襟巻きっ!
あの、白い闇はスルーですか!
素敵なレビュー編集ありがとうございます!
ラーシルとの日課を終えた俺は、リティを抱っこして家へと戻った。
森の中だが見通しが良く少しだけ開けた所、そんな立地に俺とラティの家は建っていた。
ただ、俺とラティのと言っても、元々はラティの親の家だ。
住みやすいように色々と補修はしたが、俺たちが建てた訳ではない。
新しく建てた家は、生活のサポートをしてくれる老夫婦の家だ。
「あっ」
家の前に辿り着くと、待っていたかのように扉が開いた。
中から姿を見せたのは当然ラティ。
寝過ぎたことを申し訳ないとでも思っているのか、いつもよりも少しだけ眉が下がっている。
困っている表情のラティは妙にそそる。
「あの、お帰りなさいませ、ヨーイチさん」
「ただいま、ラティ」
「リティ、いい子にしていましたか?」
「あぷぅあ」
俺に続きリティも返事をする。
「……リティ」
「あぶ?」
現在リティは襟巻き状態。
途中までは大人しく抱っこされていたのだが、飽きてきたのか俺の肩へと登り始め、その後は全身を使って俺の首に巻き付いていた。
リティには母親譲りの獣耳と尻尾があるので、まるでキツネの襟巻きのようになっていた。俺は落っこちないように背中を支えてやる。
「本当にリティは、ヨーイチさんが好きねぇ」
「あいっ」
ふんすと返事をするリティ。
どこで覚えたのか、返事と一緒に手をあげた。
「ほら、掴まってないと落っこちるぞリティ。下に落ちちゃうと痛い痛いだよ?」
「何でしょうねぇ、ヨーイチさんが言うと説得力があるような……ないような? 」
「ぐっ……」
「あの、そろそろ朝食にしましょう。ハヅキ様たちが置いていってくれた柔らかいパンがありますよ。傷む前に食べてしまいましょう」
「ああ……」
【宝箱】がない俺たちにとって柔らかいパンは貴重なモノだった。
日持ちがするナンに似たパンはあるのだが、それ以外のパンは滅多に口にすることがない。
恐るべし異世界スローライフ。
この異世界は元の世界と科学や物理法則が若干違うので、缶詰でも一週間もすれば痛んでしまう物が多い。食材関係は非常に不便だった。
「……ラティ、朝食はちょっと待って。ほら、久々だし……」
「………………はい」
俺は、家の前にある丁度良い大きさの岩に腰を下ろし、視線で隣を促す。
ラティは控え目な返事をしたあと、楚々と隣に腰を下ろした。
彼女は俺の肩に身を預け、静かになったリティの顔を覗き込んだ。
「起きたのが少し早かったからですかねぇ」
「はしゃいでもいたからな」
リティは、電池が切れたかのように眠ってしまっていた。
俺は肩に乗っかっていたリティをそっと下ろし、胸と腕を使って抱えてやる。
心地良さそうな寝息をこぼすリティ。
「あの、本当に幸せです」
「ああ、怖いくらいにな」
「はい、そうですねぇ……………………これがずっと続くといいですねぇ」
「ん? 続くだろ? 絶対に」
「はい、そうですねぇ。ずっと……」
「リティも幸せになって欲しいな。いや、俺たちと一緒に居ればずっと幸せだな。うん、ずっと一緒に居れば」
「……ヨーイチさん」
「――んっ、んん。しかし、リティは本当にラティにそっくりだな。目と髪の色はラティと同じだし、妙に急所を狙うところもラティそっくりだよ」
「あの、ヨーイチさんにも似ていると思いますよ? いただいたぬいぐるみの足とかよく叩いていますし」
「はいっ!? なにそれ! リティはそんなことやってんの?」
「はい、ぬいぐるみの足の付け根辺りを執拗に……」
「…………」
俺の遺伝子要素が全く見えないリティさん。
だが意外なところに俺の要素があった。
しかし、これは喜んで良いことなのか若干悩む……
「…………あの、ヨーイチさん。ノトスからの定時連絡で、『エ』の報せが届きました」
「そっか……『エ』か」
『ずっと続くといいですねぇ』と言ったとき、僅かに陰りを見せた理由が分かった。
ノトスからの定時連絡で、『エ』の報せが届いたということは、何かが起きて、俺に力を借りるかもしれないということだ。
俺の力が必要ということは、十中八九戦闘だろう。
ハッキリ言って、俺にできることは戦うことぐらいだ。
一応、力はあるので、荷物運びなどといった力仕事も得意だが、そんなことを頼むために俺を呼ぶはずがない。
「取り敢えずは、待機か」
「……はい」
現在スローライフ中の俺だが、ノトスとの繋がりが切れた訳ではない。
裏ではガッシリと繋がったまま。
元陣内組、いまはトレプ~と名称を変えたアライアンスから離脱した俺だが、手に負えない事態、もしくは葉月と言葉に何かあった場合だけ力を貸していた。
葉月と言葉に対して、俺は責任を取る立場なのだ。
そしてこの定時連絡を可能にしたのは、ららんさん作の連絡用付加魔法品。
なんとららんさんは、長距離での会話が可能な貝玉のような物を作り上げたのだ。
使われた素材はシャーウッドさんが宿っていた魔石の欠片。
俺から金貨300枚で買い取ったあれを使って完成させたそうだ。
ただ、貝玉ほど性能は高くなく、送れる音は6種類だけ。
『ア』『イ』『ウ』『エ』『オ』『ン』だけしか送れないのだ。
『は』の発音は『ア』に変換され、『ひ』は『イ』になってしまう。
しかもノイズがとても激しいため、モールス信号のように暗号化することもできなかった。
なので俺たちは、その6種類に意味を込めた。
『ア』は、異常なしや問題なし。
『イ』は、取り消し。『イ』のあと音が正式な合図。
『ウ』は、注意。近いうちに何かあるかもしれないなどの合図。
『エ』は、用事があるから近いうちに伝令が行く。
『オ』は、至急ノトスに来て欲しい。
『ン』は、その場から逃げろ。
いつもは『ア』の合図が届き、こちらかも『ア』を送り返していた。
だが今日は『エ』の合図が送られてきた。
先日までサリオがいなければ、葉月かサリオが遊びにくる合図だと思っていただろう。
「三日以内には伝令が来るだろ。だからそれまで……」
「あの、はぃ……」
空いている方の腕でラティを引き寄せ、彼女の髪に顔を埋め――
「撫でさせてくれ」
「っ!?」
リティが起きるまでの間、俺は超撫でまくったのだった。
読んでいただきありがとうございます。
よろしければ感想などいただけましたら幸いです。
あと、誤字脱字なども……