ノトスからの伝令!!!
「よっ、ダンナ。久しぶりでやすねえ」
「へ? え? あれ? ガレオスさんん?」
『エ』の連絡が届いてから三日後。
ノトスからの伝令と一緒に、百戦の二つ名を持つガレオスさんがやって来た。
「なんで……ガレオスさんが?」
予想外の人物に呆けてしまう。
俺は、『エ』の連絡が来てから三日間、ラティを撫でながら待っていた。
最近のマイブームは、ラティを丹念に撫でまくって『ヨォーイチ、さんっ……』と、鼻にかかった声で名前を呼ばせること。それにどハマりしていた。
なんと言うべきか、それはもう色々と滾るのだ。
ただ、やり過ぎるとラティさんがグッタリしてしまい、家事などといった仕事を一人でこなすことになってしまうので大変だった。
スローライフというが、やってみると全然スローじゃない。
確かにリティやモモちゃんと触れ合う時間を多く得られたが、食事の用意を1からするということは想像以上に大変だった。
一日や二日程度なら良いのだが、それが毎日になるとなかなか大変で、元の世界のコンビニがとても恋しい。
しかしだからと言って、誰かを雇うことはできない。
俺たちはここに隠れ住んでいるようなものなのだから……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺たちがここで隠れ住むようになった理由は、俺とラティがあまりにも有名になってしまったからだ。
冒険者たちの間では、ボレアスに屈せず、勇者とともに逆にボレアスへと乗り込んだなど、様々なことで元から有名だった。
だが貴族と一般人の間では少し違った。
某ふざけた劇のおかげで勇者並に有名人だが、それは脚色されたモノという認識だったのだ。
しかし魔王との戦いでそれが訂正された。
あれは脚色されたモノではなく、本当のことだったのだと……
魔王消滅後、俺たちはギームルと霧島に世話になりっぱなしだった。
まずラティだ。彼女の魔王化は多くの人が目撃した。これはとても大きな問題だった。
本来、魔王との戦闘は、要塞のような町の中で誰の目にも触れずに行われるモノだった。
しかし今回は様々なイレギュラーによって、出陣パレード中に魔王化するという前代未聞の事態が発生した。
普通だったら狼人への迫害が再燃していただろう。
実際、そういった流れになりかけていたし、過去にもあったことだ。
しかしここでギームルと霧島が動いた。――二人はすぐに真実を作り上げた。
狼人の魔王化は、どこかに潜んでいる魔王を炙り出すための芝居。
勇者全員を巻き込んだ大芝居だったとしたのだ。
ラティの魔王化は演技であり、俺が勇者たちと対峙したのは、勇者の中に潜んでいるであろう魔王を暴き出すための行為。
そしてこの芝居の協力者は、葉月、言葉、それと霧島。
聖女と女神が魔王の訳がないと押し切り、それを有名な脚本家である霧島が裏で画策した。そういうことにしたのだ。
当然、俺も協力者。
真相を明かされていない勇者と対峙する役だ。
霧島に瀕死の重傷を負わせた斬鉄穿は、魔王を炙り出すために打った一芝居とされて不問になった。サリオも似たような感じだ。
さすがに何人かは訝しみ、重箱の隅をつつくような者がいた。
勇者に瀕死の重傷を負わせたのだ、あれは勇者保護法に引っ掛かるなど、そういったことを言い出した。
しかし相手はギームルと霧島だ。ある意味最強のタッグとも言える。
反論してくる者を全て説き伏せねじ伏せ、ときには葉月たちも利用して押し通した。
結果、ラティは自ら囮役を買って出た献身的な狼人。
俺の方は、魔王を炙り出すために独りで戦い抜いた孤高なる者とされた。
それからはもう無茶苦茶だった。
五日後に開かれた魔王討伐の祝勝会では、凄まじい数の求婚がラティへと殺到した。
ラティと同じ狼人からは当然のこと、貴族連中からも婚姻の打診が数多くきやがった。
もう【蒼狼】はないというのに、まるで【魅了】が発動しているかのようだった。
そして普段のラティならば、そんな連中歯牙にもかけないのだが、【心感】を失ったことが影響しているのか、彼女は終始戸惑い俺の後ろへと隠れた。
それを執拗に追う貴族連中。
献身的な狼人を娶って人気を上げようという下心が透けて見えていた。
最終的には、俺、陣内組、伊吹組、三雲組、勇者同盟がラティを囲うようにして守った。
さすがにその人壁を突破しようとする者はいなかった。
因みに、俺のもとには誰も来なかった。
貴族らしき者は何人も来たが、女性がやってくることはなかった。
もしかするとだが、葉月と言葉が隣に居たのが原因かもしれないが……
その後俺たちは、面倒な来客に嫌気が差してノトスへと早々に帰った。
オラトリオからは、まだ中央に残ってやって欲しいことがあるとの要請があったが、ヤツの要請に応じる理由も必要もない。
だが、ノトスに帰った後も追撃が止むことはなかった。
今度はラティにではなく、俺への勧誘が酷かった。
厳しい箝口令が敷かれていた訳ではない。
だから俺のある情報が漏れていてもおかしくはなかった。
そう、俺の恩恵の効果を嗅ぎつけた者がやって来たのだ。
俺のことを【黒の英雄】や【天魔の英雄】と呼び、『どうか我が領に来て、強き者を~』と、そんなことをヤツらは言ってきた。
要は、陣内組に匹敵するアライアンスを作って欲しいということだ。
勇者と共に戦う者。
所謂、”勇者の仲間”。
この勇者の仲間と呼ばれる者は、恩恵の効果によってステータスの上昇率が跳ね上がる。同じレベルの冒険者と比べると、そのステータスの差は倍以上。
しかしそこまで万能という訳ではない。
同行する人数、パーティを組む人数が増えれば増えるほど”恩恵”の効果は薄くなる。
だが、俺の”恩恵”にはそれがない。
何十人と組んでいようが効果が薄まることはない。
俺のことを信用しない者には効果を発揮しないという欠点はあるが、昔とは知名度が違う。俺のことを信用しない、疑うような者はほとんどいないはず。
だから、俺を手に入れるということは、最強の軍隊を作れるということなのだ。
しかし、この件は初代勇者から釘を刺されている。
”恩恵”をフル稼働させて規格外の冒険者を何千と作ろうものなら、力が溢れてこの異世界が決壊する。
だから俺は、今後誰かとパーティを組むつもりはない。
仮に組んだとしても、すでに成長しきっている”勇者の仲間”たちとだけだ。
そのことをアムさんギームルを通して相手に説明してもらった。
しかし俺への勧誘が止むことはなかった。
俺がパーティを組めない理由は、ノトスが都合良くでっち上げた虚偽。いつのまにか矛先は、俺が居るノトスへと向かった。
ノトスは俺を使って全世界の支配を目論んでいるなど、そんなことを宣う者が出てきたのだ。
ギームル曰く、本気でそう思っている訳ではないが、難癖を付ける材料にはなるとのことだ。
だからそんな木っ端の連中など無視をすれば良いと、ギームルはそう言っていた。
しかしここで問題が発生した。
その難癖をつけてくる者の中に、四大貴族であるゼピュロス公爵まで交ざってきたのだ。
これにはノトスと言えど簡単に突っぱねることはできなかった。
もし突っぱねるのであれば、俺を利用して戦力の増強をしないことを証明しないといけなかった。
こちらから見れば難癖以外の何ものでもない。
しかし相手からしてみれば正当な要求らしい。
こういった話は元の世界でも似たような例がある。
核とか核にまつわる面倒な問題だ。
それを知っている俺は、ノトスが簡単に突っぱねることができないことを理解した。
そしてそれと同時に、いままでのような生活が望めないことを悟った。
いままでは我武者羅に戦っていただけといっていい。
ラティのため、この異世界のため、王女さまとの約束、狼人の地位向上、そして魔王を倒すために戦い続けてきた。
俺は、それらを全て成し遂げた後のことをしっかり考えていなかった。
冷静になって考えてみれば、俺は超危険人物だった。
たった一人で勇者たちを退ける武力、共にいる冒険者は桁違いの強さを得る。
魔王という脅威がなくなったのだ。
そうなれば次の脅威へと目が向くのは当然のこと。
さすがに、ノトス、ボレアスからそういった目で見られるとは思っていないが、他からは違うだろう。
せめて勇者との戦いがなければ違ったのだが、あれはガッツリと目撃されている。
そういった経緯があり、俺とラティは隠れ住むことにした。
俺たちがノトスに居なければ、他からの難癖は成立しなくなるのだから。
ある意味これは丁度良かった。
二人でゆっくりと暮らすことができて、ついでに葉月たちの責任も取れる。
この森で、次にいつゲートが開くのか調べることができるのだから……
( ……まあ、こういった面倒ごとが時々来るけどな )
「ガレオスさん、何でガレオスさんがノトスの伝令と一緒に? もしかして【モミジ組】も居ないとヤバい事態とかです?」
「ん~、ちょっと違いやすね。まあ、早い話が、ダンナは行かなくて良くなったってことでさぁ」
「へ?」
ガレオスさんから聞かされた内容は、俺にとって良いことだった。
今回の『エ』は、危険度の高い魔物大移動が観測され、それを倒すための戦力として依頼だった。
しかしガレオスさん率いる【モミジ組】が丁度良く合流できたので、俺が必要なくなったとのことだった。
読んでいただきありがとうございます。
宜しければ感想などいただけましたら嬉しいです^^
あと、誤字脱字も……