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最後の伏兵?

お待たせしましたー

 レプソルさんは、『お前はここに居ろ』と言ったあと前線に向かった。

 そして宣言通り、本当に一人で前線を支えた。


 まるでラップでも歌っているかのように強化魔法を唱え続け、右手に持った魔石をどんどん砕いていった。

 これによって余裕ができた後衛は、負傷者の治療や魔王への弱体魔法を再開した。

 

 しかし黒い靄を纏っている魔王にはなかなか届かず、弱体魔法が通ったのはハーティだけだった。しかも睡眠系の魔法は効かなくなっていた。


「くそ、もどかしい」

「あの、ご主人様……」


「ああ、分かってる」


 一緒に戻っていたラティが、休んでくださいと目で訴えてきた。

 確かにラティの言う通り、いまはSP回復に努めるべきだ。

 そのための時間をレプソルさんたちが作ってくれているのだから。 

 だが――


「くそっ」


 どうしても焦ってしまう。


「陽一君、焦らないで。いまはしっかりと休んで」

「ああ、分かってるよ……」


「うん、だからね、ハイ」

「……おい、何の真似だ、葉月」

 

 横にやってきた葉月は、腰を下ろして正座をした。

 そして自身の膝を軽くポンと叩く。

 それはまるで、この膝枕で寝ろと言っているような……


「横にならないの?」

「――なるかっ! 第一そんなこと出来っか!」


 仮にそんなことをしようモノならヘイトがカチ上がる。

 魔王からの攻撃がスゲェ来そうだし、ヤツらの制裁までも来そうな気がする。

 それに、ラティの前でそんなことできる訳がない。


「ふふ、残念」

「………………ったく、お前は」


 俺は少々いきり立っていた。

 しかしそれは仕方がないこと。常に最前線に居たのだから、どうしても心が臨戦態勢になってしまう。


 だが葉月に上手いこと毒気を抜かれ、俺は素直に休むことができるようになっていた。

 

 張っていた肩の力を抜く。

 魔王からの奇襲はラティの【索敵】に任せ、深く息を吐いたあと俺は軽く瞳を閉じた。



 ( っ? )


 リラックスして回復に努めていると、手に何かが触れてきた。

 それは優しく俺の手を包み込み、ほわっとした温かさを伝えてくる。

 

 何となく予想をつけて目を開くと、そこには予想通りの人物がいた。


「……言葉(ことのは)、何を?」

「はい、少し待ってくださいね。あと少しで終わりますから」


 言葉(ことのは)が何かの魔法を掛けていた。

 しかしSP回復の魔法はすでに掛かっているし、怪我を負っている訳でもないので回復魔法も必要ない。


「疲労を軽減する魔法です。少しでも楽になるように……」


 彼女は、俺が浮かべた疑問に答えるように言ってきた。

 言われてみると確かに軽くなった気がする。誰かに肩を揉んでもらったときのような、そんな心地良さが沁みるように広がっていた。


「ありがとうな」


 自然に手が上がり、言葉(ことのは)の頭を撫でる。

 彼女の表情の変化に気が付き、俺はすぐに手を離す。


 まさかとは思うが、あの【固有能力】には副作用があるのかもしれない。

 無差別に誰かを撫でたくなるような、そんな副作用が。

 

 ( ぐっ、ラティさんの目が…… )


 そうでないと説明がつかない。

 この俺が、女性の頭を気安く撫でるはずがない。

 そんなことをサラリとやってのけるのは、椎名のようなイケメンな奴らだ。

 言葉(ことのは)からの視線が妙に熱い。


 ( 気を付けないとだな……ん? )


 言葉(ことのは)の魔法のおかげか、SPの回復が早くなった気がする。

 俺は元から魔法の効きがとても良い。そこによりリラックスできたためか、魔法の効果の効き目がまた一段と上がっていた。


「これならいける。あと3分もあれば乾坤穿が撃てるぞ。ハーティさん、あと3分ぐらいで次いけます」

「よし。――ガレオスさん、例のあれ、お願いします!」

「了解っ、野郎ども! 全員前に出るぞ! 全員だっ! 死ぬ気で前に出ろ!」

 

 ガレオスさんは、負傷して下がっていた者や、回避力に自信がなくて退いていた者にも前へ出ろと指示を飛ばした。


 誰一人欠けることなく、前衛が全員前線へと駆け出す。


 そしてその者たちを入れ違うように、勇者たちが下がってきた。

 ハーティは勇者たちを迎え、いつもよりも真剣味を帯びた口調で口を開く。


「最後の作戦を話します。どうかこちらに」

 

 



       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 




「――の予定です。よろしいですか?」


 ハーティが提案してきた作戦は、勇者たちの特攻だった。

 だが特攻と言っても、魔王本体への特攻ではない。

 本体を守るように蠢いている蛇の排除を目的とした特攻だ。


 そして排除完了後、魔王へ開けた道を行き、ヤツにWSを叩き込む。

 これがハーティの作戦だ。

 正直(ぶっちゃけ)、これは作戦というより王道だ。


「ねえ、でもさ、さっきみたいに黒い刃で防がれないかな?」


 伊吹がもっともな質問を口にした。

 確かにその通りだ。ノーマークで魔王へと乾坤穿を放てたとしても、またあの黒い斬撃で相殺される可能性が非常に高い。


 そしてその可能性を示唆するかのように、魔王からの黒い斬撃が減っていた。

 魔王は黒い斬撃を放つ量を抑え、俺からの攻撃を警戒している。ヤツは間違いなく力を温存している。


「……伊吹、それなら大丈夫だ」

「え? でも、どうするの?」


「ん、お前と同じことをするだけだ。お前と同じように突っ込んでWSを直接放つ。放出系(・・・)じゃなくて、近接(・・)WSの乾坤穿を直接ヤツに叩き込む」


 そう、俺は黒い斬撃の対策として、近接WSの乾坤穿を放つことを決めていた。直接叩き込めば相殺されて防がれることはない。

  

「待ってくれ陣内君。どうやって魔王のところまで……。30メートル近く飛び上がる必要があるよ? たぶんだけど、下の部分に撃ったとしても……」


 椎名が歯切れ悪く言ってきた。 

 何を言いたいのか何となく分かる。地中に沈んでいる部分は駄目だ、そう言っているのだろう。


 あの部分も魔王の身体だが、人体で言えば手足のような場所だ。

 そんな所を消し飛ばしたとしても、本体が残っていれば再生してしまう。

 だから椎名はそれを懸念して言ったのだろう。


「大丈夫だ、飛び上がる方法はある。……少々アホらしい手段だが、サリオの土パルトを使う」

「はい?」


 椎名が心底不思議そうな声を上げた。

 確かにアレを知らなければそう思うだろう。

 俺は、サリオの”土パルト”のことを話す。 

 


「――確かに、それならいけるかもだけど……。でも、まだ二つ問題があるよ」

「む?」


「まず、飛び上がったら身動きが取れないよね? 陣内君には天翔とかないよね。守っている蛇はボクたちで何とかできるかもしれないけど、他にまだ居る可能性だってあるよ」

「ああ、居るだろうな。そこは何とか回避する。それに多少の被弾は覚悟の上だ」


「そうか……。じゃあ次だ、魔王が避けるかもしれない可能性だ。とても待ち構えていてくれるとは思えないよ」

「ぐっ……」


 椎名の指摘はもっともだった。

 こちらから接近するのだ。事前に察知されて横に避けられると正直キツイ。

 

「それなら、ハーティさんか赤城の魔法で縛ってもらうとか」

「少し厳しいな。縛るための地面があんな状態だ。それに黒い靄もあるから振りほどかれる可能性が高い。たぶん無理だ……」


 俺の提案を赤城がやんわりと否定してきた。

 

「陽一君、私が前に出て障壁作って、それを足場にするってのはどうかな? 全力でやればたぶん保てると思うの」

「なるほど、それなら――」

「――待ってっ、由香が前に出るなんて駄目よ。あんなバケモノに近寄るなんてアタシが絶対に許さないっ! 絶っ対に駄目!」


 葉月が言った提案に、突如橘が食って掛かってきた。

 絶対にそんなことはさせないと、狂気染みた目が言葉以上にその意思を物語っている。

 

「ま、待って橘さん。だって、そうしないとあの魔王を倒せないよ」

「そんなの構わないっ! 由香が危ない目に遭うぐらいだったら、アタシは元の世界に戻れなくてもいいっ。だから止めよ、由香ぁ……」


 何やらとんでもないことを言い出した橘。

 その橘の発言が、思わぬ者に火を付けた。


「いやあああああああっ! あたしぃは絶対に帰るっ! 帰るっ。元の世界に帰って全部忘れるんだからっ、全部無かったことにするんだからああ!!」


 勇者綾杉が発狂でもしたかのように叫びだした。


 何事かと目を見張る中、綾杉は【宝箱】から輪っか状のモノを取り出した。

 そしてそれを頭に被る。


「あっ! それってまさか! 前に使っていたヤツか」


 綾杉が被っている物には見覚えがあった。

 それは初めてゴーレムと戦ったときに綾杉が装備していた物。


 ヴォンっと起動音のようなモノが聞こえて来た。

 音の発生源に目を向けると、膝をついて沈黙していたはずのゴーレムが立ち上がっていた。 


「お、おいっ綾杉。お前は何を……え!?」


 立ち上がったゴーレムが、凄まじい速度で駆け出した。

 即座に反応を示す魔王。だが魔王の動きがおかしい。

 迫ってくる綾杉のゴーレムに、何か躊躇いのようなモノを見せている。


「あの、多分ですが。感情の色が見えないからだと思います」

「あっ」


 【心感】を持っていたラティだからこそ解ること。 

 魔王は、感情の色を見せずに特攻してきたゴーレムに戸惑っているのだ。

 視界には敵らしきモノが映っている。だが感情の色が見えない。初めて対峙する敵に戸惑い――


「――おい、行ったぞ!」


 綾杉が操作しているゴーレムは、毒沼のような魔王へと飛び込み、ワニのような大顎がある本体へと殴りかかった。

 ガッシリと掴み、豪腕を振り上げて打ち付け続ける。


 当然、そんなことをいつまでも許す魔王ではない。

 黒い蛇たちが黒い斬撃を放つ。

 しかし綾杉のゴーレムは、リペア時に追加された4枚の大盾を使ってそれを防いだ。


「チャンスだ」

「え? 陣内君……あっ! そうか!」


 いま俺たちの目の前に、魔王を消滅させられる機会が訪れていたのだった。

 

読んで頂きありがとうございます。

すいません、返信が滞ってしまい……全部読ませてもらっております(_ _)


引き続き、感想やご質問など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字も何卒……

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