おっらー
お待たせしてしまって申し訳ないです。
ちょっと激務?的な感じでくたばっておりました。
なので安心してください、ちゃんと完結までの構想は出来ています。
引き続き、主人公がピンチになったり鬱展開などほとんどない、ストレスフリーの勇ハモをお楽しみくださいな。
あ、ファンアート頂きましたっ!
ちょっと肌色多めなので、ツイッターに上げておきます^^
椎名の六角形の結界。
攻撃を防ぐための盾だけではなく、攻撃や足場など、何にでも使える準聖剣の結界。
その結界を咲き誇るように展開させながら、勇者椎名がやってくる。
正面から戦うなら間違いなく最強の勇者だ。
昔は聖剣マサムネに振り回されていたりもしたが、白と黒の準聖剣を手にしてからは、そのチート装備に振り回されることなく、それを完全に使いこなす二刀流の勇者。
俺はその椎名を正面に捉え――
「来たな、ストーカーでロリ○ンの二刀流」
「陣内君っ!」
取り敢えず相手を揺さぶるジャブを放っておく。
正面から戦う必要などはない。心なしか結界に揺らぎが見える。
「…………全く、そんなんでボクを揺さぶったつもりかい」
「いや、ただ事実を言っただけだ。紫髪の幼女が好きな勇者さんよっ!」
「陣内ぃいい!」
今度は後ろの方までしっかりと聞こえる声で言ってやった。
わっさわっさと揺れまくる結界。どうやら作戦は上手くいった様子。
「はぁ~~~~。ホントに何で彼女は君をそこまで信……いや、陣内君。そこを退く気はないかな?」
「あるように見えるか?」
俺はそう言って木刀を構える。
結界使いが相手だ。無骨な槍ではどうしようもないだろう。
「見えないね」
椎名もそう言って構えを取る。
煌びやかな装飾が施された剣を後ろへと引き、バネを溜めるように重心を沈める。
「いくよ、陣内君」
「ああ」
「斬鉄閃っ!」
「――っ!?」
閃光のような斬り込みが来た。
鋼をも切り裂くような凄まじい速度と重さ。そして強い気迫。
腕が持っていかれそうなほどの斬撃に、俺は何とか受け流すのが精一杯。
これが世界樹の木刀ではなく、昔使っていた槍だったら、今の斬鉄閃で槍ごと断ち切られていただろう。
( くそっ! )
受け流すと、受け流すのが精一杯では意味が全く違う。
WSの硬直を狙う余裕がない。
「グラットン! グラットンツー!」
「ぐっ!」
黒い重撃が立て続けに襲ってきた。
あまりの重さに、俺は右へ左へと身体を持っていかれそうになる。
当然、そんな隙を蒼月が見逃すはずもなく――
「フラブレ!」
光を纏った袈裟斬りがさらに俺を追い詰める。
重心をズラされていた俺は、辛うじて防ぐも勢いに押されて後ろへと退く。
それは下っ手くそなバックステップ。何とか後ろへと、そんな風に下がったため片膝をついてしまう。
「おらぁっ、もらったあああ!」
「くそっ! ファランクス!」
瞬時に発動した小手の結界が、上杉の大斧を弾くようにして防いだ。
しかしそれを見越していたかのように、六角形の結界に乗った椎名が頭上から強襲してくる。
一瞬無謀にも思える特攻。
下から迎撃すれば良いのだが、リーチのある槍では結界で防がれる。
ならば木刀での斬鉄穿という選択もあるが、放出系WSでは先を視ることができる椎名には避けられる。
それならばWSに頼らず木刀で、という選択があるが――
「EXカリバー!!」
俺は広範囲ばら撒き系WSでの仕切り直しを選択した。
追い詰められたときの荒木のような選択だが、いまはそれが最善だと判断した。
岩壁に打ち付けられた大波のように光の粒子が爆散する。
椎名と上杉はそれに押し戻され、俺は何とか距離を取ることに成功した。
「くそ、強ぇ」
椎名の強さは想像以上だった。
2~3合刃を交えただけだというのに、俺はあっと言う間に追い込まれていた。
小手の結界とEXカリバーで凌ぎ切ったが、何度もそれに頼れば間違いなく対応される。
霧島のWSがあったら詰みだったと、俺は霧島のことをふと思い出した。
葉月が回復魔法を掛けていたはず。もう復活していてもおかしくはない。
ならば隙を見て斬鉄穿をと、そう思いながら霧島の方を確認する。と――
「ん?」
予想通り、霧島は魔法を掛けて貰って回復していた。
しかし何故か、上半身だけを起こした状態で、両手を掲げるジェスチャーをしている。
戦う意思はもうないと、そう告げているような仕草。
「……」
霧島の声が聞こえた訳ではないが、ヤツの口の動きが『降参です』と、そんな風に動いていた気がした。
( アイツは一体何を考え――っちぃ! )
複数の結界が降り注いできた。
俺は反射的に後ろへと退いてそれを避ける。
カカカっと地面に突き刺さる六角形の結界。
「よそ見とは余裕だね、陣内君」
「――っちぃ!?」
声と同時に斬撃が襲い掛かってきた。
両の手から放たれたWSランページ。
まさかのWS同時発動だ。目の前に発生した斬撃の巣から逃げるように後ろへと下がる。
( コイツ、無茶苦茶だ! )
まさに精密な暴風。
そうとしか表現のしようがない攻撃に、俺は次の一手を攻めあぐねる。
ハッキリ言ってシロゼオイ・ノロイ以上だ。どうやら蒼月だけでなく、コイツも強さを隠していた。
唯一の救いがあるとすれば、攻撃やWSを放ったとき、結界に乱れが生じること。
さすがの椎名といえど、無数に舞っている結界を完全に操作し切れるものではないようだ。
そこを上手く突けば何とかなる、多少の傷を覚悟の上なら倒せる自信はある。
しかし、その椎名を倒した後が続かない。
残る蒼月に確実に狩り殺られる。いまもヤツは絶妙な距離をキープしている。
”縮地”で届く距離を維持しつつ、こちらの攻撃が届き難い位置に居る。
本当に蒼月が邪魔だ。
ヤツさえ居なければどうとでもなる。
椎名を倒すための手立てだって実は何個も浮かんできている。
先ほど退くために放ったEXカリバーだってそうだ。あのときの動きを見て確信したこともある。
しかしどれも、最終的には蒼月に殺られてしまう。
強肩のキャッチャーが盗塁を阻止するかのように、ヤツは絶対に刺しにくる。物理的に……
「陣内君」
「……」
再び話し掛けてきた椎名。
また降伏要求かと、俺はうんざりしつつも乱れていた息を整える。
相手は椎名だ。会話で注意を逸らして不意打ちなどをしてくることはないだろう。
「ボクは、十回のうちの九回を取らせてもらうよ」
「へ?」
「そして十回のうち一回の可能性を、上杉君と蒼月君に潰してもらう。卑怯かもしれないが負ける訳にはいかない。彼女を守るためにも……」
「……」
何を言っているのかよく分からないが、要は全員で倒しに来るという宣言だろう。
そして椎名の言う『彼女』とは、たぶん言葉のこと。
俺たちを逃せば元の世界に戻ることはできないし、この異世界での生活も厳しいモノとなる。
だから椎名は、複数で俺を倒すことを是とした。
「……だからって負ける訳にはいかねえ。俺だって絶対に守る」
「うん、そう言うと思ったよ、陣内君」
椎名の結界が俺を取り囲む。
しかもそれだけではなく、柊が作り出した氷の道も出現していた。
結界と氷の道、俺は二重に取り囲まれていた。
もう後ろには逃がさないと、そう伝わってくる布陣。
木刀で何とかならない訳ではないが、咄嗟に退くことは難しくなる。
それに氷の道ができたことにより、立体的な攻撃が可能になるだろう。
前からだけでなく、きっと上からも来る。
特に上杉などは、高い場所からの振り下ろしが好きそうだ。
注意すべき視野が広げさせられた。
「斬鉄閃っ!」
またあの斬り込みが来た。
二度目なので冷静に対処するが、やはり厳しい攻撃だ。
硬直を狙いたいところだが、僅かながら後れが出てしまう。
「くそっ!」
蒼月が無言で突いてくる。
身体を捻って躱すが、これも反撃をする機会がない。
すぐに引いてしまう蒼月と、それをフォローするように六角形の結界が遮ってくる。まるで結界と氷の森の中にいるようだ。
視界の隅では、上杉が俺の頭上を取っている。
攻撃する隙を窺っているのだろう。俺は一瞥をくれてそれを牽制する。
迂闊に降りて来ようものなら串刺しにすると、上杉にそう圧を掛けた。
厳しい猛攻が続く。
椎名、蒼月が交互に攻撃を仕掛けてくる。
そして頭上では、上杉が必殺のチャンスを窺っている。
俺の注意が途切れたら仕掛けてくるつもりだろう。
「おう、陣内。いい加減に諦めろ!」
( まだだっ )
この猛攻の中、俺はじっとチャンスを待つ。
上杉の言葉に耳を傾けている暇などは一切ない。
襲い来るのは椎名と蒼月だけでなく、椎名の結界も俺を目がけて飛来していた。
肩や脚を結界が削っていく。
避けられないこともないが、大きく避ければそれは隙へと繋がる。
しかしだからと言って、紙一重などの最小限の動きでは意味がない。
椎名が結界を操っているのだ。多少の軌道修正は当然してくる。
ある程度の被弾は仕方ないと割り切り、黒鱗装束改の鱗板を使って攻撃を受け続ける。
「――っ!」
結界が強く掠めた。
どうやら当て方を変えてきたようだ。
強い衝撃に痺れを感じる――が、その瞬間、望んでいた位置取りになった。
上杉と蒼月がギリギリに離れた。
縮地を使ってギリギリの距離。しかし俺には届かない絶妙な距離。
この瞬間を待っていた。
「我が願いに応じ顕現せよ!。やったれっ、ラーシル!」
仰々しいセリフと共に、俺は世界樹の木刀を大地に突き立てた。
そして願うイメージを木刀へと流す。
大地から力場が湧き上がる。
しっかりと視認できるモノではないが、ゆらゆらとした陽炎のような何かが俺を中心に立ち上った。
「これはっ!?」
「おわっ!!」
「司!!」
その立ち上った力場は、霧散させるように結界と氷で出来た道を崩していった。
これは初めての試みだが、ラーシルの協力があれば絶対に出来ると確信していた。決してイチかバチかの博打ではない。
実際に似たようなことを何度かしたことがある。
木刀では触れていないのに、魔石で出来た地雷を撤去したことがある。
「上杉っ! もらったあああ!!」
足場を失った上杉が落下してくる。
俺はワザと雄叫びを上げながら襲い掛かった。
アイツには【天翔】などの空を蹴る【固有能力】はない。
上杉を確実に取れる瞬間だ。
「――司っ!」
落下中の上杉を救うため、蒼月が縮地を使って一瞬で駆け寄っている。
しかし俺とは距離が離れている、攻撃を仕掛けて牽制することができない。
俺はこの瞬間を待っていた。
「っらああ! 穿槍烈破!!」
イメージは伊吹が使う突貫系WS。
一振りの槍と化し、目の前の標的を穿ち貫くWSとなる。
「な!? 亮二!!」
「ぐあっ」
新WSは、蒼月の左太腿をごっそりと抉った。
血を撒き散らしながら吹き飛んでいく蒼月。俺の無骨な槍はヤツの脚をしっかりと捉えていた。
真の狙いは蒼月だった。
上杉を確実に取れるチャンスだったのだが、そのチャンスを餌にして蒼月を取ることを選択した。
WSによる急激な方向転回。
さすがの蒼月も、これは予想出来ずに攻撃を食らった。
咄嗟に身を引いて回避を試みたようだが、ごっそりと拳大の肉を抉った。
回復魔法で治してもらわない限り立つことはできないだろう。
( さすがだな…… )
本当は脚を一本もらう予定だった。だがヤツはもうこれで動けないはず。
動揺が上杉だけでなく椎名にも伝播する。
椎名は即座に反応して結界を飛ばしていた。
だが、近くにあった結界は消し飛ばされていたため、遠くにあった結界を呼び寄せた。だが距離があったため間に合わなかった。
椎名は、蒼月を守り切れなかったのだ。
悔しそうに表情が歪む。
しかし、甘い。
そんな隙を俺に与えるなど、本当に甘い。
「EXカリバー!!」
動揺で足が止まっている椎名に向けてWSを放つ。
飛沫を上げる大波のような光の粒子が椎名へと向かう。
だがこのWSは近接型放出系WS。当然、距離がある椎名には届かない。
しかしここで――
「斬鉄穿!!」
最初に放ったEXカリバーを追うように、俺は木刀で斬鉄穿を放った。
最初のWSは目眩まし。その後の斬鉄穿が本命だ。
さすがの椎名と言えど、EXカリバーと言う光の大波の中からWSが飛んでくるとは思わないだろう。
そして何より、EXカリバーが目隠しとなって先を視ることができないはず。
確実に取ったと、そう確かな手応えを感じる。
木刀でWSを放ったのだ。椎名の結界では防ぐことができない。
もし防げるとしたら、魔法などの付加効果に頼っていないモノだけだ。
EXカリバーの光が霧散して晴れていく。
そしてその光の粒子が晴れた先には――
「くそ、ここで来んのかよ……小山」
「陽一クン、オラはどうしたら良いのか分からないけど。取り敢えず、守る」
「ちっ、黒竜の鱗の盾か」
蒼月を倒し、その流れに乗って椎名もやったと思ったのだが……
「次は、オラが相手だ。陽一クン」
鉄壁の勇者小山によって阻まれたのだった。
読んで頂きありがとうございます。
宜しければ感想など頂けましたら幸いです。
あと、誤字脱字なども、何卒、何卒……