それでは外で中継の冒険者さ~ん?
遅くなりましたー
「――馬鹿みたいな無茶をしやして、英雄のダンナは」
呆けた顔をしてこっちを見る英雄のダンナ。
こういったときだけは年相応の幼さが垣間見える。普段はちょっとヤバそうな目つきをしているというのに、不意を突かれるとこんな顔をする。
( だから…… )
それを見たくてついからかっちまうときがある。
昔はよく階段に誘ったものだ。最近はなかなか釣れなくなってきたが……
「ホントに無茶をなさって、勇者さまを全員敵に回すとか聞いたことがありやせんぜ? 馬鹿ですかい? ……まあ、何とかなったようですけどねえ」
「いや、何とかってレベルじゃないんだけど? 途中ガチでヤバかったんですよ、ガレオスさん」
心底疲れた顔でそう言ってくるダンナ。
アレをガチ程度で済ましてしまう辺りが本当にダンナらしい。ガチなんてそんなもんじゃないだろう、やり遂げたことは死に物狂いのさらに上だ。
ちょいとからかいたくなってくる。
「へえ、ダンナがガチでヤバいなんて、そんなのいつものことじゃねえですかい。ああ、さっきのハヅキ様とのアレ。アレはアイツら的にはアウトでしょうから、きっとガチで取りに来るかもしれやせんねえ。命を」
「おいっ、さっきの不可抗力だろ! 不可抗力!」
「それが通じる相手ですかい?」
「ぐっ、クソッタレが」
ガックリと項垂れるダンナ。オレはそれを眺めながら思う。
この人は本当に無茶をするお人だ。馬鹿で、馬鹿で、馬鹿で、馬鹿で、馬鹿で、見ていて心が躍る、そんな馬鹿をする人だ。
街の外で待機していたら、ダンナが勇者全員に宣戦布告したとの報せがきた。
それを伝えに来たのは勇者アカギ様。
アカギ様は勇者とは思えぬほど情報戦に長けており、情報の価値を正しく理解している人だ。ならば誤報という線はない。
オレはそれを聞いて思った、『何を馬鹿なことを』と。
しかし一方で、『やっぱアレはそうだったのかぁ~』とも思っていた。
魔石魔物亜種狩りをしていたとき、ダンナだけは別の所を見ていた。
亜種の魔石魔物ではなく、仲間の勇者さまを盗み見るように観察していたのだ。
本人は隠していたつもりなのかもしれないが、見る人が見ればすぐに分かるレベル。
ダンナをある程度観察したことがある者なら気が付くはず。
少なくとも、ハヅキ様とコトノハ様は間違いなく気が付いていたはずだ。
『取り敢えず、陣内君を止めに行くぞ。ついて来てくれ』
質問などは受け付けず、ついて来いと言ったアカギ様。
そして移動しながら具体的な指示を飛ばしてきた。
目的はダンナを止めること。
倒すではなく、止めることが目的だと言ってきた。
オレはその指示を聞いて、”判っている人だ”と感じた。
ダンナをどうにかするのはとても困難。
まず、倒すとなると近寄る必要がある。放出系WSで制圧する方法もあるが、それが通じる相手ではないし、街の中では周囲への被害がとんでもないことになる。
むしろ、それを逆手に取って反撃してくる恐れがある。
しかしだからと言って、あの暴風みたいなダンナに近寄ることこそ最大の悪手。
イワオトコだろうと八つ裂きにする人だ。脚の2~3本は持っていかれるだろう。
20~30本の犠牲を覚悟でいけば何とかなるかもしれないが、誇りや忠義で戦う騎士ではないのだ、冒険者にそんな気概はない。
きっと尻込みするし、そんな覚悟では返り討ちにされるだけ。
聖女様や女神様が追い詰められていたら違うかもしれないが、どう考えてもそんな光景は浮かばない。
だから、戦わずに止めるだけと言う選択は正しい。
囲みはするが戦わない。戦いと言う土俵には上がらず、足止めだけに専念すれば何とかなるはずだ。
オレたちは取り敢えず急ぐことにした。
全隊で動くと遅くなるので、動いたのは伊吹組、三雲組、陣内組のメンツだけ。
しかし、ここで想定外のことが起きていた。
なんと街の中に魔物が湧き始めていたのだ。
街の中に魔物が湧くことが全くない訳ではないが、湧いたとしても一匹程度。
少なくとも立て続けに湧いたりはしない。
もし立て続けに湧くのであれば、それはルリガミンの町の地下迷宮の中。
すぐに見当がつく、これは魔王が発生したのが原因だろうと。
オレたちは湧いた魔物を倒しながら先を目指した。
魔物を無視して先を急ぐという選択もあったが、魔物が湧いたお陰で一般人がパニックを起こし、とてもではないが進める状態ではなかった。
冒険者を見ると即縋ってくる街の住人たち。
要は非常に厄介なことになっていた。
仕方ないので【天翔】持ちが先行して魔物へと向かい、魔物を倒しながら人の群れを掻き分けるようにして進んだ。
そして目的地まであと少しというところで、突然見張り台らしき塔が倒壊した。放出系WSらしきモノに破壊されたのだ。
倒壊と同時に聞こえてくる女の悲鳴。
オレたちはすぐさま救出へと動いた。
記憶が正しければ、いま聞こえた悲鳴は勇者タチバナ様の声。
どういった状況でそうなったのか不明だが、取り敢えず生き埋めはマズいと迅速に瓦礫をどかしたのだ。
すると瓦礫の中から、まさに鬼のような形相したタチバナ様が這い出てきた。
頭からは血をダラダラと流し、いますぐにでも回復魔法を掛けた方が良い、そんな悲惨なお姿だった。
しかし、この方の気性の荒さは嫌っていうほど知っている。
そして今の状態は、絶対に声を掛けてはならない状態だ。止めてくれるイブキ様がいないのだ、オレたちは全員戸惑った。
普段はそこまで酷い訳ではないだが、この方はある人物が関わると急変する。
それは――
「陣内ぃぃぃいいいいい!!」
予想通りの人物の名前を叫びながら、勇者タチバナ様は駆けていった。
「ふむ、陣内君がやったようだね」
そう言って倒壊した見張り台を見るアカギ様。
この見張り台は、離れた位置から放たれたWSらしきモノで倒壊した。
「……ってことは、まさかダンナがWSを?」
「たぶんそうだろうね。さっきも話したけど、陣内君のステータスが変化したから、それでWSを撃てるようになったんだ。それで……いや、何でもない」
「なるほど…………ちょっとヤバくないですかい? あのダンナが放出系WSを使えるようになると、包囲しても反撃してくる手段があるってことで……」
「ああ、だからできればその前に――だと良いのだけどな」
小さい声だったので聞き取れなかったが、アカギ様は何かを言ってた。
「……取り敢えず、急ぎやすか」
「ああ」
オレたちはタチバナ様を追うように駆けた。
そして目にした光景は――
「な……んだありゃ?」
あり得ない光景が広がっていた。
いや、あり得ない光景が落ちてきたと言った方が適切かもしれない。
遥か上空より、昔どこかで見たことがある物が降って来ていたのだ。
「あれは確か……」
そう、アレはタチバナ様が巨竜の動きを止めるために使った豪邸。
それが空より落ちてきていたのだ。
しかも今回は地面の部分まであるものだから、質量は間違いなく前回以上。
「何をやっているんだ、無茶苦茶だっ! くそっ! 僕に止められるか!?」
アカギ様が咄嗟に魔法を展開させようとしていた。
あの降ってくる物を止めるつもりなのだろう。
もしあのでっかい物が落ちてくれば、何人死ぬか判ったもんじゃない。
オレたちの居る位置は南側なので安全だろうが、北側にいるヤツらはアレの範囲内だ。
「土系束縛――え?」
「はい? 消えた?」
光の筋のようなモノに穿たれたあと、あのデッカい家が消え去った。
もう何が何だか理解が追い付かない。
取り敢えず状況を把握したくて、その光の筋の根元を見ると、そこにはダンナがいた。
そして次の瞬間、大きな声がしたかと思えばタチバナ様が吹っ飛んだ。
吹っ飛ばしたのは勇者サオトメ様。
ある意味、勇者タチバナ様と同じぐらいヤバいお人。
もうどうしたら良いのか、アカギ様に指示を仰ごうと思ったそのとき。
「ねえ、少しだけ待ってもらえるかな?」
ハヅキ様が困った笑みを浮かべながら、オレたちにそう言ってきた。
そして、魔王らしきモノは姿を現した。
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ感想など頂けましたら幸いです。
あと、誤字脱字なども、何卒……