幽霊屋敷
葉月にお願いするために喫茶店に向かいました
勇者葉月を誘ってお洒落な店に入った
何がお洒落なのかと言うと、俺だけだったら絶対に入れない雰囲気だからだ。
きっとこれは、お洒落な店のだろう。
その店は木材がメインで作られており、石材が主流のこの世界では珍しい建物であり、元の世界にもありそうな喫茶店のような外装の店だった。
ただ店内に入ると、そこは‥‥
「いらっしゃいま、、スイマセン狼人とハーフエルフの方はちょっと、」
「ああ、」
店内の対応はガッツリと異世界だった。
俺は迂闊に店を選んで自分に情けなく思っていた。
――ここは城下町なんだ、【ルリガミンの町】とは違うんだ、
ラティとサリオに嫌な思いをさせてしまったと、思っていると。
「すいません、この方達は私の知り合いです、入店させてもらえませんか?」
「ええ!聖女様、えっとハイ、ワカリマシタ」
店員は不承不承に席へ案内してくれた。
情けなくも、俺は葉月に助けられてしまった、それと――。
やはり聖女として葉月の知名度は高いようだった。
4名席に案内され、俺の隣にラティで対面に葉月その隣にサリオが席に着いた。
かなり高いケーキセットを注文し、俺は葉月に王女に面会出来るように掛け合ってもらえないかと、彼女に頼んでみた。
借りを作ることになるが、この件ばかりは力押しで解決出来るものではないので、頼らせてもらうことにした。
そして彼女からの返答は。
「うん、いいよ陣内君」
「助かる、葉月」
「だけど、その前にちょっとお手伝いお願い出来ないかな?」
「はい?」
図々しい話だが、俺が葉月に何かお願いされるとは全く考えていなかったのだ。だが、これで貸し借り無しになるので、精神的にも楽になる訳で。
「ああ、俺に出来ることなら手伝うよ」
「あの、ご主人様 せめてまず内容を聞いてからのほうが、」
「ぎゃぼー、ジンナイ様が迂闊過ぎるですよー!普段はもっと石橋叩き壊して進むのを止めるのに、これは聖女様が可愛いから、チョロくなってしまってるいるのですかねです」
――むう、確かにちょっと今のは俺らしくないな、
油断と言う訳ではないが、確かに迂闊過ぎる、これは肝に銘じておこう、
俺の甘さを指摘してくれたサリオには感謝の意味を込めて。
『誰がチョロインだー!」
「ぎゃぼーーやめてー!こめかみから枯れ木が折れる時の音がしてるですー」
感謝の思いをサリオに喰らわせてやったのだった。
それでサリオが店内で騒いでしまった為に、居た堪れなくなり店を後にした。
ラティと葉月が二人で必死に店員に頭を下げているのだった。
( 全くサリオには困ったものだ )
そして一度は引き受けると言ってしまったお手伝いだが。
「で、葉月。何を手伝えばいいんだ?あまり時間が掛かるのは、」
「うん、すぐ終わるよ陣内君ならね」
そう言ってから、『案内するね、その場所まで』と言い、葉月が先頭で城の横にある、ちょっとした高台のような場所を目指した。
案内された場所は、城に隣接するようになっている高台。
正門前の地面よりも5㍍ほど高くなっているエリアだ。階段を使って登るようになっており、明らかに他の場所とは扱いが違う場所であった。
俺がその場所に疑問を持っていると、葉月が察したように俺に理由を教えてくれる。
「この場所はね、上級居住地なんだって」
「へ?」
「なんでも偉い貴族さんとか、そんな人達専用の場所なんだって」
葉月はそう言いながら、階段を上り切った場所で、検問のようにな所にいる兵士達に何か説明をして、俺達もその上級居住地に入れるように手配してくれた。
城もそうだったが、この上級居住地の周りにも外壁で囲ってあり、どちらかと言うと、高さがある分こちらの方が守りに堅そうな印象だった。
付け加えるのならば、この場所はまるで”城を見張っている”ような、そんな印象を感じれる場所であった。
――普通に考えて、逆だろう位置‥‥
そして葉月に連れて来られた場所は。
「なぁ葉月。この廃屋が目的地?」
「うんそうだよ、ここでゴーストバスターがお仕事なの」
葉月のお手伝いとは、目の前の廃屋に住み憑いている、一体の女性幽霊のお祓いだと言うのだ。
彼女はそう伝えながら、俺の木刀にちらりと目をやった。
――幽霊のお祓いは確かに教会の仕事っぽいんだが、
これって勇者の仕事か?なんだかいい様に利用されている気がするんだが、
何処かの村が襲われてるとかなら分るんだけど、これは‥‥
上級居住地と言うだけあり、一軒一軒がかなり離れており、特にまわりから苦情が来るようには見えなかったのだ。
極端なことを言うと、隣が火事になっていても平気そうなのだ。
なんとなく、その辺りが気になり理由を葉月に聞いてみると。
「う~~ん、なんでもこの家を壊して新しい豪邸を建てたいんだって」
「それで、その幽霊が邪魔だと?」
葉月が城に行ってた理由は、城にいる偉い貴族から呼ばれて、今回のお祓いを頼まれた為だと教えてくれた。
――と、言うより
教会からの依頼じゃなくて、城にいる貴族から?
色々と疑問を感じる依頼だった。
俺も人のことを言えないが、葉月も簡単に依頼を受けてしまっているような。
そんな事を考えているうちに、葉月がほぼ無警戒に廃屋に進んで行く。
「あ!待て葉月、行くぞラティ、サリオ」
「はい!ご主人様」
「ぎゃぼう!ハヅキ様先に行くとか、えええ?なのです」
俺達は葉月を追うように廃屋に向かっていった。
その廃屋は二階建ての豪邸で、ちょっと違和感あり、何故か塀が無かったのだ。途中にあった他の豪邸は、それなりの塀があったのだが。
その豪邸の印象を言うのなら、豪邸だったのだろうけど、何かを閉じ込めていた?そんな感じの建物である。
窓は小さく嵌め殺し窓で、むしろ鉄格子の方が似合っている。
廃屋の中にはすでに葉月の魔法でアカリが複数作り出されていた。
元は豪華であったであろう名残を思わせる、埃まみれの絨毯や家具。30~40年放置されていたのでは?と思う酷い荒れ方をしていた。
そんな感想を思い浮かべていると。
「来ます!ご主人様、ご注意を!」
ラティが鋭く俺に警告をしてきた。
「サリオ!結界を張っておけ!葉月も警戒を」
「らじゃです」
「う、うん」
サリオに指示を出すと同時くらいに、床に散乱していた崩れた壁の瓦礫などが、宙に浮き上がり勢いをよく俺達に飛んで来たのだ。
ラティは両の手の剣で弾き、サリオは障壁を展開させ葉月は自身の魔法なのか、前方に半透明の板の壁を作り出した、飛来する瓦礫を防いでいた。
因みに俺は、全力の横っ飛びで避けていた。
達人とかじゃないので、槍で瓦礫を弾き返すとか無理なのである。
それからも暫くの間、瓦礫による攻撃は続いた。
「ぎゃぼーー!!このローブがあって良かったですー」
「じじじ陣内君!これって確かラップ音ってのだよね?」
「違う!?ポルターガイストだろ!」
三人で騒いでいる中、ラティは器用に剣で瓦礫を弾きながら、天井、二階の方を睨みつけていた。
「ご主人様!上の二階から強い気配を感じます、魔物と言うより、崖下で出会ったあの方のような気配です」
ラティの言葉に上に何が居るのか、検討が付いた。
きっと上には、この屋敷に住んでいた住人の幽霊がいるのだろう。
もしかしたら、また魔石に宿っているのかも知れなかった。
「サリオ!後ろの守り任せるぞ、ラティ二階に上がる階段探して上にいくぞ」
「はい、ご主人様」
「ぎゃぼーーMP的にそこまで持ちませんからねです」
「え?え?上?」
ラティとサリオに指示を出し、ラティの索敵を使い前に進み、サリオのローブの障壁で背後を守りながら、俺達は二階を目指した。
生活空間なので、地下迷宮のように複雑と言う訳ではなく、二階へ上がる階段はすぐに見つかった。
流石に朽ちているためか、若干崩れかけていたが、石造りだった為に上に登ることは出来た。そして階段を上がり、少しひらけた場所には扉を背にして護るように鉄の鎧が立っていた。
中身は空洞のままで。
こちらが階段を上がりきると、その鉄の鎧がゆらゆらと揺れながら此方に近づいて来たのだった。
「ラティ!前に出るなよ、このタイプは動きに惑わされない奴だ」
「あ、はい分りました、ご主人様」
指示を出し、俺は木刀で前にみたいに散らせることが出来るのか?と考えるのではなく、まず突き刺してみるかと、行動を起そうとしていると。
「聖系浄化魔法”ショテン”!」
葉月が一歩早く、魔法を発動させていた。
その魔法は鉄の鎧を中心に光の輪っかが3個出現し、一気に小さく縮まるように収縮してから弾けた。
そして弾けると同時に、激しい音を立てて鉄の鎧が床に落下していった。
俺は周りを警戒しながら後ろにいる葉月へ振り返ると、其処には、すっごいイイ笑顔で目を輝かせている彼女がいた。
「見てくれた陣内君、私やったよ」
私お手柄!と 聞こえて来そうな笑顔で葉月がこちらを見ていた。
だが――
「まだです!扉の奥の気配はまだ消えてません!」
ラティは、まだ甘いですよ!と聞こえて来そうな、雰囲気を纏いながら扉を睨みつけながら注意を促してきた。
そして俺達は、
扉の前に陣取り、朽ちてボロボロになっている扉に対して――
「サリオ!やれ」
「らじゃです!風系魔法”トプゥ”」
――ブオォ!――
空気の塊が轟音を立てて、気前よく朽ちた扉を粉々にした。
扉を吹き飛ばすと同時に、ラティが先行して部屋に突入した。
ラティは相手の位置を索敵で把握しているので、突入の先頭にさせたのだ。
それと何よりも、警戒している時のラティなら、どんな攻撃でも避け切るだろうから。
そして次に俺も突入したが、
そこには、白く半透明でお約束な幽霊が浮んでいた。
敵意が無いのか、虚ろな表情をした女性が、瓦礫の散乱した広い部屋の中央で、ただ ぼ~っとこちらを眺めているだけだった。
ラティも敵意の無い相手には、飛び掛るようなことはなく、相手を見極めようと戦闘態勢だけは維持したまま幽霊を見張っていた。
最初は呆けていた女性の幽霊も、サリオと葉月も部屋に入ってくると、反応を示し、突然こちらに語り掛けてきたのだ。
ただそれは、音などではなく、頭の中に響いてくる声だった。
『ああ、貴方達は勇者様なのですね、、』
「あ、はい、私は勇者の葉月と申します」
部屋に入ると、突然話しかけられたにもかかわらず、葉月はそこまで慌てる事無く、礼儀正しく返事を返していた。
予想であるが、もしかしたら葉月はこういった幽霊祓いを、既に何回も経験しているのかも知れなかった。そうでなければ流石にもう少し慌てるだろうし。
俺は咄嗟に女性の幽霊の足元に、前みたいに魔石が無いか、チェックしたが魔石は見当たらなかった。
魔石が無いという事は、イリスやユズールとは別のタイプの幽霊なのだろうと当たりを付けた。
( ユズールは精神だったか、)
そうこうしている内に、女性の幽霊が再び語りだした。
『ああ、また勇者様が召喚されたのですね』
『また王族の誰かが犠牲になったのですね、』
幽霊が演劇の独白のように語りだす。
それを俺達は相づちを打つこともなく、ただ聞くことに徹した。
自我が残っていて、聞いた事に返答など出来るようには見えなかったからだ。
そして幽霊は語りを続ける。
『また私の夫や娘のように、誰か生贄にされたのですね‥‥』
『また私のように、息子だけが残されたりしたのですね‥‥』
――っく、この人はきっと王妃だ、
勇者召喚の触媒に、王と娘が生贄になったんだ、、
改めて気付かされる勇者召喚の業の深さであった。
『憎い憎い、私から夫を奪った儀式が憎い』
『憎い憎い、奪っていった勇者が憎い』
『憎い憎い、奪い取った貴族共が憎い』
『そして、息子と引き離し私をここに閉じ込めた奴等が憎い!』
「待て!王族を閉じ込めただと!?」
あまりの想定外に俺は声を荒立ててしまった。
だが、考えられなかったのだ、最高権力者だと思っていた王族を閉じ込めるようなことを出来る権力者がいるとは。
俺の中では、王族が一番の権力者だと思っていたのだ。
しかし、もしかするとそれは勘違いかも知れないと言うことなのだ。
気が付くと、女性の幽霊は先程までの虚ろだった表情は消え、憎しみに染まり切った顔をこちらに向けていた。
俺と葉月を順番に睨み、白く半透明だった体から、赤黒い霧のようなモノを撒き散らしながら両手を掲げる。
そしてその動きに合わせるように、部屋に散乱していた瓦礫が浮び上がって来たのだ。一階の時とは比較にならない数の瓦礫が。
そして女性の幽霊は、先程までは頭の後ろで纏められていた髪を、怒髪天を衝くの如く逆立て、激しい憎しみの形相でこちらを見下ろしていたのだった。
読んで頂きありがとうございますー
因みに、照明のアカリですが、設置型と術者の追尾型があります
宜しければ、感想コメントなどお待ちしておりますー




