秘密部隊の名は……
ガタゴトと揺られながら、俺はノトスへと向かっていた。
仕事は終わったのだから森に帰っても良かったのだが、いまは帰る気がしなかった。
正確には、首を刎ねた感触が手から消えるまで帰りたくなかった。
いまさら『自分の手は血で汚れている』などと初心なことは言わないが、さすがに刎ねた感触が残ったままリティたちに触れたくなかったのだ。
それを察してくれたのか、同行していたメンツが久しぶりにノトスに来るかと誘ってくれた。
こうして俺は、誘われるがままノトスへと向かっていた。
「――あれだな、ジンナイがノトスに来んの久しぶりだよな。どうだ、久々に階段でも行くか? 前みたいに階段で無双しようぜ。あ、当然お前のオゴリな」
「行かねえよ。あと、一度も行けたことねえよっ」
さらっと捏造してきたのはフェイイと言う名の冒険者。
元陣内組【トレプ~】のメンバーであり、クソジジイが率いる南の風の構成員だ。
( しかし、嫉妬組も出世したもんだ…… )
馬車の中に居るメンツを眺めながら、俺は心の中でそう呟いた。
通称嫉妬組。
正式名は【ルサンチマン】
トレプ~、三雲組、モミジ組、ストライク・ナブラなどに所属する冒険者たちで結成された裏のオーバーアライアンス。
一緒に馬鹿をやっていた嫉妬組は、いまや最大勢力と言っても差し支えがない集団となっていた。
埋めたり埋められたりしていた日々が遠い昔のようだ。
そんなルサンチマンの行動目的は、葉月と言葉を守ること。
裏切り者の粛正という、そんな共食いばかりやっているような連中だが、ヤツらの行動理念は最初の頃から全く変わっていなかった。
そしてその守るという想いが、アライアンスを超えたオーバーアライアンスへと繋がったのだ。
当然ギームルはそれに目を付けた。
さすがにガッツリと引き込んだ訳ではないようだが、今回のように彼女たちが係わっている件ではヤツらを頼っている。ある意味共闘だ。
因みに、ヤツらのコードネームは【嫉妬】だ。
嫉妬ワン、嫉妬ツーと言った感じで呼ばれている。
「そういやよう、ジンナイ」
「うん?」
嫉妬スリーことストライカーが俺に話し掛けてきた。
「この前さ、リティちゃんを高い高いしただろ?」
「ああ、やってたな。複数で」
「そんとき思ったんだけどよう。なんか妙に目を狙ってこないか? 何度か目を突かれたんだが……」
「ラティの子だからな。たぶん急所を狙うのが好きなんだろ」
「……なるほど、納得した」
納得された。
何の疑問も抱かれずに納得されてしまった。
コイツらがラティのことをどう思っているのかよく分かった。
( まあ、確かにそうだよな )
俺も心の中で同意する。
ラティは囮役をこなす傍ら、攻撃に転じたときは常に急所を狙う。
気を引くための攻撃は別だが、そうでないときは大体が首を刎ねにいくボーパルラティさんだ。
そういえば夜のときもそうだ。
常に急所を狙ってくるし急所を突いてくる。
俺の必殺という二つ名は、そろそろ彼女に明け渡すべきかもしれない。
【柔撫】と【愛梳】がなければ間違いなく防戦一方だ。
毎回”手籠め”にされてしまう……
「……ジンナイ。なんかどうでもいいこと考えてねえか?」
「あっ、いや……カンガエテないよ」
「まあ、いいや。――で、どうすんだ? ノトスに特に用事があるって訳じゃねえんだろ? 予定なしだよな? それならよう、スペシオールのヤツを埋めに行かねえか?」
「へ? スペさんを?」
「ああ、スペシオールのヤツよう、レイヤとの結婚が決まりそうなんだ。だからさ、制裁とか必要だろ?」
心底当たり前な、そんな顔で言ってきた。
俺はそれを見て思わず呆れてしまう。
コイツらは本当に心が狭い。
素直に祝福するといった、そういったことができない連中だ。
どんだけ人間が小さいヤツらなのだろうと思う。取り敢えず俺は――
「どっちだ? 埋めるのか? それとも叩き付けるのか? やっぱ両方か?」
「両方でいくか。ヤツには世の中の厳しさを叩き込む必要があるな」
「よし、ついでにレプさんも埋めよう」
「いい案だ」
俺たちはわっちゃわっちゃと予定を立てた。
ヤツをどこに埋めるかなど、そういったことを話し合った。
「あっ、そうだ。久々に魔石魔物狩りでも行くっしょ。どうよ?」
バルバスが唐突に魔石魔物狩りを提案してきた。
確かに制裁だけでは虚しすぎるかもしれない。もう少し生産性があることもやるべきだろう。それに――
「……そうだな、それもいいな。おっし、久々に行くか」
魔物を倒すことで手にこびり付いた不快感を拭う。
これは良い禊になるかもしれないと思い、俺は彼らの申し出を受けることにした。
「しゃあ、久々の陣内組だな」
「ああ」
それから二日間、俺は馬車に揺られ続けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
コトコトと馬車に揺られながら、あと少しでノトスの街という所まで来た。
「すげぇな、これをサリオがやったのか……」
「他の道とは比べもんにならねえだろ?」
「ああ、マジですげえよ」
自称公爵令嬢となったサリオは、上手いことギームルにコキ使われていた。
魔法を調整することができるサリオに目を付けたギームルは、彼女にインフラ整備をさせたのだ。
本来、魔法はそこまで万能ではない。
元の世界では考えられない超常現象を簡単に起こせるが、意外に制約も多い。
決まった役目を果たすという点では優秀だが、そうでないことにかんしては使い勝手が悪いのだ。
要は、決まったことしかできないのだ。
例えば土系の攻撃魔法。
地面を隆起させての攻撃などはできるが、地面を隆起させて何かを作るといったことはできないのだ。できることは尖らすか凹ますかの二択。
そんな感じでできることがとても少ないのだ。
だがしかし、サリオだけは違った。
さすがに複雑なモノを作ることはできないが、そうでない場合は大抵のことができた。
例えば地面を隆起させて壁を作ったり、逆に凹ませて風呂を作るなどのそういったことができたのだ。
だからギームルは、サリオに地面を平坦にして固めろと依頼した。
馬車を走らせるのに適した道を作れと言ったのだ。
これの効果は本当に凄かった。
元の世界でもそうだが、キチンとした道は本当に便利で有効なのだ。
ガタガタと揺れてケツがやられることがないし、車輪が綺麗に回る道というものは本当に価値があったのだ。
「快適な道だ……」
「ああ、ホッとするよな。最近じゃノトスに帰ってきたって感じがするぐらいだぜ」
「商人のヤツらにもかなり評判がいいらしいな」
「……道か」
元の世界でも、道をしっかりと作ることで帝国を作り上げた国があった。
俺の記憶が確かならば、そのときにできた轍の幅が鉄道の軌間に影響を与えたとかどうだとか。
要は、それだけ道路は大事なのだ。
人の流れや物の流通などと、大きな河川がないノトスにとってこの道路はとても大事。
とても良いサリオの使い方だ。
サリオの”アカリ”を使う案もあったようだが、あれはサリオが居ないと機能しない。その点を考えても本当に良い政策に思えた。
「――んん!??」
ほんやりと見えてきたノトスの街の上空に、超巨大な三つの”アカリ”が展開された。
少し薄暗くなってきた空に三つの光が燦々と輝く。
「あれ、何でサリオの”アカリ”が……?」
「おい、アカリだと!? ……アカリが3つ。急げっ、ダンジョンで何かあったぞ! 馬車をかっ飛ばせ!」
突如慌て始めたストライカー。
「何があったんです? あのアカリはもしかして……」
「ああ、あの三つのアカリは緊急事態の合図だ。多分だが、ダンジョンで、深淵迷宮で魔物の暴走事故が起きた」
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あと、誤字脱字も……