新たな出会い??
お待たせしましたー
もし一時間前の自分に会うことができたのなら、一言いってやりたい。
記憶喪失中に一人で買い物に出てはならないと。
そう、何となく道が分かるからと、一人で買い物に出てはならなかったのだ。
「まいった、まさかこの歳で迷子になるとは……」
俺は、ノトスという街で迷子になっていた。
浮かれているつもりはなかった。ただ、リティちゃんがお菓子を欲しそうにしていたから、つい一人で買いに行ってしまった。
ちょっと行ってすぐ戻ってくるつもりだった。
本当にちょっとだけ出たつもりだった。だがしかし、馬車への帰り道が分からなくなっていた。
きっとこれが『行きは良い良い、帰りは地獄』というヤツだろう。
一本道を行ったつもりだったのに、帰りは幾重にも道が分かれていた。
本当に迂闊だった。
「ヤバいよな、絶対に心配してるよな」
馬車を離れるときに一声かけるべきだった。
俺たちが乗っていた馬車は、馬車の渋滞によって進めなくなっていた。
自動車のように容易に後退ができないためか、連なった状態で止まってしまうと二進も三進もいかなくなっていた。
俺はそれを仕方ないと構えていたのだが、冒険者の人たちは訝しんだ。
もしかするとこの渋滞は、葉月と言葉を狙って意図的に起こされたものかもしれないと。
護衛を何人か残し、半数以上が渋滞している先へと向かった。
そして残りの少数が、後ろを取られないように後方へと。
その結果、俺が乗っている馬車にはリティちゃんとモモちゃんだけになった。
二人は葉月たちと一緒の馬車に乗ることがほとんどだったが、一緒に居るところを目撃されると後々面倒になるので、街に入るとき、葉月たちとは別の馬車になっていたのだ。
そして待っている間、退屈そうにしている二人のために……
何で俺は行けると思ったのだろう。記憶はないけど何となく見覚えがあるから行ってしまった。
しかも最悪なことに、お菓子を買うこともできなかった。
あると思っていた店はなく、完全に自分の勘違いだった。
空振りにもほどがある。
「……はぁ、マジでまいった」
金貨の入った革袋を見つめながら呟く。
実は、この異世界で買い物をしてみたいという欲求があった。
一度も使ったことがない硬貨を使ってみたいと、そんなアホな考えも自分を動かした理由の一つだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
取りあえず俺は行動を起こした。
まずは自分の確認。防具は装備している。黒い胴着を纏っている。
槍は邪魔だったので持って来ていないが、木刀は腰に佩いていた。
何かあっても身を守ることはできるだろう。
「さてと……」
迷子になったとき、まずやるべきことは『道を尋ねる』だ。
ここが森の中だったら無理だが、幸いなことにここは街の中。
道行く人に尋ねれば良いのだ。馬車がよく通る道を尋ねれば良いだろう。
俺はそう考えながら辺りを見回す。
コミュ障ではないが、そこまでコミュ力が高い訳ではない。
話を聞いてくれる、そんな親切そうな人を探す。と――
「へ? はぁ!?」
人が攫われる瞬間を目撃してしまった。
モモちゃんよりも小さく、リティちゃんよりも大きい子供が路地裏へと引っ張り込まれた。口を手で塞がれて有無を言わさずだ。
どう見ても人攫いだ。
遊びのようには見えないし、攫って行った男の人相はかなり悪かった。
間違いなく悪人だ。
助けなくてはと思う前に、動いていた。
もしあれがリティちゃんやモモちゃんだったらと、二人を重ねていた。
( 確かにここに )
人とは思えぬほどの速さで動ける自分に戸惑いながらも、俺は裏路地へと駆けた。
正直、いまだ慣れていない。
感覚と身体は付いていっているのだが、頭の中の認識はまだ追い付いていない。
自分の身体なのに、どこか借り物のような感覚。
超人の身体を動かしているようだ。
埋めようとしてくる人たちから逃げるときは必死で気が付かなかったが、この身体の性能は異常過ぎる。
速く軽く風のように駆けて、あっという間に裏路地へと辿り着いた。
( ――居たっ! )
子供の口を塞いで抱えている男が居た。
その男と目が合う。
「なんだ、てぇ――ぐはっ!」
男は子供を抱えていたので両手が塞がっていた。
俺はその隙を逃さず、一気に距離を詰めて首筋に木刀を叩き込んだ。
『なんだ、てめえは』とでも言うつもりだったのだろう。だが木刀を叩き込まれた男は言い終える前に崩れ落ちた。
「大丈夫か? もう平気だからな」
「あ、ありがとう……ございます。……す、すごい……」
助けられた子供は、目を大きく見開いて俺を見つめていた。
あわあわと口も動かしている。
( 猫人の子供か )
助けた黒髪の子供の頭には、ちょこんと獣耳が生えていた。
狼人のラティたちに比べると控え目な獣耳。
葉月たちの護衛の中に居た、猫人の冒険者によく似た獣耳だ。
だから恐らく猫人の子供だろう。
「えっと、警察に連れて行けばいいのかな? いや、異世界に警察ってあるのか? 似たような組織はあるよな……?」
勢いで助けたは良いが、その後のことをこれっぽっちも考えていなかった。
ただ分かっていることは、このままにしては置けないこと。
「……たすけて、ください」
「うん? なに?」
助けた子供。
4歳ぐらいの少年が、泣き出しそうな目で言ってきた。
「ぼくだけじゃなくて、お母さんもつれていかれちゃったの。だから、お母さんもたすけてくださいっ。急がないとお母さんが酷い目に……」
助けた子供は、文字通り縋りついてきた。
胴着の腰の辺りを掴み、母親も助けてくださいと懇願してきた。
堪え切れなかったのか、ぽろぽろと透明な涙がこぼれ出している。
「ああ、任せろ。どこに行けばいい?」
「えっ?」
「だから、どこに行けばいい? 連れて行かれた場所とか分からないか?」
「う、うんっ、こっち! わかる」
何故か俺は即答していた。
どう考えても迂闊な判断だ。だが行かねばならないと心が吼える。
「よし、案内してくれ……えっと、君の名前は?」
「あっ、ぼ、ぼくのなまえはクロスです。みんなからはクロってよばれているけど……」
「分かった。クロス、お前のお母さんは絶対に助けてやる」
「ありがとう、おじ――」
「お兄さんだ。まだそんな歳じゃねえ」
「う、うん。お兄さん、おねがいです、お母さんをたすけてください」
こうして俺は、クロスという少年と一緒に、母親が捕まっているであろう場所へと向かったのだった。
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あと、誤字脱字も……