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王族と貴族

説明回です

 葉月の家に泊まった次の日、俺は王女に会いに城に向かった。


 昨日、葉月の家に荷物など置いた後に、街に個室があるレストランに食事をしに行ったのだが。どうやらその時に、面会の先触れとやらを行っていたらしい。



 ラティとサリオには、葉月の家でお留守番をして貰った。

 理由は、【狼人】と【ハーフエルフ】


 この二人を連れて行くと、あの城では悪目立ちするからだ。

 それと、そんな視線にあの二人を晒したくないのが本音だ。


 ラティはきっと、気にしませんと言うだろうが、あんな侮蔑や蔑むような視線でラティを見られたくなかったからだ。


 あ、あとサリオも‥‥



 

 そして現在‥‥


 俺が訝しむ視線に晒されていた。

 この城の兵士達には、聖女葉月と並んで歩く俺がどうやら気に喰わないらしい。何となくだが、嫉妬のような感情で俺を睨んでいる気がした。


 ――まぁ、普通に考えれば気が付くことか、

 この城では人気と知名度が高そうな葉月が、見たことない冒険者と親しくしていれば、なんだコイツくらいには思われるか、


 ここは一応謙虚‥‥




 俺はドヤ顔で、煽るように兵士たちを見てやった。

 少し大人気ない気もしたが、昨日門前払いされた仕返しなのだ。


( あ、嫉妬に燃える視線に変わった、)


 案内役の侍女みたいなのに連れられながら、城の中を葉月を他愛も無い雑談をしながら歩いていると、後ろから葉月が中年の男に呼び止められた。


 マナー違反なのか、振り向いた案内役が最初は咎める様な表情をしていたが、相手の姿を確認すると、すぐに表情を引っ込め、元の無表情に戻した。


「これはこれは聖女様、昨日お願いした件をもう終わらせて頂いて感謝の極みです。まさかこれほど早く私の為にとは、嬉しさのあまり駆け付けてしまいましたよ」



 そこには、金髪碧眼で前髪を横にたらし、”ザ・貴族”っと言った感じの三十代の男が立っていた。

 そして距離を詰めるように、葉月に近寄って来ていたが。


「いえ、私は一刻も早く成仏させて上げたかっただけですので」


 葉月はそう言いながら、さり気無く俺の後ろに体半分程度隠すように移動していた。


 本来俺バリアーはラティ専用だが、王女面会で葉月には世話になっているので、仕方なしにザ・貴族を遮るように立ち続ける。



 当然それはザ・貴族には面白くないようで‥‥


「おや?聖女様、その冒険者?はお知り合いでしょうか?」


( 目が完全にどけって語ってる )


「はい、大切な友人の陣内君です、私と同じの勇――」

「冒険者の陣内です!えっと貴方は?」


 俺は自分の中では勇者を捨てたつもりなので、葉月には話させないようにした。

 理由は、勇者としての能力を欠陥でしか持っていない事と、勇者としてこの世界のルールけんりょくに縛られたく無かったからだ。


( まぁ、好き勝手やりたいだけなんだけどね、)



 そしてザ・貴族が、値踏みをするように俺を観察した。

 現在の俺の格好は皮の鎧などで、どう見積もっても金貨1枚程度。


 相手からしたら、間違いなく格下と見られ‥‥


「聖女さッ―― ハヅキさんのご友人ですか、私はゼピュロス領のレフト伯爵です、ハヅキ様とは懇意とさせて貰ってます」


 どうやら中々のお偉いさんのようだった。

 だが。


「では、失礼します、行こう葉月」

「え?あ、うん」



 面倒くさそうなので、無理矢理話を切り上げ、葉月の背を手で押しながら先を急がせようとしたが。

 

「ちょっと待ちたまえ!しかもハヅキ様に触れるとは!」


 逃げられなかった。

 あと勢いとは言え、女子に触れちゃって実はちょっとドキドキしていた。



 それから暫く、ザ・貴族が語りだしていた。


 内容は。

 葉月の素晴らしさと尊さとか色々。要約すると近寄るなと言うことだった。


 最後に葉月に何かの確認をしていたようだったが、『私はそう言った事は、まだ考えてませんので』っと葉月は丁重にお断りをしていた。



 何となく気になりザ・貴族と別れた後に、聞いてみたが教えてはくれなかった。


 そして王女が待つ、中庭に俺達は向かっていった。

 やはり勇者と言うのは、貴族などのしがらみが付き纏うようだ。


( 援助は無いけど、やっぱ冒険者フリーが気楽だな )







         ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 





 王女の待つ中庭に着いてから、ちょっとした出来事があった。


「ああ!ジンナイ様 生きてらしたのですね!」

「‥‥‥」


「え?陣内君元気だよね?」



 どうやら俺は、あの裁判モドキの後に少ししてから、死亡した事にされていたようだ。しかも、その確認は宰相のギームルが行ったと。


 ――だから尚の事、城に入れなかったのか、

 つか、あのおっさんはどんだけ俺のことが嫌いなんだよ!

 

 王女の方も、俺が死亡しているから、勇者支援の金貨を受け取りに来ないことに疑問を持たなかったと。


 そして現在、掛け合って半年分の金貨をお願いしたが。


 だが‥‥


「え~~と、これは?」

「うう、すいません、、」


 用意されたのは、金貨ではなく紙幣だった。

 どうやらこの世界にも紙幣があるようだが、ちょっと様子がおかしく。

 王女様は真っ青な顔をしている。


「申し訳ありません!ジンナイ様」


 突然王女様が表情を申し訳無さそうにして、俺に謝ってきた。


「えっと、?」

「この紙幣は使えるのですが、実際には使えないのです」



 突然訳の分からん謎々を言い出した。

 ただ、王女は可哀想になるくらいに悲しい表情をしていた。


 それを見ていた葉月が、不思議そうに王女に訊ねる。


「あの、王女様どういう事でしょうか?」


「はい、情け無いお話なのですが、ご説明させて頂きます」




 王女の説明では。

 この紙幣一枚は金貨一枚と同じ価値なのだが、未熟な造幣技術な為に、数多くの偽紙幣が出回ったと。結果この紙幣の信用度はとても低く、どこかで使おうとしてもほぼ拒否されてしまうと。


 今では、この紙幣を出すイコール相手を馬鹿にしているか、完全に格下と見下す意味として取られるようになったと。



 そして今、俺の目の前にあるこの紙幣はそう意味だと‥‥


「申し訳ありませんジンナイ様、ギームルがまさかこの様な方法を取っていようとは、情け無いお話ですが、金貨に関しては私ではどうしようも無く」



 葉月はその状況に絶句しているが、何となく俺には理解出来た。

 この国の王女だからと、好き勝手出来ないのだろうと。

 あの幽霊の王妃を見たのだから‥‥



 だからと言って、理解は出来たが納得する訳にはいかなかったが。

 俺が抗議をする前に、王女が先に動いたのだ。


「ジンナイ様、金貨をお渡しする事は出来ませんが、コチラを」

「装飾品?」


「はい、今の私にお渡し出来るものこれくらいで」



 王女はそう言って、髪に差していた花の形が付いた髪留めを俺に手渡してきたのだ。確かに素人の俺か見ても高そうな一品だった。


 手渡す際には、近くに配備されていた騎士らしき男が、それを咎めに来ようとしたが、王女は手でそれを押し止めていた。


「ジンナイ様、その髪留めには魔法防御などの多数の効果が御座いますので、それをお売りして頂ければ、それなりの額となりますので、どうかそれでお許しください」


 

 王女は、王女なりの誠意を俺に見せてきた。

 ちょっと借金の取立てをした気分になったが、俺も背に腹はかえれず受け取る事にした。




 俺がそれを素直に受け取ったことに、ほっとしたのか王女は表情を緩め、優しい微笑みを見せた。


 今思うと王女の表情は、泣いて目を腫らした顔か、申し訳無さそうにしている辛そうな表情ばかり。

 始めて見る、その表情に俺はかなりドキドキさせられた。


 具体的に言うと、危うく『好きです』と告白してしまいそうな。

 それくらいの破壊力がある、そんな笑顔だったのだ。



 だが、すぐに自嘲するような表情に変わった。

 

「少しお話を聞いて頂けますか?」


 俺と葉月をその雰囲気を察して、無言で頷き承諾を示す。

 そして相槌を一切いれず、王女の話を無言で聴き続けた。


 王女の独白のような告白。



「これからのお話は、勇者様には伏せられた情報なのですが」 


 咄嗟に、俺はラティから借りて来た隠蔽魔法感知の指輪を確認した。

 もしかしたら、誰か潜んで居ないかを確認する為に。


 

 俺のその仕草に、気付いたのか王女が


「大丈夫ですよ、もし誰かが潜んでいるなら、先程の髪留めが反応しているはずです」


 ――そう言えば、この感知付加魔法品アクセサリーは貴族必須とかららんさんが言ってたな、

 俺が指輪で確認した仕草で、それに気が付いたのか、凄いな、



 葉月は何のことか分っていなかったが、王女はそのまま話を続けた。


「この世界の貴族のお話をします、貴族とは歴代勇者様達の血族なのです」



 王女の話は――

 この世界に召喚された勇者、初代勇者が王族と子を作り、それが王族としてそのまま君臨し、その子供が4人の妃を取り、その子供が四大公爵として四方の領主となったと。


 実は、初代勇者の子孫は王族だけではなく、公爵家も初代勇者の子孫であり、勇者召喚の触媒としての資格もあると教えてくれた。


 それ以外の貴族とは、1300年前はともかく、現在は皆が歴代勇者達の子孫だと、王女が教えてくれた。


 そして次に教えてくれた話が、王女が語りたかったことで。

 この世界、国を仕切っているのは、四大公爵である、ボレアス・ノトス・ゼピュロス・エウロス、この四つが王族を支えるような形になっていると。


 それは単純な力関係では、王族がその四大公爵よりも弱いことを意味していることだった。


 

 王族に求められることとは、勇者を召喚出来る、世界を護る御旗のようなモノ。平和の象徴であり貴族達に担ぎ上げられた神輿だと。



 もしかしたら王女は、金貨30枚すら用意出来ない自分の状況を俺に説明したかったのかも知れない。



 だがそれよりも。



 ――ちょっと待てよ!

 それじゃぁ、王族ってのはほとんど生贄にされる為だけの血族?

 何か権力があるわけでもなく、――っだからか!だから見下ろすように監視するように上級居住地が上にあるのか!


 そんなのって、そんなのって完全に利用されてるだけじゃ――



 思わず俺は、”何かを”王女に言おうとしたが。


「ですが、私は王族として誇りをもっています」


 強い意志を感じさせる表情で王女が先に語る。


「他の方からしたら、ただの生贄みたいに見えるかも知れませんが、私はそれでもこの世界を護れる王族として誇りをもっているのですよ」



 俺は心底言わなくて良かったと思った。

 きっと俺が”何を”言っても、王女の誇りを穢すだけにしかならないと思えたからだ。



 それと同時に俺は王女に惹かれてきた。

 たぶんラティが居なかったら、俺は心底王女に惚れていただろう。

 それくらいに彼女が誇り高く綺麗に見えたのだ。


( 最初はただの勇者ウケの良い人材だと思っていたのになぁ )



 王女は『私ったら何を言っているんでしょうね、』と自嘲して顔を伏せてしまった。



 しかし、彼女の吐露はまだ続いた。

 再び顔を上げて語りだす。


「そして貴族にはお気を付け下さい、そろそろ動き始めているはずです」

「‥‥‥」


 これが本題だとばかりに王女が語りだす。

 何となく予想していた事だったが、予想より酷い話だった。


 王女が続けて話してくれた内容は。

 貴族達のあいだでは、もうすでに魔王は倒されるものとなっていると。

 勇者20人の召喚に加え、優秀な勇者が多数、魔王に負けるとは微塵にも思っていないと。


 すでに次の事マオウをたおしたあとを考えているのだと。

 貴族達にとって、この魔王発生とは、勇者を取り込み自分達の地位を高める機会だと考えていると。


 勇者を支援するのではなく。

 勇者を利用して自分達の地位を高める争いが始まるのだと言うのだ。



 『一瞬そんな馬鹿な』っと思ったが。

 鉱山の洞窟で出会った幽霊のイリスさんを思い出したのだ。


 ――これか!これがイリスさんが言ってことか、

 勇者同士の争いとか貴族同士の争いってこれのことか、、



 俺が考えに耽っているなか、王女は葉月に話しかける。


「特に聖女でもある葉月様をご注意ください、」

「え?私、なんだろう?」


「貴族から婚姻を申し込まれておりませんか?それも多数」

「――っ!どうしてそれを、」


 ――おいぃぃぃぃ!どういうこと?



「きっとこれから、貴族達の勇者獲得の動きが激しくなります」

「え?今までの勇者支援は」


「いえ違います、今度のは支援ではなく確保が目的です」

「確保、、」


「あらゆる手段で、勇者様達を確保しようと動きます、それは地位だったり物だったり、先程言った婚姻などで」






 その後は王女を雑談を続けた。 

 最後に、何故俺達にその伏せていた話を教えてくれたのか訊ねると、『私なりの罪滅ぼしです』と俺に言ってきた。

 

 ――召喚しておいて、大した支援も出来ない俺に対してか、



 たが、その話を鵜呑みにするのは危険だと思い、それをすべて信じるのではなく、俺は情報のひとつとして心に留めるまでにしておいた。



 そして俺は、金貨の代わりに髪留めを貰い、王女との面会を終えた。


 だが今回は金貨よりももっと価値のある話を聞けたのだった。 






読んで頂きありがとうございます


今回の説明でご不満や疑問がありましたら、感想コメントで頂けましたら、お答えしますー

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[気になる点] 王女様の近くに配備されている騎士らしき男がいたはずですが、 内緒話を聞かれてもよかったのでしょうか? もしくは聴こえない程度の距離はあったのかな。 [一言] レフトくん……一度の発言で…
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