表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

567/690

超強い椎名

 椎名がゆっくりと近づいて来る。

 それはとても落ち着いた歩み。力みなどはなく綺麗な芝居のよう。

 静かに凪いだそれを――強襲する。


「だらっ!」


 左手に木刀、右手に無骨な槍を短く握り、左右からの連撃を見舞う。

 

「あまいっ!」


 椎名は、二本の剣と7枚の結界でそれを迎え撃つ。

 一瞬にして捌き弾き返されるが、俺は止まらずに次を放ち続ける。


「まだっ!」

「――っ!?」


 防戦になったらジリ貧。手数では椎名の方が圧倒的に上だ。

 何が何でも先手を取って、戦いの流れを引き寄せる必要がある。

 威力よりも手数、【加速】と【迅閃】をフル稼働させて回転を上げていく。

 俺が椎名よりも優れている所は、この速度スピードと――


「はああっ! これで倒すよ!」

「しゃらくせえええ!」


 無拍子で降り注ぐ結界の攻撃を、避け、弾き、攻撃へと転じる。

 一歩でも下がったら一気に押し込まれる。

 加速して、加速して、加速して、もっと先へと回り込む。


「……さすがだね、陣内。これだけの攻撃だってのに……」

「へ、たまたま読みがあたっただけだ」


 ――先読みだ。


 椎名が纏う7枚の結界には、勢いをつけるなどの予備動作が一切ない。

 そのため、視認、視覚での先読みが不可能。さすがの俺でも予兆がなくては先が読めない。


 だがしかし、椎名の性格と正確さから先を読むことができた。


 ( 来るっ! )


「――っ!? これも捌き切るのか」

「……」

 

 椎名(ヤツ)の剣には遊びが一切ない。

 フェイントやズラしと言った、”虚を突く”というモノが存在しない。

 

 良く言えば王道にて正道。

 悪く言えば真面目過ぎる剣筋。

 的確に最短で目標を捉え、隙なく不利を潰してくる。


 ある意味、理詰めの攻撃とも取れるそれは、常に正しい場所だけを狙ってきている。


 将棋で例えるならば、一つのミスもない指し手のような感じだ。

 普通ならば最短で追い込まれて詰みなのかもしれない。


 しかし今の俺には、それに抗うことができる速度があった。

 的確に最短を攻めてくる椎名に対し、俺は思考と性格を読んで先回りする。

 ヤツの打ち込みは正確無比、それゆえにズレがない。

 だから何処へ攻撃が来るのか、一度理解できると読み切るのは容易だった。


「はあああああ!」

「くっ、押される!?」


 限界まで速度を上げた。俺は椎名の猛攻を上回る。

 無骨な槍が結界をまとめて弾き返す。

 縦長の結界には重さがないのか、速さはあっても非常に軽く、複数でも簡単に弾き返すことができた。


 ただ、止まっている場合は全く動かないので、もしかすると結界は、空間に位置を固定しているのかもしれない。

 そして今も、木刀による突きを弾くように防いできた。


――くそっ、

 結界だってのにこの木刀を弾くとかホントに結界かよ?

 普通の結界だったら……


 

 ギアを上げて押し返しても、肝心の攻撃が椎名に届かない。


「驚きだよ。もう適応してくるなんて」

「当たり前だ。こんぐらいできねぇと生きていけねえ生活だったんでな」


「全く、君は……」


 椎名が言うように、俺は椎名の攻撃に対応できるようになっていた。

 剣と結界による猛攻は厳しいが、欠点がない訳ではない。

 

 剣は重く鋭いが、予備動作から先を読むことができる。

 結界の方は全く読めないが、ヤツの性格と正確さから読むことができる。

 それでも追い付かないときがあるが、それは速度で補い――


「しゃあああ!」

「くっ!?」


 WSランページを放とうとした瞬間、俺はWSでヤツの右手を弾き上げた。

 放ったWSは斬鉄穿零式(・・)

 放出系のWSではなく、近接WSの斬鉄穿だ。

 

「なんのっ!」


 右手をカチ上げられた椎名は、残る左手でランページを放ってきた。

 【加速】と【迅閃】を発動させ、WSの硬直をねじ伏せてランページを捌き切る。

 そして再び――


「斬鉄穿零式!」

「させないっ!」


 渾身のWS。

 椎名の結界を貫くつもりでそれを放つ。が――


「くそっ!」


 凄まじい振動とともにWSは弾かれた。

 

 ( く、やれると思ったのにっ )


 放出系は無理でも、近接系の斬鉄穿ならいけると踏んでいた。

 衝撃が多少ズラされても、放出系のように力を分散させられることはないと考えていたのだ。


 しかし椎名の結界は、それをも弾いてみせた。

  

 木刀を握る手に激しい痺れが走る。

 武器を手放してしまいそうな程の反発力だった。


「……まだそんな奥の手を残していたんだね、陣内」

「はっ、たったいま防がれたけどな。ったく、WSを両手で連発させるとかチートじみた真似をしやがって。前よりもキレがイイじゃねえか」


「WSの硬直を無くすような君に言われたくないよ」

「言ってろ」


 これで隠し球が尽きた。

 一応もう一つあるが、それは隠し球と言うよりも最終兵器。

 仮にそれを放ったとしても、十中八九避けられるだろう。

 きっと椎名には通用しない。


「じゃあ、ボクも奥の手を使わせてもらうかな」

「へ?」


 椎名は、そう言って結界を一枚頭に被せた。

 その結界は白い殻のような仮面へと形を変え、ヤツの顔を覆う。

 

 ( ヤクイっ )


 ヤツは奥の手を使うと言った。

 ならば当然、それを使わせる訳にはいかない。

 俺は即座に距離を詰める。


「させっか!」

「はあああっ!」


 再び剣戟の音が鳴り響く。

 七枚あった結界は六枚になったが、手数にはさして影響はなく、戦況は拮抗した状態のまま。


 しかし余計な隙を与えれば、きっとその奥の手を使ってくるはず。

 易々と奥の手を使わせるつもりはない。

 仮に使わせるとしても、万全な状態でその奥の手(切り札)を――


「使わせっかあっ! 零式!」

「防ぐっ!」


 渾身のWSをまた防がれた。

 しかも今度は、二枚の結界を守りに回すことでより強く弾き返された。

 そのとき、一瞬だが俺は退いてしまう。


 僅かにできた隙間のような瞬間。


「ったあああああ!」


 椎名が雄叫びを上げながら結界を振り下ろしてきた。

 一発、二発、三発、そして四発。

 その四発目を、木刀を使ってギリギリのところで防ぐ。

 俺の首を左から狙った攻撃だった。


 ( 次は―― )


 予測できる次の攻撃(一手)は、防いだ方とは逆側からの攻撃。

 右からの袈裟斬りが来ると予測する。


 ほとんど無意識に身体が動きそうになったが、椎名の二本の剣が、右側ではなく、止められた結界がある左側に向けられていた。


 その予備動作を見て、俺は即座に身構える。

 なんのつもりなのか分からないが、椎名は、木刀によって止められている結界に向かって振りかぶっていた。

 

 ( ――ッ!? )


 一見、止められた結界を叩くことで押し切るようにも見える。

 力技で体勢を崩し、次に繋げる作戦と、そう見えなくもない。

 だが、木刀に伝わってくる激しく反発するような振動が、それが狙いではないと物語っていた。


「吹き飛べ、陣内!」

「くそったれっ――」


 左耳が役目を放棄した。音が全く聞こえなくなる。

 突き抜けるような振動が、左肩を強く吹き飛ばす。

 身体が横へと回転する。


 視界の隅に、弾け飛んだ肩の鱗板が見える。

 付けていたはずの面当ても何処かへと行っている。


 脳を揺さぶられたことで吐き気がするが、俺はそれを呑み込み後ろへと飛んだ。


「……まだ足掻くのか、陣内」

「……」


 見上げた先には、5枚の結界を纏った椎名がいた。

 

「……結界を爆発させたのか?」

「うん、これがボクの切り札だよ。小さい爆発じゃなくて、大きい爆発をさせたんだ。まあ、剣で強く叩かないと駄目なんだけどね」


 勇者椎名は、自ら結界を叩くことで爆発させて攻撃してきたのだった。 

読んで頂きありがとうございます。

宜しければ、感想など頂けますと嬉しいです。


あと、誤字脱字なども、どうか(_ _)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ