日課!
ラティさんと合流した後、俺は待機していた馬車へと向かった。
何でも俺が居なくなったことが騒動となり、事態を重く見たみんなが、総出で俺のことを探していたらしい。
要は、あの渋滞は葉月たちを狙ったものではなくて、俺を狙ったのかもしれないとの憶測が飛んだのだ。
だが、お昼寝していたモモちゃんが目を覚まし、彼女から事情を聞いてその疑いは晴れた。
その後は迷子になった俺を、護衛以外総出で探していたそうだ。
そして現在――
「本当に、ただ助けただけだから。それだけだから」
「んぅ、はい、それっは、分かりました――んんっ」
「でも、助けるためにお金をつかってしまって……」
「っん、……あの、それは、助けるため、にぃ、仕方なかったのですよねぇ?」
「うん」
――俺はラティさんと話をしていた。
用意された部屋のベッドに並んで腰を掛け、いつもやっていたという日課の情報共有を行っていた。
本当にとても素晴らしい日課だ。マジで。
「あの、もう分かりましたので、そろそろ――っ、んぅ」
必死に口を結ぶラティさん。
細い肩をビクリと震わせながら、込み上げるモノを堪えようとしている。
普段はピンと張っている獣耳が、いまは僅かに垂れ下がっている気がする。
一言でいうならば、『こりゃ堪らん』だ。
「あ、あのっ」
「大丈夫、全力で誤解を解くから!」
「だっ、だからぁぁ――んんっ」
ラティさんに教えてもらった日課。
尻尾を撫でながらのコミュニケーション。
狼人の尻尾には特別な能力があり、撫でた相手と心が繋がる。
だから撫でながら話をすると、その内容がしっかりと伝わる。
当然、言葉に虚偽があればすぐに筒抜けとなる。決して嘘をつけない。
だから俺は撫でるのを止めないっ。
「本当に知らなかったから、最初に会ったのは子供の方だし」
「はいっ、分かりました、から……。だから、あのっ」
「えっと、俺が前に助けたことがあるって猫人なんだって? イワオトコに襲われているところと、奴隷商に売り飛ばされそうなときに助けたって」
「あの、奴隷、商からだけです。イワオトコから、のは――んふぅ、ぁ……」
ラティさんの尻尾は本当に凄い。
しっとりとしているのにさらりとした手触り。きっと赤ちゃんの玉肌を毛で表現したらこんな感じだろう。いくらでも撫でていられる。
「さあ、どんどんいきますよ」
「――っ!」
俺の言葉にラティさんが震えた。
しかし彼女は嫌がっていない。もし本当に嫌だったら止めている。
下の尻尾は正直なのだ。蕩かすようにラティさんの尻尾を梳く。
彼女は心配していた。
何を心配しているのか口にしてはいないが、尻尾から知ることができた。
俺が助けた親子、母親のシャルナと俺は面識があり、売り飛ばされそうなところを助けたことがあったそうだ。
だから無いとは思うが、それでも不安に感じてしまったらしい。
普段だったらそんな不安を感じることはないが、記憶喪失中だから、どうしても不安に思ってしまったそうだ。
俺は今回の経緯を説明と同時に、その不安を払拭することに尽力した。
それはもう全力で撫でた。超撫でた。
「……あっ、やべえ、撫ですぎた?」
「……」
ラティさんが大変なことになってしまった。
普段は凜としているのに、いまはグッタリとして動かなくなってしまった。
これ以上尻尾を撫でるのは流石にマズいと分かる。
「えっと……どうしたら――ん?」
ラティさんを心配していると、寝室の扉がノックされた。
俺たちがいま居る部屋は寝室、その寝室と繋がっている部屋、リティちゃんとモモちゃんが居る部屋からのノックだ。
「お父さん、リティちゃんが寂しいって」
「ぱぱぁ」
「あっ……」
日課を見せるのは教育上よろしくないと、子供たちには別室に居てもらった。
しかしここは家ではなくて公爵家の一室。普段とは違う部屋に不安を覚えたのかもしれない。
モモちゃんの声にも不安さを感じる。
「うん、入っていいよ」
「はいっ」
「あい」
二人が手を繋いで寝室に入ってきた。
母親としての矜持か、さっきまでグッタリしていたラティさんが起きてきた。
彼女はトコトコとやってきたリティちゃんを抱えると、そのまま一緒にベッドへと横になる。
「モモちゃん」
「やったぁ」
俺はモモちゃんの方を抱き上げる。
そしてベッドの奥の方へと移動して、ラティさんと同じように横になる。
四人で川の字状態だ。
「……今日は、このまま寝ますか」
「はい、ヨーイチさん」
俺が迷子になったため、今日予定されていたことは全て明日に回された。
だから今日は、このまま親子四人で眠ることにした。
明日に備えて……
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あと、誤字脱字なども……