55話 冒険者のつぶやき
別視点です
俺の名前はドミニク。
普通の冒険者だ、少し違う点があるとすれば、家を持っていて娘もいることだ。冒険者ってのは案外結婚したり子供が出来ると止めちまう奴が多いんだ。
俺は他に才能が全く無いのもあって、生活の為に冒険者を続けている。多少の危険を伴うが、その辺りは経験と勘でどうにか捌いてこれた。
そんなある日、防衛戦と言う美味しい仕事が発生した、無茶や目立とうとしなければ、他の仕事より安全で稼げる仕事だ。
条件のレベル30以上と言うのがあったが、俺のレベルは34だ、問題なくその仕事を請けることが出来た。当然30以上とはベテランの域だ、最近は魔石魔物狩りとか勇者様とかで30以上は珍しくは無いが、そんなモノに頼らずに34になった俺にはそれが誇りであり自信でもある。
そしてその防衛戦で、とてもレベル30とは思えない奴を見た。
冴えない皮の鎧と木刀、ただ槍は中々の業物に見えた。巻いてある赤い布の付加魔法品もなかなか良さそうな一品だ。
だが、もっとも冴えていないのは面構えだった、とにかく目つきが酷かった。
まるで、死んだ魚に眉でも書いたような、そんな印象の少年だった。はっきり言って若者の少年がしてイイ目ではなかった。
しかも、働きが面構えに負けないくらいに情けない働きっぷりだった、WSを放つこともなく、ただ登って来る魔物を槍で倒そうとしているのだ。あまりの情けなさに、【鑑定】を使ってステータスを確認した程だ。
ただ、そのステータスは何かの間違いかと思うくらいにヘンテコだった。分かり易く言うならば、強さの判断が出来ない相手だった。
レベルも表示されてなければ、SPもMPも無い謎の存在。正直言ってよくもまぁ参加出来たなってのが感想だった。
しかも、実力も無いのに勇者様のWSにケチ付けて、勇者様の二人に怒りも買っているし、まるでダメな冒険者だった。
俺の勘が言っている‥
――この冒険者はハズレ野郎だと!――
そして次の日は、ソイツはメインの中央から右の端っこに移動させられていた。まぁ当たり前か、だがしかし、勇者のサオトメ様と何故か仲良くしていた。
勇者サオトメ様と知り合いなのだろうか?
最終日もソイツは右端で戦っていた、勇者サオトメ様と一緒に仲良く。
それはなんとも微笑ましい風景だった。あのちょっとキツ目の性格のサオトメ様が、あのダメ冒険者にかまって欲しくて話し掛けているのだから。
それから暫くして噂の巨人が現れた。
防衛戦に姿を見せると噂されている魔物だ。その魔物は強さの割りに莫大な経験値を獲ることが出来る。周りの冒険者達が自分達の仕事をほっといてその巨人にWSを放ち始める。
こいつ等は理解していない、実力の伴わない力など、実力の成長を阻害になるという事を。しかも自分達に与えられた仕事もこなせないとは情けない。
そんな事を考えながら堀の下の魔物を屠る仕事を続けていると、隣にいる狼人の娘から息を呑むような悲鳴が聞こえた。
隣に居た狼人の冒険者は、常に落ち着いて、とても今みたいな驚きを見せるのは意外だった。その為、何に驚いたのかが気になり、その狼人の視線の先に目をやってみれば。なんと冒険者が二人、堀の下に落ちていたのだ。
しかもよく見れば、それは遠目でも判る勇者サオトメ様だったのだ。彼女は他の冒険者達とは違う、白を基調とした豪勢な装備をしているのだ、だからすぐに落ちているのがサオトメ様だと判断出来た。
白い装備はすぐ汚れるので他の冒険者達は避けるのだ。特に女性ならなおさら。
その落ちたサオトメ様が、弓で魔物に攻撃をしている。
完全に悪手だ、ただ魔物を引き寄せてしまっているだけだった。
気がつくと、隣にいた狼人の冒険者が櫓上にいる、誰かに話し掛けている。なにか指示をしている様子だった。
それよりも今は、サオトメ様が危ないと思い再びそちらに目を向けると、もう一人の落ちた冒険者が戦っていた。
初日にも下に降りて行った奴がいたが、ソイツはほんの瞬きの間に人の形を保っていなかった。だが、今戦っている奴は、初日以上の魔物を相手に生き残っていた。
むしろ押し返す勢いで。
槍を突くのではなく、切り裂くように振り回し。力を無駄にしないように8の字を横に寝かした軌道で、魔物を切り裂いていたのだ。
その姿はまるで英雄譚の一ページのような光景だった。
迫り来る魔物の群れ。背にしている美しい姫を護る1人の男。知らずのうちに『すげぇ、』と感嘆の声が漏れる程だった。
しかし、その名も知らない英雄に危機が訪れた。
二匹の魔石魔物級が雪崩れ込んで行ったのだ。一匹でも十分危険な魔物が同時に二体。これはマズイと思った瞬間、その英雄は迷わずに動いていた。
判断して動くより迅く、迫り来る”死”という大きな塊に”生”というモノを捻じ込み、活路を見い出す。
冒険者なら誰もが憧れ、そして男なら目指すべき一つ姿。
そして、その物語を盛り上げるかの如く。青白く燃える戦斧がもう一体の魔石魔物級に叩き込まれ、それが合図だったかのように、亜麻色の迅い獣が魔物の間を切り裂くように駆け抜け、そして首を刎ねていった。
その獣の目指す方を見ると、その先には袋小路で戦い続ける英雄がいた。普通に考えれば救援に行くのだろうから当たり前のことだが、咄嗟には思い付かなかった。
それは――
あの英雄に助けが必要なのか?と思う程に強かったのだからだ。
そこで俺は一旦落ち着き、その英雄を確認してみると、それはあの冴えない駄目な冒険者だった。
俺が心の中と、態度でも馬鹿にしていたあの冒険者。
俺は彼に魅せられていたと激しく衝撃を受けた。
途端に恥ずかしくなる。その理由を自覚するのも恥ずかしい。
いっそ自分もその場に飛び込んで対等になれば、その羞恥の気持ちを振り払えると思い、堀を駆け下りる。
そしてその後、
俺はその英雄の冒険者と話す機会が訪れた。
自分からその冒険者の元に行ったのだ。そして話し掛けてみると、最初の印象通りの”冴えない奴”だった。
俺が一時でも憧れ魅せられた奴が、まるで評価されない冴えない奴。それが何故か惜しくて納得がいかなかった。
それなら‥‥‥
「お!袋小路の”英雄”じゃん、俺は見てたぜ~」
――俺がコイツの名を広めてやる!
今日の戦いを誰かに話して広めてやる、話を盛る必要も無い!
今日の出来事を話せばきっと広まる。そうしなければ、この”冴えない野郎”に惚れ込んじまった俺がダサくなっちまう。
――いや、俺がダサくてもいい。
コイツの価値が評価されないのが悔しいんだ!
その後すぐに、また別の伝説を作りやがった。
また今度コイツが北の領地にくる事があったら、飯でも一緒に食ってみたいもんだ。
その時は、ちょっと娘でも紹介するのもアリだな、あいつも確かそろそろ16才だし、悪くない考えだ。
これはちょっと楽しみが出てきたぜ、、。
読んで頂きありがとうございますー
次は早めに出せる予定です
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