ハーティからのお誘い
すいませんー
忙しくて更新が遅れました
言葉とは、ノトスの街以来の再会。
まだ二週間も経っていないはずだが、妙に久しぶりな気がする。
俺は御者台の上からそんな思いに耽る。
「あっ」
いつもと違う久しぶりに感じた理由は、言葉の格好だった。
彼女は前と違うローブを纏っていた。ローブのシルエットは以前と同じでゆったりとした感じだが、色合は前よりも深みを増したロイヤルブルー。
落ち着いた印象の言葉によく似合っている色だ。
他には装飾品も増えていた。
腰回りにはえんじ色と赤色で彩られた帯、肩と首回りにはストールのような布が巻かれて、それに合わせた飾り紐と青い睡蓮を模した留め具が揺れている。
前のローブよりも洗練されており、動きやすく腕には切り目など、一目で良い物だと分かる。まさに言葉の魅力を存分に引き出すローブだ。
一つだけ欠点があるとすれば、前よりも胸元を覆っていること。
ストールと飾り紐が邪魔をしている。それだけが少々惜しいと思ってしまう。
( いや、それが目的だな、あれは…… )
「……陽一さん、どう、ですか?」
ローブを見入っていた俺に、言葉がおずおずと上目遣いで尋ねてきた。
「えっと、凄く似合っているかと……うん。モモちゃんもそう思うよな?」
「うんっ、コトママすっごくキレイ! 絵本で読んだ森の女神さまみたい!」
「ありがとうモモさん。それと……陽一さんも、ありがとうございます」
「あ、ああ」
なかなか破壊力のある笑顔を向けられた。
俺が知っている学校のときの言葉は、いつも伏し目がちで、猫背ほどではないが背を丸めていた印象が強い。
だが今は、そんな印象を微塵も感じさせない。
なのでこれは貴重だと思い、俺は言葉へと改めて視線を――
「――っ!???」
弾かれるように顔を仰け反らせた。
何か鋭いモノに両目が射貫かれそうになった、そんな殺気を感じた。
だが、何も飛んでは来なかった。
「? 陽一さん、何かあったのですか?」
「あ、いや、ちょっと…………げっ」
殺気がした方を見ると、そこには言葉の番犬こと三雲が立っていた。
一瞬でふっと消えたが、手には確かに弓を持っていた。大方【宝箱】にでも収納したのだろう。
今の射貫くような殺気は間違いなくヤツだ。
そして三雲の後ろには、厳つい連中が俺のことを睨んでいる。
ほぼ全員が目で殺すと語っている。
何となくだが、何処に埋めるとか物騒な相談しているような気がする。
「いや、してる。あの手の動きは――ッ痛!?」
「あの、ヨーイチさん。ここで止まっていると他の方の迷惑になるので、取りあえず場所を移した方がよろしいかと」
「はいっ」
隣に座っているラティさんが、太ももをちくりと抓りながら提案してきた。
俺はマッハでそれに従い、止まっていた馬車を進めたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なるほど、依頼していた物を受け取りにこの街に」
「はい」
言葉たちのグループがここに来た理由は、注文していた装備品を受け取りにきていたからのようだ。
言葉以外は正直分からないが、何人かが装備品を新調したらしい。
「……それにしても、目立つなぁ」
「すみません……」
「あっ、いや、そうワケじゃなくて」
道を塞いで邪魔になるからと移動したのだが、世界を救った勇者を一目見ようと人が集まって来ていた。
現在俺たちが居る場所は、大通りから逸れた空き地のような広場で、人が集まっても狭く感じない場所だった。
( これが前に言っていたことか…… )
葉月と言葉の現状は聞いていた。
あまりの知名度と人気の高さから、気軽に外を出歩けない程と聞いていた。
そしてそれは、まさにその通りだった。
元の世界で言えば超人気アイドルといった感じだろう。
いや、それ以上かもしれない。神でも崇めるような視線までも交ざっている。
ちょっとドン引きするぐらいの目だ。
言葉の仲間が盾になって遮っているが、もし彼らが居なかったら雪崩込まれていたかもしれない。
「なんか、大変そうだな」
「いえ、みんなが居るので全然平気です。唯ちゃんもいるし」
「なるほど」
言葉は親友と仲間によって守られているようだ。
信頼しきった表情からそれが伺える。本当に良い仲間なのだろう。
だが、ふと思ってしまう。
俺やラティさんのように、目立たない偽装をすれば良いのではと。
そうすればもっと楽になるのに。
「なあ、言葉、さん。えっと、俺たちみたいに偽装とかローブを深くかぶったりしたらどうだ? 周りに気が付かれなければイイんだろ?」
「えっと、それは……」
「そうは上手くいかないんだよ、陣内君」
スッと会話に入って来たのは、リア充そうなイケメンのハーティ。
「君みたいに自分で何かとできる力があれば良いんだけど、彼女の場合は後衛だからね。どうしても厳しいときがあるんだよ」
「ん? それはどういうことですか?」
「うん、それはね――」
イケメン野郎のハーティは、言葉が目立たない偽装をできない理由を説明してくれた。
それはズバリ、言葉が狙われているから。
彼女は一部の権力者からはいまだ執拗に狙われており、以前少人数で行動したら取り囲まれたことがあったそうだ。特に東の方は酷いらしい。
「それで、敢えて大人数で?」
「そうだよ、あの集まっている人はある意味では防壁なんだよ。人目が集まっているところなら連中も無茶はしないからね」
「なるほど」
「ちょっと前まで本当に無茶をする馬鹿が居たんだ。まあ、その馬鹿はどっかに行ってくれたから今は安心だけどね。ああ、本当に助かったよ。色々と面倒が減ってさ」
ハーティの言葉と視線は、何故か俺に向けられた感謝のようだった。
まるで俺がそれをやったみたいな、そんな感じ。
「取りあえず、陣内君たちはこの後どうするんだい?」
「え? この後?」
「うん? 何か目的があってこの街に来たんだろう?」
「あの、えっと、それは……」
迷子になって辿り着いたとは言い辛かった。
しかもその原因は俺だ。
意気揚々と迷わず迷子になったとは恥ずかしくて言いにくい。
「うん? 特に予定は無いのかい」
「えっと、取りあえずは水とかそういったモノの補給を。それで良いんだよね、ラティさん」
「はい、その予定です」
「だったらさ、ちょっと僕たちの予定につき合わないかい?」
「え?」
「実はさ、この街には装備品を受け取りにくる以外にも用事というか、あるお誘いがあったんだよ。何でも新作の劇が出来たから、それを観て欲しいってね」
「え? 劇? 演劇のことです?」
『演劇』という言葉に、うちのモモちゃんが反応したのが分かる。
ワクワクといった気配を隠し切れずにいる。
でも許可が出るまでは我慢、そんな健気さも見せてくれた。
「行きます。ご一緒させて欲しいです」
「良かった」
急遽俺たちは、ハーティたちが誘われている演劇につき合うことになった。
もちろんモモちゃんのためだ。
モモちゃんはとても良い子で、ここ最近は魔法で水を作るなど大活躍中だ。
それにリティの面倒も良く見てくれるので、ラティさんとの時間を作ることもできるようになってきた。
そんなモモちゃんが観に行きたいとウズウズしているのだ。
行くという即答以外はない。
こうして俺たちは、その新作が公開されている劇場へとむかった。
「……デケえ」
辿り着いた劇場は、前に行った芝居小屋の十倍ぐらいデカい建物だった。
あまりにも立派な建物なので、ちょっとだけ腰が引けてしまう。
「ここはね、貴族とか裕福層が足を運ぶ劇場なんだよ」
俺以外にもモモちゃんが圧倒された顔で劇場を見上げる。
リティも『おー』と声を上げながら劇場を頻繁に指を差しては、俺たちの方に顔を向けて何かを訴えている。
初めて見る大きな建物に興味津々といった様子だ。
「さてと、ちょっと席を取ってくるね」
「あ、はい」
ハーティはそう言って建物の中へと消えていった。
そして、予想外の提案を持ってきたのだった。
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あと、誤字脱字も……