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デート・ミッション・デス

お待たせしましたー

 その日の夜、俺は公爵家の離れの部屋で自問自答した。

 

 デートは浮気になるかどうかと。

 答えはマッハで出た、どう考えても浮気だ。

 何もしていないからセーフをいう言い訳は通用しない。


 はい、アウトです。


 だが、デートに応じないという選択肢は浮かばなかった。

 今回の件は、俺が葉月に返すべき溜り溜まった借りなのだ。

 さすがに『一夜を~』などいったモノなら速攻で土下座だが、そうではない。


 これは葉月が用意してくれた落し所と言ってもいい。

 アイツのことだ、俺が要求を呑めるギリギリのラインを攻めてきたのだろう。

 

 一緒に買い物に行って欲しいという言い方だってあったはずだ。

 しかし彼女は、『デート』と明確に言ってきた。これは、単なる買い物だという言い訳が使えないことを意味した。


「はぁ、ラティに何て説明すれば……」


 俺がラティに謝る(報告する)ことも折り込み済みだろう。

 葉月の意図と真意は分からないが、取り敢えず俺にできることは、今回の『デート』というミッションを無難にこなすこと。


 決して余計なことはしない。

 ただ淡々と買い物をこなすのだ。

 そう、余計なことは一切してはならない。

 手を握るなどといった接触も厳禁だ。

 

 そしてその後は、無事に帰還すること。


 今日はまだバレていなかったが、あの嫉妬組(連中)はそんなに甘くない。

 明日深淵迷宮(ディープダンジョン)は封鎖されている。

 調査が終わるまでいったん封鎖して、原因をしっかりと把握する必要があるとギームル(ジジイ)が言っていた。


 だからヤツらにとって明日は休日。

 部屋に引き込んでいるような連中ではない。

 間違いなく街へ、階段へと繰り出すだろう。


 デートがバレずに済む可能性は限りなくゼロ。

 

「………………明日はフル武装で行くか」


 明日着ていく服装が決まった。




         閑話休題(翌日!!)




「じゃあ、行こっか」

「ああ」


 待ち合わせ場所で落ち合うと、葉月は笑顔で居た。

 彼女の服装はいつもの法衣ではなく、白を基調した袖無しのワンピース。

 相変わらず清楚さがすげえ似合う、そんな感想が浮かぶ姿だった。


「ふふ、これを被ればバレ難くなるんだって。そういった効果があるんだって」

「ん? ららんさん作?」


 『うん』と言ってつば広の麦わら帽子を見せてくる葉月。

 ワンピースとのコーディネイトに合わせたのであろう麦わら帽子は、確かに深く被れば顔が見えづらい。


 そしてららんさん作ということは、認識阻害系の付加でも掛けてあるのだろう。


「どこから行こっか?」

「……取り敢えず適当に歩こう」


 すっと差し出された手に気付かない振りをして、俺は適当に歩き始めた。

 出来るだけゆっくりと歩き、葉月が追い付いて来るのを待つ。


「……うん、最初から上手くいかないことは分かっていたしね。でも、覚悟してね陽一君」


 何やら物騒な言葉が聞こえた気がしたが、俺は全力で気付かない振りをした。




        ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 

 

 


「ふっふふ~ん♪」

「……ご機嫌のようで」 


 葉月は笑顔でこのデートを楽しんでいた。

 鼻歌を歌いながらブンブンと手を振っている。


「うん? どうしたの陽一君?」

「いや、何でもねえ。……そういやさ、シキたちは今日なにやってんだ? 普段アイツらっていつも一緒に居るんだろ?」


「ん~~~、どうだろ? 今日は陽一君とデートだからって控えてもらったから」


 なかなか残酷なことをやっている葉月さん。

 信者のシキは平気かもしれないが、他のメンツは堪えただろう。

 嫉妬組に入団(闇堕ち)しないかと心配になってくる。


「あっ! つぎはあのお店ね」

「ん、了解」


 大通りに面した土産物屋へと入る。

 何かの木彫りや、ちょっとしたアクセサリーなどが置いてあった。

 

「ん~~、モモちゃんにコレなんてどうかな?」

「へ? モモちゃんにはまだ早くねえ?」


 葉月が手に取って見せてきたのは、花を模した綺麗なブローチ。

 花弁の所が青い硝子のようなモノで作られており、俺の感想としては、大人でも付けることができるデザイン。むしろ大人向けだ。


 まだ子供のモモちゃんには早いと思う。

 こうした大人びた物よりも、もっと子供向けのデザイン(モノ)の方が良いと思えた。


「なあ、こっちの方が良くねえ?」


 俺が手に取ったのは猫の顔を模したブローチ。

 木で作られているので割れるなどの心配も無さそうな一品。

 まだ子供のモモちゃんには丁度良いだろう。


「陽一君、モモちゃんを子供だって思っているでしょ?」


 ちょっと真面目な顔をしてそんなことを言ってくる葉月。

 俺は半眼で葉月に聞き返す。

 

「いや、モモちゃんは子供だろ? つい最近会ったよな」

「もう、そういうことじゃないの。モモちゃんは確かにまだ子供だけど、それと同時に女の子なの。だからこういうのも持っていないと駄目なんだよ」


「……はい?」


 疑問しか浮かばない俺に彼女の説明は続いた。

 男の俺にはよく分からんことなのだが、女の子というものは、年相応のモノに囲まれたままではいけないそうだ。

 

 可愛らしいモノを集めるのは良い。だが、それだけでは駄目。

 少し背伸びをした、そういったモノを持っていた方が良いのだとか。


 懇々と説明を受けたが、やはり分からない内容だった。

 確かに葉月が言うように、幼い感じの物をずっと身につけているのはどうかと思うが、モモちゃんはまだ子供なのだ。


 センスの伸びしろがどうだとか言っているが……


「……陽一君、その目は分かってないでしょ」

「……」


 分かったような分からなかったような、そんな思いを込めて目を逸らす。


「もうっ。あ、店員さん、コレとコレを下さい」

「はい、こちらです――え?」


「はい、そうです。……あと、内緒でお願いします」


 人差し指を口に添えて微笑む葉月。

 それを見てコクコクと首を縦にする店員の女性。


 どうやら店員の女性は、麦わら帽子の女性客が勇者葉月だと気付いたようだ。

 一瞬固まってしまった女性店員だが、すぐに再起動をしてテキパキと動き出した。


 代金を払い商品を受け取った葉月は、それをそのまま俺に手渡してくる。


「はい、モモちゃんとリティちゃんのお土産」

「あっ、金払う」 


「これぐらいいいよ」

「いや、でも……」


「じゃあ、次のお店でおごってね」

「……わかった」


 完全にペースを掴まれた俺。

 店員の女性がマジマジと俺のことを見ている。


「――ッ、次の店に行こう」

「うんっ」


 店員の視線に耐え切れず撤退を選択した。

 スッと自然に差し出された右手を握って、俺は葉月と店を出た。

 そして気付く。


「――あっ」


 逃げ出したい一心で土産物屋を出たが、俺が取った行動はアウト。

 さり気なく手を緩めてみたが、葉月は握られた手を離すつもりはない様子。

 しかもそれどころか、力を緩めれば緩めるほど強く握り返してくる。


 心の中で『小手だからセーフ』と連呼する。

 そう、直接触れている訳ではないのだからセーフだ。誰が何と言おうとセーフだ。セーフだったらセーフだ。


 これが素手だったらアウトかもしれないが、小手の上からだから絶対にセーフ。


 ( ラティさん、セーフですよね? )

 

「あっ、あのお店がイイ」

「……あいよ」


 テレパシーを飛ばしていたが、話し掛けられたので中断する。

 そのまま彼女に手を引かれる形で街の中を歩き、目的の店へと向かった。

 もしこの麦わら帽子が取れたら絶対に大騒ぎになるだろう。

 

 やはり手を離すべき――と思ったのだが。


「ちょっ!?」


 葉月の左手が不穏な動きを見せた。

 しっかりと帽子を押さえるべきなのに、何故か帽子を取りそうな仕草をチラチラと見せている。


 まるで、『手を離したら帽子を取るぞ』的な、そんな雰囲気が彼女から伝わってきた。


「くそ」


 俺は無言の脅しに屈した。

 こんな所で正体をバラされたら堪ったもんじゃない。

 普段、葉月には護衛がついている。シキたちが葉月を囲うように守っているので一般人はなかなか近寄れない。


 そんな聖女の勇者さまが、護衛なしで街の中にいるのだ。

 絶対に注目を集めるだろうし、そうなれば嫉妬組(ヤツら)に知られる。

 

 もし手つなぎ(このこと)がバレたら、ヤツらは俺の腕をもぎ取りに来るだろう。

 聖女さまの手を握った腕には制裁をと、そんなことを宣いながら絶対にもぎに来る。そして反対の手も連帯責任としてもがれるだろう。


 ヤツらはそういう連中だ。


 ( くそったれっ、これはマズい )


 俺は恐怖した。

 ノロイ・タイプツーにやられた腕がまたもがれるかもしれない。

 しかも今度は両腕。


「――っ!!!!!!!」


 視界の先に、深淵のような瞳をした男が立っていた。

 仄暗く、光を飲み込む深い闇のような、そんな目が繋いだ手を凝視していた。


「うん? どうしたの陽一君?」

「い、や、何でもない……。早く店に入ろう」


 俺は葉月を促して小洒落た店に入る。

 喫茶店らしき店には女性客が多く、ヤツらが突入してくることはないだろう。

 

「実はここに来たかったんだ」

「芸能人みたいに、有名過ぎるってのは大変だな」


 葉月と会話を交わしているが、俺の意識は外へと向いていた。

 ヤツらに特殊な連絡方法があるので、半時もすれば俺は包囲されるだろう。

 

 さすがにすぐ襲われることはないと思うが、周りに人が居ない場所へと行けば即座に襲ってくるはず。


 いま俺にできることは、一般人を盾にしてやり過ごすこと。

 卑怯だとは思うが、この方法しか助かる道はない。

 

 綺麗ごとだけでは生きていけないのだ……

 

「――ねえ、陽一君。聞いてる?」

「あっ、ああ……」


 聞いていなかった。

 そんなことは当然葉月にも伝わっているはず。

 だがそのことを追求する彼女ではない。


「もう」

「あ~~、うん……」


 再び話を始める葉月。

 彼女が話す話の内容は、聖女あるある的な苦労話だった。

 気軽に外へ出られないし、気軽に買い物もできない。

 要は、なにやるにも色々と大変なのだとか。


 そして数少ない癒やしともいえる場所。

 孤児院への慰問が最近きな臭くなってきたと話してきた。

 基本的に子供たちは無邪気、だが最近はそれが変わってきたそうだ。


 それはまるで、子供たちが誰かから指示を受けて接してくるような……と。


「ん~~、教会が裏で動き始めたってことか……」

「うん、たぶんそうかな」


 察しの良い葉月のことだ。

 無邪気な子供と、指示されて動いている子供の違いに違和感を覚えたのだろう。


 また面倒なことに、と思いながら外へと意識を向ける。

 【神勘】がガンガンと警鐘を鳴らしている。

 

――やべえ、SPがゴリゴリ減ってんぞ、

 一体何人集まってんだ?

 俺にも【索敵】か【心感】があれば……



 ふと、ラティのことを思い出した。 

 彼女が居ればすぐに状況を掴めたし、突破のためのルートも見つけられる。


 ( あっ! ラティの土産を忘れ――っむ!? )


 【神勘】が最大の警鐘を鳴らした。

 いますぐに前を向けと、【神勘】が俺にそう告げていた。


「陽一君、何か別なことを考えていたでしょ?」

「あ……」


 聖女の勇者葉月が、先程とは比べ物にならないほど、真剣な表情で俺のことを見つめていたのだった。

  

読んでいただきありがとうございます。

すいません、更新が滞っており……

本当に申し訳ないです。

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