かっこいい椎名
すいません、こっちの方のイメージのつもりでしたー(椎名
ええ、確かに……二刀流で剣が白と黒ですからねぇ……
確かにそうかもだーーっと反省です。
あ、ひょっとしてあまり有名じゃない? P3のタナトスって……
俺は、自身の慎重さを悔やんだ。
いや、慎重さ自体に問題はない。
慎重に行こうと、そう判断を見誤ったことが問題だった。
( ミスったな…… )
椎名からは焦りを感じていた。
だからそこを突けば倒せると考えていた。
椎名は強敵だった。俺を一瞬で追い詰める程の強さだった。
だがそれは、予想外の強さだったからに過ぎない。早い話が、強さの底を見極め損ねていたのだ。
だから俺は修正し直した。
速さ、力強さ、鋭さ、精度などをもう一度見極めた。
そしてその結果、椎名を完全に捌くことができるようになった。
あとは隙を誘発させて翻弄し、障害物である小山ごとWSで押し倒すつもりだった。
焦りすぎている椎名なら、十中八九上手く行くと睨んでいた。
しかしヤツは、決行直前で立て直してきた。
ほとんど弱点と化していた結界を集結させ、木刀から放たれた斬鉄穿を防いできた。
「陣内君、二人だけで勝負だ」
「……」
七枚の結界を背中に回す椎名。
その姿はまるで、背に羽でも生やしたようなシルエット。
身に纏う雰囲気も一変していて、完全に落ち着きを取り戻している。
ひりつくようなプレッシャーには若干だが気圧される。
そして何より――
( おい、すげえ格好いいな、それ )
「……陣内君、いま、どうでもいいことを考えなかったかい? ボクが言うのも何だけど、できれば戦いに集中してほしいかな」
「お、おう……」
そう言って椎名は、小山を横にズラして前へと出て来た。
そして俺と対峙する。
「仕切り直しみたいになったけど、行くよ、陣内君」
「ああ」
椎名と戦うため、俺は木刀で霞の構えを取る。
「そうだ、一つ先に言っておくことがあった」
「ん? 何だよ、命乞いか?」
「いや、違うかな。結界のことだよ。いま張られている結界はこの七枚だけだ。だから、そっちの槍でも通るよ」
背に添わした無骨な槍を、目で差しながら椎名が言ってきた。
「……通るって、あの自動でガードするみたいなヤツは無いってことか?」
「うん、そっちの分もこの七枚に集めている」
「何でそんなことを教える。わざわざ言う必要ねえだろ?」
「ボクなりの……けじめみたいなものかな? こうやって晒すことで、自身を追い込むと言うか……うん、そんな感じかな?」
よくわからんが、何となく分からんでもないことを言ってきた。
エウロスで椎名と戦ったとき、決め手となったのは木刀による奇襲だった。
椎名が持つ白い方の準聖剣は、持ち主を守る守護聖剣。
六角形の結界を展開させるだけでなく、身体を守る透明な膜のような結界を張り、攻撃を常に遮っていた。
その膜のような結界を突破するには、WSに匹敵する攻撃力が必要。
当然、そんな強い一撃を生むにはそれなりの溜めが必要であり、どうしても動作が大きくなってしまう。
しかし俺は、その膜のような結界を世界樹の木刀で貫いた。
椎名からしてみれば、止まると思っていた攻撃が止まらなかったのだ。
大したことのない攻撃、ちょっと隙を与えてしまった。そんな風に思っていただろう。しかし世界樹の木刀は結界壊しだ。
あのときの椎名は、結界の力を過信して油断した。だから――
( それには頼らないって覚悟か? )
安全な鎧を脱ぎ捨てることによって、過信や慢心、油断と言ったものを捨て去り、己をただ研ぎ澄ませる。
有利さを捨てることになるが、そうしないと俺には勝てない。
椎名はそう感じてそれを選択したのかもしれない。
「はっ、この土壇場でいきなり覚醒でもしたってヤツか?」
「ああ、そうさ。土壇場だからこそ覚醒するってものだろう? 陣内」
「なるほど、違い――ねえっ!」
先手必勝、今度は俺から斬り込んだ。
打ち込みを黒い方の剣で弾き返す椎名。
流れるようにもう片方の剣で薙いできた。
「っしゃ!」
薙いできた斬撃を、振り下ろしにて切り払う。
が――
「――っちぃ!」
「逃さない!」
七枚の結界が、俺に向かって回り込むように迫ってきた。
瞬時に後ろへと退く。
当然、追ってくる椎名。
「グラットン! グラットンツー!」
また黒い重撃が襲ってきた。
一発目は木刀で防ぎ、二発目は屈んで躱す。
「まだだっ! 陣内!」
「くそったれ!」
WS後の硬直を七枚の結界で補ってくる。
4枚の結界が斬り付けるようにして降り注いできた。
横に避けつつ木刀で受け流す。
「あっぶね!?」
妙な手応えに一瞬違和感を覚えるが、椎名の股下から、隠し刃のように結界が斬り上げてきた。
顎を僅かに掠めるが、辛うじて避けれた。が――
「斬鉄閃!」
「ぐぅっ」
俺は受け流し切れず、後ろへと強制的に下げられる。
そしてまた、WSの硬直をフォローするように七枚の結界が襲いくる。
「くそ、マジで隙がねえ!」
椎名の攻撃に隙がなくなっていた。
そして揺らぎもない。
( ちぃっ、どうしても遅れる )
椎名の攻撃は読める。
僅かな動作から、ヤツがどう動いてくるのか高い精度で判る。
しかし、結界の方は別だった。
無数に舞っていたときは、その揺らぎから動きが読めた。
だが七枚になってからは、その揺らぎが完全に消え去り、動きが一切読めなくなっていた。
ほぼ無反動で斬り付けてくる縦長の結界。
勢いをつけるといった動作がないので、まるで無拍子で放たれる刃。
瞬き一つですら命取りになるような瞬間が続く。
「EっXカリバー!」
息が詰まるような猛攻に、俺は仕切り直しのWSを放った。
斬鉄穿は防がれたが、このWSなら何とかならないかと、そんな願いを込めて放った。が――
「な、に?」
光の大瀑布が、広がるようにして霧散した。
いつもとは何処か違う、違和感を覚える散り方。
「あ、ああ……そうだった。まだ言い忘れていたことがあったよ」
「……何だよ」
椎名は猛攻を止めて、ポツリと呟くように言ってきた。
「この七枚の結界だけどね。これってWSとかその木刀の力に反発するようにしているんだよ。小さく弾けているって感じで、その弾けた力で押し返したり逸らしたりしているんだよ」
「爆発反応装甲かよ……」
椎名の話を聞いてピンときた。
木刀で縦長の結界からの攻撃を逸らしたとき、妙な振動を感じた。
正方形のときには無かった振動。
きっとあの振動の正体は、いま椎名が言った『小さく弾けている』なのだろう。
木刀から放たれた斬鉄穿は、その小さく弾けているのに防がれたのだろう。
思わず『爆発反応装甲かよ』と言ったが、案外あっているのかもしれない。
直進する力を、結界の強度で防ぐのではなく、弾ける力で散らして防ぐと言った方法で……
――おい、ちょっと待てよ、
もしかして、WSとかにも反応するってなら……
「今度こそ勝たせてもらうよ、陣内」
「椎名……」
あの椎名が、対俺用となって立ち塞がってきたのだった。
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