復活のルルー、じゃねえ、陣内
次の日は、昨日と違って少々慌ただしかった。
何でも森の外に迎えが来るらしく、その迎えに会わないといけないのだとか。
さすが勇者様というべきか、それともこの異世界の貴族がクソというべきか、要は葉月たちを欲している権力者が多いらしい。
中にはさらおうと画策したヤツもいたのだとか。
そんなこともあり、街の外では護衛についている者との定時連絡は必須。
もし連絡がつかない場合は、何かあったと判断して、その護衛の者たちが動くことになっているそうだ。
こうして葉月たちは、一旦森の外へと向かった。
そして俺たちは――
「お留守番……とは違うか?」
「あの、一応わたしたちの家ですからねぇ」
「しかし、モモちゃんがついていくとは」
「モモさんは、サリオさんとコトノハ様が大好きですから」
「そうなんだ……」
現在家に居るのは、俺とラティ、それと眠っているリティちゃんだけだった。
残りのメンツは全員馬車で森の外へむかった。
昨晩の一件があったので、言葉とどう顔を合わせたら良いのか分からなかったので、彼女たちの外出は正直ありがたい。
ただ、出発前に葉月がラティに向かって、『お願いね』と言ったのが気になった。
何故か、その『お願いね』が妙に引っ掛かったのだ。
「えっと、ラティさん、ちょっと寝不足なので……少し寝ていいかな?」
「……はい。では、わたしは少々用事を済ませていますねぇ」
こうして俺は、葉月たちを見送ったあとまた眠ることにした。
寝不足もそうだが、ラティさんと二人っきりというのは、なんというかドキドキして落ち着かないのだ。
昨晩の一件もあるので、尚のこと彼女と顔を合わせにくい。
もう眠って切り替えようとベッドへと横になる。
俺はモモちゃんの部屋で寝ることにした。寝室の方にはリティちゃんが眠っているし、葉月と言葉の残り香が気になって避けた形だ。
「……浮気していないのに、なんかそんな気まずさだ……」
リティちゃんが起きたら一緒に遊ぶといいかもしれない。
殺さないように注意をして撫で、そんで撫で、そんで撫でまくる。
笑顔に癒やされて浄化されることだろう。
「……いや、罪悪感とか感じそうかな。いや、それもおかしい」
あれは浮気ではない。心の中でそう自分に言い聞かせる。
だがしかし、他の人から見たらそう見えてもおかしくないシチュエーションだった。この部屋でそういうことになりかけた。
葉月ともやばかったし、言葉とも危なかった。
聖女と女神のツートップだ。異世界ゴールデンコンビだ。よく耐えた俺。
「ああっ、取りあえず寝て――へ!?」
部屋の扉からノック音が鳴った。
そして何故か、誰がノックしたのか確信が持てた。
耳の奥にしっかりと残っている、そんな聞き慣れた音だった。
「ど、どうぞ」
ベッドから身体を起こしてそういった。
そして開いた扉の先に居たのは、予想通りの人物。
「あの、おやすみのところすみません。……少々よろしいでしょうか」
「あ、はい」
ラティは静々と部屋の中に入ってきた。
俺が横になっているベッドへと真っ直ぐにやってきて、ギシっと音を立ててベッドに膝を乗せてきた。
「――っ」
完全に固まってしまう俺。
なんのリアクションも取れず、ただただラティに見蕩れてしまう。
「すみません、こんなはしたない姿で……。どこかで引っ掛けて無くしてしまったようで」
ラティさんは裸Yシャツ姿だった。
胸元のボタンが二つ無いので、へそが見えてしまいそうな程はだけていた。
Yシャツから覗かせる白い肌に釘付けになる。ちょっと手を差し込めばすべてを曝け出すことができそうだ。
膝を乗せたときにチラリと見えたが、そこは白い肌しかなかった。
彼女がいま纏っているのは、間違いなく白のYシャツだけ。
恐ろしいほど無防備な格好だった。なのに何故か完全武装のような感じがする。
「あ、あ……ぁ」
声が出ない。
葉月や言葉ときとは違って動けなくなっていた。
同級生のYシャツ姿には、同級生のベビードール姿並のパワーはあったが、ラティのYシャツ姿は、俺の中ではそれの上をいっていた。
「あの、少し縛らせていただきますね」
「へ?」
どこから取り出したのか、彼女は白い布で俺の腕をベッドの柱へと縛った。
あまりの手際の良さに為す術無し。俺は万歳をしたような姿勢になった。完全に死に体だ。
ヤバいという警報と、これから行われることへの期待の鐘がぶつかり合う。
心臓の鼓動が喧しすぎる。
「……あの、失礼します」
「――っ!!!!!!」
閑話休題
「ただいま~」
「用事を済ませてきました」
葉月と言葉たちが戻って来た。
馬車に揺られて疲れてしまったのか、モモちゃんは言葉に抱っこされていた。とてもふかふかそうな枕に顔を埋めている。
俺は言葉からモモちゃんを預かろうと思ったが。
「すげえ幸せそうな顔してるな」
「はい、だから私がこのまま中まで運びますね」
「ああ、悪い」
「……あれ? 陽一君?」
「うん? どうした?」
「ううん、何でもない……」
現在、生まれ変わったような気分の俺は、戻って来た彼女たちを快く迎えた。
昨日から続いていた気まずさは完全に消え去っており、葉月とも正面から向き合うことができる。
昨日のように目を逸らすことはもうない
きっとラティさんのおかげだ。
そう、ラティさんのおかげに違いない。
「……ねえ、ラティちゃん。ひょっとして陽一君……」
「あの……はい、戻りませんでした。記憶は」
「ん?」
何故か深刻そうな顔で話をしている二人。
「え? 『記憶は』ってどういうこと?」
「……あの、どうも身体の感覚とかは取り戻したようなのですが、肝心の記憶の方は……」
そう、俺は身体の感覚を取り戻していた。
ラティさんとの攻防のとき、俺は覚醒した。
思い返してみればおかしかったのだ。
いくら何でも、腹筋とスクワットを3000回もできるはずがないのだ。
だが俺はそれができた。この異世界で鍛えられた身体はそれを可能にしていた。
そして数時間前、俺は身体の感覚を完全に取り戻した。
いままでは十字ボタンと二つのABボタンだけで動かしているような感覚だったが、いまは二本のスティックと8個のボタンで動かしているような感覚だ。
きっとこれが本来の身体の感覚なのだろう。
指一本動かすだけでも違いを感じられるほどだ。
「……じゃあ、記憶はないけど身体の記憶だけは戻ったって感じ、かな?」
「あの、たぶん、そうかと……」
しゅんとするラティさん。
まるで自分の力不足でと、そういった表情で影を落としている。
「思ったよりも深刻かも……。ちょっとハーティさんたちに相談する必要があるかもね。ららんさん、サリオさん」
「あいよ、ちょっと本格的にマズそうやの。サリオちゃん、また戻るで」
「ほへ?」
こうして、ららんさんとサリオは馬車で引き返していった。
よく分からないが、何やらよろしくない状況のようだ。
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