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盾の勇者の矜持

お待たせしましたー;

「葉月っ!」

「うん、分かってるっ!」


 完全に不意を突かれた彼女たちだが、彼女たちも修羅場をくぐり抜けて来た勇者たちだ。ポンコツ二号はともかく葉月はすぐに立て直した。


 黒い蛇をキッと睨みつけ、障壁の魔法の唱える。

 彼女の前方に空間を震わせながら半透明の障壁が出現した。


『――!!』


 噛みつかんとしてきた黒い蛇は、葉月の張った障壁に弾かれた。

 だが蛇は――


「えっ!? 2匹? 4匹!? 何で? もうっコルツォ!」


 蛇の頭がくわっと増えた。

 一匹が二匹に、二匹が四匹へと、蛇が裂けるように増えたのだ。


 怯むことなく即座に対応する葉月。

 しかし、横に広げた障壁の上と下を突くように、二匹の蛇が障壁を超えてきた。そしてそのまま彼女たちへと襲い掛かる。


「きゃあああっ」

「いやあっ!」 

「ひぃいっ!」


 二匹の蛇は、葉月と言葉(ことのは)に向かって大きく顎を開き――


「――オラの目の前でっ、女の子を襲わせるもんかあああ!!」  

「小山っ!!」


 彼女たちが襲われる寸前、小山が横から黒い蛇に飛びついた。

 そして両手を使って逃がさんとばかりに首をねじ上げる。


「ぐうううううううっ」

「小山君っ!」


 髪の毛が燃えたときのような臭いと、何かが焼ける音がした。

 見れば蛇を押さえている小山から煙が上がっている。黒い蛇が、小山の身体に害を及ぼしているのが分かった。だが小山は決して蛇を放さない。


 そんな小山に、残った二匹の黒い蛇が襲い掛かろうとして――切断された。


「でぇぇぇぇえいいい!」

「ナイス伊吹!!」

「伊吹ちゃん!」


「うぐっ――」


 刹那の瞬間に駆けつけてくれた伊吹。

 彼女の活躍に一瞬浮かれたが、受け身を取らずに落ちた小山に注目が集まる。


「大丈夫か小山っ! うっ!? これは……」


 小山の身体に黒い染みのようなモノが広がっていた。

 何が起きたのがすぐに分かる。魔王によって汚染されたのだ。

 しかもよく見てみれば、蛇に触れていた部分は(ただ)れたように溶けている。


「くそっ、待ってろ小山。いま取り払う」


 俺は木刀で小山を撫でた。

 汚染されたままでは回復魔法の効果が著しく低下する。

  

「よし、――葉月! 小山に回復魔法を頼む」

「はい、小山君、ありがとうね」


 呼ばれる前に駆け付けていた葉月は、両膝をついて小山に礼を言う。


「……へ、こんな怪我、オラにとっては屁の突っ張りだぜ」

「ったく、何だよその強がりは」


 俺は良くやったと小山の頭をガシガシと撫でた。

 コイツは本当によくやっている。

 

「えっ? 何これ……」

「げっ、そんな目で見んな」


「――痛っ! え、何で??」


 小山がトロンとした目をしたので、俺は即座に殴って正気に戻す。

 何と言うべきか、『殴らないといけない』、そう感じたのだ。

 そして、前線へと戻る途中、八十神もぶん殴った。


 一瞬呆けた顔を見せた八十神。

 だが次の瞬間には、何故殴られたのか分かったらしく、顔をしかめて俯いた。


 この馬鹿の行動(やらかし)には皆が何かを言いたいはず。

 しかしそんな暇はない。椎名が何か言いたげな目をしていたが、自分まで後ろに下がる訳にはいかないことを理解しているので、ヤツは前線に留まっていた。

 

 俺はそんな椎名に目で合図を送ったあと、再び最前線へと向かった。

  



 

 しばらくの間、また小康状態の戦況が続いた。

 懸念されていた後衛組の守りには、ガレオスさんの指示で【索敵】持ちの盾役が配置についた。


 地中からの攻撃は、【索敵】持ちがしっかりと警戒していれば事前に察知することができる。なので俺たちは前に集中することができたが……


「ダンナ、何か攻撃の頻度が最初に戻ってきていやせんか?」

「……ああ」


 魔王の注意を引いていると、ガレオスさんが近くにやってきて話し掛けてきた。

 そしてその内容は、俺もそう感じ始めていたことだった。

 ガス欠気味だった黒い斬撃がどんどん増えてきたのだ。


「どう思いやす?」

「多分だけど、地面とか建物を取り込んで、そんでそれをエネルギーってかSPみたいなモンに変えてんだろうな」


「やっぱりそうですか……」


 少々テンプレ的な発想だが、まず間違いないだろう。

 周囲の物を取り込むことによって、それを養分にして黒い斬撃を放つ。

 

「ってことは……あれですかい?」

「ああ、このままって訳じゃ――下あああああ!」


 悪意が地中を駆け巡ったのが見えた。

 俺が警戒を飛ばすと同時に、地面が裂けて黒い蛇が噴き出した。


 裂けた地面から顔を見せた蛇は3匹。

 その三匹の蛇は噛みつくなどはせず、首を大きく振って黒い斬撃を放ってきた。


 事前にそれを視ていた椎名は、結界で黒い斬撃を防ぎ、即座に距離を詰めて黒い蛇を一匹切り裂いた。


 しかし残りの二匹は、一人の冒険者を挟み撃ちにした。

 狙われた冒険者はラムザ。いままで攻撃を避け続けていたラムザだが、突然下から湧いての奇襲、そして挟み撃ちということで避け切ることができなかった。

 

 黒い斬撃がラムザの右腕を切り飛ばす。


「ラムザああああ!」

「がっ、あがっぐぅっ」


 崩れ落ちるラムザ。

 激痛からの悲鳴をかみ殺してうずくまる。


「クソッタレがああああ!!」

「許さないっ! たあああ!」


 俺と伊吹で二匹の黒い蛇を切り飛ばす。

 しかし、右腕を切り飛ばされてうずくまっているラムザに、魔王ユグトレント・アラキが追い打ちの斬撃を放とうとしていた。


「司、そっち持って」

「おうよっ!」

「うわっ! って、痛いです痛いです! 勇者様」

  

 蒼月と上杉が、ラムザを引っ張って後方へと退却させた。

 軽鎧(ライトアーマー)を掴んでラムザを迅速に運んでいく。普段から上杉を引っ張っているためか、蒼月の手際はなかなかのモノ。


「陣内君っ」

「ああ、分かってる」


 俺と椎名は、後方へと退いていくラムザの壁となった。

 黒い斬撃を木刀と結界で叩き落とす。


「ボクは右をやるっ」 

「なら俺はこっちを――っらああ!」 

 

 俺と椎名を挟むように、地面から黒い蛇が噴き出した。

 蛇が顔を出した瞬間、俺と椎名は蛇を縦に切り裂く。


 ( やべえぞ、これ )


 魔王から攻撃のバリエーションが増えた。

 打ち下ろすような斬撃だけでなく、地中を這わせた蛇からの攻撃という、非常に厄介な攻撃方法が増えた。


「うわっ!?」


 離れた場所でまた一人冒険者がやられた。

 ラムザほど酷い怪我を負った訳ではないようだが、このまま前線に留まるには厳しそうな怪我。左手に血を滴らせている。

 彼は一旦退くと声を掛け、葉月たちが居る後方へと退いていく。

 

「マズイな……」


 下からの奇襲は回避が困難だった。

 俺たちは魔王からの攻撃に備え、魔王(ヤツ)を見上げる形で対峙していた。

 なので、視線はどうしても上の方を向いてしまう。

 

 俺の【神勘】や、椎名のような先を視ることができる【予眼】があれば別だが、そういった先を察知することができる【固有能力】を持っていない者には厳しい攻撃だった。


 また一人、また一人と負傷者が増える。


 上を向かねばならない状況で下からの奇襲がくるのだから、どうしても対応が遅れしまう。


 しかも魔王は、椎名を狙った後に他の者を攻撃していた。 

 他の者を先に狙っても、それを椎名に邪魔されることが分かっているのだろう。

 だからまず椎名を狙い、その隙を突いて他の者を狙っているのが分かった。


「ちぃ、自信の無ぇヤツは一旦下がれ!」


 ガレオスさんが全員に向かってそう指示を飛ばした。

 何とか留まりたいと思うヤツもいただろうが、意地を張って怪我を負えば後衛の負担となる。

 こうして攻撃が厳しくなった中、前線を張る人数が減ることとなった。

 しかも――


「おうおう、足場がうぜえな」


 足場がモグラによって荒らされた畑のようになっていた。

 そこら中に穴が空いており、迂闊な足どりをすれば文字取り足を取られる。

 

「くそっ、誰かトンボ持ってこい!」

「司、学校のグランドじゃないんだから、トンボでならせる訳がないだろ」


「分かってるっつの、言ってみただけだ」


 俺は足場の悪い場所ので戦闘には慣れているのでまだマシだが、この穴だらけの状況は非常によろしくない。

 上杉もそうだが、椎名、伊吹もこの足場には苦戦気味だった。


「――まあ、何とかなるかな。そろそろ……」


 蒼月がそうつぶやき、後ろを向くと――


「おわっ!?」


 地面が真っ白に光った。

 そして次の瞬間、俺たちが戦っていた場所がスケート場のようになっていた。

 しかしどういった理由なのか、全く滑る感じはしない。


「蒼月、これってまさか……」

「ああ、雪子がやった」


「マジかよ!」


 俺は氷でできた足場を見回す。

 柊雪子は、魔法で作った氷の橋のように、辺り一面を氷で覆っていた。

 この氷でできた床のおかげで穴に足を取れることはない。しかも――


「そこ、黒くなってるっ! ヤツが来るぞ!」


 黒い蛇は氷の床を突破するため、床を砕きながらやってきた。

 しかしそのときに、白い氷が黒く変色していた。

 要は、黒い蛇が噴き出す前に分かり易い前兆が見えるようになったのだ。


「おし、これでいける」


 厳しい状況へと傾き掛けたが、ここで柊がやってくれた。

 しかも彼女は、穴が空けばその都度塞いでくれた。

 足下からの奇襲がなくなった訳でないが、先ほどとは大違い。


 これで何とかなると、そう思ったとき――


「ジンナイっ、一度下がって来い!」


 後衛が居る後方から、とても頼もしい人の声が聞こえてきた。


「レプソルさん!」

「ジンナイ、一度退いて来るんだ。いいから来い」


 俺はレプソルさんの指示に従い、再び後衛の所へ向かう。

 すると待っていたレプソルさんは。


「ジンナイっ、お前が前に出てどうすんだ! SPを無駄に消費する訳にはいかねえんだろ」

「いや、だって俺が前に出ないと……ってか、レプさんはあっちに居たんじゃ?」


「ガレオスに呼ばれてこっちに強引に来たんだよ。あっちはスペシオールとテイシが居るから大丈夫だ。取り敢えずお前はもう前に出るな。次出るときは……あの魔王を倒すときだ」

 

 強い口調で言ってきたレプソルさん。

 だがしかし、俺が前線にいないとかなりマズい。

 黒い斬撃の的役としてもそうだが、俺が前に出て木刀を振り回さないと前線を張っているメンツの負担が大きい。


 黒い靄は動きを阻害するし、冒険者に掛かっている強化補助魔法の効果をすぐに剥がしてしまう。


 何の強化も無しに前に出るということは、自殺行為とまではいかなくてもそれに近いレベルだ。


 だから俺は、そのことをレプソルさんに言ったが――


「アホか、だからそのためのオレだろ?」

「へ? だからって……?」


「オレが全員を支えてやる。補助が切れた先から掛け直してやるって言ってんだよ」

「そんな無茶な……。だってそんなことをやったらMPが――あっ!」


「ああ、オレに任せろ」


 レプソルさんはそう言って、右手に持っていた魔石を砕いたのだった。

 

読んで頂けありがとうございます。

宜しければ感想やご質問など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字も……

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