やっと戦闘?
仮面を付けて葉月の守りについた俺たち。
その周囲をさらにシキたちが固めた。
普通の冒険者はもちろん、【トレプ~】のメンツも葉月には近寄れない状態。
「なんか大袈裟になっちまったなぁ……」
俺は、自分がもう簡単に戦うことができなくなったことを実感する。
当たり前のことだが、魔王を倒したことによって取り巻く環境は大きく変わってしまっていた。
一言で言うならば『面倒』。
この一言に尽きる。
そもそも、仮面やステータスを偽る付加魔法品を使ったとしても俺が陣内陽一であることはバレバレだ。
面識がないヤツには気が付かれないかもしれないが、そうでない者には普通にバレる。
だというのに、そういった配慮が必要なのだと言われた。
そして出て来た言葉が、配慮したことによる配慮というパワーワード。
俺の素性隠しは、一部の、本当に面倒な貴族たちへの配慮だった。
大っぴらに勇者たちを使っていない。
こうやって顔を隠すことを頼んでいる。
こうした配慮をするのだから配慮して欲しいとのメッセージだとか。
もうよく分からん。本当にもうグチャグチャだ。
表立って勇者を使うと駄目だが、一応隠しているのだからセーフ。
だから勇者を使っていないことにして欲しいとの願い。
もしこれに文句をつけてくる相手がいたら、それなりに痛い目をみるかもしれないよ的な態度で行くらしいのだとか。
顔と名前を隠すことに様々な意味を持たせすぎだ。
「本当に面倒になった……」
気軽に魔石魔物狩りをするつもりで来たが、どうやらそう簡単ではなくなっていた。
魔物大移動のときの依頼なら良いみたいだが、自分の意思で参加する場合は違うのだろう。森に籠もっている間に時代は大きく動いていた。
「ねえ、ジン君。何を考えているの?」
「――うぉい!!! だからっ!?」
再び俺の腕にしがみついてきた葉月。
天幕のときとは比較にならない程の視線が俺に突き刺さる。
これはマズいと引き剥がそうとしたが――
「ふふ~ん」
「……てめぇ、葉月」
そんなことはとても出来そうにない雰囲気。
嫉妬と殺気にまみれた視線がザンザンと突き刺さる。
しかしこちらからちょっとでも触れようものなら刺されかねない気配。
『六刺しEND』などヌルいぐらいの惨劇になりそうだ。
そんな状況だというのに葉月はどや顔で、口を『ω』みたいな感じにして俺を見つめていた。
色々と計算し尽くされたかのような愛らしい笑み。聖女の勇者という肩書きがなくても大半の男はコロッと逝くだろう。
少なくとも周りに居る連中はほぼ全員が見惚れている。
そして同時に俺を睨めつけている。
「守ってくれるんだよね~」
「ぐっ、上杉、これ何とかならねえか?」
「あん? ああ……別にいいんじゃね?」
一瞬意外そうな顔をした上杉だが、すぐに興味をなくしていた。
いまの上杉は嫉妬とかしないタイプなのかもしれない。
「葉月、マジでヤバいからちょっと離れてくれ。お前わかってんだろっ」
「ん~~、どうしよっかな~」
とても楽しそうな彼女は、あろう事か身体をもっと寄せて来やがった。
『ふふん』といった顔で俺を見上げる葉月。彼女の上目遣いの破壊力は本当に半端ない。
これ以上、上がることはないと思っていた嫉妬と殺気が膨れ上がった。
『嫉妬殺気』と言う四字熟語が爆誕しそうな勢い。
「いや~、すげえ『嫉妬殺気』だな。ジン」
「お前が使うんかいっ!」
「そうとしか言いようがないだろ? これは……なあ?」
そんなことを楽しそうに宣う蒼月。
ニヤニヤとした笑みではないが、明らかに楽しんでいる顔だ。
「ちょっとはフォローしろよ」
「ん? 自分がフォローするのは司だけだよ。今回だってどうせ突っ込むだろうからな。他に構っている余裕はないよ」
「おう? なんか言ったか?」
『いや、何も』と言ってはぐらかす蒼月。
この二人の仲は本当に最初の頃から全く変わっていない。
「ん? あれ?」
ふと柊のことを思い出した。
確か彼女は蒼月と共に行動していたはず。
「なあ、蒼月。確かお前って柊と――」
「お? そろそろ行こうか」
「へ? ちょ、待った。だから柊は――」
「急ごうぜ、待たせているみたいだからな」
蒼月に強引に促され、俺たちは深淵迷宮へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
深淵迷宮の入り口にはすでに何人も待機していた。
最終点検でもしているのか、何かを綿密に打ち合わせをしている。
「ジンナ――いや、ジン。いいか、お前は基本的にハヅキ様の護衛だ。ただ、白いヤツをやれると思ったら行け。その判断は任せる」
「鉄砲玉かよ俺は。まあ、白いケーキ野郎をやらないと収拾がつかねえか。そんときは葉月を頼みますよ、レプさん」
俺は今回の作戦を思い起こす。
攻撃は基本的に、距離を取った状態での放出系WSがメイン。
深淵迷宮は比較的に広い方のダンジョンではあるが、何十人も横に並ぶことはできない。近接で前に出て戦うとなると6~7人が限界だ。
それ以上増やすと窮屈になって碌に動けない。
だから放出系WSで魔物の数を削り、放出系が通用しないヤツが前に出てきたときに限り近接組が向かう。
これを基軸にWSでゴリ押し予定。
SP枯渇を防ぐために、放出系WSを放つ者はローテーションで回していく。
問題があるとすれば、相手に白いケーキ野郎がいること。
魔物は統率がとれた動きをしてくるだろうし、何よりも特殊攻撃的なモノを放ってくるようになる。
狼型なら黒い炎のブレス。
巨大な死体魔物なら死体魔物の呼び出し。
いつも通りの対応では痛い目をみるだろう。だから……
「うん? どうしたの陽一君」
「――がっ!? だっから、必要以上に寄るなって」
今回の戦いでのキーマンは葉月。
ブレス系が来たら彼女に障壁を張ってもらう予定。
死体魔物の場合は聖域系の魔法を唱えてもらうつもり。
他にも、放出系組の入れ替えの声掛けも葉月の仕事だ。
なのでふと葉月を見ただけだったのだが、彼女はすぐにそれに気が付いて声を掛けてきた。しかも甘く囁くように、俺の耳元に顔を寄せて尋ねて来やがった。
名前を元に戻しているのはワザとだろう。
レプソルさんを埋めた後は俺の番かもしれない。
嫉妬殺気が止まらない。
「……シキは、普通なんだな」
「うん? おらぁ?」
嫉妬殺気が降り注ぐ中、葉月の信者シキだけはいつも変わらなかった。
静かに凪いだ目のままで、ただ黙って葉月を見守っていたのだ。
「おらの望みゃぁ、ハヅキさまのあんねいだがよ。こげに嬉しそうなハヅキ様を見て心が安らぐよ」
特定のセリフだけは流暢に喋るシキ。
コイツはマジで信者なのか、嬉しそうにしている葉月を見て自身も幸せを感じているようだ。
「……何かすげえなお前。だから葉月は……」
( お前が側にいることを許してんだろうな…… )
「んだら?」
見た目とはギャップのある返事をしてくるシキ。
コイツを五神樹にしたヤツは、ある意味見る目があったのかもしれないと思えてくる。
「俺が突っ込んだときは、葉月を任せたぞ」
「ああ、任せてくれ。おらがちゃっちゃり守んべさ」
こうして俺たちは、多少わっちゃわっちゃしたが、魔物討伐に深淵迷宮へと入って行ったのだった。
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あと、誤字脱字も……