刃の檻
ちょっと短めですー
四方八方から光の刃が降り注ぐ。
俺はそれを、身を屈めたり横へと飛んだりして躱した。
中には上杉の放った両手斧WSナブラも交ざっていたが、蒼月は放出系WSを放たず機会を窺っていた。
「おう、どんどんいったれ!」
上杉の言葉に応じるかのように、WSが周囲に展開された。
その一つ一つが的確に俺を捉えている。
( いるな…… )
ここで一つ確信する。
発動したWSの位置が全て的確であり、常に俺を追っていることから、このWSを放っているであろう霧島は近くで見ている。橘のように離れてはいないだろうと、俺はそう確信をした。
( 何処に居んだ? )
放たれたWSを避けながら霧島のことを探す。
正直なところ、霧島のWSだけなら大して脅威ではなかった。
放出系WSは大まかに言って二種類に分けられる。
放った者からWSが飛んでいくタイプと、放った者から離れた位置で発動するタイプの二種類。
スターレインのように、目標の頭上まで飛んでいって散弾するタイプもあるが、大体がその二種類に分けられる。
そして後者の方は、前者に比べて発動が遅い。
WSが発動する前に”出現する”というプロセスを挟むので、どうしてもワンテンポ遅れるのだ。
並のヤツが相手ならそれで十分だが、いまの俺には通用しない。
いくらでも避けられる。だからこのWSだけなら問題はない。
しかし、その先の展開が問題だった。
WSを放つにはSPが必要。いつまでも放ち続けられるモノではない。
まだ一分も経っていないが、このハイペースではすぐ撃ち尽くすはず。
当然、その前に発動させるペースを落として絞るだろう。
何発のWSを設置したのかは不明だが、何百発と設置できるものではない。
だから俺は、それを恐れていた。
いまは単独で倒そうと躍起になっているが、冷静になって落ち着かれるとマズい。
いまは雨のようにWSが降り注いでいるので誰も俺に近寄れないが、このWSがフォローへと回ることになると、上杉蒼月コンビを相手にしながら対処しなくてはならなくなる。
そしてそれだけは避けたいところ。
柊の魔法だけでなく、そこに放出系WSまでもが交ざるのだ。
しかもWSの方は連打が効く。間違いなくヤクイ。
だから霧島が躍起になっているうちに倒してしまいたい。
「って、言っても……」
霧島の位置が探れない。
いまの俺なら気配を探れると思ったのだが、まるで舞台の隅にいる黒子のように気配が希薄で、何処に居るのか分からなかった。
( どうする…… )
間違いなく霧島は近くに居る。
WSの発動タイミングもそうだが、あの霧島の性格を考えるに、ヤツが遠くからこれを観ているとは到底思えない。
絶対に近くに居るはず。
この最高の舞台を最前席で観ているはずなのだ。
「――!」
俺は弾かれるように髪飾りへと目を向けた。
そして悟られぬように視線を外す。
襟袖に付けている髪飾りの青い玉が、赤色へと変わっていた。
これは魔法で姿を隠している者が近くにいることを示している合図。
( やっぱそうだ! )
WSを探る振りをしながら辺りを見回す。
だが相手は魔法で姿を隠しているのだ、そう易々とは見つからない。
心の中にじわりと焦りが滲みでる。
このまま下手に長引けば、霧島が単独での撃破を諦めて切り替えてくる。
そうなれば蒼月たちと連携を組んでくるはず。
( くっ、やるしかねえか…… )
俺は腹をくくった。
このまま霧島を見つけることができなければ、蒼月たちと連携を組まれる。
ならばそうなる前に、ヤツを舞台の上に引っ張り出す。
( なるべく軽そうなのを…… )
俺を囲むようにWSが展開された。
しかし今回は一斉射撃ではなく、発動を少しズラした時間差攻撃。
大鎌の形をしたモノや、鋭い針のようなモノなど、様々なWSが俺を目掛けて降り注ぐ。
鎌の刃が首を狙ってくる。光る針が脚を穿ちにくる。足元の魔法陣からは身体を引き裂かんと複数の鎌が生えてくる。
そんな数多なWSの中、小さい斬撃のようなWSがあった。
「――っがぁ!?」
霧島のWSが俺の肩に被弾した。
衝撃を帯びた斬撃が肩を強く軋ませる。
思わず呻き声が漏れる、だがそれを呑み込み気配を探る。
( 何処だっ!? 何処にアイツは――――居たっ!! )
葉月の少し横、誰もいない空間に無邪気な驚喜を感じた。
逸る気持ちをずっと抑えていたのかもしれないが、俺にWSが命中したことでそれが溢れてしまったのだろう。
そしてそれは俺の狙い通り。そのために避け損ねた振りをしてWSを喰らったのだ。
俺はその無邪気な驚喜に向かって即座に放つ。
「斬鉄穿!!」
「――っ!!」
「えっ?」
何もなかった空間から血吹雪が舞い上がった。
そしてその血吹雪を追うように、腹から血を流す霧島が姿を現した。
それを驚きの表情で見つめる葉月。
( マズったっ、狙いに加減ができなかった )
どっと膝をつき、顔から地面に崩れ落ちていく霧島。
辛うじて致命傷ではないが、ほぼ致命傷。そんな怪我を負っていた。
「霧島くんっ!」
隣に居た葉月が霧島へと駆け寄る。
彼女は霧島に回復魔法を掛けるつもりなのだろう。手から淡い光が漏れ始めている。
( ぐっ…… )
それは当たり前のこと、自分のすぐ側にほぼ致命傷の怪我を負った者がいるのだ。葉月はそれを無視できるようなヤツじゃない。
「~~~~~~っ!!」
刹那の瞬間、様々な思いがぶつかり合う。
葉月の回復魔法を止めなければ霧島が復活してしまう。
しかし止めるには葉月を攻撃しなくてはならない。
それに彼女を止めれば、霧島は間違いなく死ぬ。
そもそも勇者を殺すつもりはない。
もし誰かを殺せば、間違いなく誰もが感情的になる。
静観している椎名や小山だって動くはずだ。三雲だって分からない。
状況は間違いなく厳しくなる。
だから、だから俺は、葉月の回復魔法を見逃すしかない。
回復魔法で復活したら斬鉄穿すれば良いのだ。
メリット、デメリットを考え、俺は見逃すことにする。
仕方ないから、マジで仕方ないから葉月を見逃すことにした。
「てめえっ、陣内っ!」
「ちっ、上杉」
激高した上杉が斬りかかってきた。
俺は槍でそれをいなしながら後ろへと下がる。
退いた俺に、縮地を使って蒼月が肉薄してくる。
怒濤の攻めを見せる上杉蒼月コンビ。
俺に隙を与えず、回復魔法の邪魔をさせぬと押してくる。
上杉の後方、葉月が霧島に光を掲げているのが見える。
「おう、させねえぞ!」
「……」
俺の視線に気が付いた上杉が、それを遮るように動いてきた。
何故か無性に苛立つ。
そして上杉のその行動は、迂闊に前へと出たことを意味していた。
蒼月でも間に合わないタイミング。
少し予定が狂うが、俺は上杉の脚を狩りにいく。
槍を小さく絞るように回し、ヤツの脚に槍を突き立てた。が――
「……これは」
「お? おう?」
上杉の右太腿辺りに、半透明で六角形の板が出現していた。
そしてそれは、俺の無骨な槍を止めて上杉を守っていた。
「陣内君…………行くよ」
聖剣の勇者椎名が、静かに参戦を表明してきたのだった。
読んで頂きありがとうございます。
それと、感想欄の流れ、本当に楽しませて貰っております。
もし宜しければ、また感想など頂けましたら幸いです。
あと、誤字脱字も本当にありがとうございます。