イケメンが来た
ちょっと短めです~
次の早朝、サリオとららんさんが帰ってきた。
そして二人が乗っていた馬車の中から、一人は見たことがあるヤツ、もう一人は見たことがない男が降りて来た。
「じんないさん、ちょっと面倒そうやから連れてきたで」
「えっと……初めまして」
「うん、本当は初めましてじゃないけどね」
爽やかなイケメンがそういって握手を求めてきた。
自然と手を出して握手をしてしまう。
何と言ったら良いのか、つい握手してしまう雰囲気を纏っていた。
にっと笑うイケメン野郎。
「う~~ん、本当に記憶喪失なんだ。しかし何度も記憶喪失になるなんて、ホント陣内君らしいね。いつもボクの予想の遥か斜め上を行くよ」
「は、はあ……」
何とも距離を近く感じさせる人だ。
だがしかし、相手に不快感を抱かせない距離を保つ、そんな印象の人。
元の世界の言葉で言うと、コミュ力が高いというヤツだ。
「はあぁ、沙織から聞いたときは何の冗談かと思ったけど、ホントにアンタって厄介ごとを起こすわよね。何なの、趣味なの?」
「……三雲」
学校で言葉といつも一緒に居た三雲が話し掛けてきた。
気の強そうな目つきは昔のまま、ついでに胸元も昔のまま。
ただ格好だけはファンタジーをしており、装備を見るに狩人系だろう。
真っ平らな胸当てが非常に似合っている。
「……なんか射貫きたくなったわ。ちょっと穴開けていい? でっかいのを」
「うぉい! 何いきなり物騒なこと言ってんだよ。つか、どっから弓を出した……って、勇者が使える【宝箱】ってヤツか」
「唯ちゃん、ほら、陽一さんは記憶喪失だから……ね?」
「沙織、それ何のフォローにもなってないから」
「はは、唯ちゃん、いまは抑えてあげてね。それよりも話を進めたいかな」
やんわりと三雲を窘めるイケメン野郎。さり気なく彼女の頭を撫でている。
どうやらコイツはリア充だ。間違いなく敵だ。何故かそう感じた。
頭の奥底の方から、さっさと埋めようと囁いてくる。
「……ねえ、陣内君。何で穴を掘ろうとしているのかな? それはスコップじゃなくて槍だからね? 何でその一瞬で人ひとり埋められそうな穴を掘れるんだい?」
「え……?」
俺は槍の下の部分に脚を掛けて、地面を掘り起こしていた。
記憶はまったく無いのに、何故か身体が勝手に動いていたのだ。ラティさんと致したことで身体の感覚を取り戻した影響だろう。
ヤツを埋めろと身体が真っ赤に燃えている。
「あの、ヨーイチさん。リティちゃんを」
「え? はい」
「ぱぱぁ、おなかすいたぁ?」
ラティさんがリティちゃんを抱っこさせてきた。
そして腕の中に収まったリティちゃんは、紅葉のような手を伸ばして俺の目を狙いながら腹具合を尋ねてくる。
お腹が減っていないかとの気遣い。
この子は天使かもしれない。いや、絶対に大天使さんだ。
この歳でもう人に気を遣うことができる優しい子だ。
「ん~~、いい子っ」
「やぁ~~、やっ!」
ほっぺをスリスリすると、リティちゃんは嬉しそうに歓喜の声を上げた。
この子は本当に良い子だ。すぐ眼球を狙ってくるが……
「ラティちゃん、ジンナイさんの扱いが上手くなったですねです」
「あの……いえ……そんなことは……」
何やら会話が聞こえたが、俺はリティちゃんに忙しかった。
そろそろご飯の時間かもしれない。そう思い家の中に入ろうとすると――
「いや、まさかここで放置とは……。本当に凄いよ、陣内君は」
「あっ」
閑話休題
話は朝食を取りながら行われた。
イケメン野郎の名前はハーティと言い、言葉が所属しているチームのリーダーだった。
だからあのコミュ力の高さだったのだ。
そして話を聞いていくうちに、俺は自分の立ち位置を改めて知った。
俺はスローライフをやっている木こりだと思っていたのだが、それプラス世直し的なことをやっている影の実力者だった。
葉月たちから似たような話は聞いていたが、思っていたよりもガチ寄り。
明かされた話では、近いうちにユグドラシル教という宗教を潰す予定だったのだとか。
潰すという物騒な話に、葉月たちはどう思っているのかと目を向けた。
すると彼女たちの表情に陰りが見えた。きっと何かあったのだろう。
そう言えば面倒な連中がいると言っていたことを思い出す。貴族ばかりではなく、そういった権力者も勇者たちを欲していることを察した。
どうやら俺の記憶喪失は、思ったよりも深刻な事態なのかもしれない。
「――それじゃあ、ノトスの街に行くかの」
「それが無難でしょうね。ノトスに行けばギームルさんから直接指示を受けられるし、何かしらの対応策もあるかも」
「あっ、モモちゃんとリティちゃんも一緒に行きましょうです。そうすれば一緒にお芝居を観れるですよです」
「サリオお姉ちゃん、行きたい。リティちゃんといっしょにみたい」
「いくぅ」
ハーティからの話は纏まり、俺たちはノトスの街へと向かうことになった。
どうやらノトスの街には知恵者がおり、その者に直接相談することになったのだ。
それにリティちゃんとモモちゃんがとても行きたそうだ。前から一緒に劇を観に行きたかったみたいだ。
自分のことはどうでもいいが、リティちゃんとモモちゃんのために行くことにする。
しかしこの森を留守にする訳にはいかないので、その留守番はハーティたちのチームのメンバーに任せた。
こうして俺は、ノトスへと向かうことになった……
読んでいただきありがとうございました。
次からはノトス編です~
よろしければ感想などいただけましたら幸いです。
あと、誤字脱字も……