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帰ってきたよー

お待たせしましたー;

「ふう、やっと着いた……。41日ぐらい掛かった気がするぜ……」


 俺は、シータの村から五日ほど掛けて帰ってきた。

 途中何度が危ういこともあったが、それらは何とか振り切った。

 

「みんな待っているよな」


 目の前には世界樹がある森が広がっている。

 道の横に隠している紐を引っ張り、俺が帰って来たことをラティたちに伝える。


「よし。……いくか」


 ラティたちに会えるのはとても嬉しい。

 ギームルからの依頼で旅立ってからそこそこの日にちが経過している。

 早くリティとモモちゃんを抱っこしてあげたい。当然、ラティも……


 だが――


「うう、ちゃんと話さないと駄目だよな……」


 ラティたちに会えるのはとても嬉しいが、その前にやらなければならないことが一つあった。

 それは、葉月からのキスや告白紛いの件。


 あれを隠し通すことは不可能だ。

 尻尾を撫でれば間違いなく伝わるし、そんなモノを隠して生活していくなど俺にはできない。

 

 だから、まず最初にあの件を話さねばならない。

 とてもとても気まずい。もう『とてとて』ってやつだ。





      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 




「ただいま」

「お帰りなさいませ、ヨーイチさん」

「ぱぱぁあ」

「お父さん、お帰り~」


 彼女たちは総出で迎えてくれた。

 リティを抱っこしたモモちゃんが、とてとてやって来る。


「はい、リティちゃん、いい子にしてた」 

「あぷぅ」


 一生懸命にリティを俺に差し出してくるモモちゃん。

 俺にリティを抱っこしてあげてということだろう。

 それを察したラティが、俺から荷物を何気なく受け取る。


 俺は荷物をラティへ預け、リティを掲げるように抱っこする。


「ただいま、リティ」

「うぶぅ」


 嬉しそうに紅葉のような手を伸ばして来るリティ。

 ペタペタと確かめるように頬に触れ、それに満足したら次は目を狙ってくる。

 

「こりゃ、まだその癖は治ってないのか。このっこのっ」


 目を狙ってきた手を避け、俺は顔をリティへと擦り付ける。

 所謂、お髭チクチク攻撃だ。


 チクチクが嫌なのか、顔を離そうとするリティ。


「やー」

「うりうり~」


 親というものは、何故か子供のリアクションをとても欲しがる。

 何かをしたら取り敢えず反応してほしい。その反応が大きければ大きいほど……つい構ってしまう。


「目を狙う悪い子にはこうだ」

 

 俺は嫌がるリティにチクチク攻撃を続けた。

 イヤイヤと手と顔を振るリティ。しかしさすがはラティの子供とでも言うべきか、イヤイヤと振る手は、的確に俺の目と首を狙っていた。


「もう、この子は。何でこんな狩人民族みたいな――あっぶね」


 さらりと恐ろしい子だ。

 もう少しで右目に指が入るところだった。

 

 俺はチクチク攻撃を止めて、リティを高い高いする。


「どうだ、これで届かないだろ――おわっ!」


 上に持ち上げたら今度はヨダレ攻撃を仕掛けてきた。

 危うく顔に掛かりそうになる。正直、リティのヨダレなら別に構わないでもないが、一応避けておく。と――


「今度は(あんよ)か……」


 本当に元気過ぎる子。油断も隙あったもんじゃない。


 ( だが、それがいい )


「あの、そろそろ家に戻りませんか?」

「あ、ああ、そうだな。入ろうか」


 俺は右手にリティ、左手にモモちゃんを抱え、まさに両手に花な感じで我が家へと向かったのだった。




       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 



 荷を解き、黒鱗装束改を脱いで椅子に腰を掛ける。

 こうして身軽になった俺に、ラティが風呂を勧めてきた。


「ヨーイチさん、お風呂が用意できているので入ってきてください。その間にお食事の用意をしておきますので」

「ラティ、ありがとう」


「ほら、モモさんとリティも一緒に入ってきなさい」

「はぁい」

「あぷぁっ」


 元気に手を上げるモモちゃんと、そのモモちゃんに釣られて手をあげるリティ。いつの間にか真似っこをするようになったのかもしれない。

 

 俺はその成長に微笑みながら、用意された着替えを受け取り、お風呂場へと3人で向かう。


 無理矢理増設した風呂場。

 3人では少々狭いが、それはそれで良しと湯船にぎゅうぎゅうに入る。

 

「おう、おう」

「……オットセイみたいだな」


 まだお風呂が慣れていないのか、上手く呼吸ができていないリティ。

 溺れないように支えているが、不安そうな顔をずっとしている。


「お父さん。リティちゃんは肩に乗せてあげると喜ぶよ」

「へ? こうかな?」


 米袋を担ぐようにリティを肩に乗せる。

 すると、さっきまでは聞こえなかったが息使いが聞こえて来た。


「へえ、こっちの方がいいんだ」

「冷えないようにお湯かけてあげる」


 ぱちゃぱちゃとお湯を掛けて上げるモモちゃん。

 どうやらリティは、あまりお風呂は好きではないのかもしれない。

 お湯に浸かっている面積が少ないほどご機嫌な様子。


――子供によって違うんだな……

 モモちゃんが赤ちゃんのときはかっつり浸かっていたけど、

 リティは腰までが良いみたいだな、




 その後、わっちゃわっちゃとお風呂を出た。

 ホコホコなリティを抱っこして戻ると、そこには料理が並べられていた。

 

「あの、温め直した物ばかりですが……」

「ありがとう」


 落ち着いて食事を取れることにホッとする。

 ここ最近はサバイバルだった。シータの村で分けてもらった干し肉とパンをかじりながらの旅。  

 温かい食事は心を豊かにする。


 俺は料理を速攻で平らげた。

 そこまで量があった訳ではないが、非常に満たされた。


「……あの、そろそろ話してください。モモさん、リティと一緒に部屋に」

「……はい」


 何かを察したかのように、素直に従いリティと一緒に寝室へと向かうモモちゃん。


 俺はここで『はて?』と思う。

 モモちゃんには一人部屋を与えて、そこでいつも一人で寝ている。

 よく分からないのだが、狼人にはそういう風習があるらしい。

 子供が親と一緒に寝るのは赤ちゃんのときまで、4歳を超えると一人で寝るようにするのだとか。


 普段ならば、俺たちの寝室にリティを寝かし、モモちゃんは自分の部屋と向かうはず。なのに一緒の部屋へと……


 まるで、俺から隔離されたかのように……


「そろそろ、宜しいですか? ご主人様」

「――っ」


 ラティがご主人様と呼ぶときは怒っているとき。

 

「あの、いつもだったらすぐに尻尾に触れてくるはずです。特に長い間離れた後は……」

「あ……」


 普段と違う行動で怪しまれたようだ。

 こういったことには察しの良いラティさんだ。きっと気まずい何かがあると察したのだろう。


「……実は――」


 俺は素直にゲロった(話した)

 葉月とのやり取りを、尻尾を撫でながら全て話した。



「あの、わたしは怒っております」

「……はい、不意打ちとはいえ、キスをされてすいませんでしたっ」


 話している途中で機嫌が悪くなっていたことには気が付いていた。

 だが全て話し終えるまで待ってくれた。


「あの、ご主人様。わたしが怒っているのはそこではありません。確かに口づけをされたのは……少々納得いきませんが……怒っているのはそこではないのです」

「へ? えっと……じゃあ?」


 怒っているのはそれだと思っていた。

 もし逆の立場だったら絶対に嫌だし、した相手を八つ裂きにしたあと消滅させる自信がある。


「……わたしが怒っている……。嫌なのは……その、あの……隙を見せたことです。それが許せません」

「はい? 隙? いや、あれは不意打ちだから……」

 

「ご主人様、貴方の不意を突ける者がそうそうおりますか? まず無理です」

「え、でも……実際に……」


「いえ、ご主人様は、その不意を突ける隙を見せていたのです。相手の前で目を閉じるような不用意な真似は絶対にしません。……もしするとしたら、それは真に信用、もしくは心を許している者だけです」

「あ……」


「ご自覚はないようですが、それだけハヅキ様に心を許していたということです。わたしは、それが許せません。だから罰を与えます」



 その後俺は、約三日間ほど寝室を追い出された。

 寝る場所はモモちゃんの部屋で、俺の代わりにモモちゃんが俺たちの寝室で寝ることになったのだった。

読んでいただきありがとうございます。

宜しかったら感想などいただけましたら幸いです。


582話、『穿つ』を加筆修正しました。

よかったら読んでください~ラストバトルで3000文字ほど追加しました


あと、新作書きました。

https://ncode.syosetu.com/n4986fw/

下にリンク先を張ってあります【勇者召喚の後 囮王子と狼人の少女 】

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― 新着の感想 ―
[一言] 葉月推しには嬉しい1話です!このまま頑張って欲しいですね 次の更新はいつ頃でしょか?
[気になる点] (僕は韓国人です。日本語が下手なので、ご了承ください。) ラティも今、葉月と言葉の状況を理解し、彼女たちを受け入ればいいのですが....... しかし、この世の中に奇襲的にキスを避…
[一言] 悪い唇は噛み千切ればいいと思います
2019/11/26 23:04 退会済み
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