勇者召喚されたけど、自分だけが記憶喪失で魔王は倒したあとで色々とハードモードだった。
こんな感じで記憶喪失編続きます~
みんなから現在の状況の説明を受けた。
現在俺は記憶喪失らしく、葉月さんからの聞き取り調査の結果、この異世界に来る直前までの記憶しかないそうだ。
だから葉月と言葉のことは分かるのだが、この異世界で知り合った人のことは誰も覚えていなかった。
ただ、どの程度の記憶喪失なのか調べるために、お金を見せられてこれが食べ物かどうかという判定方法はどうかと思った。
どこの世界にお金を食べ物と勘違いするヤツがいるのかと問いたくなる。赤ん坊じゃあるまいし……
次に、現在の自分の立場を教えてもらった。
俺は魔王を倒すために召喚された勇者で、すでに魔王は倒したあと。
その後はゆったりとした生活を望み、この森の中で暮らしているそうだ。
葉月さんと言葉さんも勇者の一人だとか。
そしてここからが大事だった。結論から言うと俺は童貞ではなかった。
なんと俺は、横に居る美少女さんとわっちゃわっちゃしたことがあるようだ。
その証拠が、大天使にしか見えない幼子のリティちゃんの存在。
なんとリティちゃんは、美少女さんことラティさんと俺の間にできた子供だったのだ。子供ができたということはそういうことだ。
その話を聞かされたとき、俺は咄嗟にラティさんの方を見てしまった。
そのとき彼女は身動ぎした。恥ずかしくて居たたまれない、そんな風に肩を竦め、頬を染めながら俺の視線から逃れるようにした。
もうその動きで分かってしまった。
分かり易く言うと『ピーンと来ちゃった』ってヤツだ。
もうガッツポースだった。もう大喝采だ。もういっちょ大喝采だ。
そしてもう一人の娘モモちゃんは、俺が引き取った孤児だとか。
両親が事故で亡くなり、そのときに居合わせた俺が引き取ったそうだ。
記憶を失う前の俺良くやったともう一度拍手喝采大喝采をした。
他にも様々な説明を受けたが、そんなことは些細なことだった。
そう、俺は童貞ではなく、この美少女さんが奥さんなのだ!
良くやったと心の中で叫ぶ。叫ぶ。超叫ぶぶぶ。
「……ジンナイさん、なんかアホなことを考えてないですかです?」
小学校の高学年ぐらいの女の子がそんなことを言ってきた。
女の子の名前はサリオ、彼女は俺の心をのぞき見たような発言をしてきた。
要はアレだ。勘の良い子供はなんたらってヤツだ。俺はこの丸顔を握り潰したい衝動に駆られる。
だが相手は女の子だ、俺は『静まれ俺の左手』と左手を押さえる。
「ぎゃぼうううう、こめかみがっ、こめかみがあああです」
「――えっ、あれ?」
左手は押さえたが、右手が丸顔をアイアンクローしていた。
何ともしっくり来る掴み心地。ミシミシとする手応えが何とも懐かしい。
「じんないさん、その辺にしてやってやの」
「あ、はい……」
顔面を掴まれている女の子と同じぐらいの歳の男の子が止めに入ってきた。
彼の名前はららんさん。俺は手を離して女の子の顔を解放する。
「まったく、りてぃちゃんの誕生日だからやって来たら、また記憶喪失になるなんてのう。せっかく頼まれてたモン持って来たってのにのぉ」
そう言ってららんさんは木箱を開けた。
その小箱の中には、チョーカーのような物と、革でできた腕輪らしき物が入っていた。その数は全部で4つ。その全てが薄い赤色だった。
「これは……?」
「にしし、これはのう――」
ららんさんは、木箱に入っている物の説明をしてくれた。
チョーカーと腕輪は魔法のような力によって連動しており、身に付けた人がそれを外すと、腕輪の色が少しずつ変わって赤から橙色へと変わるそうだ。
要は、これを身に付けた人同士、何かあったときの連絡手段になる、そういった代物らしい。
元々はラティさんが付けていた首輪だったそうだが、ある一件で千切れ飛んでしまい、それを回収して作った物らしい。
なんでもその革でできた赤い首輪は、俺とラティさんを繋いでいた物だとか。
だからそれを再利用して家族を繋ぐ物を作ってもらったのだとか。
子供の誕生日に良い物を依頼したものだ。
偉いぞ俺と、心の中で自分を褒める。
「……この子は、これが無いときっとこれから苦労しますからねぇ」
「え? それをリティちゃんに?」
「はい、きっと必要になりますから」
ラティさんが、雪の結晶のような飾りの付いたチョーカーをリティちゃんの首に巻いた。
当然ブカブカ。
そのチョーカーは、大人のラティさんが身に付ける物だとばかり思っていた。
しかし彼女は、それはリティちゃんのために用意した物だという。そして残った腕輪を俺とモモちゃんに手渡してくる。
「はい、ヨーイチさん。あとモモちゃんも付けてくださいね」
「はい、お母さん」
「あ、はい」
4人がそれを身に付けると、薄い赤色が濃い赤へと変化した。
きっと機能が発動したということだろう。
「にしし、しっかり発動したようやの。じんないさん、代金は金貨120枚やで、ちゃんと払ってのう。作るのにちょっと苦労したんやから」
「あ、はい……ん?」
何故か頭の中で『否』と警鐘が鳴った。
「……あの、ららんさん。金貨20枚ですよね? 100枚ほど多くなっているようですが」
「うんむ、ちょっと言い間違えたの。らてぃちゃんが言うように金貨20枚やの」
しれっと金額を訂正するららんさん。
その雰囲気から察するに、いまのはわざとだろう。
「さてと、説明とかは終わったみたいだし、今度は何があったのか聞いてもいいかな? ねえ、ラティちゃん」
「あの……はい……」
和やかな笑顔でそう言ってきた葉月さん。
訊かれたラティさんは、俺が記憶を失う前のことを話し出した。
「――何やってんだ俺は……」
ラティさんの説明によると、俺は誕生日のプレゼントを取りに行き、その後記憶喪失になったようだ。
なんでも、世界樹の門松を作ると言いだし、家をあとにしたそうだ。
ちょっと何を考えているのか分からない。なぜ門松なのかと問いたくなる。普通そこは誕生樹だろうと。
子供の成長に合わせて樹を植えると聞いたことがある。
だからリティのために世界樹の苗木を……と。
「何やってんだ俺は……」
「あ、またアホなことを考えているですよです」
俺は、今日二回目のアイアンクローを披露したのだった。
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あと、誤字脱字も……