決死の説得!!
お待たせしました~
「……ほう、それで見て回ってみたいと?」
「は、はい」
お墓参りからノトスの街へと戻った俺は、ある提案をギームルにした。
それは、記憶を戻すためにこの異世界を回ってみたいということ。
僅かだが記憶が戻ったのだ。
しっかりと思い出せた訳ではないが、【トンの村】へ行ったときに記憶が僅かだが蘇った。きっと印象が強い場所なら効果があるはず。
だからこの異世界を見て回ってみたいと――
「……テイシ、その斧を貸せ。いますぐ此奴の記憶を戻してやる」
「ん、はい」
「――待った! それ記憶が飛ぶから! つか、中身も飛ぶっての」
鈍器のような斧を受け取ろうとするギームル。
さすがに冗談だと思いたいが、この爺さんが冗談を言うタイプには見えない。
俺はガチで必死でマジトーンでそれを止める。
「安心しろ」
「いや、冗談に聞こえなかったから……。まあ、さすがにそれは――」
「頭を潰された程度で貴様は死なん」
「死ぬだろっ! 絶対に死ぬから。えっ? 記憶を失う前の俺ってそんなだったの? 潰されても平気だったの?」
目がマジだ。
鋭いとか厳しいとかそういう次元じゃない。
肉食獣がスンッといった感じで草食獣を見下ろしているような、そんな圧倒的な何かを感じる。端的に言えば超怖い。
「……ふん、冗談だ。貴様が下らぬことを言うから」
「ビビった。殴っても大丈夫だとマジで思ってんのかと思った」
「ん? それは本気で思っておるが? 貴様は頭を叩き潰された程度でやられるようなヤツではないだろう? 冗談と言ったのは叩いて記憶を戻す方じゃ。まったく」
「……」
俺への謎の信頼感が怖い。
確かに身体能力は凄いかもしれないが、いくら何でも人の枠に収まっているつもりだ。
頭を潰されて平気など、そんなのはただのバケモノだ。
「それで、本当に回るつもりか? 貴様は自分の立場を解っておるのか?」
「い、一応、わかっているつもりです……でも記憶を……」
そう言って俺は、味方を求め室内に居る人へと目を向ける。
テイシさんには無視された。
ラティさんには情けないと思われたくないので目を向けない。
アムさんにはヤレヤレといった感じで溜息を吐かれる。
そして――
「しょうがないのう」
「ららんさん」
「にしし」
ららんさんが、任せろといった笑みを浮かべてくれた。
見た目は小6ぐらいなのに、深みを感じさせる笑顔がとても頼もしい。
ちょっと怖い気もするが、俺はららんさんに縋ることにする。
「あの、ららんさん。何とかならないですか?」
「もの凄い丸投げでキタのう。まあ、何とかしてやろうかの」
「ららん様!!」
こうして俺はららんさんを全力で頼り、ギームルが提示した問題を全て解決した。
ギームルが提示した問題は三つだ。
まず一つ目が、俺がウロウロするとマズいという問題。
どうやらギームルは、俺にジッとしていてもらいたいみたいだ。
ウロウロ動かれるとユグドラシル教に無用な警戒をされてしまう。
俺はその教会にとって警戒されている人物なので、俺が活発に動くと無用な警戒をされてしまい、進めている計画に支障をきたす危険性があるのだとか。
次に二つ目。
俺がどこに居るか、もしくはすぐに連絡を取れる必要がある。
これは、進めている計画を発動させるときに俺が必要であるから。
だからギームルとしては、このままノトスの街に留まることが理想らしい。
そうすればすぐに俺へと連絡がつくから。
最後の三つ目。
俺にうっかり死なれたら困る。
進めている計画の肝は俺であるため、俺に死なれては困る。
だから安全なノトスの街に居ろとのことだ。
ギームル曰く、俺は殺しても死なないヤツなのに、何故か死にそうな騒動に巻き込まれるのだとか。
仮に死にそうな目に遭わなくても、絶対に何かしらの騒動に巻き込まれると断言されてしまった。
なので『ジッとしておれ』とのことだった。
当然、そんなことはないと反論した。
人をトラブルメーカーみたいに言いやがってと……
しかしここで思わぬ伏兵がいた。
それはラティさんとアムさん。何故か二人はギームルの言い分に深く同意。
しかもここでテイシさんから追い打ちがあった。
【トンの村】でトレインが起きたことを暴露された。
あれは俺の所為ではないと思うのだが、何故か疑いの目が深まった。
俺は昔の自分に言ってやりたい。お前は何をやってきたのだと。
そんなこんなで追い詰められた俺だが、ららんさんが全てを解決してくれた。
まず一つ目の問題。
俺がウロウロするとマズい問題は、俺だとバレなければ良いという方法で解決。
何でもららんさんは、人の認識を誤魔化すことができるアイテムを作れるらしい。
それを身に纏っていれば誤魔化すことができる。
次に二つ目の問題。
光を連動させる魔道具みたいなモノがあるので、それで連絡を取れば良いと提案。
要は、そのアイテムが光ったら帰って来いということだ。
それならどこに居ても連絡が取れるので、どこに居ようと関係無い。
最後の三つ目。
これは酷い解決方法、いや、解決方法でも何でもなかった。
頭を潰しても死なないようなヤツなんだから、『心配するだけ無駄』と、そう言ってギームルを説得したのだ。
これには苦虫を噛み潰したような顔で、納得されてしまった。
こうして俺は、この異世界を見て回ることが許されたのだった。
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あと、誤字脱字なども……