表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

577/690

ぶっぱ系の魔王

遅れました-;

 魔王との第三ラウンドが始まった。


 ヤツの全長は30メートル以上。

 ダラリと広がった身体は大通りを完全に塞ぎ、俺たちを北と南に分断した。


 北側を担当していた陣内組と離されてしまった。

 状況を見るに、陣内組と合流することは厳しそう。

 俺たちを分断した魔王はその場から動かず、放出系の攻撃を放ってきていた。


 黒い斬撃が無数に降り注ぐ。

 そんな中、真っ先に動いたのは冒険者たち。彼らは勇者たちよりも迅速に行動を開始した。

 

 一ヵ所に固まらず、皆散ってターゲットの分散に務めた。

 挑発するように前へ出る者や、注意を引くためにWSを放つ者もいた。


 彼らの意図はすぐに分かった。

 葉月や言葉(ことのは)といった後衛組が狙われないように動いたのだろう。

 【心感】で感情の色が見えたとしても、狙いの意図を読み切ることができる訳ではない。なので魔王は、その冒険者たちに釣られていた。


「ホント、マジで頼りになるな……」


 あまりの対応の早さに感心してしまう。

 ガレオスさんからそこまで具体的な指示は出ていないのに、彼らはさも当たり前のように動いていた。


 当然、勇者たちもそれに続いた。

 椎名は葉月と言葉(ことのは)を守りながら後ろへと下がり、小山もそれに続いた。


 伊吹、三雲、下元、上杉、蒼月、柊も各自の判断で動き始めた。


「はああああ! WSスターレイン!」

「ナブラあああああ!」


 三雲と上杉が放出系WSを放った。

 相手は30メートルを超える巨体だ。放たれたWSは外れることなく魔王へと着弾した。が――


「何だよっ、またあの黒いのかよ!」


 上杉がクレームでもつけるかのように吠えた。

 

「司、相手は魔王なんだから、またアレがあってもおかしくないだろ?」

「ちっ、めんどくせえ。さっきは無かったのに」


 蒼月が言うアレ(・・)とは、魔王ユグトレントも纏っていた黒い霧のこと。

 周囲に居る者の動きを阻害し、魔法やWSの効果を減衰させる黒い霧が、前よりも濃い状態で漂っていた。

 いま放ったWSは黒い霧に飲まれ、明らかに威力が下がっていた。


 オロチ(蛇玉状態)のときは無かったので失念していたが、魔王には黒い霧(これ)があるのだ。


「近寄り過ぎるなっ、アレに飲まれんじゃねえぞ」

「ああ、わかってら。ってか、アレに近寄れっかよ。何かダイサンショウを思い出すな」

「嫌なヤツを思い出させるなっ」

「下がれ下がれっそこ!」

「ああっ! サオトメさま! そこは危険だから下がってください!」

「おーーい! 誰かサオトメ様を下げさせろ! ハヅキさまのところまで下がら――って前に出ないでくださいいい」

「頼む、誰か引っ張っていってくれー!」


 声を出して注意し合う冒険者たち。

 少々雑なやり取りだが、これはとても重要なこと。

 これを怠ってやられたヤツを何人もみたことがある。

 

 そんな冒険者を追うように、魔王が黒い斬撃を放ってきた。

 しかし何の工夫もない放出系WSだ、そんな攻撃を喰らう彼らではない。ヒラリヒラリと避ける。

 しかも黒い斬撃の攻撃頻度はグンと下がっていた。


 おそらくだが、あの斬撃を放つにはSPみたいなモノが必要なのだろう。

 だから最初はバラ撒くように連射してきたが、いまは俺と同じようにガス欠状態なのかもしれない。


 俺はそれを見極めるため、魔王ユグトレント・アラキをじっと観察した。


 ( ん? )


 すると冒険者たちが言うように、ふとダイサンショウのことを思い出した。

 魔王ユグトレント・アラキは、どこかダイサンショウを彷彿させる雰囲気があった。


 ( 似てる訳じゃねえけど、何か同じ感じがすんだよな…… )


 魔王のいまの姿は、大通りに毒の沼が湧いて、そこから巨大なワニが顔を出しているような感じだ。

 山椒魚に似たダイサンショウに似てなくはないが、外見以外の部分も似ている気がした。


 ( あっ、やっぱそうか…… )


 魔王の身体に触れていた建物が、飲み込まれるように崩れていった。

 それはまるで、建物を吸収するかのように。


 それを見て確信する。


「小山っ、絶対に突っ込んだりするなよ。お前はそこで葉月たちを守ってろ」

「りょ、了解」


 ダイサンショウのときは足止めのために突っ込ませたが、この魔王は動く様子がない。どちらかと言うと動けないに近い。

 なので俺は、馬鹿が馬鹿なことをする前に釘を刺しておいた。

 

 そしてもう一人、大馬鹿野郎にも釘をぶっ刺しておく。


「八十神、荒木を助けよう何て馬鹿なことを言うなよ」

「なっ!? だけど彼は――」


「――アホかっ!」


 俺はヤツの反論を速攻で遮った。

 ヤツが何を言おうとしたのかおおよその見当はつく。


 不可能だと思っていた魔王化の阻止をやってのけたのだ。

 だからラティのときと同じように、魔王と荒木を切り離せないかと言うつもりなのだろう。


 しかし状況が全く違う。

 ラティのときは、魔王が【蒼狼】に宿ったのだ。

 だから【蒼狼】を切り離すことで分断することができた。


 だが荒木は違う。

 荒木という器に魔王が入り込んで浸食し、そして融合した。

 しかもヤツが望んで受け入れたのだ。

 いまは後悔の怨嗟みたいなことを吐き散らしているが、この魔王化はヤツが望んだこと。助けてやる道理などない。


 そもそも、荒木を助けようなどといった考えは微塵も過ぎらなかった。

 しかし動かない八十神の顔を見たとき、このアホはもしかしてと思ったのだ。

 

「なあ陣内。どうにか……」

「――っなるか馬鹿! ってかよう、例の覚悟ってのはどうなったんだよ」


「あ、ああ……それは……」

「くそが」


 コイツの稚拙な思考は考えなくても分かる。

 あのとき言っていた覚悟とは、要は俺を殺すための免罪符だったのだ。

 八十神はオラトリオから聞いていた。俺が魔王化するだろうということを。


 結局のところ、コイツには覚悟などなかったのだ。

 反吐が出るほど情けない。だが――


「八十神、まだ盾は残ってんだろ? それで葉月たちの盾になれ。いいか、絶対に斬撃から逃げんなよ。それでアイツらを守れ」

「……分かった。言われなくてもやってやる」


 安堵の笑みを浮かべたあと、キリッとした顔を見せる八十神。

 コイツの露骨な表情の変化に心が透けて見える。


 前に出ないで良いからホッとしているのだろう。

 しかも葉月を守るという建前つき。

 いまのコイツにとってその役目(ポジション)は非常に有り難いはず。


「椎名、これで前に出られるな?」

「うん、いけるよ。八十神君、彼女たちを任せたよ。……絶対に守ってね」


 とても柔らかい口調でそう言った椎名。

 だが後半の方は、何とも言えない威圧感を感じさせた。

 それに呑まれ、『ああ……』とだけ返す八十神。


「椎名、頼むぞ。魔王をフリーにすると嫌な予感がする」

「うん、ボクも同じだ。時間を与えるのは絶対に駄目だ。……あれって荒木君が使っていたWSだよね」


 椎名は俺と同じことを懸念していた。

 あれ(・・)とは黒い斬撃のこと。あれは言うならば闇堕ちした世界樹(ユグドラシル)断ち(シィーヴァ) だ。


 威力は正規の世界樹断ちほどではないが、それでもなかなかの高威力。

 そして、もしあれが本当に荒木の使っていた世界樹断ち(WS)ならば、連射ではなく溜め(チャージ)したときに真価を発揮する。


 いまは挑発に釣られて連打をしているが、俺たちが退いて目標がいなくなると他のことをする危険性がある。

 威力を溜めて城でも狙われたら堪ったものではない。どれだけモノを薙ぎ払うか考えたくない。


「陣内君、ボクは先に行くね。だから君は赤城君から回復魔法を掛けてもらってくれ」

「すまん、任せた」


 俺は椎名を送り出したあと、赤城のもとへと向かう。

 魔王を消滅させるためには乾坤穿が必要だ。

 しかしそれは先ほど放ってしまったので弾切れとなった。

 

 なので俺は、SP回復のために一旦この場から退いたのだった。

  

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ感想やご質問など頂けましたら嬉しいです。


あと、誤字脱字も教えて頂けましたら……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ