どっせい
「ファスブレ!」
「――しゃあっ!」
「くそっ」
僕のWSを難なく受け流す陣内さん。
威力、速度、魔法による追加効果などと、普通のWSとは比較にならないWSだというのに、この人にはそれが全く通用しない。
「もらったあああ!」
「しぃっ」
上杉さんと蒼月さんが続くように切り込む。
左右から陣内さんを狙い、WSによる硬直状態の僕をフォローしてくれる。
「助かりますっ」
「イイってことよ」
「……」
お互いにフォローしながら戦う僕たち。
陣内さんに攻め入る隙を与えないように、三人で協力して戦っているというのに――
「させないっ!」
「っちい!」
僅かな隙でも切り込んでくる陣内さん。
あと少しで上杉さんがやられるところだった。
さっきまで見せていた速さは偽りで、彼にはその先がまだあった。
まるでギアを一つ上げたような、そんな感じで陣内さんの速さは増していた。
そして3人を同時に相手にしているというのに、全く引かず、それどころか押してくる。柊さんが放つ魔法も全く当たらない。
「……強い、本当に強い」
陣内さんを”強い”と感じたのはいつの頃だろうか。
奴隷商で再会したときか、それとも魔物の群を一人で倒したと知ったときか。
もしかするともっと前だったのか、僕は、陣内さんの強さに憧れるようになっていた。
だから加藤さんと別れたあと、僕はひたすら強くなろうとした。
もちろん、犯した罪に償いたいという気持ちも大きかった。
だが、決して折れぬ一振りの槍、そんな強さに強く憧れていた。
そしてその結果、僕は強さを手に入れた。
望んだ形とは大分違うが、陣内さんのように誰かを守れる強さを手に入れた。
もしかすると肩を並べられるようになったかもしれない、そう思ったこともある。
しかしそんなことはなかった。
陣内さんの強さは、そんな単純なモノではなかった。
致命的な瞬間をひっくり返す凄さとでもいうべきか、そういうことを成せる強さだった。
魔王が最後に何かを放とうとしたとき、彼はたった一人でそれを止めてみせた。
他にもそういう瞬間は沢山あった。彼は常に激戦区に身を置き、絶対に間に合わない、もう駄目だといった致命的な瞬間をいつも覆していた。
そう、陣内さんは致命的な瞬間を覆す人だ。
それからは憧れ方が変わった。
単純な強さだけでなく、もっと他の何か、そんな凄さにも憧れた。
中央では陣内さんがモデルとなった劇をいくつも観た。
そして気が付いた。
もっと誰かを守れるようになるべきだと。
強さとは、誰かを守るときにもっとも輝くものだ。
加藤さんのときは、守るということを勘違いしていたが、それを見つめ直すべきだと反省した。
誰かを守る、それの意味をもっと考え、誰かを守り続けていれば、いつか届くかもしれない、そう思うようになった。
それから色んな人と出会った。
仲間の冒険者や、それを支える人たち。
そして、この国を統べる人と……
彼女は僕より年下だというのに、この異世界を背負おうとしていた。
いや、背負っているのかもしれない。
この異世界を愛し、次の世代へと、そう考えている人だった。
別に好意とか恋愛感情がある訳ではないが、純粋に支えてあげたい。そう感じさせる人。
そしてそれを感じるようになって、進むべき道が見えてきた気がした。
自分が犯してしまった罪を償うために、僕は元の世界に帰らないことを決めた。
この異世界に骨を埋める覚悟をした。
自分に何ができるのかまだ分からないが、それでも何かできることがある。
この異世界のため僕は全力を尽くす。
だから僕はいま、この異世界を守るために――
( ――憧れを倒すっ! )
――――――――――――――――――――――――
「アイスっ、ランペーシ!」
「くっ!」
凍てつく五連撃が襲いくる。
斬撃の衝撃とともに、凄まじい冷気が頬を撫でた。
僅かだがまつ毛が凍った気がする、
( ズーロさん、ありがとうございます )
俺は魔法に対して極端に弱い。
いや、極端どころの話ではない、魔法に対しての抵抗が無かったのだから。
いまはステータスの書き換えでマシになったが、それでも危うい。
だから黒鱗装束改の防魔効果は本当に有り難い。
もしこの装備でなければ、俺は今頃凍えて動きが鈍くなっていただろう。
もしかすると凍らされていたかもしれない。氷の翼を背負った下元は、それだけの強さを放っていた。
「僕は負けない、行きます!」
「……」
止まることなく攻め続けてくる下元。
俺が避けた柊の魔法に飛び込み、攻撃魔法を吸収しながら戦い続けている。
攻撃魔法で力を補充しているためか、下元の勢いは一向に衰えをみせない。
本当に、本当に下元は強くなった。
しかしそれもあと3手で終わりだ。
下元は俺の術中に嵌まっていることに気が付いていない。
( しかし、加速がここまで使えるものとは…… )
俺が唯一持っていた【固有能力】の【加速】。
これは自身の速度を上げる【固有能力】で、非常に使い勝手の良い【固有能力】だとは思っていた。
だがSPを得た今は、さらに使い勝手が良くなっていた。
本来、任意のタイミングで発動させる【固有能力】は、発動時にSPを消費する。
ラティが使う【天翔】などがそうだ。
空を足場にして駆けるとき、少量だがSPを消費すると聞いていた。
だが俺にはSPがなかったので、SPの代わりに体力を消耗していたようだ。
だから【加速】を全力で発動させれば、たった十秒程度しか持たないし、しかも疲れて息切れを起こしていた。
しかしSPを得た今は、このペナルティーがない。
いつもよりもずっと長い間効果を発揮させ、しかも疲れない。
そう俺は、SPを得たことで、WS以外にも新たな強さを手に入れたのだ。
これは俺の強さの底の一部。
俺はそれを晒して下元たちを追い詰める。
「っらあ!」
( あと二手 )
「――っ!!」
( あと一手、次でっ )
下元たちは勘違いをしている。
二人から三人に増えたのだから、もっと有利になると思っているのだろう。
しかしそれは間違い。
三人になって手数は増えたかもしれないが、それは単純に手数が増えただけ。
上杉と蒼月のときは連携が取れていた。
蒼月のフォローは、ただ上杉をフォローするのではなく、上杉を上手く使ってフォローを攻撃へと昇華させていた。
しかし3人になってからは、その連携がただの流れに変わっていた。
ただ手数が多いだけの流れならば、それを捌き切れる速度があれば問題ない。
蒼月は気が付き始めているようだが、――もう遅い。
「どっせいっ」
「あっ!?」
「司っ!」
大斧を派手に弾いた。そして狙い澄ました絶妙な位置取り。
上杉を中心に、下元と蒼月が後ろにいる状態。
俺は先程と同じように、上杉の懐へと深く踏み込む。
すると当然、蒼月がそうはさせまいと刺突系WSヴィズインでカットにきた。
しかし俺の踏み込みはフェイント。
俺は誘導された蒼月の逆側、俺から見て左側にいる下元へとターゲットを変更。
上杉の横をすり抜け、槍を手放し、腰に張り付けていた木刀で下元を薙ぐ。
即座に反応し、剣で木刀を防いだ下元だが――
「――えっ?」
下元に触れた世界樹の木刀が、ヤツに掛かっていた強化を全て吹き飛ばす。
氷の翼は、光の粒を撒き散らすように散っていき、強化によって支えられていた身体は、強化を失ったことで大きく揺らいだ。
強化に頼り切っていたツケを払うとき。
俺はこの瞬間のために、世界樹の木刀を使わずに温存していたのだ。
このチャンスは逃さない。
「もらったっ! EXカリバー!」
「――ああっ!!」
木刀から放たれた光の奔流に流され、勇者下元が地面を転がっていく。
伊吹のときとは違い、防御効果も全て吹き飛ばした一撃。
完全に意識を断ち切ったと、そう確信できるほどの攻撃を放った俺は、すぐに次へと備えた。
俺がカリバーを放ったのはこれで3回目。
きっとアイツならば、このタイミングを待っていたはず。
俺がフィニッシュブローにカリバーを放つ瞬間を。
( ――来たっ! )
左腰辺りに殺気を感じる。
ガラスで出来た透明な刃のような鋭い殺気。
間違いなくアイツが来たと確信する。
俺は己の勘を信じ、隠していた最後の切り札を切る。
( 迅閃っ! )
【加速】に【加速】を足した効果を得る【迅閃】。
誰も想定していなかったであろう速度で振り返り、肉薄する秋音ハルを正面に捉えた。
「陣内陽一っ!」
秋音ハルが吼えるように俺の名前を呼んだ。
匕首のような短刀を手にしている秋音ハル。きっとそれを俺の腰に突き刺すつもりだったのだろう。
しかし俺は、その凶刃から身体を僅かにズラし、そのまま全体重を乗せた見様見真似鉄山靠を放ったのだった。
読んで頂きありがとうございます。
次も急ぎますので、何卒、何卒ー
あと、誤字脱字も宜しければお願いします。