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ゼロゼロは凄い だから……

旅立ちますよーーー

 異世界を見て回る許可を得てから三日が経過した。

 旅の準備に三日掛かったのだ。そして今日、俺たちはノトスの街を立つ。

 取りあえずの予定として、西にあるアキイシの街を目指すことにした。

 俺はその街でお世話になったことがあるそうだ、だからそこにした。


「じゃあ、行ってきます」

「行ってらやの」


 見送りはららんさん一人だけ。

 俺たちは変装、と言うか偽装の装備品を纏っているため、アムさんとギームルの爺さんは見送りに控えた。


 サリオも見送りをすると騒いでいたが、彼女もそこそこの地位なので控えてもらった。いまの俺は陣内ではないのだ。

 モモちゃんが少し寂しそうにしていたが、ここは我慢してもらう。


じんさん(・・・・)、道を間違えんようにの」

「はい、気を付けます。あ、でも地図をもらったので、たぶん大丈夫かと」

 

「そっか。……らてぃちゃん、後はよろしくの。じんさんは絶対にやらかすからの、絶対に。あっ、いまはららちゃんやの」

「はい、ららんさん。では、行ってまいります」

「……」


 こうして俺たちはノトスの街から出立した。

 俺の記憶を取り戻すための旅に…… 







「くそっ、やっちまった……」


 初日は順調だった。

 だから油断してしまった、と言うのは言い訳にしかならないだろう。

 でも仕方なかったんや、きっと行けると、たぶん平気だと、もう慣れたから、いまの俺なら大丈夫だと思ってしまったのだ。


 本当に迂闊な行動だった。

 自分は凄く強くなっている平気、そんな増長もあったのかもしれない。

 強さは全く関係ないことだというのに。


 俺は、道に迷ってしまったのだった。

 

「どうする、素直に話すか?」


 自身にそう問いかける。

 いますぐラティさんに道に迷ったと明かせばなんとかなるかもしれない。

 何故なら彼女は非常に優秀だから。


 しかしそれは、己の失敗を誰かに委ねることになる。

 男なら自分一人で解決するべきだと、思う。


 だがしかし、その考えが状況をより悪化させる場合もある。

 いまならまだ間に合う。案外簡単に何とかなるかもしれない。


 だがしかしでもでもだって、男なら自分の力で何とか……


「くっ、どうしたら良いんだ……」


 事の発端はこうだ。

 馬車を操ることに慣れてきたので、『俺が運転するから、ラティさんはリティとモモちゃんと居てあげて』と言い、一人で手綱を握っていたら迷ってしまった。


 言い訳になってしまうが、本当に行けると思ったのだ。

 馬車を引くの馬のゼロゼロはとても優秀で、最初は脚が8本もあることに違和感を覚えたが、慣れてくると何とも思わなくなって、俺でも馬車を運転することができた。


 ゼロゼロは本当に優秀なお馬さんだ。

 力は強く、体力も他の馬よりもあり、どんな悪路だろうと踏破した。

 だが、進む道を指示するのは俺なわけで、俺が間違えれば……


「やっぱショートカットなんてするんじゃなかった」


 地図上では行けるはずだった。

 ちょっと街道から逸れてしまうが、ゼロゼロの脚力なら余裕で踏破できると。

 実際に難なく道なき道を踏破し、ショートカットを成功させたと思った。


 しかしそれは罠だった。

 地図に載ってない川を渡った辺りで気が付くべきだった。

 やはりここで引き返すべきだと思うが、そもそも街道をそれてこの道に辿り着いたのだから、単純に引き返しても意味はないだろう。


「~~~~っ、…………進もう」


 男なら突き進むべき。初志貫徹だ。

 道を辿って行けばいつか何処かに辿り着くはずだから……


 



「あの、ヨーイチさん。これはどういうことですか?」

「ごめんなさい、思いっきり道に迷いました」


 男なら間違ったときは素直に謝るべき。

 俺はラティさんに『ごめんなさい』と頭を下げた。

 もちろんお辞儀の角度は直角の90度。全力で謝罪する。


「ぱぱぁ~、あぶぶぅ?」


 彼女の抱っこされているリティちゃんが、俺の頭をよしよしと撫でてくれる。


 リティちゃんはとても優しい子だ。

 こんな不甲斐ない父親でも優しく慰めてくれる。

 ちょっと髪を引っ張ったりもしているが、きっとそれも優しさのはず。


「あ、リティちゃん、ちょっと耳は、耳は取れないからね?」


 リティちゃんが全力で耳を引っ張ってきた。

 下へ上へとグイグイ揺さぶるように引っ張ってくる。

 これは結構痛い。


「……お母さん、どうしよう……」

「はい、少し困りましたねぇ」

「……」


 現在俺たちは、深く生い茂った森の中に居た。

 一応道から外れてはいないが、その道はどんどん細くなっている。

 何となくだが、この森を越えたら切り抜けることができるような気がしたのだ。だから森の中を突っ切るルートを選んだ。


 しかしここでラティさんが異変に気が付いてしまった。

 森の中を進む道はまだ先なのに、二日目で森の中に居るのはおかしいと……


「どうしますかねぇ……」


 そう言って地図に目を落とすラティさん。

 きっと彼女も決めかねているのだろう。進むべきか戻るべきか。


「この道は地図に載っていない道ですねぇ。せめてこの位置が何処か判れば良いのですが……」

「うん、位置が判れば何とかなるんだけど」


 辺りを見回すが、位置が判るようなものはない。

 何でもいいから目印になるものがあれば良かったが、見える範囲にあるのは何の変哲もないただの森。

 

「……あちらに、村があるかもしれません」

「え? 村? 全然見えないけど」


「はい、【索敵】で見ました」


 ラティさんが言うには、あと1キロほど進んだ所に気配を感じたそうだ。

 道に迷ったときは人に聞けば良い。俺たちはその村を目指すことにする。


 ただ、一つだけ気になったことがあった。

 それは地図に村が載っていないこと。そのことに少しだけ嫌な予感がする。

 

「地図に載っていない村か……隠れ里みたいな感じかな?」

「あの、そうかも知れませんねぇ。あとは、本当に誰にも知られていない村なのかもしれませんねぇ」


「誰にも知られていない……。盗賊とかの隠れアジトとか?」

「その可能性もありますねぇ。注意しなくてはです」


「うん、そうしよう」


 俺とラティさんは御者台で話し合い、まずは村の様子を確認することにした。

 




      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 


「……普通の、村に見えますねぇ」

「だね」


 村の入り口が見え始めた辺りで馬車を止め、俺たちは村の様子を覗った。

 森の中ある村は、丸太で作られた柵で囲われており、遠目には物々しい雰囲気は感じられない。


「あの、ちょっと偵察をしてきます」

「うん、俺はここでリティちゃんとモモちゃんを見てるね」


「はい、お願いします」


 音も無く御者台から飛び降りたラティさんは、まるで溶け込むかのように森へと消えていった。


「ホント、凄いなラティさんは……」


 単純な強さとは違うしたたかな強さ。

 俺にはない強さにとても心が惹かれる。

 これもきっと彼女の魅力の一つなのだろう。


 それに俺は惚れ込んだ。

 今も、昔も……


 

 しばらくするとラティさんが帰ってきた。

 

「普通の村のようです。女性や子供も多く村の規模も五十人程度で、特に心配するような危険はないかと」

「よし、村に行こう」


 俺たちは村に向かうことにした。

 ここが何処なのか判れば、もとの正規の道に戻ることができるはず。


「あの、すみません」

「ん? おや? アンタたちはこの辺の者じゃないね」


 村に入って中に居た人へと声を掛けると、珍しいものを見るような目をされた。

 そして周りから人がドンドン集まってくる。


「ぼくたちは道に迷ってしまって、それでここが何処なのか教えていただけましたら助かるのですが」

「はあ、道に迷ったとは、やっぱこの辺のもんじゃないのか」


「はい、ぼくの名前はジンと言います。こちらは、つ、妻のララです。ちょっと無理矢理道じゃないところを進んだら迷ってしまって……」

「なるほどの。で、どちらに向かう予定で?」


「えっと、西のアキイシの街に向かおうとか」

「西? っていうと……ああ、あっちの方か。それなら村のあっちから出ていった先にの方だな。たぶん」


 村人の男はそういって村の裏手の方を指差した。

 どうやらこの村には出入り口が二つあり、俺たちが入ってきた方とは逆側だ。


「ありがとうございます。すみません、村を通してもらっていいですか?」


 村の中を突っ切るのだ。波風を立てぬように許可を貰っておく。


「んん? 今から行くのかい? だったら今日は止めておいた方がいいぞ。そうしないと夜の暗い道を行くことになるぞ」

「結構掛かりますか?」


「ああ、そうだ。行くなら明日の早朝がいいぞ」

「なるほど」


「何だったら空いている家があるから、今日はそこに止まればいい」



 俺たちは、村人の好意に甘えることにした。 

 別に夜でも何とかなるが、安心して泊まれる場所があるに越したことはない。

 馬車で寝る場合は、俺かラティさんが見張りで起きている必要があるから。 


 今日は四人で一緒に眠ることができる。

 そう思い、俺たちは案内された小屋へと泊まることにした。

 四人だが川の字になって眠るのだ。そんなことを考えていたら、小屋の扉がコンコンとノックされた。


「ん? なんだろう? 小屋代の徴収とかかな?」

「…………少し、ご注意を」


「へ? 注意?」

「はい、何故か囲まれております」


「――っ!? 判った、注意する」


 俺は警戒しつつ扉を開く。

 するとそこには、一人の老人が立っていた。

 その見た目から、何となく村長だろうと当たりを付ける。

 その村長らしき老人は、俺のことを値踏みするように見たあと口を開く。


「旅のお方、ちとスマンが、アンタの嫁さんを一晩貸してくれんかの? この村のために」

読んでいただきありがとうございます。

よろしければ感想などいただけましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字なども……

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― 新着の感想 ―
[良い点] >「アンタの嫁さんを一晩貸してくれんかの? この村のために」 「さぁ、お前の足の数を数えろ!」?
[良い点] やはり何かをしでかさないとジンナイじゃないよなぁ。 実は一晩貸してくれ、が戦力的な意味合いだったら笑える。
[一言] 本来の陣内なら嫁を貸してくれと言われたら即やっちゃってたでしょうね!w
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