結界は微塵にも揺るがずにサリオを護り続ける。
そして俺は、今の勇者同盟では、この魔石魔物を倒すのには手こずるだろうと判断し、指示を待たずに飛び掛る。
サリオの張っている結界を足場に、高く飛び、3㍍は超えるイワオトコに飛び乗って、勢いをそのまま額を穿つ。
流石に上位魔石魔物だけはあり、槍も完全には貫けなかったが、その貫いた額に結界の小手の楔を捻り込み。
「ファランクス!」
ッゴボォ!っと岩が砕ける音を立て、結界で内からイワオトコを砕く。
そして次の瞬間には、黒い霧となって霧散した。
「すげぇ、」
「1人で一撃かよ‥」
「これが噂の必殺か」
「強ぇ、マジかよ!?」
「って、お前等もう一匹忘れてんじゃねぇ!!」
霧になって消えた足場から、少し無様に両手を着きながら着地をして、すぐにもう一匹がいることを叫んだ。
俺のその声に、冒険者達は思い出したかの様にラティが相手にしている、魔石魔物に目を向けた。しかし其処で目にした光景は。
「WS”キルエッジィ”!”ウィルプス”!」
ラティはトカゲの魔石魔物の頭上で、空中に飛んだままの状態でWSを右手で斬り下ろし、そのまま一回転しつつ、右手に逆手に持った短剣を勢いよく、WSで斬り付けた斬激に重ねるようにWSを突き立てたのだ。
まだ誰も行っていなかった、WSの連撃。
前にラティにWSの事を聞いた時に、WSは発動後に勢いがありすぎて、どうしても硬直や隙が出来てしまうと、教えてくれたのだ。
だが彼女は、その勢いを空中で上手く利用して、次のWSに繋げたのだ。
それを目撃した冒険者達は、感嘆の声をあげた。
「すっげぇぇぇ!」
「おい!何だよ今、くるっと回ってかかっと行ったぞ」
「なんで?今のって別々のWSだよな?!」
「しかも、倒したのかよ短剣で?!」
そう、ラティの放ったWSはトカゲの魔石魔物を霧にしたのである。
俺が華麗に魔物を倒した記憶を、鮮烈に上書きする光景だったのだ。
――いや別に悔しくとか無いよ?
ラティって凄いし、前から凄いし、うん平気だ俺は落ち込んで無い、
落ち込んで無い‥‥
俺を取り残すかのように、勇者同盟の冒険者達はラティを囲むように群がり、賞賛の嵐が吹荒れる。
そこに、トコトコとサリオが近寄ってきた。そして。
「ドンマイです」
「うるせぇよ、」
俺の腰辺りをぽんぽんと軽く叩きながら言ってきた。そして
「そんでジンナイ様、ありがとうございましたです」
「ああ、ローブも買った甲斐があったな」
なんともムズ痒くなるような表情で感謝を伝えてきた。
( 素直に礼を言われると照れるな )
そして。
冒険者に囲まれ困惑しながら、こちらに助けを求める視線を向けている、ラティを眺めながら、俺は心の中で、上位魔石魔物一体分追加報酬ゲットだぜ!っと思っていた。
決して見せ場を取られたから拗ねた訳ではない――
こうして、傭兵一日目が終了したのだった。
金貨1枚 銀貨95枚が本日の稼ぎ。
感謝感激ブクマ300達成!
ひとつの目標を達成出来ました感謝です!
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