表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
589/690

アフターストーリー  白い闇でダンゴダンゴ

勇ハモ、第二章。

アフターストーリー 白い闇編の開始です。

魔王を討伐した陣内は、森へと引き込みスローライフ生活。


魔王を討伐後のお話です。

「ん……あっ、そっか」


 久しぶりに静かな朝を迎えた。

 ここ最近バタバタとしていたが、今日は静けさの中、俺は自然と目を覚ました。

 

「……静かだな」


 昨日までは大勢が居た。葉月、言葉(ことのは)、サリオ、ららんさんがリティの一歳の誕生日に駆けつけてくれて、我が家はなかなかの賑やかさだった。


 その誕生日会の後、彼女たちは数日間泊まっていった。

 リティとモモちゃんは大はしゃぎ、特にモモちゃんは楽しそうにしていた。

 サリオからお芝居の話を聞いたり、言葉(ことのは)言葉(ことのは)様に飛び込んでいたりしていた。

 

 そしてつい先日、モモちゃんを連れて葉月たちは帰っていった。

 モモちゃんは俺たちと一緒に住んではいるが、兄のロウに会うため、ときどきこうやってノトスへと里帰りする。

 なのでいま家に居るのは、俺とラティとリティの3人だけ。


 離れには俺たちの生活をサポートしてくれる老夫妻がいるが、彼らとは一緒に住んでいる訳ではない。


 別に賑やかなのは嫌いではないが、やはりこういった静けさはどこかホッとする。


 聞こえてくるのはラティの寝息だけ。 

 愛らしい口元から零れる寝息の音は、とても機嫌が良いときの音。

 俺は亜麻色の髪を優しく一撫でする。


「……さて、リティはどうかな」


 心地良さげな顔を眺めた後、俺は寝床を静かに出た。

 起きて向かう先は俺とラティの愛の結晶のもと。

 決して授かることはできず、絶対に得ることはないと思っていた奇跡の結晶。

 

「これだけは初代に感謝だな」


 本来、人と狼人の間に子供をもうけることはできない。

 それは長い歴史でも証明されたことであり、一度の例外もなかった事実。

 だが俺たちは初代勇者の改変によって授かることができた。

 

 俺が帰還のゲートを破壊した後、初代勇者の声が頭の中に流れ込んできた。


 まず、ゲートを破壊してしまったことを爆笑された。

 俺的には史上最大のやらかしだったのだが、どうやら初代には爆笑案件だったようだ。

 

 そして一通りからかった後、初代勇者はあることを二つ言ってきた。

 そのうちの一つが、『僕からのささやかな贈り物だよ』だった。

 具体的に何を指しているのかは言わなかったが、ラティが妊娠したときに、これが”贈り物”なのだろうと察することができた。


 この贈り物には、狂喜乱舞でビッタンバッタンゲッダンした。

 尻尾によって感情が通じ合っているので、何かの間違いがないことは判る。

 周りの者も、俺とラティのことを知っているので誰も訝しむ者はいなかった。


 出産の際は、葉月と言葉(ことのは)のフォローがあり、決して無事とは言えなかったが、俺とラティはリティに逢うことができた。


 初代勇者には振り回されていたが、これだけは本当に感謝した。

 しかし、初代勇者のおかげというのはどうにも癪なので、周りには木刀(ラーシル)のおかげだと言っている。


 きっと木刀に力を借りているだろうし、あながち間違いではないだろう。



「さてさて、リティちゃんはまだ眠って……ないか」

「うぷぅあ?」


 俺たちの寝室の一角。

 のれんのように布を垂らして遮った所にリティは居る。

 ベビーベッドを上から覗くと、俺たちの愛の結晶さんは元気に起きていた。


 赤子のリティは俺の姿を確認すると、身体を起こし手を伸ばしてきた。

 その彼女の姿と仕草は、俺からの全てを望むような感じ。

 『近くに来て欲しい』『抱っこして欲しい』『話し掛けて欲しい』『撫でて欲しい』『全部が欲しい』と、小さな身体を目一杯バタつかせている。

 

「はいよ」

「あぷぅあ!」


 要求に応じるべく、脇の下に手を差し込んで持ち上げたあげた。

 きゃっきゃっと顔を綻ばせるリティさん。どうやら今日も元気一杯のようだ。

 俺は顔を寄せて頬ずりをし、リティのほっぺを鼻先でツンツンと堪能する。


 『あぶぅ』と声をもらしてご満悦になるリティ。

 彼女はお返しとばかりに手を伸ばして目を突いてくる。

 俺はそれを見切り、ヘッドスリップで指先をやんわりと避けた。


「こら、目はダメでしょ?」

「あぷぅ?」


「全く、誰に似たんだか……」


 ウチのリティちゃんは、ラティに似ているというべきか、それともラティの子だからというべきか、妙に急所を好む傾向があった。

 抱っこをしているときなどは、首筋を熱心にペチペチと叩いてくる。


「全くこの子は、うりうり~」

「ぷああっ」


 俺は全力で頬ずりをする。

 できることなら頬ずりだけでなく手で撫でてやりたいところ。

 しかし俺の手は凶器と化してしまっていた。


 機嫌が悪くむずかっているときは解禁するが、それ以外ではできるだけ控えていた。どんな後遺症があるか分かったものではない。

 一度だけだが、【固有能力】を切り取ってしまおうかと真剣に検討したことがあった。


 最終的には、『それを得たのはヨーイチさんの努力の賜物です』とラティに言われ、俺は切り取るのを止めることにした。



「……さてと」

 

 ベッドの方を見るとラティはまだ眠っていた。

 昨晩はわっちゃわっちゃしたので疲れているのかもしれない。

 俺はラティを起こさぬように着替え、リティを抱っこして外へと出た。




      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 



「はい、リティ。今日もここで待っていましょうね~」

「うぶぶ」


 四方を柵で囲まれた場所に入れられたリティは、不満そうな顔をして俺に手を伸ばしてくる。彼女は遊んでもらえると思っていたのだろう。

 しかし俺は、日課の水汲みへと向かわねばならない。


 俺とラティは生活魔法で水を作り出せない。

 ラティは水を出す魔法への適正がなく、俺はそもそも魔法が使えない。

 ステータスの改変によってかなりマシになったが、その改変は戦闘特化。


 要は、スローライフが始まったというのに、俺はハードモードのままだった。

 火を点けられなければ水も出せない。誰でも唱えられる”アカリ”すら無理という状況。

 

 勇者特典の【宝箱】までは望まないが、せめて”アカリ”ぐらいは欲しかった。


「ぱぱあ、あぶうう!」

「すぐ戻ってくるから。いい子にして待っててな」


 俺は水汲み用のバケツを掴み、少し離れた場所にある水汲み場へと向かった。





「……しかし、リティはモモちゃんに比べて成長が早いな」


 俺は歩きながらリティのことを考える。

 リティは一歳になる前から歩き回れるようになっていた。

 しかもそこそこの速度で歩き回る。

 

 俺が知っている赤ちゃんはモモちゃんだけなので、もしかするとそれが普通なのかもしれないが、あと少しすれば囲いの柵を越えて来そうな気がする。


「どうすっかなぁ……」


 世のお父さんたちはどうしているのだろう。

 機動力を得た赤子はなかなか大変だ。予測不能の戦車だ。

 この異世界(イセカイ)には車に轢かれるなどといった危険はないが、いま住んでいる場所は世界樹がある森の中。


 世界樹の影響で森に魔物が湧く心配はないが、木の根や大きな段差など転んで怪我をする場所が多い。


「紐をつけて……は、可哀想だよな。いや、必要か?」


 奇跡の結晶こと、リティのことを考えながら水を運ぶ。

 元の世界でも紐付きハーネスは物議を醸していた。 

 しかし我が子の安全を考えると、やはり必要なモノなのかもしれない。

 

「あぷぁあ!!」


 俺の姿を見つけたリティは、まるで飛び跳ねるかのように足踏みをした。

 先ほど考えていた、柵を乗り越えるまでの時間はもっと短そうだ。


「ちょっと待っててな」

「あい」


 汲んできた水を貯水タンクの中に流し込む。

 昨日から貯めてある分もあるので、今日一日は余裕で保つだろう。

 バケツを逆さにして置いてから、俺はリティのもとへと向かった。


「よし、今日は一緒に行くか?」

「あいっ、うぷあ!」


「はいはい、わかったわかった」


 『抱っこ抱っこ』と強請るリティを抱え、新しい木刀を腰に差して、もう一つの日課をこなすことにする。


「じゃあ行こうか?」

「あぷああ!」


 先ほど向かった水場とは別の方向。

 この森の中心に向かって俺とリティは進んでいった。

 道らしい道はなく、ただ導かれるまま森の奥へと歩く。


「ん? そろそろかな――着いたか」


 空間が替わったかのように景色が切り替わった。

 先ほどまで森の中を歩いていたはずなのに、突如開けた場所に俺は立っていた。


 森の中にポッカリと空いた空間。

 巨大な木は生えておらず、あるのは超巨大な切株だけ。

 まるで円卓のようなその切株の中央には、ずっと俺の相棒だった世界樹の木刀が突き立っていた。


「ラーシル、今日はリティと一緒に来たぜ。……聞かせてくれ」


 世界樹の木刀へと話し掛けたあと、俺は切株へとそっと手を添えた。

 

読んでいただきありがとうございます。

魔王消滅後のゴタゴタを書いていく予定ですの、引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ