行こうか
綾杉のゴーレムが、装甲をパージしたラ○デンのような速度で突っ込んでいった。
これによってチャンスが到来する。
「椎名君、伊吹さん、君たちは一番右と左のヤツを頼む。三雲ちゃん、早乙女さん、君たちにはこれを」
「え、これって……」
「ああ、竜核石の矢だ。こんなこともあろうかと用意しておいたんだ。これでドデカいのを一発決めてやってくれ」
虎の子の矢を二人に渡すハーティ。
こういったときのために用意しておいたのだろう。
「霧島君、いけるね? WSをずっと設置し続けていたよね、魔王に向かって」
「気が付いていましたか。ええ、いけますよ――って言ってもそんなに効果は無いでしょうから、開幕の牽制で撃ちますね」
「OK、次は下元君。君は魔王と相性が悪いけど、やってくれるね」
「はい、任せてください。一体は必ず止めてみせます」
「柊さんは、全力で氷を張ってくれ。黒い蛇が湧かないようにしてほしい。蒼月君は柊さんについて。上杉君は……自由に」
ハーティが次々と指示を出していく。
細かい部分を決められるほど時間はないので、若干アドリブに頼るような指示だが、勇者たちの性格に合わせた指示を飛ばしていた。
そんな中俺は、サリオをペチペチと起こしていた。
「サリオ、起きろ。サリオ……サリ――オっ!」
「ぎゃぼーーーー!! 何です? 何があったんです! 顔がメキメキいっているですよです!」
「お、やっと起きたか。お前の出番だ」
「ちょ!? 何が出番なんです!? それよりも顔を離してくださいです。まだメキメキいってめちゃくちゃ痛いですよです」
ラティの件で世話になっている俺は、サリオを優しく起こした。
そして彼女に土パルトのことを話す。
いままで寝ていたのだからMPは回復しているはず。さすがに万全ではないだろうが、土パルト一発分なら余裕で唱えられるはずだ。
「ほへ? あのおっきいヤツの所まで飛ばすんです?」
「ん? ここからじゃねえぞ。ある程度前に行ってからだ。サリオ、いけるな?」
「了解してラジャです。あたしがジンナイさんを魔王の所まで逝かせてあげるです」
「助かる、あと何とな――っく!」
「ぎゃぼう!?」
「陣内君、遊んでいるときじゃないよ。……用意はいいかい?」
「はい、行きましょう」
「よし、作戦開始だ。霧島君、景気づけの一発頼むよ」
「任せてください。WSリリース!」
光り輝く無数のWSが、まるで銀幕のようにズラッと出現した。
そしてそれらは次の瞬間、魔王へと向かって一斉に放たれた。
『――オオオオオオ』
魔王が吼えた。
相手は【心感】持ちだ。こちらの思考までは読めなくても、感情の色を視ることはできる。
魔王は霧島が放ったWSの群を、黒い斬撃で相殺してきた。
光と闇が正面衝突する。
激しい光と揺さぶるような轟音が響いた。
そんな中、伊吹と椎名が同時に駆けた。
即座に反応する魔王。
伊吹と椎名を目がけて黒い斬撃を放ってくる。
椎名は結界で、伊吹は横へステップしてそれらを躱す。
そして――
「グラッドン!」
「でぇぇぇいいい!」
二人は同時に目標の黒い蛇を薙ぎ払った。
トップクラスの勇者の一撃、並の魔物ならこれで黒い霧へと化す。
しかし相手は魔王。しかも黒い靄に覆われている状態だ。横へと大きく揺らぎはしたが、切り裂かれることなく残っていた。そこに――
「はああああああああああ!」
紫紺の雷炎が爆散するように迸った。
伊吹と椎名に吹き飛ばされていた黒い蛇が、その雷炎によって焼かれ深く沈む。
「まだまだあああ!」
再び雷炎が迸る。
それはまるで火山雷のように、稲妻と爆炎が魔王を圧倒していった。
「すげぇな……」
「下元君すごい」
全てを一瞬で使い切る、下元はそんな刹那的な飛ばし方をしていた。
間違いなく長くは持たないだろう。
「だが、それで十分っ、行くぞ葉月、小山。あと、サリオ」
「ほへ!? あれ、何か雑ですよです!」
みんなが道を切り開いてくれている。
いま間違いなく魔王は手一杯だ。
サリオがわっちゃわっちゃ抗議しているが、俺は無視して前を見る。
「あの、ご主人様。いえ、ヨーイチ様。わたしも連れて行ってください」
「ラティ……だけど……」
ラティが一緒に行きたいと言ってきた。
普段だったら一緒に行く。だが相手は――
「ラティ、相手は【心感】持ちだ。これの意味……分かるよな?」
この特攻は決死。
伊吹や椎名のように黒い蛇へと向かうのとは訳が違う。
これから相手の懐へと飛び込むのだ……
「ヨーイチ様、名前を削ってきました。だから、そう簡単に感情を察知されません」
「へ?」
「ねえ、陽一君。誰と話をしているの?」
「――まさかっ!?」
「はい、カトウ様にお願いして名前を削ってもらいました。完全にとまでは行きませんが、きっとお役に立てます」
「――っ」
ラティの覚悟を知る。
彼女は加藤のワザキリで名前を削ってきた。
確かにこれなら簡単に察知されることはないだろう。
そうやって俺を守るつもりなのだ。
だが、誰にも見えないということは、怪我を負ったときにすぐに回復してもらえないことを意味していた。
【心感】のないラティに前のような回避力は望めない。
大怪我を負う危険性は非常に高い。
できることはなら連れていきたくない。あまりにも危険過ぎる。
「お願いします」
「~~~~~~~~~~~、分かった。葉月、俺の隣にラティがいる。ラティも一緒に行く」
「ラティちゃん……」
「ほへ? え? ラティちゃんが居るんです? あれ? そういえばラティちゃんがいないです!」
「陣内君っ、時間だ」
「おし、行くぞっ、これで終わらせる。これで魔王を消滅させるぞ!」
俺たちは、小山を盾にして駆け出した。
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あと、誤字脱字もありました……