騒動
遅れましたー
ノトスの街では、一ヶ月に一回程度の割合で超巨大な”アカリ”が打ち上げられるらしい。
月に一度のちょっとしたサプライズ。
夜だというのに昼間のように明るい、そんな日を提供しているのだとか。
街の住民はその明かりに誘われて、いつもとは違う日を過ごす……。要は、明るいからはしゃげ的なヤツだ。意外にもそれはわりと好評らしい。
しかし本当の理由は別にあった。
その”アカリ”は、ある合図を隠すためのカモフラージュ。
三つの超巨大な”アカリ”。
それは、深淵迷宮で不測の事態が発生したときの合図。
合図の意味を知っている者だけが速やかに行動に移す。
街の住民には不安を与えないという配慮らしい。
因みに、カモフラージュのときは街全体をカバーするように四つのアカリを打ち上げるそうだ。
三つの超巨大な”アカリ”を見た俺たちは街に入らず、そのまま深淵迷宮がある街外れの砦へと向かった。
「ジンナイ!? いいところに来た――いや、お前が来たからこのトラブルが発生したのか? いつも面倒ごとを起こすなお前は」
砦の中にいたレプソルさんは、俺の姿を確認するや否や冗談めかしに失礼なことを言ってきた。
周りのヤツらが一斉に、『あ~~』みたいな目で俺のことを見る。
全く身に覚えがない訳ではないのだが、今回の件は完全に濡れ衣だ。
格好いい言い方をするのならば、俺は悪くない。
取り敢えず視線を無視して先を促す。
「…………で、どういう状況です?」
「ああ、最悪から2~3歩横に逸れた感じだ。クソうぜえことにな」
「なるほど……」
緊急事態における最悪の状況とは、ダンジョンから魔物の群れが出てくること。
これだけは絶対に阻止しなくてはならない。
では、最悪から2~3歩横に逸れた状態とは何を指すかと言うと、魔物の群れが意図的に出て来ない状態のことだ。
普通ならば魔物は、逃げる冒険者を追って地上へとやってくる。
ならば俺たちは、それを待ち構えて迎撃すればよい。
過去に何度かそうやって撃退したことがあるし、この戦法はとても有効だった。
だが今回は――
「こっちから行くしかねえってことか。あと、誘き出されて外に出て来ないってことは……」
「ああ、間違いなくいるな。――あの白いヤツが」
「くそったれっ」
「チラッとだけだが、ヤツを目撃したってのが何人も居る」
通称白いヤツ。
名前が固体ごとに違うので、冒険者たちからは『白いヤツ』と呼ばれている。
因みに俺は”白いケーキ野郎”と呼んでいる。
「かなり面倒なヤツだが……まあ、不幸中の幸いってヤツだな」
「へ?」
「実はな――」
レプソルさんから不幸中の幸いの理由を聞かされる。
現在このノトスには、勇者上杉、蒼月、そして聖女の勇者葉月が居るそうだ。
連絡はもう行っているので、そのうちやって来るだろうとのこと。
そしてそこへ俺がやって来たのだ。
戦力だけは十分に揃っている、何なら魔王が相手だろうと戦える戦力だと、レプソルさんはそう言ってきた。が――
「一個だけ問題がある。暴れている魔物の中に亜種がいる」
「――はああああ!? おい、亜種ってあの亜種か!?」
「ああ、そもそも今回の暴走の切っ掛けとなったのは亜種だ。どっかの馬鹿が亜種を湧かしやがったんだ」
「マジか……」
詳しく訊かなくても今回の騒動の流れが分かってしまった。
倒せないのに魔石魔物亜種を湧かしてしまい、それから逃げ惑うことで他のアライアンスを巻き込んだ。
そして巻き込まれたアライアンスが置いていた魔石から次々と魔石魔物が湧いて、最終的に手が付けられない状態へと……
魔石魔物狩り事故のテンプレだ。
どうして今さらそんな事故が起きたのかと思っていたが、亜種が原因ならば納得がいく。
そもそも、危険だった魔石魔物狩りが安定するようになった理由は、魔石魔物の倒し方や対処方が明確になったからだ。
それまではドタバタとただ集団で相手にする、そんな戦い方だった。
それをハーティが倒し方を確立させて周りに広まっていった。
だから安定して倒せるようになったのだ。
しかし亜種はそれを飛び越える。
マニュアル通りでは対処できない、そんな魔石魔物だ。
決して気軽に湧かして良い相手ではないし、勇者の仲間たちでないとかなり危険な魔物。だというのに……
「何で湧かしたんだよ――」
――アホかよっ!
亜種に旨みは少ねえだろうがっ、
経験値だってそこまで多いとは思えねえし、
魔石だってそこまで……ったく、何が目的だ?
戦闘の訓練相手には良いかもしれないが、金を稼ぐことが目的の冒険者たちには関係ないはずだ。
強くなろうと、そう意識の高いヤツがいないこともないが、
「意味が分からん。何でわざわざ亜種を……」
「ジンナイ、多分だがな………………箔を付けるためだ」
「へ? 箔って……まさか……?」
「ああ、そのまさかだ。魔石魔物亜種を倒したって言いたかったんだろうな。ほら、いま聖女様が来てるだろ? だから……な」
「アホかっ! 葉月にアピールするために目立とうとしたってことか!? 『ボクは亜種を倒せるほどだぞ~』って、言うつもりだったてのかよ」
「……だろうな」
そう言ってそっと目を逸らすレプソルさん。
「馬鹿かよ! いや、馬鹿だ。ちょっとそいつら呼んで来い。俺がそいつらに懇々と……」
「死んだよ。そう報告を受けている。それに生き残っていたとしても名乗り出たりはしないだろうな」
当事者たちは自爆していた。
勇者が関わると暴走するヤツが多いが、今回はある意味そのトップクラスだ。
少々勘ぐった考察だが、葉月の護衛についているアライアンスにスカウトでもされるつもりだったのだろう。
良いところを見せて、葉月の近くにと……
「………………取り敢えず、中の掃除だな」
「ああ」
色々と面倒そうな問題が潜んでいる気がするが、それは俺の仕事じゃないし、ジジイがきっと何とかするだろう。俺にできることは戦うことだけ。
「――じゃあ、レプさん。作戦を煮詰めますか」
閑話休題
「おう、マジで来てたんだな、陣内」
「陽一、久しぶり」
「その声は…………上杉と……蒼月?」
レプソルさんと作戦を立てていたら、上杉と蒼月らしき人物がやって来た。
炎を模した派手な眼鏡なような物を掛けた上杉らしき者と、青い色のアイスホッケーのマスクのような物を被っている蒼月らしき者。
声と背格好で二人と判るが、知らない者から見たら顔を隠した不審者。
一瞬知らない人の振りをしようかと思ったが、上杉がズンズンとやって来る。
「おう、陣内。お前の分も用意してあっからよう」
「……何だそれは」
スッと差し出されたのは黄色い猫のお面。
俺はそれを受け取らず、上杉らしきヤツを睨む。
「ばっかっ、オレらは有名人だぞ? そういった配慮的なモンが必要だろうが。あれだよ、グラサンしている有名人みたいなモンだ」
「オーケー判った。……蒼月、これはどういうことだ。俺に戦隊モンでもやれってことか? 大体、カレー役は小山だろうが。ちゃんと説明しろ」
「あ~~~あっ、丁度来たみたいだね」
「ん?」
蒼月が何かに気が付きそちらに目を向けた。
俺も釣られるようにそちらに目を向けると、そこには葉月がいた。
楚々と歩く姿はまさに聖女さま。
男の理想を体現したかのような笑みを浮かべながらやってきた。
ほぼ全員が葉月の笑顔に蕩けきっている。
そんな中、葉月が――
「久しぶりだね、ジン君」
俺の名前らしきモノを呼んだのだった。
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