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ずっこけ3匹

誤字脱字報告、本当にありがとうございます。

まさかあんなに多いとは……

 彼女は周囲の視線を一身に集めながらやってきた。

 男の理想を凝縮したような、そんなふんわりと柔らかい笑みを浮かべた葉月が俺たちの前にやってきた。


 リティと遊んでくれているときには見せない、格を感じさせる凄み。

 ありふれたベタな言い方になるが、何とも言えぬ雰囲気(オーラ)を纏っているというヤツだ。これは余所行きようの葉月だ。

 

 俺はそれに少々気圧されながら尋ねる。


「葉月、何だよ、その……さっきの……ヤツは」

「うん? ジン君って呼び方?」


「……ああ、それだ」


 俺はその呼び方に妙な違和感を覚えた。

 何かが引っ掛かるといった、そんな嫌な予感を感じた。


「――にししっ、取り敢えず訳はあっちで話そうかの。じん(・・)さん」

「え!? ららんさんまで!?」


 葉月と一緒にやって来たららんさんに促され、砦内にある天幕へと向かった。

 そして周囲をガッチリとガードされている中で、俺が『ジン君』の理由と、上杉が出してきた黄色い猫のお面のことを教えてもらった。


 まず、俺が『ジン君』の理由。

 それは、『陣内陽一』が戦闘に参加するとよろしくないからだ。

 

 俺はノトスの街から去ることで煩わしいゴタゴタを回避した。

 そんな俺が深淵迷宮(ディープダンジョン)でアライアンスを組んで戦うということは、例の問題が再燃することになる。

 俺は冒険者とパーティを組んではならないのだ。


 だからこの場に居る者は、『陣内陽一』ではなく『ジン』と言う名の者。

 黄色い猫のお面はそれに関係するモノ。

 要は、顔を隠して『ジン』と言う名の傭兵になれということだ。


 いつの間にか俺は、ただ戦うだけでも政治問題を引き起こす存在となってしまっていた。

 上杉たちが顔を隠しているのも同じような理由だ。


 何かしらの手続きや要請といった、そういった形が残るモノがないと色々と面倒になるそうだ。


「――でもよう。【鑑定】一発でバレんだろ?」


 この異世界(イセカイ)では顔を隠した程度では効果は薄い。

 【鑑定】という、非常に便利なモノをほぼ全員が持っているのだから。


「にっしっし。こ~んな事もあろうかと用意してあるのう」

「へ? 指輪……? いや、付加魔法品アクセサリーか!!」


 いつもの嗤い(笑み)で指輪を手渡してきたららんさん。

 その指輪には紫色の石がはめ込まれていた。


「そそ、それはのう、じんないさんから買い取ったあの魔石を使って作ったものよ。そんでそれを装備するとアラ不思議、なんと名前が変わるんよ」  

「また物騒なモノを……」


 再び説明を受ける。

 ららんさんから渡された紫色の石がはめ込んである指輪は、ステータスを偽装する付加魔法品アクセサリーだった。


 本来、ステータスを偽る行為は処罰対象。

 当然こういった付加魔法品アクセサリーは、制作者も使用者も捕まるかなり重い罪だそうだ。


 しかし例外がある。

 その地域のトップ、要は公爵が認めた場合に限り罪に問われることはないそうだ。

 ノトス公爵であるアムさんは、こういった事態に備えてららんさんにステータス偽装の付加魔法品アクセサリーを依頼していた。


 そして今、それが俺の手にあった。


 指輪の内側に、アムさんの名前と刻印らしきモノが刻まれている。

 きっとこの刻印が違法品ではないことの証明になるのだろう。


「なあ、じゃあ何で葉月にはお面とかねえんだ? 同じ勇者だろ?」

「じんないさん……馬鹿なの? ハヅキさまの顔を隠すとかしたら暴動が起きるやろ。全く、そんなことも分からんのかのう」


「俺らと扱いが違い過ぎんだろ……」



 追加で軽く説明を受けた。

 今回の騒動はなかなかの問題。だがしかし、勇者を4人も動員するほどの問題ではないそうだ。

 そもそも、勇者を3人以上集めるということ自体が妬みの対象。


 早い話が、貴族版の嫉妬組が黙っていないそうだ。


 『勇者を沢山も、ぐぬぬ……』となるのだとか。

 もう勇者たちは公の場では集まることすら困難になっていた。


 世界樹がある森といった、人目につかない場所でないと駄目らしい。

 何というべきか、俺は”森”が万能過ぎることを知った。密会、暗殺、逃走、スローライフと何でもできる場所だったのだ。


「――つ~~ことだ。陣内、ほらよ、これを被れ」

「…………いや、自前のを使う」


「あん? 自前のって……そりゃあ狼か?」

「ああ、狼だ」


 俺は、大司祭の一件で使った仮面を取り出す。

 少し迂闊な行動かもしれないが、正直言ってこの猫のお面は嫌だ。

 語尾に『ニャ』を強要されそうな、そんな愛らしいお面だった。これを被って戦うなどシュール過ぎる。


「ちっ、まともなヤツを持って来やがって」

「おい、上杉。てめえ、俺を笑いモンにするつもりだっただろ」


 知らんし~っといった感じで目を逸らす上杉。

 

「よし、話は終わったようだし、そろそろ決めようか」

「ん? 何を?」


 蒼月が唐突に会話に入ってきた。

 ヤツはそのまま何気ない口調で続きを言う。

 

「もちろん、あだ名だよ」

「は? あだ名って……何でさ?」


「え? だって自分たちは仮面を付けて3人で戦うんだろ? だったらあだ名は必要だろう? ほら、自分たちは”3匹が突く”なんだし」


「うぉいっ! 何だよその名前は!」

「う~~ん、司は……上杉だから……上様とかかな? 陣内は……(つばくろ)な陣内で~~ツバクロかな」


「――ざけんなっ、何で俺がネタ枠なんだよ! いや、確かに槍は使ってけどよう」

「自分は千石でいく」


「てめえ、自分だけ格好いい枠かよ! おい、上杉っ。何で大剣を用意してんだよ。斧はどうした、大斧がお前の武器だろうが!」




          閑話休題(わっちゃわっちゃ)

  



 取り敢えず名前は決まった。

 そもそも、付加魔法品アクセサリーを使って名前を偽るのだから、それ以外の名前を使う訳にはいかなかったのだ。


 俺は『ジン』、上杉は『ウエ』、蒼月は『アオ』となった。


「ったく、お前らは」

「おう、オレは赤影、青影、黒影がイイと思ったんだがよう」

「何かもっと古いのを出して来たな、司」


「はいはい、えっと……【3匹が突く組】でしたっけ? 勇者さまたちはハヅキ様の護衛ですからね。頼みましたよ」


 また脱線しそうなった俺たちを諫めるレプソルさん。 

 だが待って欲しい。その呼び名な正式に決まってねえっ。


「レプさん、俺たちは――」

「――私を守ってね、ジン君」


 そう言って俺の腕にしがみついてきた葉月。

 天幕内の室温が一気に上がった気がする。

 そして何よりも、室内が殺気と嫉妬で満ち溢れ始めた。


「「「「「「――――っ!」」」」」」」


 5Gぐらいの速度で交わされるハンドサイン。

 並のヤツなら見逃してしまう程の速度で情報がやり取りされていく。


「――っ!!! おいっ! 今のをラティにチクるのは無しだろ! なに『ちょっと話を盛って送ってやろう』だ! だからっ、手紙を送ろうとか相談すんじゃねええ!!」


――っふざけんなよ、コイツら!!

 ラティさんが機嫌を損ねると大変なんだぞ!

 何か昔みたいな感じで素っ気ない感じなるし、それがリティに伝染するし、

 マジで味方はモモちゃんだけになるんだぞ!!



 そう、ラティさんを怒らせると大変なのだ。

 その怒りはラティだけで収まらず、【心感】持ちのリティに伝染する。

 『あぶぶっ』と言って顔を背けられたときの絶望感は半端ない。うっかり槍を胸に突き刺して自害するところだったのだ。


 もしあのときモモちゃんが慰めてくれなかったら本当に危ないところだった。

 大人が五歳児に慰められるのはどうかと思うが、それぐらいヤバかったのだ。




         閑話休(超わっちゃわっちゃ)(した)




「はぁはぁ、はぁ……阻止してやったぞ……」

「ジンナイ、何で戦う前に消耗してんだよ。あと、ウチの連中も」


「それはアイツらに言ってくれ。まあ、SPはまだ半分ぐらいは残っているから平気だ」

「馬鹿かっ! 何で関係ねえ場所でそんなに消耗してんだよ。――ったく」


 そういってSP回復の魔法を掛けてくれるレプソルさん。


 確かに少し消費し過ぎだったかもしれない。

 しかし【加速】と【迅閃】の同時発動は燃費が悪いのだ。同時に発動させるとゴリゴリSPが減っていく。


 SPを長い間持っていなかった俺はSPの使い方が下手。

 これは今後の課題かもしれない。


「本当に全く。じゃあ行きますよ」

「ああ」



 こうして俺たちは、天幕から出たのだった。



 因みに、俺と嫉妬組が休戦できた理由は、あとでレプソルさんを埋める協定を結んだからだ。

 どうやら裏切り者であるレプソルさんは、兎人のミミアとやったらしい。


読んでいただきありがとうございます。

よろしければ感想など頂けましたら嬉しいです^^


あと、誤字脱字も……

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